006 強制シノ汁摂取
その日から、シトの生活は一変した。
恐れていた外の世界は、自身が危惧していたよりも急速に順応していき、タガが外れたように好奇心を爆発させ、眼に入る物全てを知り尽くす勢いで観察し、思いついたことは後先考えず片っ端から試した。
シノは体の動かし方や、基礎的な戦闘技能を教えると、それ以降は何も教えず、シトが死にかける寸前までは手を出さないことで自発的に成長していくように促した。が、しょっちゅう死にかけるので手を出す頻度は高かった。
――そして数年の歳月が経つ。
シトは13歳になった。しっかりとした体格に成長しつつあり、身長はシノの背丈を頭一つ分凌駕した。
「シノっ、シノ汁飲みたい!」
大泥鰐の中へと戻ったシトがいつものようにシノの体液を要求する。
「のうシトや、もう乳離れしても良い頃合いではないかの……。あとシノ汁と呼ぶでない」
シトの腰から生える二本の触手は成長し、生体となった。それはシノの触手と同じように、あらゆる部分を捕食器官へと変貌させ、強固な鱗でさえも噛み砕き、消化する。現に、シトはそれを十全に行使し、始めて見た生き物は取り合えず食ってみるという暴挙を繰り返してきた。故に、栄養を補給するという意味での食事は十分であり、シトから体液を貰う必要性はない。
だが、シトからすれば、シノ汁は10年以上常食し続けた主食だ。日本で育ち、米を食べ育った者に、”今日から米の代わりにパンで生活しろ”と言われても、到底受け入れられない話であり、シトもその心境である。
ただ、最近何かと理由をつけられて、食事を拒否されてしまう。
シノからどうにかしてシノ汁を貰う必要がある。だが、何度も同じ状況を経験したシトは攻略法を既に確立していた。
言葉ではダメだと判断したシトはすぐに動く。
素早くシノに接近したシトは、手を肩と後頭部へと回し、二本の触手を背中とお尻へと回し。抱きしめるように拘束する。
「し、シトやっ、だ、ダメじゃぞっ。また、ワ……んむっ!」
シトはシノを持ち上げ、あーだこーだとうるさい口を口で塞いだ。身長差の性で、持ち上げられたシノの足は床を離れる。
シトは舌で唇をこじ開け、口撃を開始した。
「んー! んー!……」
口内を蹂躙されるシノは、抵抗するように身じろぎする。だが、最初は力のあった抵抗も、時間が経つにつれ、その動きはだんだんと弱まる。結局大人しくなり、執拗に攻め立てられた口内の器官から体液を差し出した。
シトの人としての口はシノの体液以外を摂取することはない。故に、その器官はシノの体液を摂取することに特化した器官であり、最近は、抵抗するシノから体液を強制的に輩出させる攻撃器官へと変貌している。
ようやく抵抗をなくし分泌され始めたシノ汁を、シトは舌で味わいながら、ぐびぐびと嚥下していく。しかし、供給される量よりも飲むスピードの方が早いため、口内のシノ汁はすぐに無くなってしまった。赤子の頃ならまだしも、今のシトはこの程度の量では満足できない。
「まはんは、ゆっくぃ……んぐっ!」
じゅぞぞぉー。
シトは体液を運搬する管から強制的にシノ汁を吸い出し、ぐびぐびと嚥下する。出来立て新鮮のシノ汁はどんなものよりも甘美で飽きることはない。
眼下の体液サーバーと化したシノは触手をうねうねとばたつかせ、もじもじと腿を擦りつけ、眼にはハートマークが浮かばせている。
シノが抵抗していたのには理由がある。
元来、シトが幼少の頃は何の問題も無かった。しかし、シトが成長するに連れ、ある問題が浮上してきた。
それはシトがオスとして理想的過ぎるということだ。
まず、シノとシトは同種であり、近縁ではない。いくらシノの体液を栄養源として成長し、家族の様に接してきても、生殖には何の問題も無い。
しかも、シトの容姿はシノの好みドストレートである。シノの配分で栄養を与えて、シノの思うままに育てたのだ。故に、当然の事として、自身の理想の男になるのは、自明の理である。
さらに、種の本能としても理想的だ。口晶蛸の雌が雄を選定する基準は、対象の大きさと、触手に走る模様の美麗さだ。シトの触手に走る模様は幾何学的で黄金に煌めいており、人間でいう所の超イケメンである。
シノはその事実に最近気付かされた。それはシトが生殖能力を有する年齢になったからだ。
そして、それからはシノにとって苦悩の日々が続くこととなる。
純真無垢のシトが、年中生殖可能な人種故に、雄のホルモンだだ漏れで接してくるのだ。
普通に接しているだけでも、気丈に振る舞うのが精一杯なのに、密着して口付けなど絶対に避けるべき行いだ。
しかしそれは、シトの食欲の性で、無惨に凌辱されることとなった。
――じゅぽっ!
ご馳走に満足したシトは口を離した。
眼下のシノは半目で口を開けたまま不定期にぴくぴくしている。
シトはシノを抱いたまま床に横たわった。
「美味かった、ありがとう」
シノの耳元でそう囁くと、シノを抱き枕にし、久しぶりの触手ベッドを堪能しながら眠りに落ちた。