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乾期は歓喜の季節⑱

 アルハンブラが器用にストルムの体を飛び移る。


 オーレリウスの背後へと飛び乗ったのち、自身のポケットをまさぐる。そうして手渡された5枚のクォーツ貨幣を髑髏面の男へと手渡す。


 それを受け取ったオーレリウスはそれを握りしめる。


 「で?アースラズが怪しいとは言ったがよ」吹きすさぶ風に眉をひそめながらアルハンブラが声を大にして話し始める。


 「実際のところどうなんだ?確かに鱗肌属と親密な関係ではあるだろうよ。だが他の種族、もっと言えば流浪の亜人種族にそこまで肩入れする事は本当にあるのかよ」



 場合によっては、何事もないままスクールの連中が街についている可能性だってあるんだろ?


 アルハンブラの疑問に、オーレリウスが返答する。


 「その時は、閑静な街に竜に乗った間抜けが明日の朝日のもとで首を斬られているだろうさ」


 オーレリウスの握られた手が開かれる。


 無垢であったクリスタルの貨幣が、5発の弾丸へと姿をかけている。


 マウントしていたレイジ・オブ・ハートを抜き取ると、狙撃形態へと移行する。

 ボルトハンドルを上げ、ボルトを後ろへとスライドさせる。

 竜の背に乗ったまま、器用に内部固定型マガジンへと5発の弾丸を装填させていく。


 ボルトが戻る際に、薬室へと弾丸が装填され密封される。


 アルハンブラが笑う。

 「俺がその間抜けに連なるのは勘弁被る。死ぬならもっと派手に死にたい」


 オーレリウスは仮面の奥で、街の様子を確認する。


 未だ闇の奥で、町は静かに眠っている。

 「勝手にしてくれ」


 その言葉の、放つ唇はかすかに笑っていた。


 アルハンブラの言い分はもっともだ。


 仮にいかに親密な間柄といえども、命を掛けろ。なんていわれれば躊躇してしまうのは当たり前の行動ルーチンである。たとえそれがアースラズのような冒険者たちであったとしても変わりはしない。


 だが、オーレリウスの脳裏には妙な確信があった。


 きっと、アースラズは動く。

 自分たちのためではなく。

 戦いの中で今も滅びへの道を突き進んでいるだろう同胞のために、命を賭せる連中だと。


 その甘言の奥に誰が居ようと関係ないのだろう。結局は、勝てばよいのだから。


 それはきっと、オーレリウスと似て非なるものだ。

 痛いほどそれがわかってしまうからこそ、オーレリウスは確信している。


 アースラズは、動くと。

 自分は、それにはなれないと。

 

 オーレリウスは確信していた。




 闇を掻き切る様に迫りくる飛来音を聞いたとき、ミュレの眼前に一本の矢が突き刺さる。

 既に杖を構え、ケガをした味方をトラックの影に引きずり込んでいた。


 水氷(ウォーター・)旋律(メロディ)治癒球(ヒールボール)


 生徒を包み込むように水球が生まれる。

 この水球内を満たすマナが効率よく対象の傷を癒していく。


 だが気を失っている仲間を叩き起こすような過激さは持ち合わせていない。

 領域魔法を展開したまま、ミュレは別のトラックへと走る。

 

 演算された弾道より迫りくる矢を躱しつつ、ほかの仲間がいるトラックの影へと滑り込む。


 弓矢とは、随分古臭い装備だと思っていたが。ミュレは認識を改めさせられた。


 確かに、弓矢は武器の中では習熟に時間を要する武器の一つである。銃や杖を使用した魔法の良い点は訓練が容易であるということだ。


 現にミュレのような少女が、戦場に出て戦える程度の戦力を与えているのだから。


 だが、刀剣や弓矢の利点をミュレは今その身をもって理解していた。


 銃や魔法の戦いは、常にある程度の「射程」が介在している。

 それ故に遠くで動く対象を狙い撃ったり、捕縛する術はこちらに利点があるだろう。


 だが、その射程が極端に狭い状態となった時、ミュレ達の魔法は放つまでに杖を振るうその時間をつかれる。


 また、音もなく降り注ぐこの矢は逆にある程度の射程の先から放ってきているのだろう。


 魔法が発揮されたときに残すマナ残滓やマズルフラッシュの類が一切見えない。

 ミュレの使用する領域魔法の有効範囲15mを超えた先から放たれる静寂の殺意は、ミュレ達では捉えることができない。

 だからこそ、ミュレは仲間のもとへと向かった。

 そうなった時の対応をミュレ達もまた備えている。


 「ミュレ。合わせるよ」


 そういい、何人かの飛竜兵たちが杖を構え、領域魔法を発揮する。


 それぞれの領域魔法が重なる。


 重複した領域はそれ自体が一つの領域となる様に範囲が拡大していく。

 複数の泡が重なり、大きな一つの泡となる様に。


 それはどんどん周囲を飲み込んでいく。


 そうして、50m地点に至った時ついに補足する。


 複数の、矢をつがえた人間たちの姿を。

 その体に刻まれた、魔法刻印のマナを確認する。


 ミュレは頭の中に叩き込んできた知識を動員し、検索をかける。


 魔法刻印をタトゥーのように使用する者たち。

 それはすぐに検索結果をたたき出す。


 「南方種族の刺青式魔法刻印?そんなことするのって…」


 今現在この街周辺でそのような技術を持ち得る者たちがいただろうか?


 「…なんで、アースラズが?」



 アースラズ。南方諸国出身の冒険者たち。そのシェーヌ。


 とはいえ、もともとは自分達の護衛のためここに来ているはずであった。

 少なくとも、今この状況に自分たちを陥らせている要因を考えているような余裕はない。


 既に何人ものアースラズの構成員に接近を許している。


 手に持つ刀剣をはじめとした近接用武器は主に禍つ獣達との戦いを想定されて作られた武器だ。

 当然、人間だって切り殺すことができる。


 「ミュレ…」


 仲間の飛竜兵たちがミュレに言葉を投げかける。

 動揺が多いに混じった声。この状況を飲み込めてはいない。それはミュレも同じではある。

 だが、幾分こういう危機的状況を迎えてきたのだ。その経験がミュレの行動を指し示す。


 「連中が近づく前に、集まれるだけの人を集めて!多重障壁戦術(ファランクス)でいくよ」


 ミュレの判断に戸惑う仲間の飛竜兵たち。


 「で、でも…アースラズだったら…」


 何かの手違いで、こちらを攻撃しただけかもしれない。そういう発想が仲間の中にはあった。


 だとしても、事に対し握手を待っていては。

 今度はこちらの手が切り落とされる可能性だってある。

 

 「じゃぁなに?この状況下でのこのこ「護衛ですか?」なんて出ていくつもりなのかしら。握手のために差し出した手がどうなるかわからないわ。それに、どういう理由であれ先に手を出したのは向こうよ。事情を聴くまではこちらも相応の対応をしないといけない」


 皆を見る。

 自分だって怖い。猪だのなんだのと戦ってはいるが、こればっかりはいまだに慣れない。


 だが、その恐怖をひたすらに隠す。

 伝播しないように、その先にある連携だけが、自分たちを生かす要素なのだと自分へ鼓舞するために。


 「相手を交渉のテーブルに引きずり出すために、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()時だってあるのよ!死にたくないなら急いで!」


 そういわれた飛竜兵たちは、即座に動ける仲間を集めていく。


 疾風旋律(エアロ・メロディ)見えざる手(ハンズ)で可能な限り負傷者を集めていく。

 接近のためか矢が降り注がない今この瞬間に、出来うることをする。


 そうこうしているうちに、耳を掠める音がする。


 草木をかき分ける音

 金属が擦れる音

 人の息遣い。


 あぁ、もう。


 「…最悪」



 杖へと濃縮マナを装填しなおしたミュレが、そう呟いた。




 オーレリウスたちをのせたストルムはすでに街を横切り森へと向かっていた。


 ヴァルキリアズも遅くなっている事に対し苛立ちを超え疑念を抱くように動きがせわしなくなっていた。


 もう幾ばくもすれば、調査隊が結成され行動を開始するだろう。

 手を入れるとするのならそこまで時間はない。


 「ヴァルキリアズのねーちゃんたちに事情を説明するってのは?」

 アルハンブラが靡くフードを抑えながらオーレリウスへと話しかける。


 『どの面下げて行けってんだ?殺されに行くようなもんだろ。それに、お前が出向いたところで話をしている時間が勿体ねぇって』


 そういうストルムに対し「だよなぁ!」と返すアルハンブラ。


 おそらく、もうすでに行動が行われていてもおかしくない。オーレリウスは静かに夜目と拝瞳の魔法で自身の眼を強化する。


 『そういえば、お前らがケツを蹴りだされたようにすっとんでいったみたいだが、なんでこの一件に首ツッコむんだ?工場絡みだとは思うが』


 そう疑問を投げかける相棒に、オーレリウスは説明する。


 アースラズが攻撃を仕掛けたその地点で、七大連合の息がかかっている可能性が大いにある。


 七大連合のが狙っているのも間違いなく工場である。

 そして、仮に2つの小国をけしかけて紛争まで起こしているというのであれば、工場にはかなり重要度の高い帝国時代の技術が残っている可能性が高い。


 わざわざ火種を起こすのであるならば、それ相応の火元が必要となる。

 

 それに、連中の護衛任務ということで何とか海へと安全に抜ける必要がある。その前提がなくなってしまってば泥沼の戦場を飛んでいく必要が生まれてしまう。


 「結局、お前が飢えで苦しまないようにするって意味もあるってこった。相棒」


 『やさしいねぇ?いいように使われるスクールの雌鶏には同情しておくよ』



 そうこうしているうちに、アルハンブラがある一点を指差す。


 複数のトラックに向かって魔法の残滓を漂わせた連中が複数人で急速に接近している。


 その奥ではそれを見守る様に同じような集団が待機していた。


 アルハンブラが指をゆらゆらと動かしている。

 「ざっと、20人ってところか?トラックへと向かってる連中が13人。後衛が7人」


 緩く飛行を続けるストルムの上で簡単な作戦会議を行う。

 とはいえ、そう複雑なことを話すことはない。


 アルハンブラがトラック側へと突っ込み、スクール生徒の救援とアースラズの殲滅。

 オーレリウスは後衛に同時に攻撃を仕掛け、これを殲滅したのちに狙撃による支援を行う。


「俺だけ、行ったり来たり忙しいみたいだが?」


そういうオーレリウスの肩を軽く叩いたアルハンブラは既にストルムの鞍を蹴り、空へと跳び去ってしまっていた。



「相変わらず、話聞かねぇな…あの人はよぉ」


 そう愚痴るものの、オーレリウスはここから先は慎重に行動を行う必要がある。


 領域魔法が重複発動している可能性を考慮しなければいけないからだ。

 領域魔法をはじめ、スクールの魔法はそれ自体が複数人で同時に使用することでその威力と効果範囲を飛躍的に増加させていくことができる。

 それはすなわち、後衛7人を倒すタイミングが少しでもずれるとこちらを補足される可能性がある。

 

 アルハンブラはある理由からそれを一切気にしなくていいのだが、それはそれとして恐ろしいことではある。


 オーレリウスはレイジ・オブ・ハートを一度マウントラックへと納めると、左肩に掛けているホルダーからハンドアックスを抜く。

 僅かに震えるように感じたその手のうちに、しっかりと握られている。


 髑髏面の奥で、オーレリウスは静かにその時を待った。

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