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この世界を巡る、マナというもの⑪

 菌糸生命体、基菌糸類。要はカビやキノコのような生命構造を指している。

 それらは噛み砕いていえば糸状の菌類の集合体であり、キノコなどは果樹でいうところの果肉に該当する。つまり繁殖のための器官と言われている。


 ライオネル・ステンバーこと、オーレリウス・ベルベッドは、グワナデルの百足をこの菌類である。と言い放ったのだ。


 その発言に、ランヴィムは訝し気に言葉を待つ。

 最も、禍つ獣にこれまでの世界の摂理というものがどこまで通用するものかは分かったものではない。

 先にあげた機械と獣の混合獣(キマイラ)がいるというのなら、菌類の構造を持つ百足がいたところで真っ向から否定することはできない。

 否定できないにせよ、その答えに行き着くまでに何らかの「答え」をランヴィルの眼前で煙草を吹かすブロンズ等級(クラス)の冒険者は見出したというのだ。


 是非とも、理由をお聞かせ願おうじゃないか。


 ランヴィムが、しばしの静寂を過ごす。


 ややあって、ライオネルが口を開く。

 「グワナデルの百足がどうして人からしか生まれないか。興味はないか?」と。


 訝しむランヴィム。なんだかはぐらかされているような気分にもなるが、しばしの思案にふける。


 去年の夏ごろ討伐された写真の人間。

 今回、襲撃された治安維持部隊。


 確かに、これまでグワナデルの百足に襲われたと思わしき対象は皆人間である。

 だが

 「それにしては物的証拠が足りない。そのうえケースの総数も十全とは言えない」

 と言葉を返すランヴィム。

 

 もしグワナデルの百足が人間を標的にするというのであれば、今回のも含め2件のケースのみというのは些か証拠としてはパンチに欠ける。であれば有象無象をノックアウトできる威力の物的証拠が必要となる。

 だが目の前の男はラウンド数を稼ぐようにこちらの反応をうかがっているようにも思える。


 ライオネルは写真を見やり、寄生された人間と百足の接触点を指さす。

 「こいつらは、まるで人の内側から喰い破るように出てきている。と思わないか?」

 

 ランヴィムは改めて写真を見やる。

 「なるほど、確かにそういわれればそうですね」

 人間の胸あたりを突き破る百足の姿をまじまじと見やる。

 

 「恐らくこいつは、人の鼻から肺に到達する。そのうえで肺胞に菌糸が寄生することで養分を吸収し、胞子嚢を形成していく」


 ランヴィムはいよいよこの男が何を言っているのかがわからなくなってきた。

 この冒険者の頭の中では、既にそういう前提で話が進んでいるようで面と向かって会話しているというのに、おいていかれてしまっているような感じがしていた。

 それでも、話を合わせるために思考を巡らせる。それと同時に、この怪しい冒険者が何かボロをこれ以上出さないかと警戒を続けている。

 その証拠に、ランヴィムのポケットの中で緊急招集用のアラームを起動させるスイッチは既に手の中に握られていた。


 「つまり、その胞子嚢こそ我々が言うところのグワナデルの百足。とでも言いたいのですかな?」


 ランヴィム個人としては今すぐにアラームを押したい衝動に駆られていたものの、もし目の前の男がいうことが真実であった場合、この街のギルド長として立ち回らないといけない場面に立たされることになる。

 嘘と断じるには、眼前の男の言葉には何処か信憑性を感じさせるものがあったからだ。


 ライオネルは続ける。


 「そう、そして成長した胞子嚢が肺を突き破り他の対象…新たな寄生先を求めて彷徨い始める。そうしてあいつらは子孫を増やしていく」


 そうして、夏ごろの写真をとんとん、と指で叩きながら言葉を続ける。


 「ここで問題だ。とどのつまり百足を殺したということは、胞子嚢がばらまかれている可能性が高い。なぜなら相手に自分を吸い込ませればいいのであるのなら、胞子嚢の役割は簡単だ」


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 そういって、ライオネルは席を立つ。

 

 「どこへ行くのだね?」とランヴィムが尋ねる。


 その問いに、ライオネル・ステンバーこと、オーレリウス・ベルベッドはこう返した。

 「菌床を探しに行くのさ」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ランヴィムはライオネルと少女がいなくなった部屋の静寂に身をゆだね、大きくため息をついた。


 ずいぶん荒唐無稽なことを言いだしてくれたものだ。と。

 だが、奴が最後に言った言葉を思い返していた時、ふと気になったことが脳裏をかすめた。

 昨年夏、グワナデルの百足が討伐された日。

 確かあそこにいたのは、フューゲル洞窟の採掘を行っていた採掘員たちである。

 ランヴィムは席を立ち、あるリストを手に取る。


 そこにはこう書かれていた。


 「行方不明者名簿」と。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 オーレリウスは少女をつれ、街を歩いていた。

 その手に引かれた少女は、ただオーレリウスを見つめていた。

 

 やややって、言葉を発する。

 「どこに、行くの?」

 

 オーレリウスはその問いにこう答える。

 「お前の依頼を、果しに行くのさ」と。



 アリアドネル家の屋敷はこの街の小高い丘の上に佇んでいた。

 白い外壁が街を照らす夕日によって薄橙色の輝きを放つその出で立ちはある種の荘厳さを醸しだしている。

 

 正門は荘厳な装飾を施された金属製の扉であり、当たり前のように施錠されている。


 ⦅早速のお出迎えだな⦆

 頭の中でそうオーレリウスへ語りかけるストルムの言葉に、オーレリウスはこう返す。


 (スリーノックで開け胡麻(オープンセサミ)は期待してないさ)


 バッグの奥より赫四眼(フォーレッドアイズ)髑髏面(ブラックデス)を取り出し、おもむろに被る。


 少女の目の前でオーレリウスは魔法を唱える。

 そのまま、大地を蹴り上げ正門を飛び越えた。


 レンガ造りの道沿いに、屋敷の入り口が存在する。周囲に従者らしきものたちの姿はない。

 ⦅やけに静かだな。葬式か?⦆

 (一周忌って奴だろうさ)


 そう頭の中で語らいながらずんずんと屋敷の奥へと踏み込んでいく。

 ドアの前で、ダンダリアンを抜き体を寄せる。

 取っ手を握り、静かに回すと


 カチャリ


 という音を立て、ドアが開く。


 僅かにドアを開け、その直後オーレリウスは後ろへ飛びきざまにドアを蹴り飛ばす。

 けたたましい轟音を立ててドアが開かれたものの、罠の類はなくただ虚しく反動でドアが鈍い音を立てて戻っていくだけであった。


 オーレリウスは再びドアを開け、屋敷へと足を踏み込んでいく。

 

 屋敷はロビーを中心に中央に階段。

 左右に幾つかのドアが存在し、階段の両脇にも一つづつドアが存在する。

 典型的な、よくある館の建築方式…だとオーレリウスは思った。


 左手に構えたダンダリアンの銃口を落とさずに、ドアを開けながら調査を始める。

 厨房、トイレ、談話室、食堂etc

 1階はそういう目的の場所なのだろうか、ありきたりな設備と、ありきたりな調度品が並べられているだけの、よく見慣れた空間が広がっていた。

 だが、それらの品々にはうっすらと埃が被っている。


 オーレリウスは2階へと上がっていく。


 寝室、来賓用の客室が広がる中で、執務室を見つけることができた、

 家主の仕事ぶりを誇るように、無数の本が棚の中に敷き詰められていた。だがそれの多くが埃をかぶっていしまっている。

 オーレリウスは本の目次を見やりながら、ある本を引き抜く。

 木製のテーブルの上にそれを置き、ページをめくっていく。


 それは、フューゲル洞窟の採掘記録であった。

 オーレリウスはそれを読み進め、そして答えに至る。



 アリアドネル家の、真実に。

 


 ⦅おいおい、こりゃぁ…⦆


 (大当たりだ。クソッタレ)


 その記録の中に記された内容は、以下のようなものであった。

 

 生産

 マナ・クリスタル379kg


 消費

 日雇い労働者5名


 このような記録がちらほらと散見されている。


 フューゲル洞窟はマナ・クリスタルの産地などではなかった。あれはただの洞窟だ。

 あえて意味を付けるというのならば、人の命を喰って金を生み出す、命の換金所であったのだ。


 帝国崩壊前ならいざ知らず、今の世の中鉱山事故は思ったよりも多く起こる。

 環境、ツール、人員。

 それらは帝国崩壊と同時に大きくグレードダウンしていると聞く。


 逆にいえば、一人や二人死のうともそれは日常茶飯事なのだ。


 洞窟奥にひしめいていた屍喰家や大型の虚無の怪物の存在していた意味がここに記されていたのだ。

 


 そうなると、あの娘は…。


 オーレリウスはそれの答えを出そうとした時、耳がそれを感じ脳へと知らせる。

 僅かに床のきしむ音、決まった歩調で歩くもの。

 

 オーレリウスは本を閉じ、テーブルの上に置く。

 そしてダンダリアンをハーフ・コックし「隠滅(インヴィジブル)」の魔法刻印を起動させたうえで撃鉄を引き切り、それを待つ。


 それは、老齢の男性であった。

 その男性が次に見た光景は、眼前を迸る閃光と自らより迸る赤色の光景であった。


 頭は弾け跳び、手すりへとその体が叩きつけられる。

 痙攣するようにその躰がうごめくのを見やりながら、髑髏面は夕日よりも赤い瞳をその男へとむけていた。

 

 オーレリウスはそれへと話しかけた。


 「いつまで隠れているつもりだ?次は(マイホーム)を撃つぞ」と。


 男の体に変化が起こったのはそのときだ。まるで何かが肺から這い出てくるように体を弓なりにしならせたかと思うと、それは赤い液体に包まれて肺より現れた。

 生まれた時の赤子のように赤く染まったその百足の怪物は、オーレリウスを見やる。

 そして、声を発する。


 「我々に、何用だ。竜の契約者(アグリメント)」と。


 さも当然の反応とでもいうかのようにオーレリウスはそれへと無機質に返す。

 「仕事だ。グワナデルの百足」と。


 グワナデルの百足はその言葉に不快感を示すようにぎちぎちと体をくねらせなる。

 「去年も、我々はお前から同じことを聞いたな」

 

 「端末の一つを潰されたくらいで騒ぐな。どうせこの街中にまだいるんだろ?」


 「それが我々の生き方だ。死にゆくお前達とは異なる」


 何故、オーレリウスはそれを知っていたのか。グワナデルの百足は菌糸生命体だという答えを知っていたのか。

 それがこれだ。あっけない話だ。

 

 グワナデルの百足は帝国崩壊以前よりオーレリウスたち契約者に何度も端末を潰されてきたのだ。

 だがそれでも彼らは生きのこった。生き残り、繁殖することに特化した故に。

 一代限りの強者たちの死を乗り越えて、生き残ったのだ。


 「そうかよ。フューゲル洞窟はお前らにとって繁殖場にもってこいってわけか」


 「お前に、いう理由はない。我々はそういう結論に至った」


 そういうと、グワナデルの百足はしゅるる、胞子を含んだと息を吐く。

 この屋敷の中にはおそらく、胞子が充満している事だろう。そう考えたオーレリウスはマスクをつけた状態でここへと乗り込んできたのだ。

 その結果、オーレリウスは何の変化もなくその場にいるだけだ。


 「やはりその仮面か?それとも契約した対象の格の違いという奴だろうか」


 「さぁな。多分どっちもだ」


 僅かな静寂。先に口を開いたのはグワナデルの百足であった。


 「お前はきっと、それに気が付いてしまったのだろう?ならば我々は取引がしたい」

 その問いに、オーレリウスは表情を変えない。最もそれは、赤い四つ眼の髑髏面を着けているからなのだが。


 「奇遇だな。俺もちょうど取引を持ちかけようとしたところだ」


 そうしていくつかの会話がなされた。


 「なるほど、それなら問題はない。フューゲル洞窟にて落ち合おう」

 

 そういうグワナデルの百足に対し、オーレリウスはこう返す。

 「そうか、なら向こうでな」


 刹那、ダンダリアンより放たれた閃光とともに飛び出した50口径の獣がグワナデルの百足を食いちぎった。



 つまり、話を纏めるとこうなる。


 グワナデルの百足はかねてより、この街へと「寄生」していたのだ。

 アリアドネル家という名前をもって、深く浸透していった。

 フューゲル洞窟というのは彼らの地っていい場所だった。

 労働者の中から良いものは自分たちの住処とする一方で、不要なものたちは殺すことで虚無の怪物たちによってマナ・プールへと変換する。

 そのマナ・プールより生じるマナ・クリスタルを販売することでより多くの人間をこの街へと呼び込むことができる。

 そのループを繰り返すさまははたから見れば零細貴族のギリギリのやりくりに見えるのだろうが、グワナデルの百足にとっては大事なのは人であり、金ではない。

 そうやって奴らはこの街で繁栄していったということなのだろう。

 

 ⦅で、どうするんだ?オーレリウス。お前ももう知らぬふりは出来ねぇぞ⦆


 (分かってる)


そういうと、ダンダリアンを少しの間じっと眺める。

まるで何かの儀式のように、その後何事もないようにダンダリアンをホルスターへと納め、屋敷を後にするのだった。

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