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或る老人の追想

作者: 星宮 未羽

お久しぶりです!


今回は、と或る老人が死の間際、思っていること、伝えたかったことを書きました。

とても短いですがご容赦を。


あなたもぜひ、『お前』に想いを馳せて……お読みください。

 40年前のあの日、お前と始めて出会ったあの日。

 突然の強い風に目を覆い、再び開けたその目の前にお前はいたね。

 とても美しかった。人にあるはずのないその背中にひろがる翼に、とても目を奪われた。

 お前は、そんな美しい姿で、とても嬉しそうな顔をしていたね。

 今思えば、あの時お前は私をさらって行こうと思ってたんじゃないのか?だから、あんなにも嬉しそうな顔をしていたのだろう。

 なんだって良いのだよ。あの時お前が私の前に現れてくれたのだから。その手を伸ばしてくれたのだから。

 拒めるはずがなかろう。お前は人とは違う幻想的な魅力をまとっていたのだよ。

 お前に伸ばされた手を取った時、とても体が軽くなった。宙に、浮いていたから。

 お前は翼を持った人だったのか?それとも、人の姿をした鳥だったのか?今となってはわからない。


 気持ちよさそうに空をとぶ姿は今でも鮮明に残っている。きっと、死のその瞬間にも思い出すだろう。そのまま空の彼方へ連れていかれてもかまわないとさえ思った。

 それでもお前は私を地上に戻してくれたね。

 少しホッとしたけど、お前と離れてしまうと思うととても苦しかった。

 強い風とともに、お前は幻のように消えてしまう。

 今起こった事は全て幻だったのではないだろうか。

 空に浮いたあの感覚も、お前のあの幻のような美しさも、本当は、幻だったのではなかろうか?

 毎日毎日、現実か幻かわからないお前のことが頭から離れなかった。

 攫ってくれて構わないから、もう一度その姿を見せて欲しいと強く強く願った。

 お前は知っていたのだろうか。私がこんなにもお前を想い焦がれていたこと。上から見て、クスクスと笑っていたのだろうか?それとも、少しあっただけの私のことなど忘れてしまっていただろうか?

 どちらでもよかった。だって、お前はもう一度現れてくれた。強い風を従えて、私のもとまで飛んできてくれた。


 初めてあった時と全く変わらない姿で、美しさで、何年も、何年も。私がどんどん年老いていっても、お前の姿は全く変わらない。

 私を連れ去ることもせず、はじめと同じ顔で、同じ瞳で私を見つめ、空を舞い、風と一体となり、そうして私を地上へ戻す。

 いつ来てくれるのか、次は何日先か、あるいは何年も先なのか、私には分からなかったが、必ず来てくれると、いつからか信じていたよ。


 私の一生はお前に満たされていた。

 お前はどうだったのだろうか。

 お前の長い長い生の中で、私といた時間はほんの一瞬にすぎないだろう。

 だって、そういうことなのだろう?お前の姿が変わらないのは、私とは、違う世界を生きているから。お前がいつも風とともに来るのは、お前はここには生きていないから。

 だから、もっとよけいに、お前がわざわざ私という人間に会いに来てくれることが嬉しくてたまらなかった。


 だけどもう、お前とは会えないのだろうね。


 きっとあの日が最後だったのだろう。

 私は見ていたよ。お前のあのかわらぬ瞳が揺らいだところを。

 いつも伸ばしてくれていたその手を差し出してくれなかったのは、最期に連れていってはくれまいかと望んだ私の手を取ってくれなかったのは、なぜだろうか。

 初めてだった。お前に拒まれたのは。何十年も変わることのなかったお前の瞳が揺らいだのは。

 私がもう死にゆく老人だからだろうか。

 もしそうなら、どれほど光栄なことだろう。

 お前の中に、私という人間が入っていられたということなのだから。


 先に死んでしまうことが悔やまれて仕方がない。

 お前は、その長い長い生の中で一体何人に先立たれたのだろう、何度ひとりにされたのだろう。

 お前が私と会わなければ、悲しませもしなかっただろう。だけれども、出会わなければよかった、なんて、思えない。それほどまでに、お前と過ごした日々が愛おしかったから。


 お前は、私という人間の命がついえる所など見たくもないのだろう。

 私と出会わなければよかったと、あの日を悔やんではないだろうか。どうかそんな思いはしないで欲しい。私はお前のおかげで満たされていたのだ。

 だから、どうか、そんな目をしないでおくれ。そんな顔をしないでおくれ。

 私を憂いてくれることが嬉しいほどに、お前にそのような顔をして欲しくないのだ。


 あぁ、もし叶うのならば、もう一度お前に会いたい。

 この広い、どこまでも続いていく空に大きく翼を広げて降りてきて欲しい。

 その時は、もっと、笑っていておくれ。

 初めて出会ったあの時のように、今まで過ごした時間のように。

 クスクスと笑っていておくれ。人のちっぽけな命になど振り回されないでおくれ。あのような顔でなく、もう一度、笑顔を……



 目を閉じよう。静かにおわりをむかえよう。

 まぶたの裏にうつる、お前の姿を見よう。

 風を感じる。お前が従えてくる風。私を、つれていってくれる風。


 それは、私の幻想か、あるいは______



最後まで読んでくださってありがとうございます!


誰かに読んでもらうための作品、というよりは、自分が書きたいことを詰め込んだ作品、というような感じになってしまいました。

読みづらかったらすみませんm(_ _)m


読んでくださった皆さんが、どのような『お前』と『私』を想像したのかなぁと思うとワクワクします。


もしよければ感想や、雰囲気は違いますが私の他の作品も、読んでいただけたら嬉しいです!

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