001 俺の終わり
空は朱く染まり、段々と夏の青さを失いつつある。空の様相とは異なり、何度も何度も押し寄せては引いていく波の音は、衰えることはなく鳴り続く。
ある夏の日、港海岸に一人の少年が佇んでいた。
褐色の肌は夏の日差しに焼かれており、ぼさぼさの短い髪は潮風に中てられごわごわと痛んでいる。彼の手には釣り具が握られていて、その傍らにある錆びついたバケツには鈍色の魚類が数匹身じろぎしている。
「そろそろかな……」
夕焼けを見つめる少年はそう呟くと、フジツボ等が満潮時の海面を境にびっしりと敷き詰められている消波ブロックから腰を上げる。手早く道具を片付け、フナムシに引けを取らない慣れた足取りで、ブロックからブロックへと飛び移っていく。
――左足でブロックに着地したその時、少年はズボンのポケットから何かがずり落ちる感触を感じた。それが何かを思い出した少年は、慌ててそれを掴もうと、無理な体制で手を伸ばした。しかし、不運は重なる。元々ボロボロだったサンダルの紐が、その無理な体制に耐え兼ね、嫌な音を立てて千切れた。
「あっ」
一瞬、空を舞った少年は、ドボンッと、その体を背中から水面に叩きつけられた。
慌てて何かを掴もうと手を伸ばす少年。しかし、消波ブロックの敷き詰められたこの隙間の海流は、混沌として、尚且つ強力である。体は抗う間もなく海中へと引き連り込まれ、乱雑な海流に揉まれながら、貝類の群生する消波ブロックへと、何度も体を叩きつけられ、擦りつけられていく。
衝撃で肺の空気を失った少年は、窒息と外傷により意識が途切れるまでの数十秒、地獄を味わう事となる。それは当人にとって、無限に等しい時間であった。
やがて視界は深紅にそまり、その日の陽光と共に少年の意識は途切れた。