狂気との戯れ
TVで報じられる殺人というものはまさにエンタメだ。時に、殺人者の実態を面白おかしく報じるものもあれば、つい最近まで犯罪者呼ばわりされていた者も無罪確定になると英雄にもなる。そう、皆コワいんだ。自分より異常なモノを!非日常を!
僕もそうだった。
小・中・高、僕は勉強だけしてきた。勉強さえしていれば親も先生も誉めてくれるからだ。でも、社会は違う。自分で考え、答えを生み出していかなければならない。しかし、僕はいまだにそんな簡単なことさえ理解できなかった。
与えられた課題に教科書通りの答えさえ出せば、僕は評価される。その与えられた課題だけを解くだけだった。だから、友達も彼女もできなかった。そもそも、僕は自分が嫌いだ。自分の虚弱で細い身体も冴えない顔も。小さい頃から、鏡に映る自分を見るだけで吐き気がした。
そんな僕だから、勉強ができても、大学に入っても変わらなかった。サークルにも入らず、バイトも人と関わりをもたない新聞配達。周りがなぜ充実そうな顔をして学生生活を満喫しているか理解できなかった。それでも、働きたいということで就活は一生懸命やった。だが、人とコミュニケーションを取ることが苦手な僕であるが故、面接なんて上手くいかず、夏まで就活をやっている始末だ。死にたくなった。
「新藤君、どうしていつも暗い顔してるの。せっかくのイケメンが台無しじゃん」
ある日のことだ。ゼミの授業後に廊下を歩いていると、一人の女の子が僕に声をかけてきた。白いワンピースが似合う笑顔が素敵な女の子だ。でも、名前が思い出せない。だって、僕は周りの人間に全く興味がないからだ。
「君、なんて名前だっけ」
僕は女の子から声を掛けられるのが初めてだったので、戸惑って声が震えてしまった。
「いやだなあ。冬月亜里抄だよ。同じゼミじゃん」
確か、そんな女の子いたよな。何となく、顔は見覚えはあった。それが亜里抄と交わした最初の会話であり、僕の人生を狂わす序章だった。




