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彼女にフラれた俺は、封印された何かと暮らすことになった  作者: 雷覇


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第11話:快適な修行生活

夕暮れ。

山の稜線が茜に染まり、蝉の声もようやく静かになっていた。


静馬は、小屋の縁側に座り、缶コーヒーを片手にぼんやりと景色を見ていた。

前方には、彼とラウラで建てた二階建ての木造小屋――否、“修行拠点”が堂々とそびえている。


「……俺、たぶん今日、人生で一番大工仕事したわ」


ラウラは空中に浮かびながら、満足げに頷いた。


「素晴らしい成長ね。ここまで組み上げるとは思ってなかったわ」


「いや、お前がやらせたんだけどな……。ていうか、何でちゃんと風通しまで良くしてんの?」


「修行には快適な住環境が欠かせないでしょ?」


「たしかに、昼寝にちょうどいい風が通る……」


静馬は縁側に寝転び、缶を額にあてた。

ひんやりとした金属の感触が、火照った額に心地いい。


「……なんかもう、これでいい気がしてきた」


夕焼けの光が差し込む室内。

畳、テーブル、簡易冷蔵庫、ふかふかのベッド。


修行拠点とは思えぬ空間。


「……修行ってもっとこう、滝に打たれるとか、断食するとかじゃなかったっけ?」


「時代遅れよ。今の修行は、環境から整えるのが基本」


「……わかるようでわかんねぇ理屈だな」


ラウラが少しだけ笑う。


「……ふぅ。今日はマジで頑張った……。今日はもうゆっくりしてもいいよな……」


その瞬間、冷たい声が降ってきた。


「――甘えないで。休憩は終了よ」


「ファッ!? え、早くない!?」


ラウラが空中で腕を組み、厳しい表情を崩さない。


「時間がないの。追手がいつ来るかわからない。

 あなたがこうして寝転んでいる間にも、どこかで気配を探られているかもしれない」


「……マジかよ」


静馬は起き上がり、窓の外を見やる。

森は静かだ。だがその“静けさ”が、逆に不気味だった。


「気配はまだ感じないけど……油断は禁物。

 霊脈の乱れを探知されれば、ここも長くはもたない」


「おい、だったら小屋建ててる間にもっと警戒しとけよ!!」


「その間に氣を練らせる狙いもあったのよ。結果、環境は整った。次は――実力をつける番」


ラウラの掌が光る。霊符が宙に舞い、静馬の足元に陣が展開された。


「……あのさ、ラウラ。せめて、せめて明日の朝からにしない?」


「遅いわ」


ドンッ!!


地面が脈打つように震えた瞬間、重力のような氣圧が静馬を押し潰す。


「うおおおおおッ!? な、なんだこれ!? 空気が重い!!」


「《重圧陣》。霊的耐性と精神の集中を高める基本訓練よ。これを維持したまま一時間、正座して」


「マジで今、修行と拷問の違いが分からなくなってきた!!」


「その葛藤もまた、精神修行の一環よ」


「お前ほんと容赦ねぇな!!」


ラウラの瞳が細まる。


「私は、次にお前が撃たれるのを見たくないだけよ」


その一言に、静馬の叫びが止まる。


「……ラウラ」


「だから、しっかり鍛えて。身を護れる力を手に入れて」


静馬は静かに頷くと、再び膝を正した。


「……わかった。なら、やるよ。もうあんな目に合いたくはないしな」


ラウラの霊符が、ふわりと笑ったように揺れた。

こうして、静馬の真の修行始まった。


――修行開始から3日後

静馬が畳の上で息を整えながら、コーヒーをちびちびと飲んでいた。


「……なあラウラ、これってやっぱり罠とかじゃないのか?」


「何が?」


「だってさ。俺ら、めっちゃ堂々と小屋建てて、術式で光出して、氣もダダ漏れじゃん? それで機構の奴らが来ないって、逆に怖くね?」


ラウラは、黙ったまま宙に浮かんでいた。

視線は遥か山の向こう、夜空のかなたを見ている。


「……可能性が一つ、あるわ」


「なんだよ、怖い言い方すんなって」


ラウラはゆっくりと口を開いた。


「“あの仮面たち”――機構側が、こちらを追う余裕もないほどの、

 もっと大きな何かに巻き込まれている可能性がある」


静馬の手が止まる。


「……どういう意味だよ。もっと大きな何かって」


「私にもわからない。だけど、情報の気配が途絶えてるの。

 あれだけ手広く情報網を張っていた連中が、まるで沈黙してる」


「情報網って、霊的なやつも含めて?」


「ええ。術式による探知、氣の波動……すべて“無風”。異常よ」


静馬はふと、かつて地下で見た光景を思い出す。

檻に閉じ込められた異形の存在、封印された儀式の痕跡、そして――自分との契約。


「……なあラウラ。もしさ。俺とお前の契約で封印が一つ壊れたとしたら――

 同じように、他でも“封印が壊れた”ってことは……」


「連鎖している可能性があるわね」


ラウラの声が、今までで一番低く、重かった。


「機構の者たちは、今――“抑えきれなくなった何か”と戦ってるのかもしれない」


静馬の口から、息が漏れる。


「……それってつまり、

 今は敵も味方もないような、やばい事態が進行中ってことか」


「可能性は否定できない」


「……でもさ、ラウラ」


静馬が、夜の山に目を向けながらぽつりと呟く。


「これ、考えようによっちゃ――ラッキーなんじゃね?」


「ラッキー?」


「だって、今の機構はこっちにかまってる余裕がないってことだろ?

 だったら、逆に俺が鍛える時間を稼げてるってわけだ」


ラウラの目がわずかに見開かれる。


「……なるほど。確かに」


静馬は、すっと立ち上がると拳を握って笑った。


「やられる前に、やれる準備を整える。

 こっちが弱いうちに攻められるのはイヤだけどな」


ラウラはその言葉に頷きながら、ふっと微笑む。


「……今だけよ。この“機構の沈黙”が続くのは」


「だからこそ、無駄にしないさ。

 俺が、“ただの巻き込まれ野郎”で終わらないためにもな」



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