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指定魔獣・準備

「思ったより、高いんだな」


 ユーガが自分の前の空間に浮いているメニューを覗きながら言う。右手にカードを持っていて、そのカードからメニューの映像が出ているのだ。

 先ほどルカに教えてもらったが、購買部からしょうしゃ? される映像をカード自体がてんしゃ? しているらしい。もちろん、全く分からなかった。

 しかし、三人ともすごい。メニューの商品を押せば見られる説明を理解しているようだ。チヤは三人の会話には入れそうにないと思い、適当に商品を眺めることにした。

 それにしても、入学式の昨日今日でまさか早速『してーまじゅー』を倒しに行くことになるなんて、思いもよらなかった。

 ダンジョンに行きたいと言ったのはユーガだったが、初めはルカが反対していた。最初は授業や訓練を重ねて十分に情報やエンを集めてからのほうがとルカが反対していたのだが。

 今朝のウラディミル先生の、


「今日から早速指定魔獣の張り出しはあるから、やりてーやつははやめにしろよ。早い者勝ちだが、ただ授業受けたときの十倍以上は単位が違うぜ」

 

 という言葉であっさり賛成してしまったのだ。もっとも、賛成されなくても元々賛成していたレイと二人だけで行っただろうから、その点で言えばほっとした。

 そんなわけで、指定魔獣の確認をしたあと、こうして購買部で回復アイテムなどを買いに来たのである。

 こういうのはユーくんたちに任せたほうがいいよね。ボク計算苦手だし。一人頷いてメニューの次のページをぽちっと押した。


「う?」


 一番左上に何か袋のようなものが写っている。その右にも袋、さらに下にも袋。だが、どれも色や大きさが違っていた。

 首をかしげて一番左上のものを押す。画面左半分に拡大された袋の写真、右半分に説明が表示された。

 その内容に思わず感嘆の声を出し、早速ユーガたちに見せる。


「ユーくんユーくん! 見て見て、なんでも入る袋だって! すごいねっ」

「む?」


 空中に浮かぶ映像を反対にして三人に向けた。ユーガたちは少し読んだあと、自分と同じように声を漏らす。


「ほぉ、これは中々便利だな」

「うん、これがあれば物がかさ張らなさそうだね」


 二人はそのまま自分の見せた映像に目を向けていたが、ルカは目を外して映像に向かって操作をしだした。


「……『携帯袋携帯級』。一種の結界ですね。物を収めても形状が変わらず、見た目以上の容量があるそうです。他にも……えー、『ダンボール級』、『タンス級』、『お部屋級』といった上位のものがありますね」


 ユーガが一度ルカに視線を向け「なるほど」と頷く。今度は自分の映像のほうを見やり、軽く指で押した。


「む? 『ダンボール級』のやつの右下に『Rank:E』以上とあるが……」

「そのまんまの意味だよ。生徒のRankによっては買えない物もあるから、気をつけな」


 購買部のかっこいいお姉さんが、カウンターに肘をつきながら言ってくる。みんなで顔を向けると、にっと笑って口を開いた。


「今一年ボーズたちが買えるのは、携帯級と傷薬だけだよ。他にも欲しけりゃまず『成績』から買いな。つっても、Fの上はFFだから今買っても買えないけどな」


 そう言ってけらけら笑い、緑の瞳を細める。よく分からないけど、成績をあげるだけでも大変だ。

 これはしっかり読んだから分かったことなのだが、『成績』を買うといっても、単位を成績ポイントにつぎ込んでいって、次の『学歴』つまり『Rank』に突入したら上がるという感じらしい。

 ちなみに、次のRankへのポイントはカードで見ることが出来て、FからFFに上がるのは千ポイントだ。


「……ふむ、まぁその二種しか買えないなら、むしろ選択肢がなくて好都合だな」


 ユーガが呟く。見上げて首を傾げるが彼はそのままカウンターまで進み、カードをお姉さんに渡した。


「店員さん、携帯級一つと傷薬を五つくれ」

「姉貴と呼びな、一年ボーズ」

「サカタキと呼んだら考えよう」


 お姉さんが生意気だと言いながらカウンターのカード入れ口にユーガのカードを吸い込ませる。出てきた映像に指を走らせたあと、カウンターの下から両手サイズの袋と小さな細長い青い瓶を三つ取り出し、カードと一緒にユーガに手渡した。


「にしても豪気な買い方だなおい。携帯級四百に傷薬五つで二百五十。お前残った単位十エンしかないぜ?」


 楽しそうに笑うお姉さんのボサボサの赤髪が少し揺れる。それにしても、本当にすごい買い物だ。まさに全部の単位を使ったといってもいい。

 それにも驚いたが、次の彼の行動にさらに驚かされた。

 ユーガは携帯袋に傷薬を全て納め、自然な動作でルカに手渡したのだ。


「は?」

「ルカがこれは管理してくれ」

「え? ちょ、ちょっと待ってください、どうしてですか?」


 思わず受け取ってしまったのか、ルカが両手で携帯袋を包み込む。

 しかし、聞かれたユーガは不思議そうな顔で聞き返した。


「ルカは後衛だからな。前衛の俺とチヤや、援護に走り回るレイが持つより良いだろう?」


 前線から離脱するなら後衛の位置まで後退するしなと付け加える。納得した。レイもそうだねと首を縦に振っている。

 だが、ルカはやっぱり納得してないらしい。


「それが後衛の仕事ならわたくしが自分で購入します!」


 ちょっと顔を赤くしてユーガを睨み上げる。だけれど、やっぱり彼はユーガだった。


「何を言っているんだ? 俺たちはパーティで、共にダンジョンに行くんだから、誰が買おうが同じことだろう? それに、他にも必要なものがあるかもしれないからな。エンは大事に使え」


 当たり前のように言うユーガをルカはぽかんと見上げる。チヤですら彼の返答は矛盾していると思った。きっと買った傷薬には自分たちの分も含まれているだろう。ユーガの実力ならそこまで必要でないはず――いざとなれば帰還魔術もある――だし。その前に、彼自身が袋を買う必要もないのだ。

 本当に矛盾している。エンを大事に使えといいつつ、そのエンを自分自身にでは無くむしろパーティメンバーの自分たち優先で使っているのだから。

 レイがルカの肩に手を乗せた。その顔には苦笑が浮かんでいる。


「ヒナさん、先輩にはきっと何言っても通じないよ。同じ返事が返ってくるさ」


 ルカがゆっくりレイに顔を向けて、疲れた表情で頷いた。


「そうですね……えぇ、分かってましたよ、あはは……」


 そんなやり取りをする二人を見て、ユーガが心外そうな顔で眉をひそめさせている。思わず笑ってしまった。

 だけれど、それは三人には聞こえなかったかもしれない。自分以上の笑い声が飛んできたからだ。


「あっははははっ! なんだいなんだい、仲が良いねぇ! パーティ組んだばっかで、お前らみたいなの見たことないよ! あ、ははぁん、なるほどぉ」


 途中までカウンターを軽く叩いていたお姉さんがニヤリと笑った。


「よく見りゃ男は一年ボーズ一人だけじゃないか。ふふーん、そうかそうか、そういうことか」


 本当はレイも合わせて男子二人なのだが、レイは見た目で言えば女の子より女の子らしくて可愛いく、お人形さんみたいなので男だと言われても逆に疑うだろう。

 聞かれるまでは言いふらさないで欲しいとレイから頼まれたのを思い出す。もちろんそんなことをするつもりは微塵も無かったのですぐに了承した。

 その甲斐あってか、今レイが男だと知るのはこのパーティと……先生たちは多分知っているんじゃないだろうか? そういえば聞いたことがない。

 というか、いくら男子寮が女子禁制じゃないからとはいえ、寮住まいの上級生まで男だと気づいていないのはどうしてなのか。不思議だ。


「絶倫なのかい?」

「なっ!? ななな、なんてことを口にするんですか!? わたくしたちとユーガはそんな関係ではありません!!」


 いきなりルカが怒鳴った。よく聞こえなかったけど、何か言ったらしい。

 こっそりレイに耳打ちする。


「レーちゃんレーちゃん、お姉さんなんて言ったの?」

「……そうだね、先輩は、すごく……強いですか……? ってことを聞いたんだよ」


 それなら本当のことだ。どうして怒っているんだろう。

 とりあえず代わりに答えておく。


「うんっ! ユーくんすごいんだよっ」

「チ、チヤちゃん!? い、いけません! 女の子がそんなこといっちゃ!」

「え? でも、ユーくんが強いのってほんとでしょ?」

「つ、つよ、はっ! ユーガッ! あなたまさか、チヤちゃんに、て、手手手、手を出したんですか!?」

「む? もう話は終わったのか?」


 全然聞いていなかったのか、ユーガが空中に浮かぶメニューから顔を上げた。その反応にルカの顔が真っ赤になる。


「あ、あなたって人はっ!」

「はわわっ!? ルカちゃん、どうしたのっ? やめてやめてあぶないよっ!」


 ユーガの服を掴んで思い切り詰め寄るルカを必死に引き止めた。

 あ、やっぱりルカちゃんの胸やーらかい。なんて一瞬思うが、どうやら自分はルカとユーガの間に挟まれてしまったようだ。


「ふふふ、ヒナさんをからかうのは楽しいなぁ。先輩、困ってるかい?」

「お、落ち着け、ルカ。何を怒ってるんだ?」

「この鬼畜ぅ!」

「……困ってる困ってる。良い顔だよ先輩、ふふっ」


 ルカの胸で押されて息苦しい中、必死にレイに助けを求めるが、きっと無駄だろう。

 だって、とっても良い笑顔をしているから。




「……わたくしは謝りませんからっ」


 冒険購買部までの道を歩いている途中で、ずっと頬を膨らませていたルカがユーガを睨み上げた。

 

「いや、まぁ、誤解だったようだしな。俺は気にしていない」


 ユーガは左手で頬をかきながらそう返す。所々尖った黒髪が僅かに揺れた。

 あの騒動を収拾したのは、良い笑顔で傍観していたレイだった。チヤが何度助けを求めても楽しそうに見ていただけだったが、ユーガが頼めばあっさり頷き、ルカに何事か耳打ちして事を納めたのだ。

 どんな魔法の言葉を使ったのか聞いても、誤解を解いただけさと笑うだけだった。


「ふふ、それにしても、ヒナさんは本当にえっちな人だね」

「だ、だれがですか! 元はといえば、あなたがチヤちゃんを(そそのか)したからでしょう!」

「何を言うんだい。嘘を教えるのはいけないことだろう? それとも、そのままの意味で教えても良かったのかな?」


 そこでルカが言いよどみ、何故かこちらを見てくる。見上げて首をかしげると、肩を抱かれて引き寄せられた。


「……それは駄目です」

「ふふ、そうだろう? 私もチヤくんはそのままでいてほしいからね」

「なぁに?」


 明らかに自分のことを話しているとは分かるが、内容が分からない。聞いても何でもないとしか返って来なかった。

 何度聞いても笑って頭を撫でられるだけなので、もう聞かないことにする。というか、ルカならまだしもレイにも撫でられるのはどういうことだろう。一応年上なのだけれど。まぁしかし、気持ち良いので良しとする。

 冒険購買部略して冒険部には、いつものようにお姉さんがいた。背中までのカールがかったふんわりした黒髪が可愛く、おっとりとした女の人だ。

 授業が終わって防護服とかを返したときにおしゃべりしたことがあるが、なんでもエンヨウ学園の卒業生らしい。ということは、少なくとも二十歳は過ぎているはずなのだが、どう見ても同年代くらいにしか見えない。

 お姉さんはこちらに気づくとおっとりとした笑顔を見せてくれた。


「あらぁ~、チヤちゃん~、ルカちゃん~、ユーガくん~、いらっしゃぁい~」

「む? 何故俺の名前を?」


 お姉さんの言葉にユーガが不思議そうに尋ねる。

 確かに。どうして知っているのだろう。自分とルカは何度かおしゃべりしたので名前を覚えてくれたのだと思うが。


「うふふぅ~どうしてでしょお~?」

「ふむ…………」


 ユーガがカウンターのすぐ前まで移動して、じっとお姉さんの目を見つめる。

 最初はお姉さんもほやほや笑顔で見ていたが、だんだんと頬を赤くして首を傾げていった。


「な、なぁにぃ~? おねーさんの顔になにかついてるぅ~?」

「……分かりました。あなたは訓練場とダンジョン、両方の受付の女性と血が繋がっているんですね。恐らく訓練場のほうの女性から聞いたのでは?」


 これにはお姉さんだけじゃなく、こっちも驚いた。そういえば似ているとは思ったが、驚いたのはそれを見抜いたユーガにだ。

 ルカとお姉さんがユーガに問う。


「ど、どぉしてわかったのぉ~? それにぃ、大正解ぃ~。お姉ちゃんから聞いたのよぉ~」

「ユーガ、何故分かったんですか?」

「何故って、そっくりじゃないか。それに、同じ匂いがする」


 言われて見れば、いや、言われてみても、特にそっくりとまではいかない。どこか目元が似てるかも、耳かな? 程度の『似ている』だ。

 というか、匂い?


「やぁだぁ、お姉さんの匂いを嗅いだのぉ~? もぉ~えっちぃ~」

「ユ、ユーガ、あなた、まさか本当に変態さんだったんですか?」

「それは俺が変態だと疑っていたという意味だな? 匂いは服のほうだ。同じ洗剤の匂いがする。そっくりな顔で同じ洗剤を使っているのに、偶然だという可能性のほうが低い。あとは、そうだな。髪も同じ匂いがする。一緒にお住まいですか?」

「あらあらあらぁ~、大正解~。そうよぉ~お姉ちゃんたちと実家で一緒に住んでるのぉ~」


 どちらにしろ匂いを嗅いでいたということに変わりはないが、変態というほどおかしな行為なのだろうか。チヤ自身もよくユーガの匂いを嗅いでいるのだが。


「結局匂い嗅いでるじゃないですか……失礼ですよ!」

「先輩が変態でも、私は受け入れるよ。なんなら、私の匂いを嗅ぐかい?」

「……二人とも、俺を変態にしたいのか? それにどうして知っているかと問われたから、自ら情報を集めただけなのだが?」

「うふふぅ~、いいのよぉ、ルカちゃん~。それより~、その可愛い子はぁ~新しいお友達ぃ~?」


 お姉さんがカウンター越しにレイを見る。紹介を忘れていた。


「うんっ、お友達のレーちゃんっ」

「レイ・キサラギだよ。よろしく」

「よろしくねぇ~。といってもぉ~実はぁ~あなたのことも~お姉ちゃんからきいてるんだけどねぇ~」


 レイと握手をしながらほわほわ笑うお姉さん。

 そういえば、訓練場の女の人はどんな話をしたのだろうか。聞いてみた。


「えっとねぇ~、将来女をとっかえひっかえしそうな期待の新人とぉ~、そんな男についていこうとするぅ~健気な女の子たちってぇ~言ってたわよぉ~」

「……褒めているようで人聞きが悪いな」

「だから、わたくしたちとユーガはそんな関係ではないと何度も……ユーガのせいですよ!」

「待て。今何故その結論に至った?」

「まぁでも大体合ってるね」

「一ミリも合ってません!」

「ユーくん、やっぱり刺されるの?」


 ユーガが左手で額を押さえて大きくため息をついた。なんだかユーガが困っていると楽しい。あの強い瞳が和らぐからだ。しかし、このままでも可哀想なので慰めてあげよう。


「うふふぅ~、仲がいいのねぇ~。ところでぇ~、ご用件はなにかしらぁ~?」

「あぁ、そうでした。ええっと、今からダンジョンに入るので、杖を借りたいんですが」


 ルカが言うと、お姉さんは困ったような笑みを浮かべた。


「ごめんなさいねぇ~。二学期からはぁ~貸し出しできないのぉ~。生徒のみんなが自分で買わないと駄目なのよぉ~」

「えぇっ? そうなのっ? じゃ、じゃあ、防護服も」

「防具も買わないと駄目ねぇ~」


 それは知らなかった。隣でユーガがルカに「やっぱり使わなくて良かったな」と言っている。言われたルカは先ほどと同じように軽く頬を膨らませて睨み返していた。

 ユーガはその睨みを気にせず、お姉さんに顔を向ける。


「それじゃあ、メニューを見せてもらって良いですか。ルカには杖のを、俺たちには防具をお願いします」

「はいはぁ~い、ちょっと待っててねぇ~」


 鼻歌交じりにカウンターに手を置いて何か操作をするお姉さん。すぐに顔を上げてどうぞと言ってくれた。

 カードを取り出して横にすると、空中にメニューが表示される。淡い緑色の画面の左側に『布服』、『革鎧』と並んでいて、それの下にも『軽鎧』や『重鎧』などの文字があった。

 これらは文字通り防具の重さとか材質で分けてると思うのだが、『伝説鎧』とか『魔鎧』とかはなんだろう。さらに下には『オリジナル』とある。

 どんな内容か見てみようと思ったが、指で押した瞬間『Rankが足りません』と出てきて先に進まない。そのままの意味で、まだそれらを見るには早いということだろう。

 残念に思いながらも、革鎧を押す。右側にずらりと防具の絵が並んだ。名前も書かれており、それにくっついてRankもある。

 今自分のRankはFなのでFと書かれているのを探せば良いわけだ。


「えーと……これしかないや」


 その名もずばり『レザーアーマー』。お値段なんと五百エン!


「って、単位ほぼ無くなっちゃう……」


 こんな、「普段着よりはマシでしょ」程度の鎧が手持ちの単位ギリギリ。残った百六十エンでは……何がどれくらい買えるかは分からないけれど、きっとあまりない。

 防具でこれなら、ルカの杖はどれくらいなんだろう。


「ルカちゃん、いいのあった?」

「…………買えません」

「え?」


 尋ねると、ルカはゆっくり振り返ってメニューを見せてくれた。思わず固まった。


「……一番低いやつで千五百エンか。かなり高いな。どうしてこんなに高いのですか?」

「あぁ~、杖ぇ~? 杖はねぇ~、他の武器と違ってぇ~魔術の補助機構もぉ~組み込まないといけないからぁ~ちょっと高めなのよぉ~」

「そうですか。……ルカ、やっぱり杖があったほうがいいか?」

「えぇ、まぁ。何も補助がない状態だと、エンロウの維持で精一杯になってしまいますから。杖を持っていれば、詠唱に多少時間かかりますけど、別の火属性魔術も同時に行使できます。……他の属性は今のわたくしではエンロウと同時には使えませんが」

「そうか……」


 ルカとユーガが難しい顔をして考え込んでしまった。


「あ」

「どうしたんだい、チヤくん?」


 良いことを思いついた。のだけれど、自分一人のでは足りない。レイを見上げて、お願いする。


「ねぇ、レーちゃん、お願いがあるの」

「私で出来ることなら聞くよ」

「あのね……」


 精一杯背伸びをしてレイの耳元で囁く。離れて再度顔を見上げれば、レイは頷いてくれた。


「なるほど、もちろん良いとも。お姉さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「はいはぁ~い?」

「例えば、今ヒナさんが杖を買うとして、足りない分の単位を私とチヤくんが出す、というのは出来ないかな?」

「えっ!?」


 ルカが声を上げてこちらを見る。ユーガも目を少し見開いていた。


「もちろんできますよぉ~。お互いの了承があればぁ~」


 レイと目を合わせて頷く。


「ルカちゃん、出来るって! 早速買っちゃおっ」

「え、い、いえ! 駄目ですよっ、それならわたくし、杖なしで……」


 またレイと目を合わせて、今度は声も合わせて言った。


「ボクたち同じパーティだから、誰が使っても一緒だよっ」

「そういうこと。ね、先輩?」

「……ふっ、そうだな」


 ユーガとレイ、二人を微笑みを交わす。だが、当のルカは納得してくれてない。


「ですけど……」

「ルカ、折角こう言ってくれてるんだ。素直に受け取れ。それに、その分魔術で援護してくれれば良い。そうだろう?」

「うんっ!」

「まぁ、私の場合、それを期待して出すんだけどね」


 それでもルカは渋い表情のままだったが、負けじと笑顔を見せていると、やがて小さくため息をついた。


「もう、本当に……こういうのはユーガだけで十分ですのに」


 そう言って、困ったように笑ってくれる。


「ありがとうございます」

「えへへー」

「どういたしまして」

「…………」


 その後ろでユーガが釈然としてない顔だったので、また笑ってしまった。

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