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78 これからに向けて

 

「ええっと、じゃあ、もう遠慮なく聞くけどさ、これからってどうするの?全部魔王様にも話したんだよね?」


 一番に復活はしたけれど、少し目の赤いジギーさんが小さく息を吐いて、私と魔王様見る。

 私は魔王様に頷いて、これからの事を説明した。


 ジギーさんが考えてくれた方法が使えると分かった事、それをするには莫大な量のファンタジー水が必要だって事、ロイ君に使って分かったのは、心に引っ掛かりがあると魔法が入らない事。

 だからご両親も先に治した方がいいと伝えると、皆は急に難しい顔をした。


「私も魔法の制御をもっと鍛錬せねばならないのでそれなりの時間は必要だ。その間にふぁ、ファンタジー水を集めるとして、後は…ユリエが居てくれれば、その、恐らく平気なのだが…」


 少し恥ずかしそうに私を見る魔王様は、照れてはいるけれど、どこか困り顔。


「魔法使う時に使う魔道具とか、集める為の水瓶も追加で作るとしても、その素材や結界石を集めるのにも時間は要る。その辺はオレがやるけど、服も違う素材で作らないとね。竜の素材なんかが良さそうだけど…」

「素材ならレイが集めてきます!」

「後、魔王は日頃からユリエの魔法を体に馴染ませた方がいい。ユリエの作った物やファンタジー水使った料理を食べるべき」

「…問題は精霊国、ですね。」


 ロイ君が最後にそう言って、皆は一斉に溜息を吐いた。

 精霊国、またお前か。


「ユリエ様はもうご存知だと思いますが、食料のほぼ全ては精霊国からの物です。それはこの城だけでなく、魔国全土に及ぶ。それに療養の為にご両親をお預かりして貰ってもおります。ですので、魔国は精霊国に全く頭が上がらない。そんな状態でご両親を治す手立てがここにあると伝える事は……最悪、ユリエ様を寄越せと言われかね…「ならん!!」


 ロイ君の言葉じりに被せるように、拒否の言葉を発した魔王様が、ちょっとチリッとする空気と共に勢いよく立ち上がる。

 そんな魔王様に皆は大きな溜息を吐いて、ロイ君が存じております。例えばの話です。と魔王様を諫める。


 不安を隠さない表情で私を見る魔王様に、とりあえず座りましょう?と促すと、渋々といった様子で魔王様は大人しく座ったけれど、その顔は見事な不服顔だ。


「ですから、不甲斐ない話ですが安易にご両親をお助けする事ができません。まずは借りをこれ以上増やさない方法と、要望を断れる手札が必要です」

「ねぇロイ、ファンタジー水は?エルフには凄く効く交渉材料になるんじゃないの?」

「駄目。それを両親を治す前に知られてはいけない。逆に要望が高くなる」


 ロイ君とレイ君の会話にプリシラさんは眉を寄せ、険しい顔で強く駄目出しをする。


「じゃあレイがこっそり転移でご両親攫って来ますか?」

「魔国の魔素は乱れが多い、両親への負担が大きすぎてここでの治療は難しい。治すなら、精霊国に行かないと駄目」

「レイ、精霊国にはエルフだけでなく精霊も居ます。誰が魔法を使ったのかもすぐに分かる。魔国の者が無断で入ったと分かれば、精霊国との関係が険悪になる。今の状態で、国交に響くのは本当に困る」

「う~ん……頭が爆発しそうです………」


 レイ君はそう言って机に突っ伏した。

 確かに頭の周りに小さな火花が散っているので本当に爆発しそう。


 私がそんな心配をしていると、チリチリしているレイ君の隣に座っていたジギーさんが、話すかたわらにレイ君の魔力が漏れてる頭に手を置くと、何故か一瞬で火花は収まった。


 え、その方法、今度教えて貰おう。

 魔王様がよくチリチリになるので。



「……一晩あれば…」



 私がチリチリを治める方法に注目し、皆がどうしたものかと話し合う中、ボソッと呟いた魔王様の一言に皆がピタリと止まり、静かになったそこでゆっくりと魔王様を振り向く。


「……一晩あれば、一国程度、潰せる」


「「「「「!!!?」」」」」


 じっとりした目をした魔王様が、また潰す方向へ向かおうとしている。

 何故そうすぐに潰したがるのか。


 皆は顔を青くしてフリーズしてしまっているので、ここは私が頑張るしかない。


「魔王様、ダメ」

「しかし」

「ダメ!」

「何故!ユリエを盗られるくらいなら国などいくらでも「魔王様?もうお布団しませんよ」

「……」


 止まった。良かった。


 魔王様は私が絡むと暴走しがちだな…、嬉しいような何とも複雑な思いだ。

 魔王様への手札は見つかったけれど、精霊国に対する対策は依然見つからない。


 食料事情は一応の考えがあるけれど、手札か、と私が悩んでいる横で、魔王様は念を押されている。


「ええっと、潰す方向はなしでね?頑張って盗られない方法考えるから、あの国潰すとか世界に関わるから、ホントやめてね?」

「しかし、どうにもならなければ盗られるかも知れないのだろう…絶対に嫌だ。そうなったら耐える自信は全くない」

「魔王、世界樹を潰したらいずれ世界が滅びる。そうなったらユリエだって暮らせなくなるんだよ?」

「それは…しかし……」


 ジギーさんとプリシラさんにあやすように諫められている魔王様は駄々っ子モードだ。

 本当に嫌な事があると一回は入るモードだけれど、規模が大きいからとても大変。

 でもちょっと可愛いと思ってしまう私も大変。


 そしてよく分からない内容が見え隠れしている。


 世界樹。世界樹かぁ…あったな、前の世界でも有名だったやつだ。世界樹はエルフが大事にしている樹ってイメージのあれ。詳しくは知らないけれど、しかし、サラッと常識のように言い流されていた、世界樹がなくなると世界が亡ぶとかって普通に怖い…。


 精霊国、ちょっと面倒なイメージだったけれど、世界樹を守ってくれてるんだろうし、ご両親だってお世話してくれている訳で、少し捉え方を見直した方がいいのかも知れない。


 私がそんな事を考えている間にも、ジギーさんとプリシラさんに「ユリエが居なくなれば魔国は亡ぶ」と王様らしからぬ発言をして、頭を抱えさせている魔王様に、ロイ君が頭を抱えていた手を下ろして魔王様に向かう。


「……魔王様、ユリエ様とご結婚なされれば、ユリエ様の存在は大々的に知られる事になるのです。魔王様が大事なものは宝箱に隠しておきたい性分は理解しますが、何もかも隠してばかりはいられません。ですので、魔王様は潰す事よりも、ユリエ様を守る方法をお考え下さい」

「む…そうか、確かに。そうだな…」


 ロイ君の言葉に魔王様は一瞬目を見開いて、とても真面目に頷いてからとても真剣に考えだした。

 ロイ君、さすが。


 その手腕に思わず感嘆の視線を送ると、目が合ったロイ君は一仕事終えたように小さく溜息を吐いた。



 やはり魔王様は抑えられたけれど現状は変わらない。


 精霊国に対する手札…。でも、魔国は今までで出せる物は全て精霊国に出してしまっている。なら、現在から先でそれを見付けなければならない。

 その時間は、あるんだろうか……。


「その、ご両親の容態的に、時間は大丈夫なんでしょうか」

「そうだね、後100年か200年くらいは大丈夫だと思うよ」

「うむ、母は眠っているが、父は目を覚ましていると聞いている。まだ時間はあると思う」


 そうプリシラさんの言葉に魔王様は頷く。

 時間の間隔がデカい。そしてそれがご両親の容態的に、長いのか短いのか、その感覚がいまいち分からないけれど、食料事情とか諸々含め、今年中には手を打ちたいと思っている。

 そしてもしそれがちゃんと上手く行けば、時間的には十分過ぎる程でおつりがくる筈。


「じゃあ時間はまだあるようなので、まずは食料事情の改善、やってみませんか?これは、これ以上精霊国に借りを増やさない為にも、魔国が精霊国に対して頭を上げる為にも、そして魔国の為にもどの道解決しないといけない事ですし、まず品種改良がやってみたいです」

「何それ」


 やはり一番に乗り出したのはジギーさん。研究職だしやっぱり興味があるんだろう。

 プリシラさんと魔王様は首を傾げて、ロイ君は興味深そうにこちらを見ている。

 レイ君は未だにテーブルに沈んだままなのだけど、多分これは寝てるんじゃないだろうか。


「魔国の環境を改良するのはちょっと無理がありそうなので、今の状態でも育つ作物を作りたいんです。何より、無駄に労力や素材が掛からない、ファンタジー水と私の魔法があれば出来る気がするんですよね」

「その品種改良と言うのは、作物自体の存在を変える、と言う事か?」

「そう、なるんですかね?向こうの世界では作物を組み合わせて上手く行くまで繰り返してましたけど……こちらの世界には魔法があるので、なんとかなるかな、と」


 とても複雑そうな表情で私を見ている魔王様に首を傾げると、魔王様も首を傾げる。


「いや、存在を変えるって…すんごいデタラメなんですけど」

「この世界では作物にも魔力がある。寿命や存在は変えられないよ?新たに生み出すなら分かるけど…」


 ジギーさんが引いたように椅子に埋もれ、更に首を傾げたプリシラさんの髪がサラリと揺れる。


「寿命を変える気はないですよ?でも、作物は作る物です、ならそれは[製造]です。願いが込められる」

「え。 うわっ……出来るわ。怖い」

「…わぁ…エルフ形無し…」

「よもやそのような事が…だが、確かに」

「でも一人じゃ無理なので、手伝って欲しいです」


 品種改良。これが上手く行けば、国の在り方を変えてしまう物になる。それは私一人の判断では手に余る物だけれど、私なりにこの国に出来る事を考えると、許されるならこれは絶対に成功させたい。


 まだ半信半疑な皆に品種改良の方法を詳しく話していると、そんな私をロイ君がキラキラした目で見詰めている。


「……ユリエ様、沢山お考え下さったのですね。未来のお妃様がこの国想いでロイは嬉しいです! ですので魔王様、お早くご婚礼を」

「うっ……うむ。善処する」


 柔らかく私に笑い掛けたロイ君が、魔王様に真顔で迫る。

 レイ君も結婚に執着するし、精霊の血が入っていると、結婚って何か重要なファクターなんだろうか。


 でも魔王様も嬉しそうだし、もう結婚を急かされても頑張れる事が分かっている今は、受け取る気持ちも違うのかも知れない。そう考えると嬉しい。


「ユリエ、この国を想ってくれてありがとう。私に出来る事があれば何でも言って欲しい」

「ふふ、きっと沢山ありますよ。その時は頼りにしてますね」


 魔王様がとても嬉しそうに笑うものだから、つられて更に嬉しくなっていると、そんな見つめ合っている状態の私と魔王様に、プリシラさんとジギーさんの少し呆れた声が重なるように掛かった。


「「それはよそでやって」」


 とりあえず、この件については食料事情から何とかしてみようって事でその場はお開きになった。

 皆寝てないらしいし、私も寝てない。


 部屋に戻る時、魔王様が私と離れる事を少し惜しそうにしていたけれど、一緒にお昼寝しますか?と尋ねたそれに魔王様はしっかりと真っ赤になって、もじもじしながら「おやすみ」の挨拶をくれた。


 距離が縮まったとは言え、次に魔王様の寝顔を拝めるのはまだまだ先になりそうだ。






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