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第3話:異常な身体能力

「よし、じゃあ今日の訓練は“魔力の流れを意識する”やつねー。……って言ってもわからないか」


「雑だな、お前の教え方」


「うるさい、文句言う前に跳んでみなさい。前に言ったでしょ? この空間、重力いじってあるの。普通の30センチ跳べたら上出来よ?」


「はいはい」


静馬は軽く体を丸め地面を蹴った。


「っ――」


ラウラの瞳が、大きく見開かれる。


ふわり、と風が抜けた。

静馬の身体は、まるで空気に引かれるように浮かび、5メートルほどまで跳び上がる。


「着地……っと」


軽く両足を着地させ、ほこりがふわりと舞う。


静馬はいつものように表情を変えず、つま先を軽くほぐす。


「こんなもんでいいか?」


「……は?」


ラウラは、しばらく言葉を失った。

その重力設定、この地下空間では通常の三倍。


(この子……人間の筋肉密度じゃない。呼吸も乱れてないし、関節もきしんでない。どうなってんの?)


ただの高校生が、気だるげに“異常”をこなしている。


「……静馬、君さ」


「ん?」


「ほんとに、どこもいじってない?」


「何を?」


「遺伝子とか、術式とか、呪いとか、加護とか……っていうか……ほんとに人間?」


静馬は少しだけ考えて、肩をすくめた。


「少なくとも自分じゃ、改造された覚えないな。

 なんか昔から『やたら動ける』って言われてたけど、自分では普通だと思ってたし」


「いや、普通じゃないからね?

 そこらの術者より身体スペック高いからね? ていうかバケモノかよ……」


ラウラは額を押さえ、目を細めた。


「はー……なるほど。

 ヒマ潰しの相手と思ってたけど、これは――」


「――なんだよ」


ラウラは静かに笑った。


「ほんの少し、退屈が“期待”に変わっただけ。

 君、面白いわよ。もっと見せて。ね、静馬?」


静馬は軽く息を吐いて、天井を見上げた。


「……やることないし、別にいいけど」


そう呟いたその瞳には、まだ自分自身の異常に気づいていない、


ラウラはひそかに心の中で思った。


「(この子なら私と契約できるかもしれない)」


問題はどうやって静馬に契約をさせるかだが。それは一旦おいておく。

久々に興味深い存在に会えたラウラは今後どんな修行をつけるか、それだけを考えることに集中しだした。



その夜、空気がいつもより冷たかった。


テントの外でラウラは一人、石碑の前に立っていた。

仮の身体では、ここを離れることも、外の空気を吸うこともできない。


それでも、彼女の目は遠くを見ていた。

過去か、未来か――それすら静馬にはわからない。


「……眠れないのか?」


静馬は温かい湯を入れたマグカップを片手に、そっと隣に立った。


「……ううん。眠るって、もうしばらくしてないから。

 意識を落とすのは、たぶん君がいなくなった時だけね」


「……悪かったな、しつこくここにいて」


「逆よ。君がいなくなったら、きっと私は“また”空になる」


ラウラの声は、ほんの少しだけ震えていた。


「ラウラ、お前――」


「ねぇ、静馬。もしも私が……この封印から解かれたら、何をすると思う?」


「……さあ。世界を滅ぼす?」


「違う」


ラウラは笑った。その笑みは、どこか苦しげだった。


「私は、ただ思い出したいの。

 私の名前が、誰かの唇から優しく呼ばれていたときの事を……」


沈黙が落ちた。


「……でも、君が名前を呼んでくれるたびに、

 私は“今”を思い出してしまうの。

 君がいる、この時間を、忘れたくなくなるの」


ラウラはふと、目を閉じた。


静馬は、その横顔を見つめていた。


彼女が何百年も閉じ込められてきた意味。

その中で唯一保ってきた誇りと孤独を、

自分が少しずつ崩していることに、今さら気づいた。


「……そうだな。

 もう、お前の声が聞こえなくなると、落ち着かない」


静馬は、ほんの少しだけ目を細めて、静かに答えた。


「バカか、お前。

 忘れられるわけないだろ。

 お前、うるさいし、強引だし、 忘れるには、ちょっとしつこすぎる」


ラウラは、ふっと吹き出して、それから一言だけ呟いた。


「……ずるいな、君」


そして、二人は夜の静寂の中、言葉を交わさず、ただそこにいた。

「同じ時間に、同じ場所にいる」――それだけが、確かな証のように思えた。


そのときから、二人の関係は「ヒマつぶし」ではなくなった。

共に在る意味を抱え、静かに、確かに、運命の隣に立った。


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