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360 サプライズ

 着いた先はお城の屋上。

 そこには皆の姿が揃っていて、転移して来た私達に向かって「やっと来た」と笑顔を揃えて笑っている。


 そんな皆の居る屋上。いつもはリンゴの木と四阿、そして結界石しか目ぼしい物がなかったそこに、雪の降る深い夜を暖色に照らす魔導ランプが沢山吊られ、降って来る雪はキラキラと反射しては積もらず消えて行く。

 屋上では結構な風が吹き抜けるそれも、私が好きだと言った色と模様の入った綺麗な布で遮られ、野外だと言うのに微かな寒さしか感じない。


 そんな布と光の中には布製の大きなソファーがいくつも並び、中央には綺麗なクロスの掛けられた広いテーブルに、所狭しと豪勢な料理が並んでいる。


 どちらも経験した事はないけれど、これが昼間なら海外でありそうな披露宴にも見えただろうし、夜の中で見るとおしゃれで開放的なグランピングにも見える。


「うわぁ…素敵……」


 そうキラキラした光景に言葉を零した私の隣で、嬉しいが顔に出ている魔王様が満面の笑みで私の頭に頭を寄せた。


「ふふふ、ユリエ、気に入った?」

「はい…!こう言うの初めてなので凄くドキドキします!魔力送りってこんな感じで迎えるものなんですね」

「いや、その…去年までは、碌な魔力送りはしてこなかったので、今年はそれに、その、ユリエが初めての魔力送りになるのだから…しっかりしたものをと思い…準備してみた」

「え、私の為?」

「うむ」


 そう照れくさそうに笑った魔王様に「嬉しい」と笑顔を返していると、素早く私と魔王様を挟んだレイ君とリリーさんが、ニマニマした笑顔で魔王様をつつき始めた。


「魔王様のサプライズ成功してよかったわぁ~!秘密裏に準備してユリエちゃんを喜ばせてあげたいなんて言うから、私今日ずっとソワソワしっぱなしだったのよ~」

「魔王様すぐ顔に出ちゃってバレちゃうのに、よく成功しましたね!凄いです!」

「わっ私とてそれくらい出来る!」


 と、顔を真っ赤にして2人に抗議している魔王様ではあるけれど、朝から目は合わなかったし、お茶はこぼすしパンだって握りつぶしていたので、何かしらを隠している事だけは分かってしまっていた。

 そして正直、顔だけではなく態度にも出ていたとは思うけれど、今それは心の中にしまっておこう。


 初体験のサプライズ。魔王様と言うスパイスはあったけれど、しっかり成功しているし何より嬉しい。


 前の世界で経験したお祝いパーティーと呼べるものでも、家族3人で少し豪華な料理を作って、互いの誕生日を祝う程度でここまで豪勢な事はした事がない。

 クリスマスも恋人や家族の居る人達の代わりに仕事に出ていたし、年末に近しいその日はいつも残業で、仕事帰りにはイルミネーションも賑わいも消えてしまっていた。


 だからか、こんなに盛大で煌びやかな場に立つだけでもテンションが上がってしまうし、これを皆が用意してくれたのだと思うと感動すら覚えてしまう。


「皆、ありがとう、凄く嬉しいです!」


 そう屋上に集まる皆にお礼を言うと、嬉しそうに笑った皆の中へ魔王様が私の手を引いてくれる。


 皆が囲む大きなテーブルには、一流ホテルのバイキング並みに豪華でオシャレに盛り付けられた料理が並んでいて、それを三兄弟がせっせとメモに収めている。

 今日立ち入り禁止だった厨房さんが、忙しそうにしていた理由はきっとこれなんだろう。


 私が伝えたのは家庭料理ばかりなのに、目の前に並ぶ料理は盛り付けにまで気を使われた綺麗で美味しそうな物ばかりで、ジャンルで言うならオシャレなフレンチ料理って感じだ。

 きっとヨウグさんが、料理の知識とケーキ類の装飾技術を合わせて考えたんだろうけど、最初は勇者先輩が伝えたサンドイッチで感動していた所から、このクオリティに行き着く技術がハンパない。

 さすがヨウグさんである。


 そんな見事な料理に感嘆の息を吐きながらテーブルを見渡していた視線の先、私に付いて来ているイチゴをじっと見ているロイ君と視線が合うと、小さく息を吐いたロイ君がしょうがない、と言った感じで頷いて見せた。

 どうやら今日はイチゴの入場を許して貰えるらしい。有難い。


 イチゴの入場も無事に許可され、面子が揃って始まった楽しい夕食。明るい声が響く夜の屋上で、今年最後の晩ご飯は忘れられない晩ご飯になりそうだ。


 美味しい料理を食べながら、その料理の内容をヨウグさんと話したり、ジギーさんが階段を往復して設置したらしい照明の魔導ランプは、光で雪を気化させて一定の方向へ流し、拠点に雪が積もるのを防ぐ魔道具らしく、スタンピードの時にも使われる魔道具なのだと教えて貰った。


 そして今回のサプライズの為に新しく魔王様が作ったのは、リリーさんと作った防風布。

 模様の部分が魔法陣になっているらしく、受けた風の威力だけ風魔法を発動して風を相殺する魔道具で、魔石の消費が多いから改良が必要だって点はあるけれど、スタンピードの時にも使えるかも知れないと新たな開発まであったりする。


 そしてそんな準備を皆がやっている間、今日一日私が何をしていたのかと言う話になり、それではと勇んで出した年越しうどん。

 ヨウグさんの目が若干大きく開いたけれど、どうやら今日は見逃して貰えるらしい。


 本来は蕎麦を食べるのだけど、細長い物なら意味合いは同じく、長寿を願って食べる物だと伝えると、これ以上?と聞かれたそれには笑ってしまったけれど、魔力量で決まる寿命の中で長寿は無理でも、健康には過ごして貰えそうな気がするので、やはり年越し蕎麦ならぬ年越しうどん、この世界でもナシではない。


 今までパスタ以外の麺類がなかった所へ急にうどんを出したので、すすって食べるのは無理かな、と思っていたのだけど、こちらの世界の人は汁が多い物はしっかりすすって食べる派らしい。

 各自で練習していたらしいお箸使いを披露する場としてもご好評頂き、美味しいと言って頂きながら皆器用にお箸でうどんを食べてくれた。


 そんな年越しうどんのトッピングは自由にしたので、何をどれだけ乗せるかは個人の好みになったのだけど、一番人気はやはりエビ天だった。


 魔王様はうどんが見えないくらいにエビ天を乗せていたので、あれはうどんと言うよりエビ天を食べていたのだと思う。

 今度はエビ料理のレパートリーを増やさなければ。


 因みに、うどんをすすれないイチゴにはだし汁を餡にして絡めたうどんを出したのだけど、イチゴの好みランキングでは、うどんはお餅と同じレベルに落ち着いたらしく、食後に出した苺の方が喜ばれた。

 やはりイチゴには苺だ。



 そんな楽しい時間はあっと言う間に過ぎて行き、夜が深まるに連れて食べる事よりも話す事の方が多くなる。


 魔導ランプが温かく照らす屋上では、イチゴとレイ君がバトルのようにじゃれあっている他は、セッティングされたソファーに何となくそれぞれが固まり、お茶やお酒を飲みながら話込んでいて、そんな皆から少しだけ離れた場所で、私の隣には魔王様が座っている。


 風除けの布があるおかげで屋上と言っても寒くはないけれど、何となく暖を作るように隣に座る魔王様に凭れると、同じように私に掛かった重みで笑顔が零れた。


「魔王様、今日はありがとう、凄く楽しい」

「ふふ、こう言う事は余り慣れないので正解が分からなかったが、ユリエが楽しんでくれたなら私も嬉しい」

「準備大変じゃなかった?」

「いや、喜んで貰えるかも知れないと思いながら準備するのは楽しかった」


 そう笑う魔王様に凭れながら、このまま魔力送りをするのかな、と思い出した内容で、上がっていたテンションがほんの少しではあるけれど下がってしまう。


「夜中の12時になったらこのまま魔力送りですよね」

「うむ、時計塔の鐘が鳴り始めれば結界石に魔力を込める感じだな」

「【生活魔法】も結界石の星みたいに飛んでくれたら良かったんですけど、雷魔法しか飛ばせないのが悔やまれます」


 そう、結局【生活魔法様】を飛ばす案は全く浮かばず、今年は雷魔法で妥協しようと決めてはいたけれど、いざ魔力送りが目前に迫ると、やっぱり【生活魔法様】も飛べばいいのにと思ってしまう。


 来年までには練習しておこう、と小さく息を吐いた私に、少しの間何かを考えていた魔王様が私に視線を向けた。


「ならば、私と共に魔力を飛ばしてはどうだろうか?」

「? 一緒に?どうやって?」

「私が結界石に魔力を込める時に、ユリエの魔力も込めればよい。正しくは結界石に【生活魔法】を使うと言う事にはなるが、ユリエの魔法は他の魔法を妨害しない。私の魔力に魔法を掛ければ【生活魔法】も乗るだろう?」

「え、乗せられるとは思いますけど……いいの?って言うか、そんな事して大丈夫なんですか?」


 うむ、と魔王様は頷くけれど、お城の結界石は魔国中にある結界の要。何かおかしな事になったら困るので、私の顔も困ってしまう。


 そんなこちらの話を聞いていたジギーさんとロイ君のグループから、少し困りながらも軽く笑う声が聞こえて来る。


「大丈夫だと思うよ、ユリエさんの魔法って迷宮防壁の整備もやっちゃうくらいだから、結界石も整備してくれれば、来年オレの仕事が減るかもだし」

「最悪結界に何かあっても、今の時期なら魔物の領域から魔物は出て来ませんし、魔王様とジギー様が責任を持って下さるようなので僕も異存はありません」


「えっ」と共に声を漏らしながら私とジギーさんの視線がロイ君に向くけれど、そんな私達を魔王様が笑っている。


「大丈夫。結界石の中には術式が刻まれており、込めた魔力は結界魔法に変換されて他の結界石へと運ばれる。ユリエの魔法は他の魔法を阻害しない。故に、ユリエの魔法を結界石に込めれば問題なく共に飛ぶ筈だ」

「なるほど…けど…んー…変な事にはなって欲しくないし……乗せるって、結界石を綺麗にする感じで魔法を使えば大丈夫なんですかね…」

「うむ。余り難しく考える必要はない。ユリエの魔法ならば願いを込めればよいだけだ。例えばいつも使ってる“綺麗になれ”や“整うように”と願いを込めてもよい。掃除する事とそう変わらない」

「なるほど、それなら自信あります!」

「ふふ、ユリエと共に魔法を飛ばせるのは嬉しい」

「私も嬉しいです」


 そう魔王様と互いに嬉しい気持ちを交換していると、時計を見ていたロイ君から「そろそろ0時です」と声が掛かった。






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