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二話:石壁と比較する絶壁

あらすじ:目が覚めたら薄青色のどこかにいた守屋栄仁は。寝返りによって落下してしまう。焦る守屋だったが、1メートル落下しただけで済んだため事なきを得た。しかし、すぐに薄青色の風景に不安を覚え、落ち着こうと現在の状況を確認をする。少し落ち着きを取り戻したのも束の間、謎の光が出現して守屋の目にダメージを負わせた。「いつまでそうしてるの?」と聞かれ目を開けた、そこにいたのは…………………。

「私の事、見える?」

声のした方を見ると、肩まである金髪、サファイアのような碧眼、2,30代思わせる幼さを感じない顔立ち、見上げるほど高い身長、上下緑色のジャージで、側面に黒いラインが引かれている。

そこには巨大な女性がいた。

「ジャージ?」

この雰囲気にあまりにも浮いて見えたので反射的にそう聞いてしまった。いやもっという事があっただろうに。ほら、可愛いですね。とか美女ですねとか。

そんなことを気にしていないのか「ジャージ?」と答えたのが相当おかしかったのか、そのひとはめっちゃ笑いたいけど押さえたような笑い声を出している。

「グッ…………フッ……フッ…………………クッ………クッ」

そこまで笑えるなら、いっそのこと大声で笑ってほしいぐらいだ。なんならお腹を押さえて耐えている。それが恥ずかしくて少しだけ意地悪をしてしまった。

「……………絶壁」

この人の足元から頭を見つめると、…………なんだろう、女性の胸部にあるであろう肉が……………見当たらない。

言った瞬間、それまでの押さえた笑い声が止み、なぜか視線を感じた。

1人しかいないと思い上を見ると、あの人が顔を手で覆って人差し指と中指の間からこちらを見つめていた。

「あのー…………………」

恐る恐る聞くと、

「いいよいいよ、別にいいよ。私は絶壁だもん。子供でも馴染みやすい、ってなったらこうなったし、というかジャージが馴染みやすいって考えた人誰?おかげで余計目立つんだけど?なにがとは言わないけど。なにがとは言わないけぇどぉも。そもそもジャージって馴染みやすくないよ?どういうこと?ジャージでもいいような壁にしろってこと?こちとら欲しいのよ、欲しいけども手に入らない。あーあ。あんたが落下した崖ぐらいあればなぁ。なにがとは言わないけど!」

弾丸のような速度で色々言われる。止まらなさそうだったので謝ろうとすると()、という言葉に違和感を覚えた。

「崖、………ですか?」

崖。もしかしてさっき1Mぐらい落ちたあそこの事を言っているのか?

「あれ?さっき崖の所、落ちてなかった?」

顔を覆っていた手をどけ口元にあてて、頭にはてなを浮かべながらそう言った。

いや確かに落下はしたけど、それを知っているってことは…………………。

「見てました?」

「面白い発狂でしたよ。あと『ハッズ!』てねぇ」

口元は見えないが、明らかにニヤニヤした声でそう言ってくる。自分の失態が笑われていることが恥ずかしくなってしまいつい顔を逸らしてしまう。またあのときみたいに顔が真っ赤になりそうだ。

しかし、しかしここで恥ずかしがっていけない。こういうのは恥ずかしがった方が負ける。

僕はできるだけ動揺を隠して、あの人を正面から見つめた。

あの人は自分を煽るようにまだニヤニヤしてるが、もうそんな精神攻撃は効かない。

「まったく。見てたなら助けてほしいものですよ。まあ、絶壁さんの頭も?絶壁だと思うんで?助けれなくても、仕方がないと思うんで?今回は許しますよ」

なにも考えずに喋り始めてしまったので自分でも何を言っているか分からない部分はあるが、気にしない気にしない。

ほらあの人も”絶壁”というワードでなんか悪い事言われてるけど文の意味自体はよく分かってなくてすごく微妙な顔をしているよ。

「……………………つまり殴っていいってこと?」

よくわかってない状態で実行しようとしているのでとても怖いのだが…………………いや右手ビキビキさせないで。本当に怖いからぁ。

「すみません」

僕は90度の角度をつけて謝罪する。

結局は謝るのが最適な方法だった。コンプレックスを掘り下げる発言。ダメです。

「分かればいいの」

一応許してくれたようだが、まだ根に持っているのかそっぽを向いてしまった。

まだ頭を下げるべきだろう、と今年で15歳の僕の経験が言っている。そのためあの人が今何をしているかは分からないが、許すべきかいなかを考えているんだろう。

「もういいよ」

ため息交じりにそう言われる。僕が頭を上げると先ほどより真剣な顔になったあの人がいた。

「そろそろ説明、いい?」

「説明ですか?」

何の説明だろうと疑問に思っていると、「まじか………」と呆れられてしまう。

え。呆れられるほどなのか。

「あなた、『説明を求めますーー!』って自分で言ってたじゃん」

あ。

「言いましたけど……」

この人に説明ができる訳ないと内心思ってしまう。もしこの人が5W1HのWhoに当たる人、もしくはその人の関係者であれば普通はこんなに接近してこないと思う。むしろそれを悟られないための接近か?

色々考えているとあの人が2回手を叩いた。こちらに集中してくれ、と言わんばかりの速度だ。

「ようこそ!」

先ほどのテンションとは違った能天気な明るさを含んだ声とともに、それは急に始まった。

「あなたがこの場にいるということは、ついに”あれ”が成功したんですね。」

”あれ”って?急に出てきた不穏な言葉を聞こうとしたが喉まで出かかってやめた。

やっぱりこの人は何かを知っている。このまま邪魔せず聞き続ければなにか大きなヒントが得られるのではないか。僕はそう思いその場に正座して先ほどより集中して聞く事にした。

「え?”あれ”が何かって?ふっふっふっ。知りたいですか?」

そこまで話して言葉が途切れてしまった。それどころか自慢げな顔のまま眼球一つ動かさず止まってしまった。

「え………大丈夫ですか」

色々声をかけてみるが一切反応がない。ついには「絶壁」という言葉にさえ反応しなくなってしまった。

(どうすれば)

慌てて立ち上がると自分の少し前にピコピコ光っているものを見つけた。少し近づくとそれらは二つに分かれていて、こう書いてあった。

「知りたい!」     「別に……………」

それの選択肢を見た瞬間何をすればよいのか察した。

僕は迷いなく「知りたい!」を手で触れた。

するとその押した部分から波紋状に光が広がり。二つの選択肢は消えてしまった。かと思うと「それはですね…………」とあの人の声が聞こえてきた。

やっぱり。と僕は思った。

あれは選択肢。ゲーム進行上に必要な選択肢だったということだ。RPGゲームをプレイしていると時々出てくるやつという事だ。

「良かった」

急に止まるから怖かった。冷や汗かいちゃったし。もう座らずにここで立っていよう。多分この手の質問は一度だけじゃないから。

「………………ということです分かりましたか?」

「うん!分かった!」     「よく分からなかった…………」

ゲームあるある。オートで会話を流していたため内容が全く分からない。それで選択肢を選ぶところで止まる。今まさにそんな状況に陥っている。

(いやいやいや)

思わず突っ込みたくなってしまうが、この会話方式にはいつか慣れなくてはいけない。

とりあえずなにも聞いていなかったので「よく分からなかった…………」に触れた。先ほどと同じように波紋が広がり、選択肢が消える。

「えー。ちゃんと話したじゃないですか。しょうがないですね。簡単にまとめると。まず、私はあなたの案内役、『プイ』です。そしてあなたは私の御主人様の実験に偶然巻き込まれてしまい、異世界に来ています。そのためあなたの目的はこの異世界からの脱出となっております。これで分かりましたか?」

「うん!分かった!」     「よく分からなかった…………」

「いやいやいや!」

思わず叫んでしまう。情報量が多すぎて一度に処理しきれない。

(まず、”プイ”さん。そしてここは異世界。目標は異世界からの脱出)

さらに簡単にしたつもりだが脳が追いついてこない。

(異世界………異世界………)

どうしてもこの言葉だけ飲み込めない。だってそういうのはおとぎ話であって、まさか実際に自分が巻き込まれるなんて思ってもなかった。しかも僕の知っている異世界転生よりある程度近代的な感じがする。実験に巻き込まれたとか。もっと過酷なものだと思ってだけにギャップの差が激しい。

ともかくゆっくり消化しよう。大丈夫。プイさんがいるし、そう、ゲームだと思えば…………無理か。おとぎ話の人達みたいに僕にはとくしゅ能力とか、ちーときゅう能力なんてものはないだろうし。

とりあえず僕は「うん!分かった!」に触れる。

「そうですか!よかったです!でも…………………………一つだけお伝えしなければいけない事がゴニョゴニョ……………」

と急にプイさんの言葉が詰まってしまう。

選択肢が「伝えなければいけない事?」一つだ。確定で進む場面らしい。

僕は即座に触れた。

もう既に異世界にいるんだ。これ以上驚く事なんてない。さあ!なんでも来い!

「ええ。あの……非常に言いづらいんですが…………実験の副作用というかなんというか………………その…………と、とりあえず鏡見せますね……」

そういうとプイさんはどこからともなく姿鏡を出現させる。僕のサイズの鏡だ。ふと顔を上げるとプイさんの顔がこれはとんでもなく深刻なことだと言っている。

急に緊張してしまい、僕は二呼吸間をおいて、できるだけ心落ち着けて鏡をのぞいてみる

そこに映っていたのはゼリーのようなナニカだった。

プルプルのゼリー状の表面の、中心部分に赤い球体がある。スライムともゼリーとも違うこのプルプル具合。

「……………………………」

これ自分?

「なんですか、これ」

プイさんの方を向くと、少し泣きそうな顔になっている。

「…………あの……………あなたの体積を全て転送することはできなかったらしくて…………。送れたのは細胞一個だけだったらしいんです………………」

細胞………。

僕は改めて鏡を見てみる。これが細胞一個?にわかには信じられない。

「なので、十分注意して生活するように。とのことです」

いや注意するも何も………。

「細胞一個でどうやって生活をすればいいんだ!という声が聞こえてきそうです」

いつのまにかプイさんが元気を取り戻していた。感情の起伏が激しすぎないか?

「しかーし。御主人様はこれを見越して、一つあなたに能力を授けました。」

おっ!そうなの!?なんの能力だろう。

さっき能力がなんとかとかそんな事言ってたんだよ。いやー、ついに自分も伝説の仲間入りかぁ。それで、何の能力なの?やっぱり、ドラゴンと共に戦う西洋竜のお友達(ドラゴンフレンダ―)、水を操る魔術師水の魔術師(ウォーターサー)、大剣を扱う勇者大剣使いの勇者(ブレイドマスター)。他にもたくさんあるけど、どんな能力だろ?

「あなたには………………細胞を操る能力が授けられましたー、いえー。」

プイさんが拍手してわざとらしく喜んでいる。

「なんですか。その地味そうな能力」

あまりにも拍子抜けで、思わず口が滑ってしまった。

「地味なんかじゃないでーす。あなたはこの能力しか使えないので、命綱的な能力なんですー。なんでこれから能力の練習をしてもらいます。」

いやこれこの発言全部テンプレートだよね?地味に会話がかみ合ってるのが怖いんだけど…………まあいい。

「Are you ready?」

「OK」

流暢な英語。

思い返せばいつのまにかこんなところにいて、しかもここが異世界で、僕は細胞一個だけ……………………。

展開が早すぎてついていけていない部分も多いが、一旦諦めるしかない。今は生き残らなければいけない。そのために能力は必須だ。

……………………覚悟を決めろ。自分。

「OK」

あえてニヤリと笑ってやった。






あっ。選択肢押してない。

続く!

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