表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女にフラれた俺は、封印された何かと暮らすことになった  作者: 雷覇


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/25

第17話:忍び寄る敵意

 《封霊機構・監視局》


薄暗い室内。無数の霊波モニターが並んでいた。

その一つに、特異な共鳴波形が浮かび上がる。


「……いた。間違いない監視対象だ」


監視官の声が緊張を帯びる。

スクリーンに表示された名前――三神静馬みかみ・しずま


「消えた一般監視対象……いえ、いまや霊的契約者と見ていいでしょう」


静馬は突然、消息を絶った。

封霊機構は彼を監視保留対象として極秘に捜索していた。


 ――そして、ついに今日。


「波形座標、山寺封印地跡……!」


「……このまま放置するには、あまりに不確定すぎる」


かつて、封霊機構が封じた存在。

その封印を破ってなお意思を持ち静馬と共にあるということは、それ自体が規格外なのだ。


すると厚い防霊扉が開くと同時に、空気の流れが変わった。

現れたのは、封衣を崩したカジュアルな姿で

それでも堂々と歩を進める青年――狩野 悠雅。


「おいおい、随分と陰気なところだな。監視室ってのはいつもこんな雰囲気か?」


足音を立てながら入ってきた悠雅に、局員たちは一瞬ぎょっとする。


「……こちらに来ると言う報告を受けていません、狩野様」


 任監視官が、表情を崩さぬまま静かに言う。

 しかし悠雅はそれに肩をすくめて笑ってみせた。


「いいじゃないか。敵意があるわけでもない。個人的な視察さ。ちょっと気になる名前があったんでな。三神静馬――だったか?」


局員の何人かがざわめく。

モニターを指でなぞりながら、狩野悠雅はにやりと口元を歪めた。


「ふぅん……なるほど。これが今の居場所か。まさか、こんな辺鄙な場所に隠れてるとは」


鼻で笑う。

契約者になったばかりの一般人。

多少霊力が芽生えたところで、鍛錬もなければ制御もできない。

自分のような名家に育った選ばれた者とは格が違う。


「(美琴。お前さ――まだあいつのこと、忘れてないだろ?)」


静馬の存在は、今や美琴の心の綻び。

表向きは冷静を装っていても、彼女の精神を揺さぶるには、あまりに強すぎる過去。


「いいぜ。俺が会いに行ってやるよ」


悠雅の目的は単純ではなかった。

静馬を潰すことでも、利用することでもない。

その反応を見て、美琴の本音を引きずり出す。

それこそが、自分が当主候補の中で優位に立つための材料になる。


「契約者になったばかりの奴なんて、俺一人で十分だ」


狩野悠雅は、薄く笑いながら立ち上がった。


「……お待ちください!」


制止の声が、鋭く室内に響いた。監視官が焦りをにじませて立ち上がる。


「今は九尾の異変対応が最優先です。戦力の分散は禁じられているはず。当主候補の独断出動は、正式な許可が――」


だが、悠雅は足を止めず、扉に手をかけたまま、肩越しに言った。


「そんなもの、必要ないと判断しただけだ」


その声音は軽いが、内側に圧のある静けさが滲む。


「俺が本気で動くときは、許可なんか出す前に事態が終わってる。それが当主候補って立場の特権ってやつだろ?」


「……!」


扉が閉まりきる直前、狩野悠雅は一瞬だけ立ち止まり誰にともなく呟いた。


「……結局、美琴は、ああいう選ばない女だから嫌いなんだよ」


 その声は低く、張り詰めた糸のように鋭い。


「全部正しくあろうとする。何も切れないくせに、守るだの背負うだの、理想ばっかり振りかざす。そういう綺麗な顔をしてる奴が、一番厄介だ」


言葉を吐き捨てるように口元を歪める。

悠雅の拳が、ポケットの中でわずかに震えていた。


(ああいう曖昧な正しさこそが、組織を腐らせる)


だからこそ――


美琴が何より触れてほしくない過去。三神静馬。

彼に接触し未練をえぐり、崩れる瞬間を見せつけてやる。



(――契約者)


 悠雅の口元が、ゆっくりと吊り上がる。


(いい響きだ。実に……都合がいい)


かつての三神静馬は、ただの一般人。

手を出せば組織内外から批判される。


だが――今は違う。


(契約者になった瞬間から、奴は《危険指定対象》だ)


封霊機構の秩序のためという建前で、静馬を排除する正当な理由が生まれたのだ。


(組織を揺るがせる可能性のある女に、当主の資格はない――)


「あとは力でねじ伏せるだけだ」


悠雅の中には、一切の迷いも、情もない。

ただ静かに、正しい順序で潰す快楽が、心を支配していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ