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くりあげ編入生? と結成

 本当にあったことを話す気はない。そんな話を聞かされても面白くないだろうし、レイ自身、思い出したくも無いからだ。

 特にユーガの耳には入れたくない。今まで自分に降りかかったことを話せば、彼のことだ。全力で自分を守り、全力で自分の『敵』を排除しに行くだろう。

 それは何も、彼にとって自分が『特別』だからじゃない。いや、ユーガ自身は『特別』にみてくれるだろうけれど、それは自分が望む『特別』じゃない。

 例えば。目の前に座る女生徒二人。すごく綺麗な女と、すごく可愛いけどとても年上には見えない少女。

 彼女たちに何か危害を加える者が居れば、ユーガは同じく全力で叩き潰すはずだ。それは彼女たちが言った『友達』という言葉を、ユーガが否定しなかったことで分かる。否定しなかったのは肯定。

 ユーガは自らに例え僅かでも――広義な意味で――好意を向けられれば、すぐに『特別』に位置づける。無表情で見ようによっては怖い目のせいで誤解されることが多いが、ユーガという人間は底抜けのお人よしだ。

 口では理屈ばかり並べるくせに、理屈通りに行動できない馬鹿な人。


 そんな馬鹿を追いかけて無理矢理高等部に上がった私も、大層な馬鹿だけどね。


 心の中で笑う。ユーガの『オトモダチ』なら、少しくらいサービスしても良い。

 真実半分のお話をするために、口を開いた。


「さて、まず私はとても可愛い顔をしているのが分かると思う」


 チヤがうんうんと頷き、もう一人の女生徒は「はぁ」と気の抜けた相槌を打ってくれる。ここで、自分は特にナルシストというわけではない。ユーガが言ってくれたから自信を持っているだけだ。


「そのせいか、幼少時は女男といじめられたものさ。しかし、それも状況が変われば見方も変わるというもの」


 高等部に上がれるようになるまでの、『計画』の時期が思い出される。自ら引き込んだとはいえ、思い出すだけで震えてしまいそうだった。


「同性、つまり男しか居ない中等部ではそれはそれは可愛がってもらったものだよ。これが可愛がられたときの怪我の一つさ」


 右腕の袖をまくって見せる。二人が目を見開かせ、ユーガが床の上においた手を握り締めた。この怪我はユーガも知っている。出会った時のものだから。

 話しながら記憶が流れていく。今話しているのは真実じゃない。思い出さなくとも良いのだ。


「まぁ、あとは話しても面白くないものばかりだから割愛するけれど。私のせいで能力が暴走する生徒もいたくらいさ」


 私は悪くない。


「そんなことがあったら、中等部に私の居場所はない。その度に寮から脱走もした。何度も、繰り返しね」


 私は悪くないのに、何故私が非難されなければならなかったのか。


「私という存在が他の男たちに悪影響を及ぼすらしくてね。もちろん、女として女子の中等部に。なんて話もあったけれど、周囲の性別が変わるだけで状況は全く変わらない。本当に馬鹿なことを言ってきたものだよ」


 だから、その通りに行動して、望む結果を手に入れた。


「幸いなことに、私の能力は暴走しても大した被害は出ず、なおかつ私自身、能力のコントロールは天才的だった」


 こうして私はここに居る。


「ゆえに、中等部は私を厄介払いしたのさ。この、高等部にね」


 話し終えた。真実半分で、残りは嘘。これで信じてほしい。彼女たちも……ユーガも。

 しんと静寂が部屋を支配する。まぁ、自分で話しておいてなんだが、信じがたい内容であると思った。

 

「……ふふ、まぁ、信じられないよ、ね!?」


 視線を動かして目の前のチヤと女生徒を見て、息を呑んだ。頬も引きつった。


「えっぐ、えっぐ、そんな、レーちゃんかわいそうだよぉ」

「……そんな事情があったなんて……ごめんなさい、辛かったですよね」


 チヤは大泣きして袖で目を必死に擦っていて、女生徒はハンカチで目元を軽く拭いている。

 まさか一片の疑いも無く信じられるとは思わなかった。レイはこうして女の格好をしているが、女がどういうものかを知っているわけではない。なろうと思ったことも――――ユーガに関して以外のことでは無い。

 なんというか、他人に泣いて貰ったのは初めてだ。


「……良心が痛むね」

「え?」

「私のために泣いてくれてありがとう、と言ったのさ」


 誤魔化したつもりだったのに、チヤはさらに泣いてしまった。助けを求めるつもりでユーガを見れば、彼は穏やかな瞳で二人を見ている。

 あれは自分のために泣いてくれる二人に感謝している目だ。あぁ、納得してしまった。

 類は友を呼ぶ。ユーガは大層変わっているから、その友人の二人が変ではないはずがない。


「ぐすっ、レ、レーちゃん、安心してねっ、もう怖いこと無いからねっ」

「うわっ!?」


 テーブルの代わりだろう箱を乗り越えてチヤが抱きついてきた。いきなりのことだったので受け止めきれず、後ろに倒れこみそうになる。

 が、ユーガがすぐに背中を支えてくれた。


「何か困ったことがあったら、いつでも言ってくださいね。力になりますから」


 もう一人の女生徒が微笑んでそう言ってきた。ユーガ以外から優しさを受けたことがなかったので、真っ直ぐな想いに戸惑ってしまう。

 もう一度ユーガを見上げれば、普段、お願いしないと見せてくれない微笑みを浮かべている。


「……うん、ありがとう……」


 二人から微笑みがうつってしまった。




「ユーガ? 何を書いてるんですか?」

「む?」


 泣き止んだチヤを交えて三人で談笑していると、ルカ――改めて自己紹介してもらった――がユーガの手元を覗き込んでいる。


「何って、パーティのメンバーだが?」

「え? でもそれ、お互い名前を書くんですよね? というか、誰の名前を?」

「レイの名前だが」

「おや? 私はまだ先輩にお願いしてないけど?」


 言おうとは思っていたが、先に書かれているとは思わなかった。

 ユーガが首をかしげて聞き返してくる。


「俺以外のやつと組むつもりだったのか?」


 それは少し深読みすれば『お前は俺のもの』と聞こえてしまう。ゾクゾクしてしまうじゃないか。もちろんそんなことは口にしないが。


「まさか。私は先輩以外の人と組むつもりは無いさ。私は先輩のモノだからね」

「お前はたまに意味の分からないことを言うな?」


 我慢できずに口にしてしまった。しかし、そこでまた首をかしげるユーガは本当にひどい人だと思う。ゾクゾクする。


「あ、ユーくんユーくん! ボクたちとも一緒に組もっ!」


 チヤが思い出したように鞄から用紙を取り出し、上に掲げてブンブンと振り回した。『たち』ということはルカもらしいが、と目を向ければ、彼女はどこか諦念めいた表情で微笑んでいる。

 どうやら今までもこうやってチヤに振り回されてきたようだ。


「俺はもちろん構わんが……チヤたちとレイは今日知り合ったばかりだろう? バラキン教師は気心がしれた仲間だとか何とか言っていたが」

「問題ないよ? だって、もうレーちゃんとはお友達だもん!」

「へ?」


 思わずチヤに聞き返してしまった。彼女の表情が固まってみるみるうちに目に涙をためていく。


「あ、いやいや、私も構わないよ。もうお友達だからね」


 すぐに言うと花が咲いたような笑顔を見せてくれた。嘘はつけても涙は苦手だ。それに、ユーガ以外の男と一緒にいるのは嫌だ。それなら自分のために泣いてくれた彼女たちが良い。


「そうか。じゃあ、それぞれ名前を……」

「ユーガ、わたくしへの確認は?」

「……睨むな。ルカも俺たちと同じパーティでいいか?」

「そこまで言うなら、仕方ありませんね」


 何故か勝ち誇った顔をするルカと、ため息をつくユーガ、クスクス笑うチヤと自分。ユーガと二人っきりになりたかったが、これはこれで悪くなかった。

 しかし、高等部に上がってすぐに別の問題で頭を悩ませるかもしれない予感がする。


 まぁでも良いかな。これからは先輩の近くに居られるし。


 今は何も考えず、ただ傍に居られる幸せだけに集中したかった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「先生はな、高等部の一年を担当し続けて結構長いことなるが、紙渡された初日に提出しに来たのはお前らが始めてだ」


 四人の生徒からそれぞれ紙を受け取りながら、ウラディミルが呆れた顔で言う。


「それにしても……」


 ウラディミルは紙に書かれた名前を確かめたあと、ユーガに目を向けてさらに呆れの表情を浮かべた。


「……サカタキ、刺されるなよ?」

「は?」


 怪訝な顔で聞き返すユーガに、チヤとレイが左右からぴとっとくっつき、ルカは赤い顔をしてどこかあらぬ方向に視線を泳がせる。


「先輩、私はどんなことがあっても先輩から離れないから、安心していいよ」

「わ、わたくしは別に、ユーガのことはどうでもいいですけど……誰かを泣かせたら許しませんから」

「えへへー、ユーくん、気をつけてねっ」

「……三人とも、俺が理解できん会話で俺の話をするな」


 ユーガは疲れたようにため息をつき、ウラディミルに「俺たちはこのパーティで」と告げ、職員室を出て行く。その背中を三人の少女が文句や制止の声を上げながらパタパタと追っていった。


「……マジで刺されねぇかな、あいつ」


 四人を見送り、ウラディミルはポツリとつぶやいた。





「くっそぉ、なんでヒナモリさん、あいつなんかと……!」

「はぁ、サカタキくん……」

「お前らいつまでそんなこといってんだ? ほら、提出すっぞ」

「……あ、あの、ほんとにわたしもはいっていいんですか?」

「あーいいのいいの。どうせおれらあと一人たりなかったしね」


 その後、職員室に肩を落とす二人の生徒とそれに呆れる男子生徒、さらに気の弱そうな女生徒が続いて入室し、またウラディミルを呆れさせるのであった。


読んでいただきありがとうございます。

今回でやっとレギュラー四人そろいました。むしろここまでがプロローグといっても過言ではありません。ごめんなさいマジです。


本来はダンジョンメインであったはずなのになんという進行の遅さ。二学期からがメインです、きっと。

ゲームでいうところ、レベル上げやアイテム集めができるようになる時。もっといえば主人公たちの『拠点』が決まって色々なシステムが使えるようになる時です。

FF○3で言えば11章ですね!分からない方はごめんなさい。(あとコヅツミはFF1○もしっかりばっちりやりました。楽しかったです。ラスボス戦テンション上がった)


えーというわけで、今後ともエンヨウ学園をよろしくおねがいします!

ではではっ。

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