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彼女にフラれた俺は、封印された何かと暮らすことになった  作者: 雷覇


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第28話:仮面の戦士

結界の音が、裂けた。


「――っ、崩れた!?」


術師の叫びが響く中、美琴の視界が赤く染まる。

ヴァルスの炎が、結界陣の中心を突き破り、三人の術式を飲み込もうとしていた。


「後退を――っ!」


晶が叫ぶが遅かった。

地面が爆ぜ、霊力の波が一気に弾ける。

蘭がよろけ、美琴が膝をつく。

立ち上がろうとしたその瞬間、ヴァルスの足音が、すぐそこまで迫っていた。


「終わりだ」


低く唸るような声と共に、炎が収束し一点に向けて放たれる。

狙いは、美琴。


「――っ!」


目を瞑った、その刹那。


ズバッ――!


風を裂く音。そして、灼熱が断ち切られるような、鋭い音。


「……なっ……!?」


ヴァルスの放った炎が、何かに断たれて空中で砕け散った。熱波が渦を巻いて宙を舞い、土埃と火の粉が散る中。

そこに立っていたのは、一人の男。


黒装束に身を包み、顔には白い狐面。

ただ一言も発さずに、美琴の前に立ちはだかっていた。


「……誰……?」


蘭が思わず呟く。

晶も、敵味方の区別がつかずに手を止める。


その男――仮面の男は、武器も符も持っていなかった。

ただ、白い狐面の下で無言のまま両腕を前に出し、炎の奔流を受け止めたように見えた。


「……素手? 何、あのバカ……」


蘭が信じられないものを見るように呟く。


「丸腰で、あんなのを受け止めるなんて……」


晶も目を細める。だが、仮面の男は怯える様子もなく、一歩、ヴァルスに向けて踏み出した。


「おもしろい……」


ヴァルスの声が低く響く。


「名もなき術者か、狂人か。だが、どちらにせよ、焼き尽くすまでよ」


再び、ヴァルスが炎を纏う。その氣が渦となり、周囲の空気が焦げる。

仮面の男は、それを静かに見据えていた。

体のどこにも力みはなく、しかし地を踏みしめたその立ち姿はあまりに静謐で、逆に異様だった。


(何者……? けど……)


美琴が唇を噛む。


(一瞬、確かに見えた。あの火の奔流を――弾いた動きが)


ヴァルスが吼え、炎の爪のような攻撃を振りかざす。

仮面の男は動かないかと思われた瞬間、疾風のように一歩を踏み込んだ。


その一撃は、拳でも掌でもない。

ただ、彼の掌底がヴァルスの腕を正確に打ち、軌道を逸らす。


ゴゥンッ!!


衝撃音。

ヴァルスの炎が空に逸れ、木々が焼けただれる。

すぐさまもう一撃、仮面の男がヴァルスの腹部へと寸勁のような打ち込みを放つ。


ズドンッ!!


空気が押し出されるような重圧。

ヴァルスがわずかに体勢を崩す。


「なっ……この力……!」


その瞬間、三人の当主候補は確信した。


“ただの民間人ではない”。


それどころか、あの仮面の下にあるものは、この災厄と渡り合える何かだった。


「何者よ……あんた……!」


蘭が叫ぶ。


しかし仮面の男は、何も答えない。

ただ、拳をゆっくりと握り、再び構えをとった。


狐面の奥。

その瞳が、静かに、敵を睨んでいた。

地面が割れるような一歩を踏み込み、ヴァルスが吼えた。


「よくも、俺の炎を弾いたな……面白い。ならば、焼けるまで踊れ!」


黒炎が渦を巻き、ヴァルスの両腕から爆ぜる。

炎の剣とも、鞭とも言える流動する熱の刃が、仮面の男を呑み込まんと迫った。


だが――


「速い……っ!」


晶が声をあげる前に、仮面の男の姿がすでに揺れていた。


ヴァルスの剣のような炎を、仮面の男は紙一重で躱す。

踏み込みと同時に膝を沈め、低い体勢から“肘”でヴァルスの脇腹を打ち上げる。


ズン――!


重い一撃。ヴァルスの体がわずかに浮き、次の瞬間、仮面の男は地を蹴った。

手を使わず、両足のみで空中に跳び上がり、旋風のように回し蹴りを放つ。


「ッ、貴様――!」


ヴァルスが咄嗟に防御を構えるが、その腕ごと蹴り飛ばされ、地に叩きつけられる。


ドォン!!


土煙が上がり、火の氣が一瞬揺らいだ。


「……信じられない。あのヴァルスの攻撃を……押し返してる……」


美琴が呆然と呟いた。

その目に映るのは、素手でありながら、確かな“型”と“術理”に裏付けられた武の動き。


「違う……これは、偶然じゃない。技術だ。練り上げられた、体術……!」


仮面の男は、蹴りの反動で地に着地しながら、そのまま低く身を沈めた。

すぐさま突進してくるヴァルスの拳を受け止め右腕で絡め取るように流し、脇腹に拳を叩き込む。


「ぐっ……貴様ぁッ!!」


ヴァルスが反撃に転じようとするが、仮面の男の動きは止まらない。

接近戦で圧倒的な間合いの支配を見せ、掌打、蹴撃、肘打ち――まるで舞のように、連撃が続いていく。


「何者だ……っ!」


ヴァルスが呻く。

仮面の男は無言。だがその沈黙が、逆に威圧となって迫る。


炎が放たれるたびに、それを寸前で逸らし、崩し、撃ち込む。

火に対して氣をぶつけるのではなく、“流す”。まるでそれを見切っているかのように。


「見えてる……!」


美琴が叫んだ。


「ヴァルスの氣の流れを……あの人、見えてるんだ!」


彼女にはわかる。術士としての直感ではなく、術ではない体の戦いにおいて――それでも明確に、ヴァルスの氣の波が読まれている。


「……すごい……!」


蘭が無意識に呟く。

晶も、思わず拳を握る。


(こんな戦い方……見たことない)


そして――


仮面の男がヴァルスの胸元に一撃を撃ち込んだ瞬間。

それは圧縮された氣が一瞬だけ解き放たれたようだった。


バンッ!!


空気が震え、ヴァルスが大きく吹き飛ばされる。


「ぐっ……ぅあああああ!!」


地面を抉りながら滑るように後退し、ヴァルスは片膝をついた。

その場に立ち尽くす仮面の男。

掌を下げ、ゆっくりと構えを解く。


その背に、誰もが目を奪われていた。


「……武器も使わずに、あそこまで……嘘でしょ……」


美琴が、震える声で呟いた。


「私たちは……まだ知らない。ああいう戦い方があることさえ……」

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