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彼女にフラれた俺は、封印された何かと暮らすことになった  作者: 雷覇


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第24話:もう本部に行くしかない

補習の教室を出た瞬間、静馬は大きく伸びをした。


「……長すぎだろ、今日の補習」


夕日が差し込む廊下を歩きながら、心なしか足取りが重い。

教科書とノートで膨れた鞄が余計に肩へ圧し掛かる。


(それにしても……美琴、いなかったな)


淡々としたように見せかけて、どこかで少し期待していた。

夏休み明け、教室でふとした拍子に顔を合わせるくらいは、あるかもしれないと。


(本当に封霊機構の人間なのか確認したかったけど……それとも、俺を避けてるだけか?)


視線を落とす。自嘲気味な笑みが浮かぶ。


「振られた側が、なにを期待してんだか」


そのとき、不意に肩のあたりがひやりと冷えた。

すぐ近くに、誰の目にも映らない存在が張り付いている。


「……ラウラ、お前もずっと黙ってないで何か言えよ」


ラウラは幽体のまま、彼の隣で揺れる髪をなびかせた。

くぐもった声で、ふっとため息を吐くように呟く。


「聞かれたから言うけど……正直、面倒くさいのよね。恋愛ってやつは」


「いや、俺は恋愛相談してるんじゃなくて、今後どうするかって話を――」


「会いたいなら会えばって、私はずっと思ってるわよ。

 さっさと答えをもらいにいけばいいじゃない。

 今の問題はそれだけなんでしょ?」


静馬は立ち止まった。

街の風の音だけが、耳に響く。


「……それもそうだな」


ラウラが霊体のまま横に並び、声を落とす。


「だったらさ、もういっそのこと」


ラウラがふわりと前に回り込んで、指をつきつける。


「封霊機構に行ってみたらどう?本部に」


「……は?」


「彼女が本当に機構の人間なら、九尾が暴れてる今は本部にいるはずよ」


「いやいやいや、俺……そもそも機構に関わりたくないし」


「でも、もう十分関わってるじゃない。あの狩野悠雅という奴との戦闘だって完全に向こうにバレてるでしょうし。顔もバレてるんだし関わらないなんてもう無理よ」


静馬は言葉を失い、数歩だけ無言で歩いた。


「……たしかに、もう逃げられないかもしれないけど」


「それに、知りたいんでしょ?

 彼女がなんで別れを告げたのか。

 それって、彼女だけの問題じゃなかったんじゃないの?」


静馬は立ち止まり、空を見上げた。

マンションの明かりが点きはじめる。

遠くで犬の鳴き声がして、日常が広がっている。


でも、その日常の裏で確かに何かが蠢いている。


「……行ってやるよ、機構本部。

 ただし、文句言われたら、ぜってぇ逃げるからな」


ラウラはくすっと笑った。


「ま、その時は私が何とかしてあげるわ。見えないけどね」


そして、静馬はひとつだけ決めた。


(会って、確かめる。全部)


「なあ、ラウラ。封霊機構の本部って……どこにあるんだ?」


静馬はぽつりと尋ねた。

霊体化したまま隣を歩いていたラウラが

ちらりとこちらを見て呆れたように肩をすくめる。


「は? そんなの私が知ってるわけないでしょ」


「お前、機構のこと知ってただろ。接点があったじゃないのか?」


「確かに奴らとは接触したことはあるけど、どこから来たかまでは知らないわよ。

 だいたい、封霊機構なんてのは普通の組織と違って地下に潜ってるもんでしょう?

 表に看板立てて『こちら本部です』なんて言ってるわけないじゃない」


静馬は頭をかきながらぼやいた。


「……言われてみればそうだな。あの狩野って奴に吐かせればよかったな。失敗したぜ」


「たぶん、構成員には専用の転移術式とかがあるんじゃない?

 それこそ結界と結界をつないで、外からは一切感知できないようにしてるとか。

 高度な封印術にはよくある手口よ」


「そんなの、一般人の俺が入り込めるわけないじゃねぇか」


「だったら、いっそのこと九尾の使徒と戦ってみたら?」


「……は?」


静馬は思わず聞き返す。

冗談かと思ったが、ラウラの顔はいつになく真剣だった。


「確実よ。今の機構は九尾の殲滅で手いっぱい。もしその眷属と交戦すれば、間違いなく本部から接触が来るわ」


「九尾の使徒とやり合うって……言うけどさ」


静馬は歩道橋の上で立ち止まり、街を見下ろしながら呟いた。

「そんな奴、今どこにいるかもわからねえし、いきなり襲ってきてくれるわけでもないだろ?」


「……それがね、実は意外と出没してるのよ」

ラウラが霊体のまま腕を組み、真面目な顔で言った。


「最近この界隈、氣の流れが不安定なの。何かが人知れず動いてる。

 たぶん……九尾の使徒の誰かが、九尾復活の氣を集めるため獲物を探して

 うろついてるんじゃない?」


「それって……狙われる側になれって話じゃねえか」


「ふふ、それが一番手っ取り早いのよ。

 それに、機構側だって今ごろ焦ってるはず。

 あれだけ危険な存在が街に現れて、何も反応してないなんてこと、ありえないわ」


静馬はふと疑問を口にした。


「またあの狩野が襲ってくるんじゃないか?」


「さあ? そのへんは、私も知らないわよ。

 あの調子なら、また懲りずにちょっかい出してくるかもね」


「……今は放っといてほしいぜ。俺は美琴のことを知りたいだけなのに」


言いかけて、静馬は口をつぐむ。


ラウラは微笑んだ。


「分かってる。だからこそ必要な衝突は避けられないって話よ」


「……わかったよ。来るなら来い。

 九尾だろうが機構だろうが、全部まとめて……受けて立つ」

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