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彼女にフラれた俺は、封印された何かと暮らすことになった  作者: 雷覇


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第29話:ヴァルスvs静馬

ヴァルスが地を這い、怒りと瘴氣を撒き散らす。

その中心で、仮面の男――静馬は一切の感情を浮かべず、ただ敵を見据えていた。


そのときだった。


(静馬……忘れないでね)


それは、耳からではなく、心の奥深くに静かに響く声。


(力は火と同じ。誤れば、すべてを焼き尽くしてしまう)


それは、彼に寄り添い、今も霊体として彼を導く少女――ラウラの言葉。


(立ち向かうんじゃない。炎は、逆らうより流すように受けて)


その声に応えるように、静馬の構えが変化する。

氣を前に押し出すのではなく、内へと沈めていく。

怒りも衝動も捨て、ただ静かに研ぎ澄ます。


「貴様ァァァア!!」


ヴァルスが咆哮を上げた。

瘴氣と黒炎が混じり合い、巨大な火蛇となって襲いかかる。


だが――


静馬の姿が、ふっと掻き消えた。


「……っ!?」


ヴァルスの視界から、一瞬でその影が消える。


ズバンッ――!


次の瞬間、炎の波が左右に裂ける。

その中心を、静馬が疾風のように駆け抜けていた。

掌が、空気を裂いて走る。


「がっ――!?」


ヴァルスの右腕が、静馬の掌底で軌道を逸らされる。

続けざまに、肘が肩を打ち、膝が鳩尾を突き上げる。


ズゴッ!!


ヴァルスの身体がくの字に折れ、吹き飛びかけたその瞬間。

静馬の手刀が、胸元へ深く突き立つ。


「ハァッ!」


氣を一点に集め、爆ぜるように解き放った。


バァンッ!!!


炸裂音とともに、ヴァルスの巨体が地を裂きながら後方へ弾き飛ばされる。

土が抉れ、黒煙が立ち昇る中。

静馬は静かに息を吐き、無言のまま再び構えを取った。


だが――


「まだだ……勝負はこれからだ……っ」


炎の奥から、ヴァルスが再び姿を現す。

焦げついた身体。

皮膚からは瘴氣がにじみ、常人ならば動くことすら叶わぬ状態。

それでもなお、彼は笑っていた。


「面白い……! ならば、俺も全力で相手してやろう……!」


ズズズッ――


その背から、黒炎の翼が噴き出す。

その氣が、空気そのものを変えた。

肌に触れただけで、焼けつくような圧力。


「……今までは本気じゃなかったの……?」


美琴が、青ざめた声でつぶやく。


「こんな……これが災厄の力……」


蘭の声も震えていた。

だが、圧倒的な氣を前にしても

静馬の眼差しに迷いはなかった。


(ラウラ……)


静かに拳を握り、一歩、前へ。


(俺はもう逃げない。お前が教えてくれたこの力は壊すためじゃない。守るためにある)


狐面の奥。

その瞳が鋭く光を灯す。

風が、静かに吹き上がる。


それは、敵の炎すら巻き込むほどに研ぎ澄まされた氣。

静馬の周囲に、言葉なき覚悟が満ちていた。


黒炎の翼を背に、ヴァルスが笑う。

その氣は、まるで災厄そのもの。

空間を灼き、空気を震わせ、ただそこにあるだけで息が詰まりそうなほどだ。


「その目……いいな。まだ折れていない。

 ならば見せてやる。俺の本当の炎をなァ!!」


ヴァルスが両腕を開くと、周囲の大気が爆ぜるように揺れた。

黒炎が剣のように、鞭のように、形を持って渦を巻く。


「踊れ、仮面の男ッ!! 灼き尽くしてやる――!」


叫びと同時に、ヴァルスが突進する。

黒炎の刃が絡み合い、乱舞のごとく襲いかかる。


だが――


静馬の身体が、わずかに沈む。

その氣は膨らまない。ぶつけない。

すべてが、流れへと溶け込むように、柔らかく沈んでいた。


一閃。


黒炎の鞭がうねり、静馬の側頭部を薙ぐ。


「……!」


美琴が声を上げそうになるが、

ふっと、静馬の身体が風のように揺れた。


まるで炎の動きを先読みしていたかのように、

彼はわずかに軸をずらし、紙一重で攻撃を逸らす。


流れるような体捌き。

まるで水が岩を避けるように、力を受け止めることなく逸らしていく。


「ちょこまかと……!」


ヴァルスが怒りに任せて連撃を振るう。


左右から斬り裂くように、

上から叩き潰すように、

火炎の波が地を這うように襲いかかる。


それでも――

静馬は止まらない。


全ての攻撃を、寸でのところでかわし、受けず、返さず、ただ流す。

炎が触れる直前に、わずかな体の重心移動で力を逃がし、

氣の渦を見極め、その中心を避けるように立ち回る。


「お前……なぜ、避けられる!?」


ヴァルスが吼える。


「俺の炎は、氣ごと潰す力……視えているのか、俺の氣の流れをッ!?」


――その問いに、仮面の男は応えない。


ただ、掌を開く。

右手がわずかに下がり、地を這うような低い構えに変わる。

その姿は、どこか舞いのようでもあり、祈りのようでもあった。


「……あれは、流してる。

 力で止めるんじゃない。ぶつけるでもない……」


晶が震える声で呟く。


「氣の波を視て……その先に動いてる……」


蘭が唇を噛む。


「こんなの……どうやったらここまで到達できるのよ……!」


ヴァルスが再び突進する。


「ならば見切れるか、この炎をッ!!!」


黒炎の刃が束となって、十重二十重に静馬を取り囲む。

逃げ道など、どこにもない。


しかし――


静馬は動かない。

風が止み、彼の氣が無音に沈む。


(受けず、返さず。ただ……流せ)


ラウラの言葉が胸に蘇る。


次の瞬間。

黒炎が静馬の体を呑み込んだように見えた。


バシュウッ!


だが炎が、彼に触れる寸前で軌道を外れる。

まるで炎が意思を持ち、彼を避けたかのように。

それは、彼の氣があまりにも滑らかで、攻撃が引っかかりすらしないから。

そこにぶつかる対象が存在しない。


「な……何っ……!?」


ヴァルスの顔に、初めて明確な動揺が走る。


そして――


静馬が、踏み込んだ。

無音の一歩。

重心を流すように低く沈めたまま、拳を構える。


渦巻く氣が、円を描きながら収束していく。


一閃。


「……ッ!!」


ヴァルスの身体が、ねじれるように吹き飛んだ。

腹部に、静馬の拳が食い込んだ瞬間、

炎の流れが一気に崩れ、黑炎の翼が霧のように散った。


「ぐああああああっ!!」


ヴァルスが地を抉りながら、十数メートル後方へと叩きつけられる。


一撃。


それだけで、災厄の氣が軋んだ。

静馬は、再び構えを解かずに立ち続ける。


狐面の奥、決して揺らがぬ瞳。

風のように、炎を受け流し、流した末に届いた一撃。


その静けさこそが、災厄を圧倒する答えだった。


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