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defeated dragon rider -ある敗残兵の物語-  作者: 気分屋カラス
この世界を巡る、マナというもの
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この世界を巡る、マナというもの⑤

 ストルムは大地より振動を感知すると、即座にその場所へと降り立った。


 そして自身のマナを持って魔法を行使し、大地へマナの波を吹き込み大地を揺らす第2階位魔法。-蝕地(クェイキング)轟土(・グランド)-を発動させる。


 本来であれば、ここに他属性を注ぎ込むことで周囲一帯を攻撃することも可能な魔法であるが、純粋に地面を破壊するのならこれだけで充分である。


 崩落した洞窟の真下には無数の影の勢力に属する敵性生物たちがひしめき合い、蠢いていた。

 吹雪の中、僅かな光が闇へと差し込む。

 崩れた岩盤の合間を縫いながら、オーレリウスは少女の手を引き再び落下していく。

 岩の下敷きになったところで元々粘性生物である彼らにとってさしたる弊害ではない。

 だがそんなこと、オーレリウスとてわからないわけではない。

 共に落ち行く岩を蹴り、レイジ・オブ・ハートを構える。

 眼前に迫る瘴気の奥で、オーレリウスはそれを見つけた。


 オーレリウスは引き金を引いたまま、フォアエンドを2回素早くスライドさせる。


 銃には、スラムファイアと呼ばれる事故がある。


 本来は撃針の不備などにより薬室内へ送り込まれた弾丸がトリガーを引き切る前に勝手に発射され、場合によっては怪我につながりかねないのだが。

 オーレリウスは迎撃形態に対してのみ、これを防ぐ装置を意図的に外しており

 引き金を引き切ったままフォアエンドをスライドさせることでスラムファイアを発生させることがある。

 その結果、瞬間的に発射された12ケージIS(アイス・スパイク)弾はその一帯にいる屍喰家(デッド・イーター)たちへと突き刺さっていく。

 氷の針が屍喰家たちを凍らせていく。だが適正距離より大きく外れた距離から撃っているため氷結させるには程遠い。

 オーレリウスはそれを待っていた。

 ほんの一部でもいい。凍った体を持つ対象がいればいい。

 氷の針が、そこにあればいい。

 マナ・プールの近くにいる対象が僅かでも氷結してくれればよかった。

 屍喰家がひしめくその下でマナ・プールはまだ存在していた。

 偏混沌マナクリスタルとなったものはあくまで飛沫として打ち上げられたもののみである。

 マナはマナ・プールのように密度が高い状態である間は「無属性」を維持し続ける特徴を持つ。それゆえに眼下で屍喰家たちがひしめき合いその身がどっぷりとマナ・プールに浸かってもなおマナ・プール自体に影響がないのはそれが理由である。

 オーレリウスは構える。

 今度ばかりは、祈らずにいられなかった。

 落下していく中、背後より迫る大岩が自身に陰を作る刹那の中で

 引き金を、絞る。

 スラッグQB(クェイク・ブラスト)弾がほんのわずかな、屍喰家たちがひしめくその隙間をかいくぐり、マナ・プールへと到達した際、そのマナ・プールは飛沫を上げて霧散する。

 そのいくつかのマナ・プールが屍喰家たちに降り注ぐ。

 氷結した部位に、マナ・プールが触れた際、それは起こった。

 オーレリウスめがけ、まるで迫りくるように氷の柱が形成されていく。

 凍った部位や12ケージIS弾によって発生した氷の針に触れたマナ・プールが密度を失い、クリスタル化する際に偏氷マナクリスタルを作り上げる。

 それがさらにマナ・プールの飛沫を僅かに受けて発生。

 これが無数に、無尽蔵に発生していったのだ。

 当然、オーレリウスめがけ飛沫が迫りくるが、その瞬間、ストルムはオーレリウスの眼前に迫り、その身体で飛沫からオーレリウスを守り、迫る氷の柱を背に降り注ぐ岩を避けながら上昇していく。


 それが天をも貫かんとする巨大な氷柱となった時、中には洞窟中に生息していた屍喰家たちがせりあがる形で閉じ込められていた。

 その中には、あの怪物も。


 オーレリウスはグリップを格納し、レイジ・オブ・ハートを狙撃形態にする。

 怪物へとゆっくり構える。


 そして、捉える。


 撃鉄を引いたレイジ・オブ・ハートから発射された最後の一撃は氷柱を貫通し、怪物のコアを撃ち抜いた。


 -感応(マナ・センシング)-を発するストルムはその怪物がマナを発しなくなり、こと切れたことを確認すると、ホバリングを止めて飛び立つ。

 背後より迫る飛竜兵たちに背を向けるように、その場を後にするのだった。

 吹雪は、既に止んでいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 飛竜兵(ヴィヴィアーナ)たちは、その現場に驚きを隠せなかった。

 現場に急行したと思えば、洞窟が落盤し、そのうえ偏氷マナクリスタルと偏混沌マナクリスタルが混合されてた氷柱がせりあがる。

 その中にはフルーツアイスキャンディのようにぎっしりと屍喰家が詰まっている。

 なんなら今まさにゆっくりと溶けたアイスから果実がのぞくように這い出る屍喰家。


 遠くに、黒い影が見えた。

 忌まわしき契約者(アグリメント)が見えた。

 だが、眼前のこれを無視することはできない。

 「調査隊より本部へ、発生した氷柱内にいる屍喰家を対処する。なお11時方向距離850m地点に契約者を確認。周辺都市並びに町村へ注意喚起の発布を行ってください」

 部隊の隊長らしき少女がそのように指示を飛ばす。


 そうして指示を受けた3人の飛竜兵が、契約者を追い始めた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 

 『どこまで、計算だった?』

 「なにが?」


 オーレリウスは膝の上で少女がランタンを取ろうと仕方ないので首を横に振って窘めながらストルムへ返答する。


 『俺たちは、ある意味で一つの思考を共有しているようなもんだ。ほとんど一つの血肉であるゆえにな。それでもお互いに隠すことだってあるわけだが』

 そういって、僅かに後ろを気にする。その後に、言葉を続ける。

 『わざわざああやって俺にも伏せてまでやる必要はあったのか?俺はそこまで信用置けないわけじゃねぇだろぅが‥‥‥今回はちょっと心臓が持たなかったぜ』


 その言葉を聞いたオーレリウスは、こう返す。


 「おかしいな。俺の心臓はきりりとも痛まないのだがな」

 『テメェ…やりやがったな!』


 思わず吹き出し、笑うストルム。

 ひとしきり笑った後、相棒へ言葉を返す。

 『次からは勘弁してくれ。今回は俺の負けだよ大馬鹿野郎』


 その言葉を聞いたオーレリウスの表情は、きっと変わっていないだろう。とストルムは考えた。

 だが、その心の内ではこっちのことをほくそ笑んでいる様子であった。


 そして右へ急旋回(バレルロール)し、不可視の弾丸をよける。


 『オーレリウス!』


 無言でオーレリウスはストルムの背に左手を合わせる。


 -同調(マナ・チューニング)

 二つのマナが、一つになる。

 この時、オーレリウスの尽き欠けたマナが再び満たされる。


 その間も、不可視の弾丸。-疾風(エアロ・)旋律(メロディ)射出(ショット)-がストルムめがけ撃ち続けられていく。


 ストルムはホバリングの体勢を取り、眼前に風の弾丸を捉える。

 -感応-にてその不可視の弾丸は、ストルムにははっきりと見えていた。


 -招風(サモン・ウィンド)放出(ブレス)


 ストルムがけたたましい咆哮を上げると、その音の波により発せられた風の刃が弾丸をかき消す。


 そして、ストルムはその姿を見る。

 飛竜兵、その数…3体。


 『青のエメ(ブルースキン・)ラルド種(ワイヴァーン)め…失せろ蛇共が!』


 その叫びは彼らには届くこともなく、飛竜兵たちをびりびりと震わせたものの威嚇以上の意味を持たなかった。


 『あのノータリンどもめ!』


 ストルムは悪態をつくと、急降下し、再び先ほどの進路をとる。

 飛竜兵たちもまた急降下し、ストルムの背後をとる。

 眼前に広がる白と緑の混じった草原が、まるで早巻きのフィルムを見るかのようにその景色を変化させていく。

 オーレリウスは右手でしっかりと少女を抱きとめると、左手でダンダリアンをホルスターから抜く。

 中には、1発の弾丸が込められている。だが、その1発が問題であった。


 「さて相棒、またトラブルだ。今こいつの中にはFM(フル・メタル)弾が1発だけ入ってる」

 『トラブルの女神さまにキスでもしたか?お前といると退屈しねぇよ!』

 今度は左へ急旋回すると、オーレリウスの躰も大きく揺さぶられる。その頬を何かが掠めていった。

 

 竜をはじめとした飛行を行う者たち同士の間で行われる戦いの基本戦術は、「いかに相手の背後をとるか」である。現に竜種と契約を果し、強大な魔法の力を扱う契約者たちがどうして飛竜兵たちに圧されているのかというと、その数と戦術的不利な面が存在するからである。

 ストルムの体格に対し、青のエメラルド種はかなり小型の飛竜である。そのため非常に小回りが利き、背後をとられやすいのだ。また必ず3人以上で戦うよう訓練された飛竜兵の少女たちが扱う領域魔法(マナ・リージョン)はそれぞれが触れている場合その効果と範囲を増幅させる特性を持つ。それゆえに青のエメラルド種が持つ耐久性の少なさをカバーしつつ、素早く竜種の背後に回り込むことで戦術的有利を保つことができる。

 あとは純粋な魔法の撃ち合いになる。その点でも3方向から迫る魔法をいなし続け、()()()()ともなれば生半可な物理・魔法による攻撃も阻まれる彼女たちを迎撃することは経験を積んだ竜種や契約者であっても容易なことではなく、結果として彼女たち飛竜兵に契約者が敗北し続けているのである。

 そんな飛竜兵相手に、オーレリウスたちは1発の弾丸と魔法で挑まなければならないのだ。

 先ほどからもわかるように、彼女たちは常に背後をとりながら必要以上の接近はしてこない。

 竜種そのものが持つ膂力を侮ってはいないためである。

 その戦術をとられることはある種、ストルムへの敬意のようにも感じる。


 だが、敬意を払われたところで殺されることに変わりはない。

 それならば、最後まで足掻くことが返礼となるだろう。


 ストルムの視界には、白と緑の空間が広がっている。

 足を伸ばせば、大地を雪ごと抉ることができそうなほどに接近していく。

 

 それでも、背後より迫る飛竜兵たちが未だ離れる様子はない。

 ストルムの背後を、ぴったりと着けている。

 迫りくる魔法の弾丸をその背に浴びせ続ける。

 

 『相棒、俺のケツが魅力的すぎて離れてくれねぇなぁ』

 「そうか?ケツの臭いのせいで近づいてくれてねぇように見えるが」


 おおよそ少女に聞かせるような会話ではないが、この状況の中でも彼らは冗談が言える程度には修羅場はくぐっていない。


 『ハッ!ならもっとよく見せてやろうじゃねぇか』

 「折角だからダンスへ誘っちまえよ、相棒」


 『スゥィングの効いたアップテンポな曲を頼むぜ!』


 その言葉とともに、オーレリウスは少女を宙高く投げ飛ばす。


 何が何やらわからないという様子の少女の眼前に、竜の顔が迫る。

 恐怖に震えた少女が次に見た光景は、竜の口の中であった。

 バクン、という音が聞こえてきそうなほど、ぱっくりと少女はストルムの口の中へと至った。

 「飲み込むなよ!」

 オーレリウスは周囲に燐光文字(ドラゴニック・ワード)を放つ。

 背後で激しさを増す飛竜兵の弾丸をストルムが避けると、まるで機関銃を雪上に撃ち込んだように白い柱が無数に上がる。

 

 -招風(サモン・ウィンド)付呪(エンチャント)


 燐光文字が緑色に光ると、ストルムの翼へと宿る。

 まるで疾風のごとく速度を増すストルムに追いつかんと、飛竜兵たちが同じように風の翼を青のエメラルド種に纏わせ、追いつこうとする。


 だが、少しづつ離されていく。


 契約者と飛竜兵、双方ともに魔法を扱うことができるがその決定的な差異として挙げられるのは

 魔法出力の、圧倒的な差である。

 契約者と飛竜兵が同じ魔法を使う場合、飛竜兵は何度か魔法を重複発動しなければ追いすがることはできない。

 その分、コントロールが難しくなる。

 

 オーレリウスはもう一度、-招風:符呪-を発動する。

 

 その距離をぐんぐんと引き離されていく。

 飛竜兵たちが杖のカートリッジを交換し再び追いすがろうと重複発動を行う。

 そのたびに彼女たちへと降りかかる重力と空気抵抗を軽減するために領域を調整しながら、重複発動した魔法の保持・コントロールを行い続ける必要がある。


 このまま、逃がすわけにはいかない。

 飛竜兵たちがじわじわとその距離を詰めていく。

 杖を前に構え、ストルムめがけ放つ魔法の準備を進める。

 複数の工程をこなしながらのためか、その動作は先ほどよりもたどたどしい。

 それでも、その一撃を放つための燐光文字を練り上げていく。


 その時、そう。


 オーレリウスはその時を待っていた。


 -同調-

 

 今再び、2つに別たれたマナを一つに交えていく。


 燐光文字を編み上げ、その魔法を唱える。


 第3階位複合属性魔法。


 オーレリウスは大地めがけ魔法を放つ!


 -轟雷(ライトニング)旋風(・ストーム)


 眼前に、轟雷を纏う竜巻が生み出されていく。

 それは雪を纏い、増幅させる。


 飛竜兵たちが必死に魔法を解除しようとするが、もう遅かった。


 いくら解除しようとも既に生み出された速度を殺しきることができない。

 ()()が、飛竜兵を竜巻の中へと押し込んでいく。


 反撃開始だ。

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