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348 新設部署

 虫アタックを食らった私は昨夜、大量に料理を作った。

 ムカデの感触を忘れる為、そして毒を食らわば皿まで状態で、新たな食材に、と言うか食材の存在自体に慣れる為に、三都市からの新たな食材やムカデの素材を色々使って、これでもかって程大量に料理を作った。


 料理を作ってると落ち着くし、美味しく作る事に集中出来るので、やはり何かしらの葛藤があった時はご飯を作るに限る。

 [料理]スキルがあるとついつい作り過ぎてしまうけれど、収納魔法があるのだから安心して作り過ぎる事も出来るので、この世界は本当に有難い。


 そしていざ料理する食材として扱ってみると、どれだけ解せぬ感を食らった所で、新たに増えた食材は有用で、海老は色々使える上に美味しいし、ムカデの脚だってホタテを使ったクラムチャウダーは、寒い冬には最高の一品になった。


 海苔と乾燥させたお餅で海苔巻き煎餅を作ってみたり、そのままおかきも作ってみたり、蒟蒻の甘辛煮を使ってみたり糸蒟蒻にして肉じゃがも作った。ウナギの蒲焼は勢い余って大量の鰻重になった。


 確かに虫は嫌いだし気持ち悪いと感じる魔物だって居るけれど、食材として扱ってみるとやっぱり料理の幅は増えるし、美味しく頂けるとなれば腹だって括れるものだ。


 我ながら、あれだけ騒いでおいて現金ではあるけれど、食は大事だし、食べる事も食べられ物がある事もとても大事。


 とは思いながらも、手にするとゾワッとしてしまう虫の食材を使いながら、無我の境地に至らんとする勢いで作りまくった料理。


 年末年始も精霊国で過ごすらしいお父さんとお母さんに渡す料理を含め、【生活魔法様】のごり押しで白味噌を作ってヨウグさんを唸らせたり、新しいレシピのご飯を大量に作ってヨウグさんを唸らせたりしながら、色々気の済むまで作ってはみたけれど、おせちモドキやお雑煮など、年始に出す予定の料理まで作ってしまったので、何か当分作らなくても平気な量を作った気がする。


 けれど、おかげで気持ちはかなりスッキリした。


 そんな感じで色々作った料理の中で、何だかんだと皆に人気だったのは、魔王様が狩って来たヒュージスライムを使ったケーキだった。


 ヒュージスライムは私の魔法で処理しなければ食べてはいけない食材になるので、食べられる事を広める訳にはいかないお城限定のデザートではあるけれど、その味は驚く程に美味しく皆がハマるのも頷ける。


 何故なら、そのまま食べても美味しいヒュージスライムさんのポテンシャルは、ストレートに食べる事よりも、むしろフルーツやムース、生クリームなんかのケーキに使う素材と合わせて使う事と相性が抜群によかったのだ。


 その味は正に“魔法が弾けるケーキ”、とでも言うんだろうか。

 使った食材が口の中で一つになる瞬間、そこで魔法が生まれたように全ての味が合体して一気に弾けるような美味しさになる。

 知っている食材の筈なのに、新しい味に感じるくらいには素材の味を一段上へと持ち上げていて、ヒュージスライムによって、他の素材の美味しさが最大限まで引き出されていると言っても過言ではない。


 確かに美味しさを一段上へ引き上げる効果は私の魔法なのだろうけど、それが高い基準で発揮されているのは、ヒュージスライムが魔素水に近い状態になって、私の魔法を高い水準のままキープしているからだろう。

 エルフの皆さんが好きそうな感じのやつだ。


 現にプリシラさんは中毒症状を起こし、寒いの嫌いな癖に、雪空の中ヒュージスライムを狩りに行きそうになった。

 遭難しそうなので止めた。


 そんなヒュージスライムを使ったケーキ、透明なのに濃厚な味の深さがあるケーキなんて見た目も味もファンタジーだし、これは本当に異世界でしか味わえないファンタジーなミラクルケーキ。

 お祝いの時に作りたいケーキNO1、今度何かお祝い事があればまた作ろうと思う。


 王城のみで食べられるミラクルケーキは表に出せないけれど、三都市限定食材や虫食材、色々な食材を発掘して、魔国でもそれなりに食が潤って来たこの頃。


 しかしながら、食材だけが増えたとしても、それだけで料理の幅が増えたとは言えない。


 味の幅を広げるには、やはり調味料が不可欠なのだ。


 なので年末年始のご飯の準備も終わった本日、今日は魔王様と共に軍部へ来ている。


 昨日ヨウグさんが言っていた魔王軍本部に新設された万能出汁や調味料を作る新部署。

 私が所長を務める事になっている[万能部署]、と多様性を感じてしまう怪しい名前のついた新設部署で、街に卸す調味料の試作品が出来たとの事で、本日はそのチェックと責任者さんとの顔合わせも兼ねて、魔王様と一緒に軍部へと来ている。


 食堂のある軍部の南棟から歩いて少し、キノコ園と畑に挟まれる形で新しく造られた万能部署。

 そこには物凄く大きな建物がドーンと建っていて、これがそうなのかと思うと建物の規模と相まって何か真顔になる。


「……もっとこじんまりしてるのかと思ってましたが、何か、凄く大きいですね…」

「うむ。ロイの要望ではこれからもこの部署で製作する物が増える可能性が高いので、色々と融通の利く大きさがよいと言われたので大きくしてみた」


 この規模の建物をこの短期間でどうやって作ったんだろうと疑問に思っていたけれど、魔王様が作ったとなれば納得だ。

 そしてこれから増える可能性って何だろう…と気にはなりながらも、「凄い」と頷きを返して見上げた大きな施設。軍部の棟半分とまでは言わないまでも、3分の2はありそうな大規模な建物。想像してたよりも遥かにデカい。

 これは日頃掃除するのが大変そうだ…。


 そう心配になってしまう規模の建物であるけれど、この部署では国中で消費される調味料を一手に賄う事になるのだから、そこを考えれば樽を並べるだけでも場所が要るし、この大きさの建物にもなろうってもんだ。 が、デカい。


 外観は前の世界で見た事のある赤レンガ倉庫街を思わせる万能部署。赤いレンガではなく、軍部と同じ黒い柱と灰色の石で造られた建物ではあるけれど、三階建ての縦にも横にも大きな施設には、広い道やバス停のような場所まで作られていて、ちょっと大きめの駅にも見える。


 そんな立派な施設の中には会議室や事務所、休憩するカフェスペースのような場所まで作られているらしく、建物然り、ここに勤める為の設計だけでも中々に拘りが凄い。


「ユリエはイチゴに乗って来る事もあるのだろうし、角人も竜車に乗って来ると思うので、竜車や脚竜の待機場所も作ってはみたが、イチゴの待機場所は別に作った方がよかっただろうか…イチゴの事だ、他の脚竜と喧嘩するやも知れん」

「んー、イチゴだけ別だと寂しいかも知れないから一緒でいいんじゃないでしょうか。イチゴもお友達とか居るかも知れないし」


 イチゴに友達?居るのか??と首を傾げる失礼な魔王様と一緒に建物脇の通路を歩いていると、その通路の奥には知っている人が立っていた。


 真っ白なコートを着込んで笑顔でこちらに手を振ってから、しっかりと胸に手を当てて敬礼したのは、角にヒカリタケを生やしているエイクさん。


「あ、エイクさんだ、こんにちは」


 と挨拶は返したけれど、エイクさんはキノコ園の責任者さんなのに、どうしてここに?と思ったら、どうやらこの部署の責任者にはエイクさんが就任したらしい。


「魔王様もユリエ様も、こちらから向かうのべきでしたのに今日はご足労頂き有難うございます」

「いや、よい、今日の私は付き添いだ。しかしエイクが責任者とは意外だったな」

「ほんと、キノコ園の方はいいんですか?」


 そう私と魔王様が驚いている様子に、案内に足を進めたエイクさんが苦笑を浮かべた。


「ああ、はい。キノコ園の方には新たに責任者を立てましたので問題ありません。その節はかなりの失態でご迷惑をお掛けしてしまい、私がこの部署の責任者として立つ事にはご不安がおありでしょうが、誠心誠意頑張りますので挽回の機会を頂ければと思っております」

「あ、いえ、そこは、その、大丈夫なんですが……」


 確かに以前やらかしたエイクさんではあるけれど、根は真面目で仕事も出来る。なので気になるのはそこではなく、キノコ大好きのエイクさんが、その持ち場を離れたって事が驚きなのだ。


 これは、もしや、強制的な人事異動があったのでは…と難しい顔になってしまう私の横で、魔王様がストレートに質問をぶつけた。


「エイクは角にもキノコを付けているのだし、キノコ大好きなのだろう?キノコはもうよいのか?」


 さすが魔王様。皆がもう、そこにつっこむ事を諦めていた角のヒカリタケに躊躇なくつっこむ所、さすが魔王様、全くブレない。


「ふふふ、キノコは今でも好きですが、こちらの部署で作る物にも興味がありましたし、ユリエ様直属の部署に入れる事は誉れです。それにこの部署には角人を多く雇用して頂けるとの事でしたので、同じ角人として、こちらには自ら異動願いを出させて頂きました」


 あ、エイクさん…角のキノコ、スルーした…。


「なるほど、同じ角人が居た方が何かと察する事も出来るだろう。エイクは責任者の経験もあり聖属性も持っている。よい人選と言えるな」

「魔王様にそう言って頂けると自信が持てます」

「角人と魔族では勝手が違う、もし施設に問題があれば対処するので教えて欲しい」


 そう和やかにお話しながら歩いてはいるが、歩いている間、私は角のキノコがスルーされた事が気になって仕方なかった。

 が、そこに再び触れる勇気は私にはない。


 そんな事を考えている間に到着したのは、試作品があるらしい出汁を作る部屋へ繋がる大きな扉。

 建物の外周に伸びる通路から、直接出入り出来る大きな扉は、私や角人さんには開けられなさそうだな、と思っていたら、エイクさんが向かったのは、その大きな扉の隣にある、こぢんまりとした小さな扉。


「この扉が便利なんですよね~」と笑いながら、その扉を開いたエイクさんの後ろでは、魔王様が「ユリエや角人が使える扉を作っておいた!」といい笑顔。


 うん…。有難うございます…必要な、扉です…。

 必要ではあるけれど、見事な扉格差。


 やはりこの世界の扉は毎回私に何とも言えない気持ちを抱かせる、と複雑な気持ちで潜った扉の先には、天井高の広い作業場が広がっており、きっと物を持ち上げたり運んだりする為のレールやロープが這う天井の下には、作業台や大きな樽が並ぶ中に、再び知っている人がこちらに気付いて柔らかく敬礼をくれた。


 コートを脱いだエイクさんと同じく、きっとこの部署の制服なんだろう白いローブを羽織っているのは、ジギーさんの製造部署でフリーズドライ製造機のプレゼンに加勢してくれた魔族の方だ。


 製造部署の職員さんは、以前目の下にかなりの隈を作っていたけれど、生姜茶を飲み続けているのか目の下から隈は消え、笑顔をくれたそれは以前よりも健康そうで安心する。


 そんな魔族の方とエイクさん、お2人はどうやら2人共この部署の責任者さん。

 責任者は1人だと思っていたけれど、味噌と醤油を作る方の責任者さんがキノコ園から移動したエイクさんで、万能出汁を作る方の責任者さんが製造部署から移動した魔族のローグさんになるらしい。


 知っている人が責任者さんに立ってくれた事は素直に嬉しいし、2人共良い人なので上手くやっていけそうだと安堵している私が「これからよろしくお願いします」と挨拶している後ろでは、魔王様が辺りを見回した後、ジッと2人に視線を送って、更にはムスッと眉を顰めた。


「…………少人数の内は、私も来る」


 ん?何でご機嫌斜め?そして少人数の内とは?…と考えてすぐさま納得。


 きっとここで作業する時、エイクさんやローグさんと言った異性が、私と少人数で一緒の空間に居る事が魔王様的にはアウトだったのだ。

 そう言えば魔王様は、異性間の交流に対しては物凄くシビアだった…。


 お披露目戦を終えればその辺りは緩和されるのかと思っていたけれど、どうやら判定はシビアなまま。

 まだ遠征隊共々軍部の人でもアウトに入るらしい魔王様。きっと正式に魂を結ばない限りこの小さなヤキモチは続くんだろう。


 可愛いけれど、エイクさんとローグさんには気を遣わせる事になって申し訳ない、と苦笑した私の前で、そんなシビアな魔王様からの視線に軽く笑ったエイクさんとローグさんが、ニッコリ笑顔で前髪を上げた。


「「魔王様、まずはこちらをご覧ください」」






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