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defeated dragon rider -ある敗残兵の物語-  作者: 気分屋カラス
この世界を巡る、マナというもの
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この世界を巡る、マナというもの④

 『この、大馬鹿野郎おおぉぉ!』


 少女を抱きとめ、大地を踏みしめたオーレリウスの頭の奥でストルムが叫ぶ。


 『自分で考えてたよな!戦闘は可能な限り最低限で、魔法は探知されにくいものを~ってよぉ!それなのに開幕から招雷ってお前二重人格者か何かかよ!』


 「うるせぇな。あれに追いかけられながらガキ一人抱える羽目になってんだぞこっちは。テメェの惰眠が招いたイレギュラーな事態だろ」


 『あぁそうだろうさ、イレギュラーな事態だな。外のマナの動きが巣を崩された蜂みたいに喧しいことになってんぞ』


 「刺されたくなかったら高く跳ぶんだな。雲より高く跳ぶ蜂は聞いたことねぇからな」


 『この吹雪の中そこまで飛べるか!これで死んだらお前末代まで呪ってやる!』


 そうストルムが言うが早いか、吹雪が舞う外の世界へと再び翼を広げ飛び立っていく。

 「安心しな。契約者に末代はいねぇさ」


 オーレリウスの背後で、自壊した屍喰家(デッド・イーター)たちが痙攣しながら動きを取り戻していく。

 そぅ、あくまで()()しただけ。

 いくつもの屍喰家たちが合わさったものが、それぞれ個別の存在に戻っただけなのだ。

 少女を再び抱きかかえたオーレリウスは洞窟のより深部へともぐっていく。


 そこは、屍喰家たちの…まさに巣窟と化していた。


 通路のいたるところに、蠢く粘性生物たち。

 もうここまでくれば、この奥に何がいるのかはっきりとしてくる。


 その答えは、割とすぐに邂逅することとなった。


 洞窟の最奥、開けた場所に出た。

 白銀色(クリスタル・シルバー)に煌めき、輝いていた。

 マナ・プールが、そこに点在していた。

 同時に、それは姿を現した。

 人の、上半身を模したようなそれはどろどろとした黒い粘液に覆われていた。


 尖った無数の牙は、円形を形作っておりそれぞれが意思を持つように揺れ動いている。

 目も鼻も、どこにあるかさえ不明なそれは空を舞うオーレリウスをまるで見るかのようにその頭部がこちらを向く。

 「予想通り、影の勢力。その上位個体だな」

 影の勢力の力関係は、シンプルにサイズで判断ができる。

 Sサイズを屍喰家とするのならば

 眼前のこいつはLサイズであるだろうか。

 影そのものは、キングサイズとしてもきっと足りないのだろうが。


 よりサイズが大きいものがより強くなる。ならばこいつはこの洞窟の頂点に立つものであろう。


 周囲のマナ・プールもまたそれを物語っていた。

 マナ・プールは液化するほどに圧縮されたマナが一か所に蓄積された状態を表している。

 気体→固体→液体と密度によって変化するマナにおいて最もその密度が高いとされている状態であり「ある特性」からとても危険なものであるとされている。

 マナ・プールは時間をかけて固体、つまりマナクリスタルへと変化する中で安定性を取り戻していく。

 逆にいえば、何らかの原因で大量のマナを生み出す切っ掛けがここにはあった。ということになる。


 「一体、何人ここで死にやがった」


 それは大抵、大量の死者ないし多くの「マナ」を保有した状態で死亡した個体がそこに生じた場合である。

 人間もまた、体内にマナを保持している。それは成長や老化によって減少していくものの、死ぬ直前まで「マナ」は体の中に残り続ける。

 大勢の人間が死に、「影の勢力」によって穢れを食われた場合、影の勢力によって穢れのないマナが大量に生まれる。それらが影の勢力の体内という場所で蓄積、濃縮されていく過程でマナ・プールとして体外に排出されるのだ。


 つまり、これだけの規模のマナ・プールが生まれたということは相当量の人間ないし生物が老いる前に殺された、もしくは竜のような体内へふんだんにマナを蓄積した生物が死んだ、もしくはその両方という結論を導き出すことができる。


 少なくともテントやあの採掘道具を見るに、人間は相応の人数ここで死んでいる。

 オーレリウスはレイジ・オブ・ハートを構え-付与(メタモライズ)(アナザー・アームズ)-を発動する。両わき腹から生えた黒い腕は少女を抱きしめ、自らの体に固定する。

 レイジ・オブ・ハートを両手で構え、怪物を見やる。

 

 そんな折、ストルムの声が頭を響く


 『で、やるんだな!』

 オーレリウスは心で頷く。

 『死にたがりと契約した我が身を呪うよ。全く』


 そういう言葉を最後に、オーレリウスは怪物へと意識を向ける。

 少女が抱えたランタンはじわじわとオーレリウスの腹に熱を伝えていく。

 

 オーレリウスは翔けた。


 大地スレスレを飛行し、怪物の剛腕を躱す。


 マナ・プールはそれ自体がある種の爆薬である。時間経過を待たなくても触れた属性によって飛沫を上げた場合即座に変化する。

 そのうちここには土属性の偏マナクリスタルが大量に構成されるであろうが、仮にここへ火でも放り込もうものならば即座に大爆発を引き起こす。

 オーレリウスであっても致命傷は避けられないだろう。

 慎重に、素早く


 オーレリウスは怪物の「コア」を探す。

 怪物とは言え、影の勢力である以上コアが存在する。

 それは「影」を除くすべての影の勢力に共通している。


 きっと「影」にもコアはあるのだろうが、コアは身体のサイズに関わらず一定のサイズをしている。

 つまり大型になればなるほど、コアの発見と破壊が困難になってくる。その最たる例が「影」である。時に地域一帯を丸ごと飲みこむ影のコアを探そうとなればその労力は尋常なものではない。


 周囲を飛び回るオーレリウスを疎ましく思ったのか、怪物は乱暴に手を振る回すことを止めた。

 そして今も濁流のように迫りくる屍喰家のうちいくつかをその腕に絡みつかせる。

 それを、オーレリウスめがけ放り投げてきた。

 翼を畳み、急降下することで回避する。

 頭上に蒔き散らかされた屍喰家たちが滴る水滴のようにオーレリウスめがけ落下してくる。

 幾つかがマナ・プールへと落下する。

 滴る水滴が黒い結晶を生み周囲へと突き刺さっていく。

 混沌属性に反応し、偏混沌マナクリスタルへと変化したそれは、周囲へ黒い霧をだんだんと生み出していく。

 瘴気が、満ちていく。


 その霧に触れた途端、オーレリウスの翼が掻き消えるように消滅する。

 瘴気に触れたマナはその活動を停滞させる特性を持つ。それゆえ、マナによって生み出されたオーレリウスの「疑似(イミテート)五体(・ボディ)飛竜(ワイヴァーン)」の翼もまた活動を停滞させたため消えてしまったのだ。

 自由落下の中で瘴気にのまれたオーレリウスは今度は自身の右腕で少女を抱きとめる。

 変異魔法によって生み出した体の追加部位はすべて瘴気によって掻き消えた。

 眼前に迫るマナ・プールをギリギリの所で躱す。


 少女の様子をうかがうオーレリウス。

 恐怖と動悸で痙攣したかのように震えているものの、死んではいない。


 少女を左腕で抱きとめ、レイジ・オブ・ハートを構える。

 

「死ぬ気で俺のことを掴んでろ」

 そう言われた少女は悩んだそぶりを見せたが、ランタンを手放しオーレリウスの服をしっかりと握る。


 両手の自由を確保したオーレリウスは、ランタンを腰ベルトにつなぎ、灯りをともす。

 瘴気の影響で自動で飛ぶことはないが、火が消えることはない。

 

 夜目を失った闇の奥で屍喰家たちが蠢く。

 その先、その奥、その闇の深いところに、あの怪物もいる。


 オーレリウスは、その闇へと飛び込んだ!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 この洞窟より、十数km離れたとある場所に、観測拠点と思わしきテントが張られていた。

 中では慌しく少女たちが計器を睨み、相棒となる飛竜の馬具ならぬ竜具を確認している。

 飛竜兵(ヴィヴィアーナ)は今、要警戒状態となっている。

 魔窟と思わしき場所の報告を受け、調査に赴いていた中、洞窟内部で異様なマナの発揮を領域魔法が捕らえたのだ。


 それは、雷属性のマナである。

 これまでにも時折これまで確認されたいた混沌属性のマナではなく、全く異なるマナの発揮は確認されていた。しかしながら今回確認された高出力の雷属性ともなればはあの内部に竜か、もしくは竜魔法(ドラゴニック)を行使する契約者がいる可能性が高い。

 そうでなくとも、内部のマナの発揮量が大きく増大しているため見守りの時間は終了となったわけである。


 「第1から第8調査隊所属飛竜兵は直ちに騎乗ののち待機。内部探査を行う第9調査隊を同乗させたのち領域魔法同時発動にて接近を開始してください」

 アナウンスが響く中、慌しく準備が進んでいく。


 「内部では瘴気の発生、およびそれらの噴出による「影の勢力」との会敵が予測されます。各自対瘴気用装備を忘れず携行してください」


 少女たちは各々がガスマスクのような装備を顔に装着し「空のエメ(ブルースキン・)ラルド種(ワイヴァーン)」である飛竜へと騎乗していく。


 それらが発するマナの動きを、ストルムは忌々し気に観測していた。

 先ほど発せられた強い「混沌属性」によりオーレリウスたちのマナが観測できなくなっている。

 皮肉にもそれのおかげで飛竜兵側にも契約者だと断定されることはまずないだろう。

 だがそれも時間の問題だ。


 『どうするつもりだ。あのバカは』


 吹雪が舞う空の中で、ストルムはオーレリウスの行動を待った。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 蠢く、屍喰家たちを左手で掻き分けてるように走る。

 周囲に乱立する偏混沌マナクリスタルを蹴り、より深くへとその脚を進めていく。


 ランタンの光が右往左往と揺れ、あちこちをわずかな間だけ照らしていく。


 その合間合間に見えるモノを頼りにオーレリウスは怪物の一撃を躱していく。

 屍喰家たちが偏混沌クリスタルの上にいるオーレリウスめがけ自身の体液をまき散らす。

 それを躱しながら、オーレリウスはそれを探す。

 だが、この暗闇の中ではそう見つかるものでもない。

 

 そうして迫りくる屍喰家たちを避けている中で、ついにオーレリウスはの脚を屍喰家が取り込むように食らう。

 レイジ・オブ・ハートを狙撃形態に変形し、ランタンの明かりの中でそいつの「コア」を撃ち抜く。

 粘度の高い身体を掻き分け、7.62×55mmMC(マナ・コンバーター)RB(・ライフル・バレット)/P(ペネトレイション)弾が屍喰家のコアを直撃する。

 びくりと痙攣したかと思うとオーレリウスの脚はそこから引き抜くことに成功した。


 だがその後すぐにそいつは再び動き出す。

 オーレリウスは舌打ちをする。

 瘴気にまみれたこの中ではストルムとの念話さえ妨害されてしまう。


 少女は目をつむり、オーレリウスの服を掴みながら必死に耐えている。

 だが、その手は既に震えており限界も近い。


 ストルムならきっとこんな時「どうするんだよ馬鹿野郎」と叫びわめくだろう。

 そう考えるとオーレリウスはちょっとだけ、笑えてしまう。


 「どうするもこうするも、最初から決まってんだろうが」


 ()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()


 そろそろ、集まり切ったころだろうか?


 オーレリウスはレイジ・オブ・ハートを迎撃形態に変形させ、ポケットの中に忍ばせていたスラッグQB(クェイク・ブラスト)弾を装填する。


 その時、右より迫る剛腕をその身で受ける。

 

 オーレリウスは吹き飛ばされ、暗い闇の奥で轟音が響き渡る。


 その衝撃で少女が手を放してしまう。

 落ち行く少女が見たものは、岩壁に叩きつけられ動かなくなった髑髏面。

 ランタンの光の奥で、それが

 そうなっている。

 そう思った時だ、闇より出る腕に、少女が掴まれた。


 ぽたぽたと、少女の顔に赤いものが滴っている。

 その周囲にほんのりと青白いなぞの文字が浮かんでいるのを少女は見つける。

 それが燐光文字であるということを、少女は知らない。

 

 「全く、とんだイレギュラーだぜ」


 岩が抉れるほどの威力の一撃を受けてなお、オーレリウスを活かしていたのはそれこそ吹き飛ばされたからである。

 

 怪物の剛腕を浴び、薄れゆく意識の中で瘴気を離れたオーレリウスはとっさに-(ライトニング・)(リアクティブガード)-を発動させることに成功した。

 それで生きている瀬戸際で踏ん張ることができたのだ。それでも一瞬意識を飛ばしてしまったが。

 少女を引き上げると、-治癒加速(リジェネレーション)-にて体を癒す。

 瘴気から抜け出したとしても、身体の治癒に自身のマナをほとんど使い切ってしまった。

 

 「出番だぜ、相棒」


 オーレリウスはレイジ・オブ・ハートを上に掲げ、発射する。


 スラッグQB弾が洞窟上部を振動させる。

 自身のような轟音が起こり、一度静寂が訪れる。


 そして聞こえる。オーレリウスの頭の中を響かせる。


 -蝕地(クェイキング)轟土(・グランド)


相棒の魔法、その一撃を発するマナの強い揺らぎが。


そしてオーレリウスゆっくりと立ち上がる。

レイジ・オブ・ハートのフォアエンドをスライドさせ、排莢。


そして少女へと手を差し伸べる。


少女がその手を取ったのち、洞窟は轟音に包まれた!

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