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怪しいおまじないに頼った結果好きな人の前でだけ声が出なくなってしまったけれども、何故か上手くいきました  作者: 石月 和花


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第5話

 頭が重く、身体も痛くてなんだかしんどい。


 全身から感じる不快感のせいで、このまま目を開けずにもう少し眠っていようと思った。私の身体は一体どうしてしまったのだろうか。


 自分の身体なのに、まるで自分の身体じゃないみたいに全身から苦痛を感じるのだ。けれども、私の右手だけは何故だか暖かくって心地よかった。


「セシリア……こんなことになるなんて……だから君を遠ざけていたのに、これでは何も意味がなかったじゃないか!!」


(……お兄様?)


 私は、目を閉じたまま自分の周囲の声をぼんやりと聞いた。どうやら私の右手が暖かいのは、カラーラス様が私の手をしっかりと握ってくれているからみたいだった。


「……セシリア、目を開けて。もう一度僕の事を呼んでくれないか。この際お兄様でも良い。君の好きな様に呼んでくれて構わない。だから、セシリア、目を開けてもう一度僕の事を呼んでくれ。」


 カラーラス様の悲痛な声と共に、私の手を握る力が強まったのを感じた。


「セシリア。お願いだ目を開けてくれ。もう一度僕に笑いかけておくれ。」


(……あぁ、そうだ。思い出したわ。私階段から突き落とされたのだった。だからカラーラス様はこんなにも心配なさっているのね。目の前で私が落ちたから……)


 そんなことをぼんやりと考えながら、私は尚も目を閉じたままカラーラス様の声を聞いた。


「セシリア。こんなことになるのなら、君と距離を取るんじゃなかった。アカデミー内でも常に一緒に居て、君を危険な目から守ってあげれば良かった。目を覚ましてくれるのならば、僕はもう二度と君の側から離れないから……」


 彼の声はずっと微かに震えていて、その切実な想いが痛いほどに伝わった。


(ダメね、セシリア。カラーラス様を心配させる訳にはいかないわ。ほら、目を開けるわよ……)


 私は自分に言い聞かせるようにそう意識すると、そっと閉じていた目を開けたのだった。


「……カラーラス様……」


 私の第一声に、カラーラス様は目を丸めて驚いていた。けれども、それ以上に私自身がびっくりしたのだった。だってカラーラス様相手に声が出たのだ。


「セシリア!気が付いたんだね!」

「あ、はい……」


 安堵の表情を浮かべるカラーラス様とは対照的に、私は状況が把握出来ずに困惑の色を浮かべていた。


 場所は自室のベッドであることは把握した。階段から落ちて運ばれてきたのであろうことも察した。そして、カラーラス様がずっと付き添ってくださったであろうことも察したが、何故、今になって声が出るようになったのかだけは分からなかった。


「あの……私……」


 私は戸惑ったままであったが、とりあえずカラーラス様に今まで口を利かなかった非礼を詫びようとした。


 けれども、それは叶わなかった。


 何故なら、私が何か言う前に、カラーラス様が目を開けた私の事を力いっぱい抱き寄せたのだ。


「あぁ!良かった!!」

「お……お兄様?!」


 突然の出来事に驚いて、私は謝罪の言葉など何もかも吹き飛んでしまった。


「さっきは名前で呼んでくれたじゃないか。どうして、名前で呼んでくれないんだい?」

「え……?えっと、申し訳ございません。お兄様と呼ばれるの好きじゃなかったんですね。これからは気を付けますわ、カラーラス様。」


 カラーラス様に抱きしめられながら呼び方について咎められている良くわからないこの状況に私の頭は全くついていかなかったが、とりあえず謝罪をした。


 けれども私は何かを間違えたらしく、カラーラス様は抱き寄せていた私の事を少し離すと、複雑そうな顔で私の事を見つめたのだった。


「……そうだけど、そうじゃないんだよ……」

「えっ??」


 私は何故か残念そうにしているカラーラス様の様子に首を捻った。


 するとカラーラス様は、今度は私の両手をしっかりと握りしめると、熱情のこもった真剣な眼差しで私の目を見つめ、まるで子供を諭すかように丁寧に言葉を続けたのだった。


「セシリア、僕は君の兄じゃないんだよ?」

「それは存じておりますわ。」

「そう、兄じゃない。僕は一人の男なんだよ。」

「……そうですわね?」


 カラーラス様が言わんとしていることが分からなくて、私は、頭の中に疑問符を浮かべながら相槌を打った。


(……お兄様は一体何を言いたいのかしら??)


 けれども私がずっと困惑したままでいると、それに気づいたのかカラーラス様は、何か意を決したかの様で、もっと分かりやすく、直接的に、私が思いもよらなかった想いを告げたのだった。


「僕は君の兄ではない、一人の男なんだ。そしてセシリア、君も僕の妹ではない。君は素敵な女性で、僕は君に兄としてではなく一人の男として見て貰いたいんだ。」

「えっ……?」


 突然の言葉に、私の思考は完全に停止してしまった。


 (えっ……それってつまり……)

 

 彼から告げられた殆ど告白のような言葉に、私の身体が熱くなり、心臓はバクバクと高鳴った。


(つまりお兄様は、私の事を妹ではなく一人の女性として見てくださっているのね……)


 その事実だけでも十分に嬉しかったが、カラーラス様はあまりの事に言葉を失っている私の頬にそっと触れると、私の事を愛しむように気持ちの吐露を続けた。


「君が目の前で階段から落ちた時は、生きた心地がしなかった。君がこのまま目覚めなかったらと思うと、とてつもなく怖かったんだ。」

「あの……ご心配をおかけして申し訳ありません。」

「とにかく、目を覚ましてくれてよかった。君の声も久しぶりに聞けたし、こうしてまた笑いかけてくれた。こんなに嬉しいことは無いよ。」


 そう言ってカラーラス様は、蕩ける様な甘い笑顔を私に向けたのだった。


(あぁ……この笑顔ですわ。私がずっと見たかったのは……)


 カラーラス様の懐かしいその笑顔に、私の顔も自然と綻んでいた。こんなに嬉しいことは無い。その気持ちは、一語一句全く同じ気持ちだった。


「『こんなに嬉しいことは無い』それはこちらのセリフですわ。私、アカデミーに入ってからずっとカラーラス様と以前のように仲良くしたかったのに、カラーラス様がそっけない態度だから、私てっきり嫌われてしまったのだとばかり思っていましたの。だから今またこうして、ラスお兄様とお話しして、笑いかけてくださることが本当に嬉しいですわ。」


 そう言って私はカラーラス様の手にそっと自分の手を添えて微笑んだ。確かに、カラーラス様に距離を取られてとても悲しい思いをしたが、けれども、今こうして、私が本当に望んだ未来になったのだから、それ以上は望まなかった。


 けれども、カラーラス様はとても申し訳なさそうな顔をして床に跪くと、私に謝罪を始めたのだった。


「誤解させてしまったのはすまなかった。君を守る為だったとしても、君を傷つけてしまっていたのなら、こんな事するべきでは無かった。」

「私を守る……?」


 一体何から守るのだろうか。実は私は自分の知らないところで悪い奴にでも命を狙われていただろうか。そんなことを考えながら戸惑っていると、カラーラス様は自分を責めるかの様に言葉を続けた。


「まぁ、結果的に守れてなかったけれども……あぁ、もう、本当に自分が情けない。好きな子に悲しい思いをさせた上に怪我までさせてしまっただなんて!」

「どういうことですの?!」


 肝心な事は何も言わないので私は意味が分からずに彼に問いただした。


 すると、カラーラス様は少しだけ苦々し気な顔をして、何故あのような冷たい態度をとっていたのか、その理由をやっと教えてくれたのだった。


「えっと、つまりだね。セシリアがアカデミーに入学してくる少し前に、ちょっとしたトラブルがあったんだ。僕に好意を寄せているご令嬢の間で。なんでも、僕と話している時間が一人だけ長かっただとかで、子爵令嬢がそれは酷い嫌がらせにあってね……」


 そう言うとカラーラス様は、一つ大きなため息を吐いてから話を続けた。


「僕としては、申し訳ないけど何のことだか全く分からないのにそんな事が起こってね。その子爵令嬢には申し訳ないけれども、全く記憶にないし、特に親しくした覚えもないんだ。けれども、周囲の嫉妬というのが恐ろしいものだとその時に知った。そして、こんな人達に、僕の好きなセシリアが目を付けられてはいけないと思って、それでアカデミーでは君を遠ざける様な態度を取っていたんだ。」

「そう……だったのですね……」


 カラーラス様のお話に、私はそう呟くのがやっとだった。


 彼の話に聞くご令嬢たちの嫉妬は確かに酷く、恐ろしい話ではあったが、けれども私の頭の中は、今それどころではなかったのだ。


 何故なら、カラーラス様の会話の中で『僕の好きなセシリア』と、思いもよらない恥ずかしいセリフが聞こえてきて私の頭は爆発してしまいそうだったから。


(お……お兄様は今、私の事をはっきりと好きと仰いましたよね……??!)


 私は動揺を悟られまいと必死に平然を装ったが、けれども、カラーラス様の爆弾発言は続くのだった。


「こんなことなら君のお父様を説得して、さっさと婚約をしておくべきだったよ。流石にご令嬢たちも婚約者が居たら諦めてくれただろうからね。君のお父様には『アカデミーを卒業するまでは婚約は認めない』と言われていたから我慢していたけども、これはもう、婚約を認めてもらうしかないな。」

「は……初耳ですわ……!」

「だって君は子供の頃に言ってたじゃないか。僕のお嫁さんになりたいって。」

「そ……それは確かに言いましたけど……」


 次々に出てくる新事実に、私の心臓ははちきれんばかりだった。顔どころか耳まで真っ赤になってしまい、恥ずかしくて目線も泳いでいたのだが、そんな私の同様にお構いなしにカラーラス様は改めて私に向き合うと、真剣な顔つきで私の手を取り、じっと目を見て、もう一度誠意を込めて私に謝罪したのだった。


「……セシリア、本位ではなかったとはいえ僕は君を傷つけてしまっていた。本当にすまなかった。こんな僕のことを、君は許してくれるだろうか?許してくれるのならば、何だってするから。」


 私に触れる彼の手が震えているのが分かった。カラーラス様は緊張した面持ちで固唾をのんで私の返答を待っている。


(あぁ、カラーラス様は本当に私を傷付けたことを心から後悔をされているのですね。そして、私の心が離れてしまうのを恐れている……)


 今までずっと、ずーっと、自分からばかりだと思っていた気持ちがカラーラス様からも向けられていることが分かって、私の胸はじんわりと温かくなった。


(エルレイン様、確かに貴女の”おまじない”は最強でしたわ……!!)


 そんな事を考えながら、私は彼の真摯な想いに応えるべくカラーラス様の手をギュッと握り返した。


 それから彼の目を真っ直ぐに見つめ返すと、少しだけ拗ねたような口調で、私はある条件をカラーラス様に提示したのだった。


「……カラーラス様、私、優しかったラスお兄様からまるで赤の他人のように振る舞われて、本当に本当に、悲しかったのですよ。だから約束してください。もう二度と私を悲しませないと。そうしたら、全て許して差し上げますわ。」


 そう言うと私は自信満々にニッコリと笑って見せた。だって今はもう、カラーラス様のお気持ちが分かりきっているから不安など何も無いのだ。


 すると私の思った通りに、カラーラス様は私からの条件に安堵の表情を見せると、今迄で一番甘く蕩ける様な笑顔で私を抱きしめて、その言葉に誓ったのだった。


「あぁ、勿論だよ。僕はもう二度と、君を悲しませるような真似はしない。君からも離れない。約束するよ。」

「えぇ、絶対ですわよ。」


 こうして、私たちはお互いの気持ちが子供の頃から変わっていないことを確かめ合うと、まるで子供の頃に戻ったように、周囲の目など何も気にせずに、ただ二人で笑い合ったのだった。

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