003 ダウナー人外ロリババアママ
遅くなりました
朦朧とする意識の中、少年は肌の触れ合う温かみを感じながらゆっくりと覚醒する。
眼を開いた時真っ先に飛び込んできたのは此方を見下ろす幼い少女の顔だった。
白い素肌に薄い灰色のショートヘアで後ろ手に軽く結っており気だるげな橙の双眼は見開けばくりくりとした愛らしい印象を与えるだろうが瞼は半分下りている。
身に着けている衣服は肩紐の無い模様の入った黒色のインナーシャツに同じく模様の入った黒色の短パンのみであり靴すら履いていないその姿は部屋着のような印象だ。
そして奇妙なのはその背から幾重にも伸びる黒い触手。走る模様にそって紫色の弱い発光を見せるそれは壁や床へと伸びている。
さらに触手の行方を追った目線が捉えたのは肉だ。赤い肉が壁、天井、床、すべてを覆い尽くし胎動さえしている。
「……どうしたものか」
透き通る水の様な声が気だるげに呟く。
「あぅ」
少年は眼前の彼女に意思疎通を図った。
彼女が少年の常識とは異なる存在であることは明白だ。しかし少なくとも言葉すら通じない化け物共よりかは遥かに疎通を図るに値する存在だった。
「……ワシは人で無しよ」
彼女は少年の心を知ってか知らずか突き放すように告げる。
彼女の頭上を通り越し一本の触手が少年の前へと近づいてきた。それは眼前で停止すると真横に一本の亀裂が走り、肉が裂ける嫌な音を発しながら大きな白い歯の並ぶ大口へと変化を遂げた。
開けば赤子など丸呑みしてしまいそうなそれに少年は恐怖を覚える。
だが、少年は手を伸ばした。掲げられた細やかな手は怯えながらも口から液体を滴らせる触手へと近づき、そして触れた。それは少年自身さえ何故そうしたのかわからない、しかし恐怖に抗ってでもなさねばならない行いだと生物としての本能が告げていた。
赤子の意外な行動に少女は驚き眉を上げる。自身が人とは別の存在であると言葉の通じない赤子でさえ最もわかりやすい形で表現した。しかし、赤子はそれを理解したうえで生理的恐怖に身を竦ませながらも触れるという唯一可能かつ最上のコミュニケーションを図ったのだ。
しばらく呆けていた彼女は何かを皮切りに赤子の頬を優しく撫でた。
「はぁ、そうかぇ」
少女は囁く。
「ワシの名はシノじゃ。汝の名は……シトじゃ、シトと名付ける。……母親ごっこも退屈凌ぎにはなろう」
少年シトは思案していた彼女シノが何を決め手に決断したのか分からなかった。しかしシノの微少な表情の変化から自身には気に入られる何かがあったのだという事だけは何となく感じ取った。
暫くシノはシトの眼を見つめていた。
「シトや、腹が減っておろう」
シノはそう言うとシトを持ち上げて優しく口付けする。シトの小さな口へとゆっくりと舌を侵入させ、ドロッとした体液を少しずつ与え始めた。
いきなりの口付けに驚くシトだったが与えられる液体を一生懸命に嚥下する。その液体の味は酸味のある形容し難い味で現代の感覚では食べ物とすら呼べるか怪しい代物であったが体が養分を求める性かそれともまだ一度も使用されたことの無い味覚の性かシトが苦に感じることはなかった。
「幼体故乳は出ぬ。すまぬがこれで満足しとくれ」
少々強引な食事を終えたシトはシノにげっぷを促され、それも終えると暖かい腕の中でゆっくりと睡魔に身を委ねた。