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396 進捗 ロイside

 魔王様とユリエ様の結婚式が無事終わり、しばらく喜びに浮かれていた各所の取り纏めも終わる頃には、早くも結婚式から一カ月が過ぎている。


 魔王様はユリエ様のご助力あって、ご自分の変化にも早々に順応し、今ではお一人で軍部に顔を出される事も増え、遠征隊を率いて魔物の領域で活動なされる事も増えた。

 本来遠征隊の一番隊は、王と共に奥地へ向かう為の精鋭。その基準迄、魔王様によって上げて頂ける事となったのだから、とても喜ばしい事だ。


 ユリエ様に関しても、正式に王妃となられてからは、以前にも増して勉学に励まれるようになり、魔国の政治から礼儀作法に関する細かい所まで習熟され、街での常識はまだ分からないと仰るけれど、前の世界での知識は高く、既に十分過ぎる程だと思っている。

 それでも学ぶ姿勢を持って下さる事は素晴らしく、そしてとても喜ばしい事だ。



 が、しかし。 だがしかし。



 魂を結び、正式に夫婦となられたと言うのに、魔王様とユリエ様が寝室を共にされない。

 これは由々しき事態である。


 魔国にとって。

 そして僕にとっても。


 寝室を共にされないとなれば、まず子供は出来ない。その問題はどうしても僕の集中を欠いて来る。


 精霊のハーフは単純に、生まれて来る赤子の魂と精霊が混ざり合い、精霊の力を魂に宿した者の事を言う。

 それは魔力量であったり、魔力から感情を読み取る事に長けていたり、成長が緩やかであると言う身体的能力に目を向けられがちだけれど、精霊のハーフは精霊の気質もしっかり宿している。


 精霊は清浄を司る世界樹から生まれた思念体。無垢で悪戯が好きな子供の気質を持っている。

 そして己が個として生まれる為に、子供を強く望む気質も強く持つ。


 そんな気質は、僕とレイが双子だったからか二つに分かれた。

 レイが宿したのは悪戯好きな気質。僕が宿したのは子供を求める気質。

 その気質は分かれたと言っても完全に分かれている訳ではない為、僕も多少は悪戯が好きだったり、レイも子供を求めたりはするけれど、それでも強く出る方の気質がある。


 仕事に、支障が出るくらい……。


 書類に目を通している時も、各所から連絡事項が届いていても、何をしていても“どうやったら魔王様とユリエ様が子供を作るのか”が頭の中を大きく占拠していて、書類を処理する速度が大幅に遅れてしまう。


 このままの状態で100年待たされたら、僕は書類部屋ではなく、書類城を築いてしまうのではないかと思うと血の気が引く。


 なので、そんな状況を打破すべく、王城専門員で事前に話し合い、この話しを始めれば逃げ出す確率が高い魔王様を確保する方法を考えた。


 とりあえず、魔王様の力業だけを押さえられれば、しっかりと今後を考えているであろうユリエ様のご助力は頂けるだろうと算段を立て、寝室を作り、アルグリード様とシルビア様にも連絡を入れ、子供部屋も作って準備を整えた。


 作戦を決行すると、やはり魔王様は逃げようとしたけれど、ユリエ様の身を切った対応で最終的には魔王様が折れて下さり、顔は赤いままではあったけれど、魔王様に城の改修を行って頂く事が出来た。


 3階エントランスから魔王様の部屋へ向かう廊下に、エントランスから向かってユリエ様の部屋、寝室、魔王様の部屋の順に改修が終わる。

 魔王様の部屋の前に移動された子供部屋は、使う事がまだ先の話にはなるだろうけれど、今回子供の存在を意識して貰う為には必要な内容だろう。


 そして双子や三つ子だった場合には、また改修をお願い致します。と、魔王様に笑顔で告げておく事も忘れない。


 しっかり魔王様の魔力が漏れて、ユリエ様から苦笑を頂く事にはなってしまって頭の下がる思いではあるけれど、こちらも押さなければならない理由がある。


 僕の業務に支障が出るのは僕の問題ではあるけれど、その他にも地味な支障が出ている。


 まず、魔王様から再三「男子会を開催したいのでエイラムからシロエを召喚し、魔物の領域からガルを呼び戻すように」との命を頂いている。

 きっと、またこの先へ進むための手立てを聞こうと言う事なのだろうけれど、男子会はジギー様とヨウグ様から「止めるように!」と何度も陳情が出されており、その上そこからの情報によると、現在の議題は『キスをするのが恥ずかしくなってしまった場合の対処法』との事。


 キスに関する男子会は初期に行っている上、今回の答えは「夫婦なのだから問題ない。恥ずかしがってないでキスをする」となるだろう。


 なので、男子会に伴う招集はとりあえず却下しているけれど、何度も男子会開催希望な書類が届くことも、またキスで止まってしまっている魔王様の現状を知る事も、僕の精神衛生上とても良くない。

 とても。


 そんな現状をどうにかしたいと言う事もあるけれど、何より、いつ迄でも待ってくれそうなユリエ様に魔王様が甘えてしまい、いざと言う時、魔王様がどうやって行動に移せばいいのか分からなくなりそうなのが一番怖い。

 国家存続の危機すら感じる。


 なので、少々手荒であろうが、状況を進めさせて貰う事は最優先事項。

 そして魔王様には、逃げ道を潰し、勢いで押し切るのが一番効く。


 そう一度頷いて、移動させた部屋に不備がないかの確認を行っている魔王様へもう一押し。


「…魔王様、少々宜しいでしょうか」

「ん?…な、何だろうか……」


 ガンガン事を進める僕を魔王様は若干警戒しているけれど、廊下の端まで呼び出して話を続ける。


「魔王様、ユリエ様はお優しいですね?」

「んん?うむ。優しい。………が、今更だ。それはロイも分かっている事だろう?」

「はい。ですので、現在魔王様とユリエ様の距離感に関しましても察しがつきます」

「ん゛……ぅ…うむ……」


 どうしても子供からその手の話をされる事に抵抗のある魔王様が頬を染めて視線を逸らすけれど、今回ばかりは逃がしませんよ魔王様。


「確かにユリエ様はお優しいので、魔王様が恥じらいを乗り越えるまで快く待って下さるでしょう」

「う……うむ…」

「しかしながら、何も感じないと言う事はない筈です」

「む。それは…?」


 ユリエ様の心情についての話をすると、恥ずかしさに逸らしていた目をこちらへ向ける魔王様。

 こう言う話に持っていけば向き合える。


「魔王様、この度共同の寝室を設けた訳ですが」

「うむ」

「もしユリエ様がその寝室へ入られたのならば、それは、それなりの、そうなる事を前提に、そのお覚悟を持って寝室へ赴かれていると言う事になります」

「うッ……………う…ぅむ」


 そう頷きはするけれど、また視線を逸らした魔王様の視線の先にスイッと立つ。


「魔王様。もしその状態で、魔王様が恥ずかしさであったとしても、今のようにお逃げになられたらユリエ様はどのようにお感じになるでしょうか」

「……ん゛ぅ゛………」

「ユリエ様はお優しいので、それでも笑顔で許して下さるでしょう」

「……ぅむ…」

「しかし、己に魅力がないのでは、と、ユリエ様を思い悩ませる事になるかも知れません。辛い思いをさせてしまうかも知れないと、それだけは気に留めて頂きますよう、先以てお願い申し上げておきます」


「    」


 僕の言葉に、顔は真っ赤であるけれど大きく目を見開き、僕を見ている魔王様が言葉にならない息を吸っている。


 うん。よし。

 これで逃げ道の一つはしっかり塞げただろう。



 その後、城の改修も終わり、昼食中も、昼食後も、夕食の時間になっても食堂の椅子に座ったまま、赤い顔でボーっと宙を見ていた魔王様をユリエ様が心配なさっていたけれど、そんなユリエ様を書類室まで呼び出して、今度はユリエ様にももう一押し。


 その一手はまず土下座。


「えっ!!?なっ何!?ロイ君、どうしたの!?何で土下座!??」

「ユリエ様にお願いがあります」

「お願い?? わ、分かった、分かったから、お願いなら聞くから、まずは頭上げて?ね?」


 この方法を謝罪以外の場で取ると、ユリエ様は何故か焦る。そしてこちらの土下座を解こうと全力で聞く姿勢を持ち、こちらに譲歩して下さる。


 その狙いは見事に当たり、土下座を解かない僕の頭の先でユリエ様がオロオロなされているけれど、まだ顔を上げてはいけない。

 顔を上げるのは願いが通った時だ。


「本日はどうか、新たな寝室をお使い頂きたく」

「あ……あー、うん、まぁ、それは、はい。頑張って貰ったから、使わせては頂きます。 が」

「が。魔王様が頑張れるかはまた別だ、と言う問題は理解しております。嫌と言う程」

「あ、うん。」


 僕の頭の前にしゃがんで、頷きをくれるユリエ様に、僕はそっとリリー様の作られた衣服を差し出す。


「リリー様曰く、対魔王様宛の勝負下着との事です」

「……………。」

「下着と言いましても、寝間着に近く。ただ、魔王様にとっては少々刺激があるだろう物となっております」

「あー……あー…はい。…なるほど。うん。そうだね。これは魔王様には刺激が強い物になるね」


 僕が差し出した寝間着を受け取り、広げて確かめているユリエ様から、察したような声が降る。


 さすがユリエ様。理解が早い。


 リリー様が作られた寝間着は、僕からすればただ丈の長いシャツではあるけれど、背面が大きく開き、紐で留める感じの物となっているので、確かにそれ一枚のみの着用となれば、魔王様にとっては多大な威力があるだろう。


 そして、それを着ると言う事は、そう言う事への意思表示と言う事になる。


「……うーん。これを、魔王様の前で着るのは…なかなかに勇気が要る感じなんだけど……」

「はい」

「スルーされた時、私が受けるダメージがなかなか高そうなんですが……」

「その点に関しましては、既に一手打って御座いますので、その勇気を無駄にせず、しっかりとした有効打になるかと存じます」


 え~…本当に~?と困った様子で悩んでおられるユリエ様。


 それはそうでしょう。

 魔王様の純情具合を誰より知るユリエ様からすれば、寝間着一枚でこの作戦が上手く行くとは思えないのは当然。

 下手をすれば、転移で逃げるだろうと容易に想像できる。


 しかし、どうかその疑心を超えて協力して頂きたく、僕は更に額を深々と床に着ける。


「そこを、どうにか」

「あ、あ、待って待って、頭を床に着けるレベルはなしで、着る、着るくらいなら着るから」


 着る、と言われてパッと笑顔を上げた僕に、ユリエ様が眉を寄せて「恐ろしい子……」と小さく呟かれたけれど、そんなユリエ様にも笑顔を返す。


「魔王様とユリエ様の明日のご予定は全て空けておりますのでご心配には及びません。そして、ユリエ様が朝に行っておられる業務につきましてもこちらで消化致しますので問題はありません。後、お食事は昼食から魔王様のお部屋へと配達させて頂きますが、寝室は防音の陣が敷かれておりますので、配達の者に気を使っていただく必要はありませんので、ごゆるりとお過ごし頂ければ幸いにございます」


 そう一気に言葉を続けた僕に対して、ユリエ様はやや困った顔ではあるけれど軽く笑い、「頑張ります」と寝間着を受け取って下さった。


 そして、次の朝、ユリエ様と魔王様が朝食の席に姿を見せなかった事で、僕は笑顔でとても美味しい朝食を食べる事が出来た。


 うん。いい仕事をした日のご飯は、とても美味しい。






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