ネコおばさん(4)
次の日も彼は洗濯場のドアが開いていると、必ず入口に来てはケージに向かって「フッー」と威嚇して、それから私の顔を恨めしそうにじぃっと見つめた後、プイッと顔をそむけてドアの前から小走りで立ち去るの。そして、心を落ち着かせるためにか、お気に入りに窓辺に移動して外を眺めてた……
(何なんだ、アレは。なんで家にアレがいるんだ)
そんな声が聞こえるようだった。
そう、彼がまだ2歳くらいの頃にハーネスを付けて一緒にペットショップに買い物に行ったことがあったんだけど、店の前に保護ネコだと思うんだけどケージに入った子猫が3匹いたのね。近づこうとしたら彼は固まって姿勢を低くして警戒態勢を取ったの。
私はそれを気にせずに彼を抱きかかえてケージの前にしゃがんで「マンセル、かわいいんじゃない」と彼を子猫に近づけたら、彼は「シャァーッ、フッフッ、シャァー」って聞いたことのない声を出して本気で子猫を威嚇したのよ。私、ビックリして「ごめん、マンセル。ごめんね、嫌なのね」って謝って、すぐにその場を離れたの。
臆病なのか、妹以外の猫に免疫が無かったからかはわからないけど、(ああ、この子は猫なのにネコが嫌いなんだ)ということはわかった。
まあ、そのおかげで実家に戻ってからも彼はチャコ様に近づくことも無くお互い平穏に暮らしていたんだけど…
あの時以来の威嚇音を聞いて、彼らを洗濯場から出すことは出来ないと悟った。
でも、子猫はすぐに大きくなる。ずっと洗濯場に閉じ込めておくことは出来ない。
本当は家で飼ってあげたかったけど、行先を見つけなければならなくなったの。
それで友人や知人に片っ端から声をかけてみたんだけど、二匹まとめてだと引き取ってくれる人は、なかなかすぐには見つからなかった。
そんな中で、ご近所に栄口さんって方がいてね、彼女も猫を飼っていて、よく互いの飼い猫の話をする間柄だったんだけど、彼女も私の話を聞いてあっちこっちに声をかけてくれてたみたい。彼女の知人で隣り町に住んでいる人が“見てみたい”って言ってるからセッティングしてもいいかって連絡をくれたの。屋敷さんという人で、一年前まで猫を飼っていて二人の写真を見たら“会いたい”ってなったみたい。わざわざ栄口さんと一緒に家に来てくれたの。前の猫は6歳くらいで友人から譲り受けて、12年一緒に暮らしたと言っていた。一人暮らしなんだけど、何かの時に猫の世話を頼める友人もいるらしく、栄口さん曰く「彼女なら安心!」と。
屋敷さんもシャオとアニさん(大きいほう)を気に入ったみたいで、“二人まとめて世話したいです”と言ってくれた。
二日後、二人は屋敷さんの持って来たキャリアーに入って家を旅立っていった…
20日余りしか家にいなかったけど情が湧いて、二人のいたケージをすぐに解体する気にはならなかった。
(ほっとした安心感よりも寂しさが上回るなんて、自分は保護活動には向いていないな~)
そんなことを静かになった洗濯場でぼぉっとしながら考えていると、マンセルが空になったケージの前にやって来て臭いを嗅いだ後、私の足に顔をこすりつけて“ニ゛ャ”って鳴いてくれた。
彼は私が落ち込んでいたり元気がなかったりすると、いつもそばに居てくれる子だった。
“うん、大丈夫。今までゴメンね。ほんとにゴメンね。ありがとねマンセル”
私は20日分の謝罪と愛情を込めて、彼がもういいっていうまで撫で続けた。
彼は1歳ちょっとで尿路結石という病気を発症して、アレルギーもあって、ずっと療法食しか食べられない子でいつも心配ばかりしていたけど、20歳まで生きてくれた。猫は嫌いだったけど、優しい子だった……
(その後はもう家でネコは飼ってないんですか)
(ううん…)
チャコ様が眠る少し前くらいに、家にちょくちょく遊びに来る子がいて、私がいると近寄って来るからその都度チャコ様のフードをあげてたのね。人慣れしてたから飼い猫ぽかったんだけど…
最初は週に1・2度、だんだん頻度が高くなって、チャコ様が逝ってしまった後はほぼ毎日来るようになって、私にエサをねだるようになったの。そして在る日を境に一日中縁側に居るから“家の子になる”って聞いたら、家に中に入って来た。
その子が今最古参で、同じような子がもう一人と近所で保護した子とあの栄口さんに頼まれた子、そしてマンセルが逝ってものすごく落ち込んでいた時にまた、ペットショップで売れ残っていてた子を連れて帰ってきたのね。今は全員で5匹いる。
彼らはチャコ様やマンセルと違ってそれなりにいい距離感で暮らしている。
本当はもっと助けたいんだけど、夫に“もう、これ以上増やさないでくれ”と懇願されたのね。それでC・C・Cのことを考え始めたの。
この後は譲渡会編を入れる予定でしたが、下調べがうまくいっていないのでいずれ改訂版で挿入します。
次回からまた吉原ナオを中心とした話に戻る予定です。




