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382 モザイク処理

 スタンピード2日目。本日も晴天。


 昨日はあの後色々あったけれど、ベンヌの素材にはジギーさんとリリーさんが物凄く、そりゃもう物凄~く喜んで、早くスタンピードを終わらせて解体したいと夜遅くまで騒いでいた為、その後も何かとバタバタだった。


 ジギーさんなんて目が血走った状態で、この素材は内部構造が魔法で陣を形成してる状態だから魔力が通るだけで魔法の効果が発動される!とか若干魔力を漂わせながらずっと語ってらっしゃって、落ち着いて、とは思ったものの、確かにベンヌを持ち帰る時ストレートに魔法収納出来なくて、一度箱に入れて貰わなければならなかった理由が分かったので少しすっきり。

 そんな凄い素材なのだから、きっと色々いい感じに活用できるんだろう。


 後は軍部の厨房さんに、ハンターさん達に渡したスプーンの件を伝えに行った時、ハンバーグさんとクリームシチューさんにピンク卵の作り方を教えて貰ったりして、また少しゴラさんの事を知る事となった。


 食にも医療にも使える高性能な食材、マンドラゴラ。高級店から庶民の食卓まで、幅広い活躍を見せている訳だけど、そんなゴラさんを加工する際にはやはり粉砕から始まるらしい。

 一番最初にゴリゴリ擦って粉砕し、ギュッと絞ってエキスと身に分けたそれを、丁寧に練ってから魔素水に漬けて、また絞って裏ごしした身を加工した物が薬やカラメーゼと言うお菓子になるのだけれど、一番目に絞ったエキスは薬剤師さんの方でお薬となり、魔素水で晒した方の二番出汁が、格安で一般家庭に回るのだそうだ。

 で、その二番出汁に漬け込んだゆで卵が“甘玉”と呼ばれるピンク卵となり、他にはパン生地に練り込んだ“甘パン”、お肉と煮込んだ“甘煮”なんかにもなるらしく、各家庭で味は違うものの、ゴラさんを使った食べ物のバリエーションは結構な数が存在するらしい。


 ゴラさん、大活躍だな、とは思うけれど、どうにもあの味には頭が慣れない……。


 ハンターさんから頂いた甘玉、折角貰ったのだし街の食生活も知れるのだからと食べてはみたものの、何と言うか、不味くはない。不味くないけど、食べてる間中ずっとゴラさんの顔がチラついて仕方なかった。

 まるで草葉の陰からこちらを見守るように、ゴラさんの甘さを感じる間中、ずっとゴラさんがこちらを見ている感じがする。

 ゴラさんの味はそんな味。


 不味くはないけど、食べれば必ずゴラさんと出会う事になる…。


 そんなゴラさん味は魔国の中でも結構好みが分かれるらしく、あの甘さが癖になるタイプと、甘すぎて食べたくないタイプが存在するらしい。


 あったな、癖の強い郷土料理で、地元民でも好きと嫌いが別れるやつ。


 そんなゴラさんどっち派の話をしながら、夜はお城へ帰らず皆とスタンピードの陣営でお泊りした。


 お泊りするテントは男女別で、王城専門員の広いテントが用意されていたそこに泊まったのだけど、いつものスタンピードでは寝る時お城へ帰っていたらしい魔王様も、今回は陣営のテントでお泊りする事になっていた。


 大丈夫かな、と少し心配はしたものの、大浴場で皆とお風呂に入った成果か、魔王様はウキウキしながらお泊りのテントで寝るベッドを選んでいたし、男性用のテントからはずっと楽しそうにベンヌの素材について話す魔王様とジギーさんの声、そしてロイ君とレイ君の「早く寝て下さい!」って声が聞こえていたので、魔王様も修学旅行的な感じで今回のお泊りを楽しめていたのではないかと思う。


 因みに、女性用のテントではゴラさん無理派のリリーさんがベンヌの素材に「興奮して寝られないわ!」と素材の加工方法をずっと口走っており、ゴラさん平気派のプリシラさんが、治療魔法で騒ぐリリーさんを強制的に眠らせたりしていた。

 治療魔法、そんな使い方もあるんだな、と一つ賢くなりながら、ゴラさん無理派の私もぐっすり眠らせて頂いた。


 そんな翌日。

 今日の私は何と見学ではなくお仕事を頂いた。


 昨日ベンヌの出現で氷壁が崩落し、私が浄化した範囲のある砦の視察と管理が本日のお仕事。


 管理と言ってもやる事は単純で、砦から見える範囲に魔素泉が湧いていた場合の浄化と、強い魔物や、弱くても魔物が大量発生していた場合に討伐するのがお仕事内容となる。


 そして、視察と言う項目を達成する為には、魔素泉の浄化方法には気を付けなければならない。


 今回の視察では浄化結晶で浄化した場合の状況と、私が直接浄化した場合の差を測る事になっているので、どれだけ魔素泉が湧いているのか、浄化後にどのレベルの魔素泉が湧くのかをしっかり観察する必要があるので、もし魔素泉が湧いていても、大雑把に浄化を掛けてはいけない感じ。


 とは言っても、まずその魔素泉自体が湧いてない。


「ちらほら魔物は居るけど、魔素泉は湧いてないねぇ」

「そうですね、魔物も脚の速い弱いのがまばらに居る程度ですし、魔素泉が湧いてるとしても遠くで1つか2つ、ランクもEとかD辺りの小さなやつが湧いてるだけじゃないでしょうか」


 青い空が続く中、レイ君を前に乗せ、私達と散歩が出来てご機嫌なイチゴに揺られているが、防壁の上から見える範囲にはポツポツ小さな魔物が居るだけで、魔素泉も湧いてないし到って平和な風景が続いている。


 やはり浄化結晶でも魔力で浄化を掛けた土地でも、スタンピード中とは思えない穏やかな感じになるらしい。


 しかしながら、昨日浄化結晶で浄化した範囲は時間が経つとチラホラ魔素泉が湧いていたし、今日の朝には小さいながらもそれなりの数魔素泉が湧いていたので、やはり浄化結晶を使った範囲と、私の魔力で直接浄化した範囲では、魔力で浄化した場所の方が効果は長く続いている。


 以前にも蜘蛛の一件で魔力を出した事はあったけれど、前回よりも持続力が長く続いていると思えば、私も中々鍛えられたものだと実感すると言うものだ。


 とは言っても、そんな浄化効果が長く続いている視察範囲はそこまで広くはなく、昨日崩落した西側の氷壁70番砦から2・3キロ程度。

 そこから先の崩落跡地では、昨日の内に遠征隊が帰還がてら浄化結晶を使って状況を治めてあるらしい。


 因みに、実際氷壁が崩れたのは1砦分。

 70番・69番・68番の3つの砦から展開されていた氷壁の内、崩落した範囲は70番から69番の1砦分で、どうやら69番砦から奥は崩れてない。


 何故69番砦から奥が崩れなかったのと言うと、今回初めて西側の氷壁の責任者をしていたシロエさんが、ベンヌの湧きで崩れる氷壁の崩落を頑張って1砦分で収めたらしく、昨日魔法を使い過ぎて本日は回路熱を出してお休みしているらしい。


 回路熱、しんどいよね。めっちゃ分かる。


 なので70番砦を通った時、シロエさんに食べさせて欲しいと癒しリンゴをお届けしておいた。

 どうか癒し擦りおろしリンゴを食べてゆっくりお休みして欲しい。


 そんな感じなので、私達が管理すると言っても見て回るのは70番砦から69番砦の間にある少しの範囲。


 広い青空の下では少し冷たい風が吹くけれど、そんな寒さよりも太陽の温かさを感じる防壁の上。ご機嫌なイチゴに揺られて走っていると、たまに巡回している軍部の人とすれ違い、「お疲れ様です」と手を振ってくれたりするそこには、スタンピード中だとは思えない平和な空気が流れている。


 お仕事に来ている筈なのに、散歩に来たようなマッタリ感。


「……平和だねぇ」

「ですね。折角出て来ましたけど、お仕事なさそうですね」

「時間が経ったら魔素泉湧いたりするかな」

「んー…魔素も落ち着いてますし、この調子だと大きな魔素泉は湧かなさそうですね」


 がっかりです!とやる気を持て余すレイ君の後ろでは、平和な空気に気が抜けてしまう私がイチゴの手綱を握っているせいか、私と同じく気が抜けてしまって若干跳ねる癖が出てしまっているイチゴさんが、何かに気付いて『ギャウ』とこちらを振り返りながらスピードを落とした。


 この反応は、確か魔物や魔素泉を見付けた時の反応だ。


「イチゴ、魔素泉?」

『ギャウ!』


 肯定するように鳴いたイチゴが視線を向けた先、そこには魔物の領域の奥に見える地平線が何やら黒く蠢いていて、どうやらイチゴは奥に湧いた魔素泉と魔物の群れを発見したらしい。


「あんな遠くのも分かるんだ。イチゴ、凄いね」

『ギャウ!』

「あれは魔物の群れだよね、何の群れかな」

「まだ上手く見えないですけど弱いやつです。結構な群れですけど」


 そんな魔物を特定すべく目を細めるレイ君が、ん~と唸りながら黒い地平線を見ていると、不意に「あ。」と声を零して迷った顔で私を見上げた。


「…………あの、ユリエ様………帰りますか?」

「え?何で? 弱い魔物でも沢山居たら倒さないといけないんだよね?」

「そうなんですけど……レイはもうユリエ様と別行動はしないって決めているので、レイだけで倒しに行くのは駄目ですし……」

「? 私も行けばいいんじゃないの?弱い魔物なら魔力だけでも倒せるし、私も行くよ?」


 そう首を傾げる私にやはり迷っているレイ君が、更に困った顔で首を傾げる。


「ユリエ様、レイ、空は飛べないんです」

「?? 知ってるよ?」

「後、マントもありませんし、隠してもあげられないんです」


 隠す? 何から?


 と、思考を回すその前に、視界の中でその答えは否が応にも発表された。


 遠くに蠢く黒い影。魔物の集団だろうそれは、地面を埋めながらこちらに向かってやって来る。

 しかしながら、近付いてもその集団に高さはなく、ただ地面を染めているようにすら見えるそれは、太陽の光にその背をチラチラ反射させ、細かな光を無数に放つ光景は、大量な何かがモゾモゾ動いているのだと理解させる。


 その光沢とエッジの効いたその黒さ、そして大量に揺れる2本セットの細い触角。それがこちらへ迫る黒い波の中で大量に揺れていて、不毛な黒い草原がどんどん近付いて来るように見え……って言うか



 触  角  。



 触覚!!!!!!!!!!




「…ッッ…っッヒィ………ッ!!!!!!!」


 そう。2本の触角を揺らし、光沢のある真っ黒な体で地面の上を高速移動している黒い波。その姿を認識してしまった私の喉は見事に縮まり、吸えない息でも悲鳴が上がった。



 ご



 ゴ●ブ●…



 大量のゴ●ブ●!!!!!!!!!!




 その存在を認識した一瞬で、多分私の頭が現実を拒否してフリーズしたのか、スン…と止まった私の様子に、しっかり脚を止めたイチゴがオロオロしながら私を窺っており、見上げるレイ君は困った苦笑を浮かべている。


「あ~…う~んと…………大丈夫ですユリエ様!クカラチャは触ると病気を貰ったりするのでちょっと危ない魔物ですけど、この防壁はユリエ様が強化したので、クカラチャみたいなDランクの弱い魔物は当たっただけで消えちゃいますから!ここまでは上がって来ませんから大丈夫です!」


 うん。レイ君。


 触ると病気になるって虫である以上に物凄く怖いし、“上がって来る”なんて想像力が働いてしまう言葉はどうか勘弁して貰えないだろうか…。


「それにクカラチャは弱いですけど知能は高いので、こちらの魔力が美味しそうでも、強い相手だと分かれば基本は逃げる感じの魔物ですから、強めに魔法を放てばババ―って飛んで逃げちゃうので大丈夫ですよ!」


 と……飛………………ぅ…ううぅゥぅうううッ……!!


 レイ君!! 情報が!! 攻撃的!!


 そう出そうな涙を耐えながら、鳥肌を通り越して細かく震える私に、イチゴと同じくオロオロしちゃうレイ君がどうしたものかと手を彷徨わせているけれど、どうか魔法のぶっ放だけは止めて欲しい。


 大量に飛ぶゴキなんて、本当に、本ッ当に耐えられない!!!!


「ゆ、ユリエ様、えっと…その、もうそろそろ無視は出来ない近さなので、倒さないとなんですけど……」

「………ッ…ッッ……ウン……うん…ッッ!!」


 そう頷く言葉とは裏腹に、全身が固まって動かない私と魔物の領域の間で視線を動かすレイ君が、しょうがない!と意を決して顔を上げた。


「ん~~…!!……ユリエ様、その、離れたくはないんですが、しょうがありません!レイが行って一瞬で焼いて来ますので、ユリエ様はイチゴとここで待ってて下さい!」


 え。


 焼く!!??

 行く??!!

 あそこへ!!!???

 レイ君が!!??!!!?


「……~~ッ……メェ~……」

「え?」

「…メェ~ッ……」

「メェ? ??? ユリエ様、ちょっと声が小さくて聞こえないんですけど…」


 そう困り顔で焦るレイ君をしっかり抱きしめ、転移させるものかと魔力を展開。


「え? え!? ユリエ様??何で魔法止めるんですか!?」

「…メ……!」

「メ?え?ユリエ様???」


 あ…あんな……、アイツ等が蠢くあんな恐ろしい場所に……、れ、レイ君を、レイ君だけを行かせる訳には……なるまいよ!!!!!


「行ったら、ダメぇ……っ!!!!」

「えー!!ユリエ様、行って魔素泉潰さないと、ずっとクカラチャが湧いちゃうので、その、行かないと…ユリエ様、虫系嫌でしょう??」


 嫌い!!凄く!!キライ!!!!

 もうアイツ等かなり近くまで来ちゃってるし!!もうちらほら飛んでるヤツ居るな…って所まで見えるようになっちゃってるし!!物凄く嫌だけど、物凄~~く嫌ではあるけれど!

 アイツだけは……アイツ等だけは、台所に立つ者としても逃がす訳には参らんのよ!!!!


「……イチゴ!! 聖壁展開!!突撃!!!!!」

『ギャウ!!!』


 私の指示に喜びながら高らかに鳴いたイチゴが輝く聖壁を展開し、防壁から飛び降りて走る先にはテラテラ光る黒い波。


 あーーーー!!

 やだもー気持ち悪ーーーーい!!!!!!


 そう涙で滲む光景に向かって、昨日同様全力で魔力を大放出。


 出来るだけ広範囲に!

 出来るだけ姿を見なくて済むように!

 跡形も残さず全力で!!! 浄化!!!!


 を、もう二度と出て来るな!と言う気持ちで物凄く広い範囲に使った為か、しっかり黒い波は浄化され、消え去ったその余波で多分魔素泉も消えたと思う。


「………けど、油断はならない。奴等は1匹見付けたら100匹居る……今回の場合は……物凄く居る……」

「……ユリエ様、これだけ浄化されたらもう居ませんよ……」


 そう苦笑いするレイ君ではあるけれど、その後も遠くで黒いテラテラを見掛ける事となったので、ファンタジー水まで飲んでその度に全力で魔力をぶっ放しておいた。


 やはりゴ●ブ●。マジしぶとい……。


 そんな感じで、また全力の浄化を広範囲に使ってしまったので、報告時に浄化結晶との差が測れないとロイ君に困り顔を貰う事にはなってしまったけれど、申し訳ないが悔いはない。


 だってモザイク案件だったもの。

 綺麗に浄化しないとちょっと色々耐えられなかったんだもの!


 そう清々しく半泣きで“頑張りました!”と胸を張る私の横で、レイ君が「クカラチャが出たので」と報告し、ロイ君が「あー…」と何かに納得して頷いた。


「あれは僕も気持ち悪いと思いますし、仕方ないですね」


 ですよね。

 ですよねーーーー!!!!






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― 新着の感想 ―
[一言] ゴキはねぇ、、、リリーさんも苦手でしたっけ?w
[一言] 黒光りしてるアイツ、種類によっては食用のもいるそうで…… まさか……ね?
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