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defeated dragon rider -ある敗残兵の物語-  作者: 気分屋カラス
この世界を巡る、マナというもの
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この世界を巡る、マナというもの⑥

 渦巻く竜巻の中、荒れ狂う雪と雷の姿はまさに嵐のごとく飛竜兵(ヴィヴィアーナ)たちへと牙をむく。

 その中には、ストルムとオーレリウスもまたいた。


 ストルムの姿を確認した飛竜兵の一人が声を上げる。

 その声を皮切りに彼女たちは再び陣形を整える。

 「対雷障壁を構築する!あなたはあの飛竜を逃がさないで!」


 そう陣頭指揮を執る少女と、燐光文字(ドラゴニック・ワード)を編み上げ嵐の中領域を再調整していく。

 指示のない少女は何を言われるわけでもなく、増幅された周囲の雪を用いて氷柱を形成する。

 それを弾幕のようにストルムへと投射していく。

 逆巻く嵐の風と巻き上げられた雪より氷の壁を生み出し、それを防いでく。


 飛竜兵たちは竜巻の中央、その中で陣形を即座に安定させストルムを狙う。

 そんな彼女たちを見て、ストルムは思うのだ。


 それじゃぁ、だめだ。と。


 彼女たちの中でどれだけの者が、本物の竜魔法(ドラゴニック)使いと相対したのだろうか。

 竜に乗った契約者はそれなりの倒しているかもしれないが。

 

 それじゃあ、ダメなのだ。


 領域魔法が持つ、「対象の性質」ではダメなのだ。


 「対象の本質(マナ)」を見抜けなければ、本物の竜魔法使いは捉えられない。



 その闇の奥で、ほんのりと光る3つのマナを赫四眼(フォーアイズ)()髑髏面(ブラックデス)が捉える。

 ふと下を見れば永遠の漆黒が広がるその世界で、オーレリウスは捕らえた。


 ぐるりと世界がひっくり返る感覚の中で、左腕を大きく振りかぶる。


 -解離(バック・アラウンド)


 異化したその剛腕が、

 飛竜兵の頭部めがけダンダリアンの銃床が、

 乱暴に打ち据える。


 今度は少女の意識がぐるりと裏返る。

 一瞬で黒く染まった意識の中で青のエメ(ブルースキン)ラルド種(ワイヴァーン)から吹き飛ばされる光景を見た。


 

 オーレリウスは青のエメラルド種の背に立ちダンダリアンを構える。しかし迷いなく迫りくる氷と風の弾丸により阻まれる。

 背を飛び降り、嵐の中に消えていく。


 弾痕と氷柱にその背を染め上げ、青のエメラルド種が一匹死にゆく中で髑髏面は残りの飛竜兵たちを見やる。

 4枚の赤いレンズが、獲物を見定めるように鈍く光っているように少女たちは感じた。

 

 逆巻く竜巻の中を、オーレリウスはストルムの背に跨る。

 そして、燐光文字を編み上げる。


 嵐が晴れた。

 離散し、風の檻から放たれた飛竜兵たちは即座に周囲を警戒する。


 「…‼7時方向!」


 飛竜兵の一人がそう叫んだ瞬間、周囲を纏う領域ごと炎に包まれる。

 -招炎(サモン・フレイム)-を放つオーレリウスを背に乗せ、ストルムは迫る。

 その身を加速させ、火の玉と化したそれへと肉薄する。

 ぐるりとその場で回転したかと思うと、まるでスイカを割るかのように領域へ炎ごと真上からその尾を叩き込む。

 その中から背骨が明らかに曲がってはいけない方向に曲げられた、哀れな青のエメラルド種が崩れ落ちていく。

 

 最後の一人となった飛竜兵はその隙を逃さず、杖を構える。だがその戦意も50口径FM(フル・メタル)弾の放つ凶獣の雄叫びが響く中で鈍い衝撃を訴える肩、粉砕された杖と共に折られてしまう。


 遠くへと飛び行くその黒い背を、呆然自失の飛竜兵はただ眺めている事しかできなかった。

 青のエメラルド種より撃ち落とされ、僅かな浮遊感を覚えながら眺めている事しかできなかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その日は、飛び続けた。

 夜が迫るまで、飛び続けた。

 朝が来るなと、飛び続けた。

 朝日など来るな、この頭上に月があり続けることを願い続けた。


 そして、無慈悲な朝が来た時。

 オーレリウスとストルムは追っ手を完全にまくことができたのだ。


 ストルムは、その口を開き客人を吐き出す。


 ごろりと大地を転がる少女は恐怖でぶるぶると震え、さながら小動物のそれをオーレリウスに想起された。


 そのオーレリウスもまた、限界であった。

 ストルムも、疲れていた。


 少女の無事を確認したオーレリウスは、その場で髑髏面を脱ぎ。朝の清らかな空気をたっぷりとその肺胞へと、取り込んだ後。


 盛大に、黒い粘液を吐き出すのだった。


 オーレリウスの吐き出すこれは、穢れである。

 マナは使用すると劣化を起こす。劣化したマナより発生したものが穢れと呼ばれている。またその穢れは霧状の形をとると、瘴気と呼ばれるものになる。


 穢れが体内に蓄積されていくと自身のマナの保有量や出力に影響を及ぼしていく。

 故に契約者や魔法をその身で扱うものは時折穢れを体外に排出するのだが、その蓄積量が急激に増加したり総量が多かったりすると上の口から出す羽目になる。

 屍喰家以降の戦いの中で積み上げられた穢れはオーレリウスに実に1分半もの間嘔吐を継続させた。


 文字通りひとしきり吐き出したのち、ふらふらとストルム傍らによりかかる。


 『すっきりしたか?』

 「体の中の臓器をあらかた出し尽くした気分だ」


 そのまま、オーレリウスはじわじわと襲い掛かる疲労感に苛まれながら意識が遠のいていく。


 「すこし、寝る。10分経ったら起こしてくれ」

 

 そうして、オーレリウスは眠りについたのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ボレッドは、メルカッタ平野北西部に存在する(セブンス・)(ドミネーター・)連合(コネクション)の主要都市「ポスト・グリエラ」への道中に存在する都市である。

 旅装に着替えたオーレリウスは例の少女の手を引き、この街のギルドへ足を進めていた。


 ギルドへ赴いた理由は2つ。

 一つは路銀を得るため。

 もう一つはこの少女を引き取ってくれる施設を探すことであった。


 オーレリウスはただでさえこの世界そのものから追われている身だ。文字通り()()を増やすことには限界がある。


 仮に貧民街の孤児院だった場合、そこは奴隷売買の窓口みたいなものだが気にすることもない。


 死ぬ理由がないだけで、死ぬつもりはないのだ。まずは我が身である。


 ギルドの門をくぐると、そこには無骨な服装に身を包んだ者たちがそれぞれの縄張りを主張するようにつるみ、飲食と接客を楽しんでいた。

 

 ポスト・グリエラの道中にある町ということもありかなり設備が整っている。

 木製を基調とした店内にはところどころ機械仕掛けの設置物があり、機人(ギアテック)のウェイトレスがドリンクを進めてくるがそれをオーレリウスは断る。

 機械の体故、非常に整った顔と体を持つそれは少女にもドリンクを勧めるが、それをオーレリウスが断ると不服そうではあったが、次の瞬間には少女は施設中央を優雅に踊る3匹のハゴロモマトイウオの映像に目を奪われた。

 投影機により映された映像の魚たちはまるで生きているかのように店内を泳いでいた。


 カウンター席へと座り、設置されたタブレットをペンで操作する。

 現在ギルドへ登録されている内、この街近辺で発布されている依頼の一覧がタブレットへ流れていく。

 オーレリウスはその中でも脅威度がなるべく少なく、かつその割には実入りにいい仕事はないか、他の仕事と併用できる仕事はないかを探してみた。


 隣で筋肉質の男が煙草をふかしている。手に持った通信機越しに仲間内でいい仕事がないか相談しているところであろうか。

 そう思いながら頬杖をつき、だらだらとペンを下から上に流し続ける作業を繰り返したが、めぼしい仕事はなかった。


 ギルドの仕事はその「脅威度」によって分けられており、脅威度が高いほど実入りはよくなる。当然オーレリウスが「おひとり様(ワンサイドマン)」でこなせるような仕事では、その日の飯と宿代を稼ぐので精一杯であろう。何ならストルムの食い扶持ともなれば全然足りない。

 というよりも、七大連合のおひざ元ともいえる都市ではそのような仕事は基本的に機械によって代替されてしまうためそもそも需要がないのだ。

 時期も悪く、冬期では基本既に籠りの準備を終えている都市が多いため周辺都市との戦争や第3種殲滅目標クラス以上の禍つ獣が暴れたりしなけば基本的にそのような依頼が出ることはない。

 検索範囲を広げ、多少遠方でもいい仕事はないかと探していると、少女がオーレリウスの服の裾をくいくい、と引っ張る。

 最初は無視していたが、いよいよしつこいのでペンをタブレットに収納し少女が示す方向を見ると、投影機の映像が先ほどのコロモマトイウオから、いかにも胡散臭い背広姿の男が現れていた。

 「なんだよ、トレンディ・ハンティングじゃねぇか。それがどうしたんだよ」

 

 投影機に移された背広姿の男はまるでかみつぶしたガムのように手足を伸縮させながら手に持つマイクで喋り始めた。

 トレンディ・ハンティングは、その日ギルドより発表された依頼の中で特にセンセーショナルな内容を発信する広報番組である。最もオーレリウスにとっては基本縁のない話なのでこれまで無視していた。


 「ウェールカーム!アーーーンド、ワッチ、ミーー!。トレンディ・ハンティングのお時間だ!今日もいい狩りを楽しんでいるかい?冒険者諸君!早速だが、吉報だ。まずは一つ!昨年夏に討伐された第2種殲滅目標、「グワナデルの百足」を覚えてるかぁい?

 なんと!そいつの存在が再確認されたようなんだ。ワァァァッツ!?アンデットにでもなっちまったんだろうかねぇ?ギルドは先行調査メンバーを送り込んだみたいなんだが、全員揃いもそろって行方不明ときたもんだ。なので真偽は不明。焦った我らが上司は誰かにケツを拭いてもらいてぇみたいなんだ。依頼内容は調査隊の発見。可能なら救出を頼みたいようだぜ?これだけでも50万クォーツはくれるってよ!さらにさらに、「グワナデルの百足」を発見した場合は報酬の上乗せ、もしももしも?世のためにこいつをぶっ殺した奴らにはドドーン!」

 そういって手を広げた男へと大量のクォーツ貨が降り注ぐ。


 「直々に値段交渉へ応じるってもんだ。ギルドもマジになってるってワケ。受注可能な冒険者はランク4、シルバー等級以上なら誰でも受けれるぜ。まぁ?あの世へ相乗りしたくなければ慎重に考えるこったね!」


 その説明を心底阿保らしそうに聴いているオーレリウス。


 この世界の冒険者には、実力に応じ等級が設けられている。

 ペーパー

 ブロンズ

 アイアン

 シルバー

 ゴールド

 クリスタル


 この6等級(ランク)で区分けされている。当然オーレリウスの所持等級はペーパーなので受ける受けない以前に、受けれない。そしてそもそも、受ける気もない。


 そんなことも知らないのかと思ったが、この年齢であれば知らなくても当然ではあろうか。

 そう思っていたオーレリウスの耳に、現実が叩き込まれた。


 「そしてもう一つの目玉!こいつぁすげぇぞぉ?なんたって契約者(アグリメント)の情報だ!」


 周囲が沸き立つ。オーレリウスと事情を知らなそうな少女を除いて。


 「なんとつい先日。瘴気地帯と化して万年吹雪いていた「フューゲル洞窟」より影の勢力をぶっつぶしたうえ、あの喧しい雌鶏こと飛竜兵3名を叩きのめして逃走した契約者がいるってんだぜ?なんともクールな野郎だ!スクールが発表した情報によると、そいつは特徴的な髑髏面を被りぃ、メロウの黒真珠種と契約していると思われている!それを受け、ギルドは七大連合条約に基づき第一種殲滅目標討伐令を発表!ぶっ殺した奴には土地の割譲と支配権、おまけで1億クォーツさえくれてやるっていう超VIP待遇ときたもんだ。Woooooow!冬場は酒だけ飲んでるクソ親父も、一国一城の主になれる値千金の大チャンス!これはやるっきゃないんじゃなぁい?なんたって情報提供だけでもその信憑性に基づいて報酬を貰えるんだからなぁ」


 第一種殲滅目標に等級指定はない。なんならその辺の一般人でもいいのだ。

 この世界に住むもの、存在するありとあらゆるものを用いて討伐せしめんとする。

 それだけ、これに指定される対象は危険視されている。


 「どんな雑魚でも?契約者である以上第一種殲滅目標になっちまうってんだからこの世の無常を感じちまうところだが、今回ばかりは細心の注意を払ったほうがいいなぁ?なんたってこいつは嵐を巻き起こせるほどの実力者らしい。そもそも、影の勢力を蹴散らした流れで飛竜兵も相手どれるんだからかーなーりー手強い。なんならこの髑髏面野郎、過去にも何度も目撃されたがその度姿をくらまし音沙汰なしの尻切れトンボになってた奴と同じらしい。尻尾を掴もうとして首から上を食いちぎられないようにしとけよ!ギルドはこの契約者に関する情報窓口を開放している!嘘偽りのない情報をお待ちしてるってよ!」


 男の背後に、オーレリウスのの姿が映し出される。


 「皆こいつのことを覚えたかい?それじゃぁ今日のトレンディ・ハンティングはここまでだ。グッドライフ!アーーーンド、グゥゥッドハンティィング!」


 そういって、投影機に移された男は手を振って霧散する。

 後には再びハゴロモマトイウオが優雅に、何事もなかったかのようにギルドを泳ぎ始めていた。

 

 「やれやれだ」


 オーレリウスは酒でも飲みたくなったが、空っぽの金貨袋を思い出し辟易とするのであった。

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