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398 じーじ隊長

 医療部の皆さんに口止め料と言う名の差し入れを渡し、お茶をしながら魔力の貯まり方についての説明を聞いているけれど、これ、早く貯まっている理由は何となく分かる気がする。


「多分、【生活魔法様】の影響じゃないかな」

「うん、きっとそうだろうね。ユリエのユニークスキルの要素を考えれば、貯まるのが早い理由にも頷ける。そうなったら、想定してるよりも早くに子供を授かるかも知れないし、他の部署にも連絡しないといけないね」

「ほ、他の部署にも……」

「うん。最低でも、子供用品を作るリリーの部署、子供の食べる食材を管理するヨウグの部署、子供が魔法を使う事に対応するジギーの部署。後、総務には必ず連絡する事になるから、ほぼ全部だね」


 デスネ。 と、渋い顔で医療部の人が淹れてくれた、甘みのある薬草茶を飲んでいると、軽く笑ったプリシラさんがカルテを置いた。


「ふふ、ユリエが魔王みたい」

「え、それは、どう言う?」

「子作りに過剰反応してるとこ」

「! そっ、それは、だって!お…思ってたより立ち入ったお話になったから……!」

「ふふふ、そうだねぇ。でもユリエ、王妃だから。王妃の妊娠関連は国にとっての一大事だから。仕方ない」


 うぐぐっ…と、ですよね感をお茶と一緒に飲み込んでいると、医療部の扉が元気な声と一緒に開かれた。


「こんにちはー!お薬お願いしまーす!」


 元気な声の主はレイ君。

 朝は元気だったし、お薬?と視線を向けたそこには、ビシッと手を上げて元気に笑うレイ君の後ろに、初老の男性が立っていた。


 魔国では初めて、と言うか、私が出会った中で初めて見る、おじいちゃんに近い年齢を感じさせる深い皺の刻まれた、けれどその年齢感にそぐわぬガッチリ体型な背筋を伸ばす、水色掛かりの霜髪を後ろに流している、世に言う“イケオジ”って感じのおじいちゃんが居る。


 お年寄りとは言え元気そう、と眺めてしまっていた私に気付いたレイ君は、パッと笑顔を咲かせて私の方へ走って来た。


「あ!ユリエ様!今日も連行されたんですね!」


 あ、はい。連行されてます。

 そう苦笑する私の膝に抱き着いていたレイ君の後ろでは、イケオジさんがこちらに向かって優しい笑みで敬礼をくれているので、笑顔で会釈を返しておく。


「そうだ!ユリエ様!ユリエ様はじーじ隊長は初めてですよね!こちら、軍部の新人を鍛える教官のじーじ隊長です!昔、レイとロイを助けてくれた凄く強いじーじなんです!」


 とても嬉しそうなレイ君に紹介されたじーじ隊長に、ああ!と笑顔になった私に対し、もう一度綺麗な敬礼で笑顔をくれるじーじ隊長が、見事なご挨拶を下さった。


「一端の兵が王妃様にお目通り出来ます事、大変嬉しく存じます。魔王様、延いては魔国を、そして、私事ではありますが、ロイを治して頂いた事、深くお礼を申し上げたい」


 そんな丁寧な言葉を下さるイケオジさんに、こちらこそ、レイ君とロイ君を助けて下さってありがとうございました、とお礼を言うと、とても優しい笑顔でもう一度頭を下げたじーじ隊長は、正しく自己紹介を下さった。


 じーじ隊長の正しいお名前はジアスさん。魔族さんで何と御年780歳。

 周りからはジアス教官と呼ばれているけれど、レイ君とロイ君だけは“じーじ隊長”と呼ぶ事があるのだそうだ。


「レイとロイに会った時は、一番隊の隊長を務めさせて頂いておりましたのと、二人がまだ幼く“おじいちゃん隊長”と呼ばれていたのが短くなって、今の呼び名となっております。どうぞお好きにお呼び下さい」


 そう笑うジアス教官の足にレイ君が抱き着きながら、「じーじ隊長はじーじ隊長です!」と笑っている。

 何だか孫とおじいちゃんみたいで、見てると勝手に和んでしまう。


「じーじ隊長は元一番隊の隊長で、レイとロイが捕まってる時に助けに来てくれたんです!それに、沢山戦い方も教えてくれたし凄く強いし、レイはじーじ隊長が大好きなんです!」

「ふふ、私も孫が増えたように思えてしまい、懐いてくれる度に鍛えていたら、今やレイもロイも王城専門員ですからな、血は繋がっておらずとも鼻が高くなってしまう」


 嬉しそうに笑うじーじ教官…じゃなくて、ジアス教官に、こちらも嬉しくなってしまう笑顔を返していると、そんなこちらの会話にプリシラさんが声を掛けた。


「ジアス、いつもの薬?」

「ああ、そうですそうです。雨の季節はどうにも老体にはよく響く」


 席を勧めるプリシラさんに苦笑しながら、椅子に座ろうとしたジアス隊長…ではなく、ジアス教官の動きに違和感を感じてよく見ると、ジアス教官の片足は義足、と言うか、鉄の棒。


 そんな足をじっと見てしまったせいか、義足を撫でたジアス教官が私に笑った。


「100年程前にしくじりまして、お見苦しくて申し訳ない」

「い、いえ!見苦しいなんて事はありません!…けど、まだ…傷みますか?」


 ジアス教官の義足部分、膝上までしかないその足は、魔力回路の途切れた部分で魔力がモヤッと荒れていて、あれは熱を出しそうだな、と思って見ていたそこから顔を上げると、やはりそこを摩ったジアス教官が苦笑を浮かべる。


「雨の時期になると、なくなった足まで未練たらしく痛みを訴えて来ましてな…ないと理解している筈なのですが、困ったものです」

「…雨の時期、だけです?普段は痛くない?」

「ええ、普段は薬に頼る程ではありません。しかしながら、雨が降ると熱を持ってしまって、どうにもバランスが崩れでふらついてしまうので、いつも熱を下げる薬を貰っております」


 ああ、雨が降ると気圧が下がって古傷が痛むんだろうな。けど、普段もそれなりに痛いなら、幻肢痛って事もあるのかな…。


 そう一人であれこれ考えている私の膝にトスリと重さが掛かったので視線を落とすと、私を見上げているレイ君がキラキラした目を向けている。


「ユリエ様、もしかしてじーじ隊長も治せますか!?」

「ん、え、それは、どうなんだろう…」

「ユリエ様の魔法で何とかなりませんか?じーじ隊長、いつも足が痛そうなんです。雨が降ると熱も出るのに、レイが連れてこないと薬も飲まないんです!本当に困ったものなんです!」

「そっか…。それは、治せたらいいとは思うし、どうにか出来たらって気持ちも山々ではある、んだけどー…」


 これは、私にどうにか出来るものなんだろうか…。

 確かに【生活魔法様】は整えるのが得意ではある。けど、それはきっとモヤッとしてる魔力回路の部分を整える事が出来るだけで、なくなった足には魔力回路はないんだから、整えられる場所がない事になる。

 むしろ、ない足が痛いのは、やはり幻肢痛的なものなんじゃないだろうか…。


 ならこれは、お薬とか整えるとか、そう言ったものとは違うアプローチが必要な気がする…。


 そう思って、プリシラさんに一つ確認。


「プリシラさん、幻肢痛って知ってる?」

「げんしつう……ああ、なくなった体の部位が痛むやつ?」

「そう、それ。それって治療法はある感じ?」

「いや、ないね。昔、なくなった事を認識出来てないなら、認識出来るようにもう一回切るってのをやった記録はあるけど、痛みは消えても寿命も縮むから、結局やらないようになったらしい。」


 あわわ、ハード…。


 でも確かに、前の世界でもその治療法があったって聞いた事はあるから、的外れな事ではないんだろう。

 でも、この世界で魔力回路を損傷、失う事はそのまま寿命が減る事になるんだから、辞めて正解な治療法だったとも思う。

 そして、後私が幻肢痛で覚えている治療法と言えば、ミラー療法と…と考えている隣で、プリシラさんが説明を続けた。


「後は、鏡写しで自分を納得させる方法もあるけど、それも効く場合と効かない場合がある。後は、痛みを感じてるのが神経や血管だけじゃなく、魔力回路の場合。これはどうにもならない」


 あ、もうやってるのか……。

 でも、魔力回路が問題なら、特級ポーションとかはどうなんだろう。


「えーっと…特級ポーション的な物でも、無理っぽい?」


 そう小声でチラッとプリシラさんにお伺いと立てると、少し目を細めたプリシラさんが大きく息を吐いた。


「エリクサーや特級ポーションなら欠損部位の再生は出来る。けど、失った事を自覚してから長く時間が経過した場合、再生出来るのは体の部位のみ。魔力回路が再構成される事はないし、ジアスの場合は自覚してから時間が経ち過ぎている。だから体の部位を再構成出来ても魔力回路は再構成されない。再構成されなければ痛みは続く」

「な…なるほど……。でも、せめて足だけでも再生出来れば、少しは良くなる可能性もあったり…」

「魔力回路がない部位を再生すると、今度はそこに魔力を通そうとして体を痛める。最悪継ぎ目で魔力が爆ぜて再生部位が爆散する」


 こっ…怖ッ! と血の気の引いた分だけ身を引いた私に、ジアス教官が「ふふふ」と笑いを零した。


「この老骨を労わって下さる王妃様のお気持ちだけで十分です。レイが無理を言って申し訳ない」

「……何か出来たら良かったんですけど……調整だけでもしてみましょうか?」

「いやいや、己の身体とは長年の付き合い。これは魔力回路が原因だと言う事は分かっておるのです」


 やはり優しく笑いながら、ない足を擦るジアス教官は、懐かしむように雨の降る窓の外に視線を移した。


「それに、これは教訓なのです」

「教訓…」

「はい。足を持っていかれたのは100年は前。いくら長命種とは言え、私の魔力は多くない。600を超えれば体は衰え始め、戦闘力も衰える。本来ならばそうなる前に、前線で戦う遠征隊の座は若手に回すべきだったのですが…居座り続けたツケと言いましょうか、この足は、もう上手く戦えんのだと、己に知らしめる為のものだったと思います。そうでもなければ、まだ図太く居座っていたかも知れませんからな」


 ははは、と笑いへ昇華させ、私を気遣うような笑顔をくれるジアス教官に、私もレイ君もシュンと眉が下がってしまう。


 今はもう教訓を踏まえているのだから、もういいのでは?と思ってしまうが、ご本人が望まないのに無理強いは出来ない。


 そう何だか気持ちがモゴモゴしてしまう私の前では、医療部の羽人さんからお薬を貰って、お礼を言っているジアス教官にレイ君が口を尖らせ、拗ねたような言葉を零している。


「…じーじ隊長はそれでもレイとロイを助けてくれました……足がなくても強いんです…もう教訓とか要らないと思います……」

「フフフ、最後にレイとロイを助ける役に選ばれた事は、今でも誇らしく思っておるよ」


 温かく笑いながら、ガシガシと拗ねるレイ君の頭を撫でるジアス教官に、レイ君は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうで、きっとレイ君にとってジアス教官はとても大切なおじいちゃんなんだろう。


 どうにか出来たらな、と窓の外に視線を移すと、そこには窓を伝う雨の筋、そしてその向こうには北棟が見えている。


 ん? 筋…北棟……?

 何かが頭の端に引っ掛かってるな、と北棟をまじまじ見ながら引っ掛かりを探っていて思い出した。


「そうだ!ゴーレムさんの回路!!」


 そう叫んだ私に、医療部に居た全員が振り向いたので、とりあえず、大声出してすいません、と謝った。






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