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怪しいおまじないに頼った結果好きな人の前でだけ声が出なくなってしまったけれども、何故か上手くいきました  作者: 石月 和花


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第4話

 カラーラス様とお話が出来なくなってしまったけれども、私は相変わらずカラーラス様の事を追いかけていた。


 しかし、日課である鍛錬場の見学だけは止めてしまった。


(だって、その場にいても声を掛けられないなんて、辛すぎるから……)


 その代わりに、もっと遠くの場所から、そっと鍛錬中のカラーラス様を眺めることが私の新たな日課となったのだった。


 カラーラス様が近くに居るのに声を掛けることが出来ないのが辛いから、私は距離的に絶対に声を掛けることが出来ないところから見守ることにしたのだ。


 だから私は、今日も二階のテラス席から、遠く鍛錬場に居るカラーラス様の御姿をそっと眺めたのだった。


(あぁ、豆粒のように小さいですが、誰にも気兼ねなくにカラーラス様の御姿を眺めることが出来るのは、これはこれで悪くないですわね。)


 そう、ここなら周囲にカラーラス様を狙うご令嬢たちは居ないので、一人でゆっくりと、思う存分カラーラス様を堪能出来るのだ。


 なので私は、遠くのこのテラス席からカラーラス様をじっと観察していたのだが、ふと、今日のカラーラス様の様子がいつもとは違うことに気が付いたのだった。


 カラーラス様が鍛錬中に何故かチラチラと応援席を気にしていて、まるで誰かを探しているみたいだったのだ。


(珍しいですわね。いつもはお兄様、応援の生徒など見向きもしませんのに。)


 そのままもうしばらく眺めていると、すると今度は、鍛錬が終わったカラーラス様の周にご令嬢たちが集まって、なにやら騒ぎが起こり始めたのだった。


(あぁ……っ何をやっているのかしら。お兄様にご迷惑をかけないで欲しいわ。あっ危ない!)


 そのうちに、一人のご令嬢がカラーラス様の側に居た他のご令嬢を突き飛ばす仕草をすると、やられた方のご令嬢も、負けじと掴みかかって、場が一気に騒然となったのであった。


(あぁ……お兄様を困らせないで欲しいわ。なんで争うのかしら……)


 その場に居たら絶対に巻き込まれたであろう騒動を、私は遠くから文字通り高みの見物をすると、ヤキモキした気持ちでカラーラス様を見つめた。


(……私にはどうすることも出来ないけれども、お兄様がどうか、御令嬢間のトラブルにこれ以上引き摺り込まれませんように……)


 このようにして人知れずお兄様の安寧を願い、お兄様の事を見守った。


 そんな感じであっという間に一週間が過ぎていったが、相変わらず私は、カラーラス様にだけ声を出すことが出来ないままであったのだった。


(はぁ……本当にずっとこのままなのかしら……)


 流石に、いつまでもこのままではいけないと思ってはいたが、だからといってどうすることも出来ないので、私はため息を吐きながらも、今日も日課であるカラーラス様の鍛錬の様子をコッソリ見学するた為に二階のテラスの特等席へと向かっていた。


 すると、その時だった。


「セシリア」

「……っ?!」


 なんと私の特等席に、カラーラス様が立っていたのだ。


(どうして?!お兄様はこの時間は鍛錬場に居るはずなのに?!)


 居るはずの無い人物が目の前に現れて、私は軽くパニックになりその場で硬直してしまった。


 すると、そんな私の混乱などお構いなしに、カラーラス様は少し寂しそうに微笑むと、優しく穏やかな声で私に問いかけたのだった。


「セシリア……最近、鍛錬場に来ていないと思ったら、毎日ここに来ているんだってね。こんな所で、一体何をしていたんだい?」


 それは、とても答えに困る質問であった。


 まさか貴方のことをコッソリと盗み見ていましたなんて本人には言えなかったし、そもそもカラーラス様に対しては物理的に喋れないのだ。


 なので私はどうすることも出来ず、困惑の表情を浮かべて必死に目で訴えかけてみたが、しかし、その努力も虚しく、カラーラス様には全く伝わらなかった。


「……そうか、僕には言いたく無いのか。……僕が君に素っ気ない態度をとっていたから、無理もないか。」

(そうではありませんの!あぁ、喋れないのがもどかしいですわ……)


 悲しそうにそう呟くカラーラス様に、私は言葉の代わりに全力で首を横に振って否定の意を伝えた。


「……僕のことを怒ってる訳じゃない?」


 今度は全力で首を横に振った。


「僕のこと、嫌いになった訳でもない?」


 私はまた、力一杯首を横に振った。


「もしかして、僕がお兄様と呼ぶなと言ったからなのか?だからセシリアは最近僕の事を呼んでくれなくなったのか?」


 私はまた、力いっぱい首を横に振ったが、カラーラス様はずっと悲しそうな目で私の事を見つめていた。


「……どうして何も言ってくれないんだ。」

「……」


 私だってカラーラス様とお話ししたい。けれども、その問いに対しても私は何も言えなかった。

 エルレイン様のかけた”おまじない”が、それを許さないのだ。


(どうしましょう……私が話を出来ない事でこんなにもお兄様を悩ませてしまっているだなんて……)


 このどうにも出来ない状況に私は耐えられなくなって、思わず踵を返してその場から逃げ出そうとした。


 けれども、カラーラス様はそれを許さなかった。


「セシリアッ!!」


 カラーラス様は、逃げようとする私の腕を掴んで引き留めたのだ。


 こんな事はいつ振りだろうか。カラーラス様が自発的に私の名前を呼んで、私の事を側に留め置こうとするなんて、最近のカラーラス様の態度からは想像も出来なかったことだ。


(……これはある意味、お兄様と昔のように仲良くなれたということなのかしら……?)


 そんな事を考えてもみたが、私の声は相変わらず出ないし、カラーラス様は何やら思いつめた表情をしていて笑顔なんかどこかに行ってしまっているしで、この状況はどう考えても私が願った結果とは程遠かった。


(……本当に、どうしてこうなった。私が望んだのは、こんなんじゃないのに……)


 目の前に好きな人が居るのに話すことが出来ない辛さと、私が何も話さない事でカラーラス様に悲しそうな顔にさせてしまった罪悪感から、私はカラーラス様の手を振り払うと、全力で走って逃げだしたのだった。


(……あぁ、せっかくお兄様が話しかけてくださったというのに、これでは冷たい態度でしたが前の方がまだ良かったですわ!!)


 背後から私の名を呼ぶ声が聞こえたけれども、カラーラス様は追ってはこなかった。それもそうだろう。だって、何も言わずに彼の手を振り払ったのだから。傷つけたに違いない。追ってこなくて当然だ。


(……あぁ、これでお兄様に完全に嫌われてしまいましたわ……)


 私は涙をこらえながら階段を駆け降りた。


 …否、駆け下りようとしたのだがそれは叶わなかった。

 なぜなら踊り場の所で待ち構えて居た女性徒に呼び止められてしまったのだった。


「貴女ちょっと、お待ちなさい!!」

「な……なんですか?」


 急いでいたから無視したかったけれども、相手は上級生なので従わない訳にはいかなかった。


(この人は確か、鍛錬場でいつもカラーラス様に声援を送っていたご令嬢だわ……)


 正直言って嫌な予感しかしなかったけれども、私は呼び止めに応じて足を止め、このご令嬢の言葉を待った。すると彼女は、案の定カラーラス様の事について、私に突っかかって来たのだった。


「貴女、さっきカラーラス様と二人きりでお話しされていましたよね?」

「えっと……話……はしてないです。」


 嘘は言っていない。だって、喋れないから会話は何もしていないのだ。けれどもそんな屁理屈は、どうやらこのご令嬢には通用しなかった模様で、彼女はまずます怒気を含めた声で私を追求したのだった。


「嘘おっしゃい!私この目で見ましたのよ。」

「嘘ではありません!本当に何も話してないんです。」


 カラーラス様の前だけ声が出なくなるんです。


 その事実をお伝えしようとも思ったが、そんなこと信じて貰えるわけがないので、私はどうしたものかと頭を悩ませた。


 するとご令嬢は、なにやら私の態度が気に入らなかった様で、どんどんと一人で怒りを沸騰させてしまって、ついには思い余って、彼女は私の胸をドンっと強く推したのだった。


「大体なんなんですの?!前から思ってましたけど、貴女はカラーラス様に馴れ馴れしいんですのよ!!」

「あっ……」


 もし、時が戻せるのならば誰か私に教えておいて欲しい。

 階段の踊り場で言い争いをすると、碌な事が起きないと。


「セシリアッ!!!」


 遅れて私の後を追ってきたお兄様の姿が見えたと思ったらゆっくりと遠ざかっていく。


(あ、私階段から落ちたんだわ……)


そんなことを思いながら、強い衝撃と共に私の意識はそこで途絶えた。

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