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愛情の形

作者: 千子

騎士団の麗しの貴公子、リューグ様には婚約者が未だにいらっしゃらない。

呪われているだとか、特殊性癖だとか、女性に興味がないとか、既に好きな方がいるだとか、世間の噂は様々です。

ですが、わたくしはそれでもリューグ様をお慕いしております。

だって、お顔がとてもよろしいんですもの。




わたくしは昔から可愛いもの、素敵なもの、綺麗なものがすきでしたの。

ですから自身もそうありたいと研鑽を重ねてきましたし、人生の伴侶となる方もそういうお方をと求めるものが高くなり、婚約者がなかなか決まりませんでした。

ですがそれも今ではすべてリューグ様と婚姻するためだったと思えますわ。

わたくしは、リューグ様が例え呪われていても特殊性癖でも女性に興味がなくとも既に好きな方がいらしても、特に興味はありませんの。

ただ、そのお顔を毎日眺めさせていただけましたらそれだけで充分だと思っております。

それほど素敵で美しいリューグ様。

なんとかお近づきになりたくてご縁を使いに使って辿り寄せてリューグ様とのお見合いの日程が決まりましたの。

昔から婚約者が決まらない両親は心配しつつもわたくしのことを分かりきっておりますから、既に諦め好きな方を婚約者に選びなさいと仰っておりました。

ですから、リューグ様と婚姻したいと申し出ただけでようやくかとリューグ様の爵位が下過ぎるのも気にせず喜びお見合いの日程を調えさせていただきましたわ。




さて、迎えたお見合い当日。

場所は当家にて行わせていただきました。

間近でご尊顔を拝見するリューグ様はそれはそれは美しく、このままリューグ様のお顔を目に焼き付けて亡くなってもいいとすら思えてくるほどでした。

中庭を案内させていただき、ガゼボでティータイムをさせていただきましたが、リューグ様は噂とは違い普通のお方でした。

呪われているとは思えず、特殊性癖があるような感じはせず、手が少し触れてしまっただけで赤くなり謝罪する様はとてもかわいらしく、既に好きな方がいるのかというわたくしのあけすけな質問にも首を振り「噂のことは存じていますが、そのような方はいません。もちろん特殊性癖だとかいうこともありません」と真摯な眼差しで答えてくださいました。

「まぁ、では噂はすべて嘘だということでしょうか?」

「すべて嘘です。この命に賭けていい」

「ならば何故あのような噂が?」

「それが私にもさっぱりわからないのです。社交界からは遠巻きにされて、迷惑しているのですが…」

「あら、噂話は不愉快ですが、ですがそのおかげでこうしてリューグ様とお話しできることになりましたわ」

ふふふ、とわたしくが笑うとリューグ様も複雑そうに笑ってくださいました。

「あなたにそう仰っていただけるなら、噂も少しは役立ちましたね」

照れたリューグ様もとても魅力的ですわ。

こうして、わたくしとリューグ様は婚約を前提としたお付き合いを始めました。


ですが、本当に噂の出所はどこでしょう?


リューグ様に袖にされた女性達でしょうか?

リューグ様の実力に嫉妬した騎士団の方?

リューグ様はわたくしと出会う切っ掛けになったことだし、と気にされてないようでしたが不愉快なことには変わりありません。

それに、リューグ様のことならばなんでも知っておきたいの。




そして、わたくしはリューグ様の噂の出所探しを始めました。

素人探偵ではなかなか上手くいきませんが社交界で情報を集めていくうちに数名の男女の名前が捜査線上にあがりました。

女性の方はリューグ様に袖にされたり縁談を断られた方、男性の方は騎士団の同僚でリューグ様に打ち負かされたりご実家の事業のライバルの家の方。

さて、この中にリューグ様の不名誉な噂を流した方はいらっしゃるのでしょうか?

皆様動機はありそうですが、今一つ決め手に欠けますわ。

リューグ様の噂の出所は本当にどこなんでしょう?

唸るわたくしでしたが、答えは唐突に辿り着きました。




素人探偵をしつつもリューグ様との逢瀬は欠かせません。

とても美しいお顔を見るだけで、とても幸せな気持ちになっておりましたが、最近ではその内面もとても好ましく、リューグ様と婚約出来て本当に良かったと思っております。

「リューグ様。本日はとても珍しい茶葉を取り寄せましたの。東国のもので疲れにも良く効くそうですわ。リューグ様はいつも騎士団で厳しい訓練をされているそうですし、わたくしとても心配で…。少しでも癒されていただければよろしいのですが」

「お心遣いありがとうございます。ですが騎士としてこの国のために、そしてこの国に住まう貴方を守れるためだと思えば訓練も苦ではありませんよ」

「リューグ様………」

この頃になるとわたくしはすっかりリューグ様に傾倒していきました。

「まだ噂の出所を探っていらっしゃるのですか?」

「ええ。ですが、なかなか分からず…。申し訳ありませんわ。なんのお役にも立てなくて」

「言ったではありませんか。すべては私達が出会うためだと。噂の出所よりも、もう少し私に興味を持っていただけませんか?」

「もちろんですわ。リューグ様が仰るのでしたら噂の出所探しは止めにしておきます。わたくしには、リューグ様がお側に居てくださること以上に大切なことなどありませんわ」

「そう仰っていただけでとても嬉しいです」

はにかむリューグ様のお顔はとても美しく、わたくしは一つ嘘をついたことを心の中で謝罪しました。




本当はわたくし気付いておりましたの。

噂の出所がリューグ様ご自身だと気付いた時、爵位の差があるわたくしの目に止まりたくて研鑽し騎士団での評価も得て万事わたくしの心を射止めたことを知ったとき、心の中が歓喜で震えましたわ。


すべてを知ったのは本当に偶然でしたの。

リューグ様のお宅を訪問した際に、出来心でリューグ様のお部屋を勝手に覗いてしまいました。

そしたら部屋を埋め尽くすかのようにわたくしの肖像画がありました。

随分と幼い時から現在の絵姿が所狭しと飾っていたのです。

それからは聞き込みの仕方を変えてみれば、リューグ様ご自身から噂が出ていることに察したのです。


リューグ様がわたくしに対して偏執的な愛情を持っていて恐れるどころか嬉しいと感じてしまう程度にはわたくしもリューグ様のことを愛してしまっておりますの。

世間一般では違った愛だと思われようと、これがリューグ様の愛で、わたくしの愛なのです。

わたくしの好みになろうと努力をしたリューグ様をどうして嫌いになれましょうか。


リューグ様、その愛にわたくしも愛しておりますわ

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[一言] 面白かったです(*˘︶˘*).。.:*♡ ※二人の容色に陰りがでた時が、心配ですが(笑)が
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