表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女にフラれた俺は、封印された何かと暮らすことになった  作者: 雷覇


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/25

第10話:とりあえず、夏休みだし

静馬は、ソファにだらりと寝転びながら、天井を見上げていた。

蝉の声が、窓の外でしつこく鳴いている。


「……あー、どうすっかな、俺」


日常をぶち壊された数日だった。

恋人にフラれ、謎の地下に足を踏み入れ、封印された女と契約し、銃で撃たれ、謎の仮面集団に命を狙われた。


でも――今は、冷房の効いた部屋に寝そべって、昼飯のカップ麺を食べたあと。


「……つーか、もう夏休みだしな。学校行く理由もねえし、しばらくこのまま潜っててもバレねぇんじゃね?」


ひとり言のようにぼやいたその声に、透明な存在がふわりと近づいてきた。


「――愚か者」


ぴしゃり、と冷たい声。

振り向けば、霊体のラウラが、腕を組んで浮かんでいた。


「お前、ほんの数日前に撃たれたこと、もう忘れたのか?」


「いや、忘れてないよ……まだ痛いし」


「なら言わせてもらうけど、今のお前じゃ次は生き残れない」


静馬は眉をひそめた。


「お前、俺に修行しろって言うつもりか?」


「当然だ」


ラウラは、ぴたりと静馬の目の前に立ち、真剣な眼差しを向けてきた。


「確かにお前の身体は常人離れしている。だが、あのときの動き……あれは鍛えただけじゃ出ない。適性がある」


「……適性?」


「術師としてのな」


静馬は眉をしかめた。正直そんな適正欲しくない。


「お前なら私の力を真に扱える可能性がある。だから契約が成立したの。だから修行しろ」


「……なんか褒められてんだか、脅されてんだか」


ラウラは薄く笑った。


「どっちもよ。私は別に機構に復讐するつもりも世界を救う気もない。

 でも――このまま狙われ続けて、無抵抗で終わるのはつまらないわ」


静馬はしばらく黙っていたが、やがて溜息をつき、起き上がった。


「……わかったよ。どうせ暇だしな。

 この夏、ちょっと強くなるってのも悪くないかもな」


ラウラの瞳が、ふっと細まる。


「ふふ……いい覚悟。ではさっそく山籠もりの準備よ」


「え、おい、帰ってきたばかりなのに!?」


静馬の叫びが、夏の空に響いた。


次の日。

「……で、ここは何なんだ?いかにもって感じの場所だが」


静馬は、見渡す限り木々に囲まれた渓谷の奥――ひっそりと佇む廃寺の前で眉をひそめた。


「ここはかつて、強力な魔物が封じられていた場所。霊脈が交差し、霊圧も不安定……修行にはうってつけ」


「つまり、“危ない場所”ってことだよな?」


「そうとも言うわね」


ラウラはさらりと頷いた。

静馬は肩をすくめると、荷物を背負いなおす。


「まぁいいか。どこでやっても同じだし」


「さっそく修行を始めるわよ。覚悟しなさい」



静馬は汗だくで丸太を肩に担ぎながら、泣きそうな声を上げた。


「なあラウラ……これ、もはや修行じゃなくて、ただの肉体労働だよな?」


「違うわよ。これは気脈を整えるための立派な訓練。氣は流れてこそ意味があるの。

筋肉? ふふ、それはまあ……飾りみたいなものね。見栄えはいいけど、本質じゃないのよ」


「飾りで丸太担がせるなよ!!」

静馬は肩の上の丸太に押しつぶされそうになりながら絶叫した。


「文句言わないの。あと十往復よ。でないと氣の巡りが偏るわ」


「どこの誰だよ、氣の巡りに丸太が必要って言い出したの!?」


「私よ」


即答である。


静馬は頭を抱えつつ、ふらつきながら丸太を降ろした。

周囲には同じように運ばれた丸太たちが等間隔に並べられている。


「……なあ、これ、霊道を整えるってより、ただのウッドデッキじゃない?」


「違うわ。これは“氣の導路陣”の準備。ほら、ちゃんと方角と間隔は術式に則ってるのよ?」


「まさか……“氣”の修行がDIYになるとは……!」


ラウラは小さく笑った。


「……で、ラウラ? 俺たちは今、何をしてるんだっけ?」


静馬は、手にトンカチを持ったまま尋ねた。

その背後には、柱、梁、そして組み上がった屋根。


「氣の通り道を正しく整えるための結界構造を形成してるのよ」


「つまり……家を建ててるんだよね?」


「簡易拠点よ。重要な修行場になるわ」


静馬は思わず空を仰いだ。

山奥に突如として現れた、木造のしっかりした小屋――しかもなぜか二階建て。


「俺、今日、霊力とか氣の使い方を教わるはずだったよな?」


「それはこの小屋の完成によって整えられる環境の中で行うのよ。基礎工事みたいなものね」


「その基礎工事がガチ建築なのどうかと思うわ!!」


ラウラは満足げに宙に浮かび、小屋を眺める。


「いい出来ね。見て、東西南北の結界線も完璧。“氣”が巡る拠点としては理想的よ」


「……霊の修行がこんなにもDIY依存だとは思わなかった」


「人は、住まいとともに成長するのよ。さ、次は内装作業ね」


「内装!? おい、まだ終わらねぇのかよ!!」


数時間後――

静馬は畳を敷いていた。


「……ラウラ、俺、だんだん本気で大工になれる気がしてきたわ」


「素晴らしい成長よ静馬。次は霊符で冷蔵庫を再現しましょう」


「もう修行関係ないよね!? 完全に快適に暮らす方向にシフトしてるよね!?」


「それは違うわ。これは長期戦への備え」


「……まあ、ベッドふかふかだし、文句は言わん」


こうして、謎の小屋――いや、修行拠点が完成した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ