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413 試作品発表

 エスさんから仕入れたミラクルなポポンの粉でホットケーキミックスは無事に完成し、ミラクルなポポンの粉、略してミラクルポポンは次回の交易で沢山仕入れて貰おうと思う。

 後、エスさんが持って来てくれた試作品のお酒も、しっかり量産をお願いしておいた。


 余りお酒には詳しくないのでアレなのだけど、精霊国では魔国に伝えたミードの他にも、昔から色々なお酒は造っていたらしく、私がお願いした時に目新しかったのは、お米から作る日本酒と、何故か作られていなかったワインと数種類の果実酒くらい。


 そりゃ魔素水が大好きで植物に強く、ミラクルポポンまで存在する国なのだから、お酒作り、捗るでしょう!

 羨ましい!


 まぁミラクルポポンは今後手中に収まるのでいいとして、精霊国で作られているお酒の類は、今もまた魔国に輸入され始めているのだけれど、お酒の種類によっては広まるのに時間が掛かるかも知れない。


 何せ魔族さんの殆どはかなりの甘党。

 他の種族の方々がどうかはまだまだ分からないけれど、かなり前に精霊国からお酒が伝えられた時、魔国で流行ったのは自国で作れる事もあってか、蜂蜜酒である甘いミード。


 けれど、今も昔も、精霊国で一番作られているお酒は、苦みを感じるエールの類。

 理由は単純に、一番魔素水の飲みごたえを感じるから、らしい。


 プリシラさんが言っていたのだから間違いない。


 因みに、ワインやその他の果実酒が少ない理由はこちらも単純。魔素水を使える分量が少ないから、である。


 確かに、果物の分量だけ魔素水を使う事は減るだろうから、魔素水第一で味を決めるエルフさんにしたら、そこは譲れない所だったんだろう。


 まぁしかし、魔国で流行るのは多分逆になって来るので、水の氏族さんには今後、ワインや果物を漬けこんだ果実酒、そしてお米から作る日本酒なんかを頑張って作って頂きたい。


 そんな水の氏族さんにお願いしている日本酒やワイン。

 元からお酒作りが得意だった為か、既にお酒作りの知識がある為か、甘口から辛口、更には純米酒や吟醸酒、赤ワインに白ワイン、ロゼやらオレンジ色の知らないワインまで、既にこだわりの深さが窺えるラインナップと仕上がりだった。

 本当に、植物関連でエルフさんは侮れない。


 そして果実酒の類は種類が多過ぎて、お城や軍部の厨房さんにも協力して貰って試飲させて頂いたけれど、味も大丈夫そうだったので、全て量産をお願いしている。

 この調子だったら今年の暮れか、来年の頭には交易品のラインナップに並ぶらしいので、まず日本酒が輸入できるようになったら、日本食、沢山作りたいと思います。


 そんな得る事の多かった翌日。


 早々に総務へ試作品発表の予約を入れると、午後から軍部の総務部で試作品を提出する事となり、予約時間である午後2時に総務部の扉を開くと、そこにはロイ君だけではなく、応接セットに集まる三帝さんの姿があった。


「あ、皆さんお久しぶりです、お元気でしたか?」


 そう挨拶をする私に、笑顔で敬礼をくれる三帝さんは、どうやらゴーレム義肢についてを話してたらしく、応接セットのテーブルには改良を重ねたゴーレム義肢が置かれている。


「王妃様!このゴーレム義肢は凄いもんだな!ウチの軍のやつらも泣いて喜んでたぜ!今氷山に放り込んで寒気の検証に行かせてるが、概ね良好だ!」

「こっちの領のもんも海に出させてる!海水に浸っても平気だった!ありがてぇって伝えてくれって言ってましたぞ!」

「当人達に代わり、感謝申し上げます」


 そう各々笑顔でくれる感想に、皆の協力あっての事ですと笑顔を返していると、ゴーレム義肢を職員さんに渡してテーブルを空けたロイ君が、私を席に案内して場を改めた。


「本日の試作発表ですが、三帝がどうしても同席したいと申しまして…急にはなるのですが、お許し頂けますでしょうか」

「ああうん、大丈夫。試作品は沢山あるし、足りなくなってもすぐに作れるから」


 新たな甘味と聞いては帰れませんな!と笑うアルムさんとジグルスさん、そして娘さんが甘味大好きなカウロスさんは、娘さんが暴走する前に先以て情報が欲しいんだろう。


 ちょっと審査員が増えて失敗出来ない感はあるけれど、ホットケーキ、嫌いな魔族さんは居ないだろうから、おそらく失敗にはならないだろう。


 しっかり準備もして来たし、ホットケーキミックスはそこそこある。人数が増えても問題ない。


「では早速。街へ普及させたい甘味はこちらです!」


 そう張り切ってテーブルに出したのは、ホットケーキミックスの粉。そして、お皿の上でホヤッと甘香ばしい香りを漂わせるホットケーキ。


 そんなホットケーキの登場に、応接セットに居るロイ君達だけではなく、総務の皆さんの視線も一気にこっちに向いた。


 あ、皆さんも食べる感じです?


 だがしかし、沢山焼いて来たので問題なし。

 そうどうぞどうぞと配って歩くと、食べた人からは幸せそうな声が上がる。


 ふふふ、でしょうとも。

 縦に膨らんだホットケーキは美味しいでしょうとも。


「ユリエ様の甘味ですので、味の心配は全くしておりませんでしたが、このホットケーキはこちらの粉から作る、と言う事でしょうか?」


 ぺろりとホットケーキを平らげたロイ君が、空になったお皿を少し名残惜しそうにしながらも、着目してくれたホットケーキミックス。

 そうです!と笑顔でホットケーキミックスの説明をしていると、材料の少なさと手軽さに、ロイ君だけではなく三帝さんも驚いている。

 そしてシレッとお代わりがないか尋ねて来るので、とりあえずもう一巡ホットケーキを配っておいた。


「なるほど。この粉の制作に必要な物は、精霊国からの物とは言え、どれも量を確保出来る小麦・砂糖、そして交易内容にあるポポンの粉。実際作る場合に必要な物は、魔国の中でも流通が非常に多いパオパブの液と卵だけと言うのは、原価も低く工程も少ないので理解し易い。これは素晴らしい案ですね」

「あ、けど、ホットケーキミックスの配合は、既定の分量を混ぜるだけで簡単なんだけど、注意しないといけないのが湿気で、ポポンの粉は水分を吸収すると膨張したり発酵も進むから、粉物の瓶に使ってる珪藻土の蓋が結構必要になるんだけど、そこは大丈夫かな」


 問題ありませんと頷きながら、サラッと筆を走らせた書類を職員さんに渡すロイ君。

 どうやら早々に瓶の発注を掛けてくれているご様子。

 有難い。


「今回もホットケーキミックス並びに、ホットケーキのレシピは公開なさるのですよね?」

「うん。そしたらいずれはホットケーキミックスの原材料だけ買って、粉から調合したり、アレンジとかもして貰えるかなって」

「アレンジ…。この粉は応用が効くと言う事でしょうか」

「そう!ホットケーキミックスはパンにも使えるし、ドーナツとかクッキー、パウンドケーキとか、凄く沢山のレシピに使えるから、ホットケーキミックスを使い慣れて貰えば、自分達で新しい料理やお菓子を作って貰えると思ってホットケーキミックスを作りました!」


 どやっ、と胸を張ってしまう私に、二皿目を食べ終わったロイ君が静かに頷いた。


「では、その応用力がある様も、同時に広げなくては勿体ないのでは?」


 ぬ…。

 応用力がある様、ですと?


「今までユリエ様が広めて下さった食材・料理に関しましては、基本焼く・煮る・投じるだけで作れる物でしたし、内容的にも馴染みのある肉や海鮮を主とした物でしたので、料理スキルを持っている者であれば、いずれ自分流にアレンジする者も居るでしょう」


 はい。それは嬉しい事です。


「しかし、今回の件に関しましては、自己流のアレンジは些か期待出来ません。何故なら、ユリエ様にはホットケーキミックス、そしてその先で応用出来る品の知識がおありですが、街の者には、まずアレンジできそうな甘味の知識がありません」


 あ……。


 そ、そうでした……。


「そして何より、自らで新しい甘味を作れるようにと言うユリエ様の希望を叶えるには、まず第一に、突破しなければならない問題が御座います」

「問題…」

「はい。甘味を作る者は、料理人の中で蔑視されている問題です」


 あ…!!


「先程ユリエ様がパンにも使える、と仰っておりましたが、ホットケーキミックスを売り、パンにも使えると伝え、そしてそのレシピを公開したとしても、このままではパン屋が甘味を作る事はありません。何故なら、それは“甘味を作る物好き”だからです」

「……」


 そ、そうだったぁ……。軍部ではもう甘味を作る人を侮る人は居ない、と言うか、逆に甘味を作れるプリンさんは、各所からとても頼りにされている。

 だから忘れてしまっていたけれど、街ではまだまだ以前のまま。師匠から教えて貰える一つしかないレシピの中で、甘味を選ぶ人は“物好き”なのだ。


 確かにまずはその問題を打開しなければ、きっとホットケーキミックスで新たな甘味を作って発信しようとする人は居ないだろう。


 どうしたものか、と難しい顔で黙ってしまった私に、軽く笑ったロイ君が爽やかに笑う。


「ですので、まずは倒してしまいましょう。」


 ん? え? 倒す…とは?

 そう思わず疑問が声に出てしまった私に、良い笑顔のロイ君がニコリと笑う。


 あ、ニコリだ。怖い。

 と、笑顔で危険度合いを認識させるロイ君が、そのまま危険な答えを笑顔で語った。


「はい。以前ユリエ様が軍部の厨房で全員を黙らせた事と同じです。甘味で殴って、黙らせればよいのです」

「…………。」


 甘味で、殴る。

 そのパワーワードに、息をのんで再び黙ってしまった私の周りでは、ホットケーキを食べている三帝さんがロイ君の言葉に大きく頷いている。


「うんうん。王妃様の料理を初めて食べた時は、竜に踏まれたくらいの衝撃があったからな。黙らせるには食わせるのが手っ取り早ぇな」

「だなぁ。俺も落雷が直撃したくらいには衝撃があったからなぁ…。街の奴らなら、頷くしかなくなるだろうなぁ」

「確かに、それが一番効率が宜しいかと。敗者は勝者に従うものですし」


 え、普通だった?

 甘味で殴るの、普通だった?!






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