↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
203/462

202 萌殺し

 一瞬だった。


 部屋に入ったロズちゃんが、扉を閉めた瞬間風が吹いて、目の前で惨劇は繰り広げられた。


 リリーさんによってあっと言う間に剥かれたロズちゃん。

 気付いたらロズちゃんの着ていた服が宙を舞っていた。


 ロズちゃん自身も何が起こったのか理解出来ず、気付いたら下着姿だった訳で、一拍置いて可愛い悲鳴が聞こえた。

 そして見えた。


 ノーブラである。


「ノーブラは駄目。無防備過ぎる」

「ちょっとはあったわ。1センチくらいかしら」

「何普通に話してんのよ!!急に脱がすとかありえないんだけど!!?」


 私が掛けたコートにくるまって、震えているロズちゃんが抗議の声を上げている。

 正当な抗議だと思う。


「だってモコモコなんだもの、サイズが分からないわ?」

「さっ…サイズ?!何の!?」

「全身?」

「全身……」


 笑顔のリリーさんにそう告げられたロズちゃんが、プルプル震えて真っ赤に染まって行く。


 剥かれたらよく分かってしまったロズちゃんは、とても小柄で華奢な体型。服を着てると中学生くらいに見えるし、背も150ないくらいには小さい。そして凹凸はないけれどくびれはある、そんなとても華奢で可愛らしい感じは、はたから見る分にはかわいいな、と思うが、やはり本人は気にしているんだろうか…。


「まっ…まだ育つんだから!!!」

「「……」」


 気にしていた。


 真っ赤な顔でそう叫んだロズちゃんに、困った笑顔のリリーさんが、とても優しい声で「そうね」と言った。

 優しい嘘も、時に残酷。


 真っ赤な顔でぐっと詰まったように口を結んだロズちゃんの肩に手を添え、涙目で私を見るロズちゃんに真面目に頷いて返す。


「大丈夫、好みはそれぞれだから」

「ユリエのバカ!全然慰めになってないわよ!!」

「そうよ、好みはそれぞれよ?それにあればいいって物でもないのよ?物凄く邪魔なんだから」

「「……」」


 そ、それは…そう、かも、知れないけど……。


 真面目な顔でそう告げたリリーさんに、何とも言えない顔しか出来なかった。隣にいるロズちゃんも同じ顔をしている。

 が、体型って憧れや好みはあるけれど、その体型だからこそ似合う服もある訳で。


「でも、ロズちゃんって可愛い服絶対似合うよね。ロリータ服とか絶対かわいい。お人形さんみたいで可愛いと思う」

「え、ロリータ服ってなぁに?どんな服?」

「こう、フワフワのヒラヒラな感じで…」


 と、リリーさんが描き始めたデザイン画にあーだこーだと言いながらデザインを伝えていると、それを覗いているロズちゃんも次第に目をキラキラさせてそれを見ている。


 そしてあっと言う間に新素材を使った下着やら肌着、色んな布でロリータ服を作ってしまったリリーさん。

 正に早業。


 淡い小花柄のワンピースに、胸元やスカートの裾にリボンをあしらった見事なロリータ服。ウエストアップの腰からタックを入れて、フワフワ広がるスカートの裾には2段のフリル。その中にもパニエが入ってボリュームが凄く可愛い。

 中に着るブラウスも、襟や袖に細かなフリルのついたシンプルながらもふんわり仕様。


 そんなロリータ服を着たロズちゃんは正にお人形のようで物凄く可愛い。大きな緑の瞳や白い肌、姫カットも白金の髪もとても良く映える。


「やばい。超かわいい」

「これは凄いわ。物凄くかわいい」

「…ふ、服が可愛いのは、認めるけど…」


 そんな服を着て、照れながらモジモジしているロズちゃんの破壊力が凄い。何コレかわいい。


「え、待って、ヘッドドレス欲しい」

「ユリエちゃんヘッドドレスって何」

「少し幅のある生地にフリルとリボンで装飾して…」

「あ、待って待って、分かったわ!確かに必要だわ!」


 シンプルなリボンだけでも可愛いとか言いながら、再びすぐさまヘッドドレスを作ったリリーさんが、頬を染めたままのロズちゃんに幅のある生地の両サイドにリボンの付いた可愛いヘッドドレスを装着するとマジ天使。


「えぇぇ…ほんとかわいい…ロズちゃん恐るべし」

「これはハマるわぁ…もっと色々着せてみたくなるわぁ…」

「ほ、本当に、似合う?」

「「似合う!!」」


 私とリリーさんの声がハモると、嬉しそうに、でも恥ずかしそうに視線を逸らしたロズちゃんが小さな声で「ありがとう…」と言った。


 何なの?萌殺しか!?


 そんな可愛いロズちゃんに私とリリーさんのテンションが上がってしまい、こんなデザインも可愛いとかタイツは必須だとか、靴や下着に至るまで色々と作ってしまった。


 そんな沢山の服や小物にロズちゃんが「あんまり持ってないの…」と言いながらおずおずと少しの金貨と宝石を手に乗せて、代金を払おうとした姿に思わず2人でそんなロズちゃんに抱き着いた。


 何なの!?健気!ロズちゃん本気を隠していたの!?

 何てかわいい…!


 リリーさんがこの城で働いてる限りお金は要らないのよ、と言ってロズちゃんを撫でると、でも…と顔を困らせたロズちゃんが着ている服を見た。


「…こんな可愛いの…精霊国にはないし…それに性能、凄い事になってない?全然寒くないんだもの…」

「下に着てるのはユリエちゃんが魔法を込めた特殊素材よ!それから上に着てる服は魔法無効と軽い斬撃くらいなら素材の強度で弾けるわ!あ、でも魔鉱石の武器や打撃には気を付けて?鋭い斬撃や多少の衝撃は通してしまうから、ランクA以上の魔物にはちょっと問題があるかもしれないけれど、ちゃんと制服レベルよ」


 そう笑ったリリーさんに、真顔になったロズちゃんが言葉を零す。


「え…?これ伝説の防具か何かなの?」


 確かに、聞いてる私も凄いな、と思った。

 そして自分の着ている服も近しい物なのだ。

 まさか知らない内に伝説の防具を着て掃除しているとは思わなかった…。


「で、ユリエちゃんはどんな服にする?」

「え?私は温かければいつも通りでいいですよ?」

「…また制服?たまには他の服も作りたいわ?ユリエちゃんドレス作っても着てくれないんだもの…」


 そう困った顔でおねだりするリリーさんに、少し悩んでからとりあえず、と言って頷いた。


「まずご飯食べましょう」

「…ユリエちゃん、ぶれないわね」

「ロズちゃんも一緒に食べよう?」

「でも、私厨房戻らないと…」


 ちょっと戸惑ったロズちゃんがそう言うと、リリーさんが笑って大丈夫と言いながら、作業台の上を端に寄せて席を勧めた。


「いいのよ、厨房は冬の準備なくなって暇なんだから」

「そう?いいの?」


 首を傾げたロズちゃんが私にも確認をとってくるので笑顔で頷いて一緒に座る。


 ロズちゃんが運んでくれた昼ご飯は久々のサンドイッチ。私とリリーさんが食べる分なのか2人分ではあるけれど、自分の収納から追加で足して3人分にする。

 後はちょっと寒いので温かい生姜茶も淹れて、3人で少し遅れたお昼ご飯。


 そして食べながら話しているのはやはり服の話。


「ユリエちゃんってば全然服を欲しがらないんだもの、もっと色々作らせて欲しいわ?私ドレスとかも色々作れるのよ?」

「掃除するのにドレスはちょっと…それに私、この動きやすくて着心地いい制服好きなんですよね」

「んんんー!嬉しいけど複雑!」

「でも、ユリエって御妃様になるんでしょ?ドレス着ないの?」


 そう首を傾げたロズちゃんに、サンドイッチを頬張りながら、ドレスかぁ…と考えてはみるものの、やはり実用的とは思えない。


「それなりの場所に立つなら身だしなみとして考えるけど、普段着としてはなしかなぁ…それに、あんまり肌出すと魔王様が駄目って言うから」

「あー……」


 そうだったわ…と言ってリリーさんが溜息を吐くと、ロズちゃんが「ユリエも大変ね」と難しい顔でサンドイッチを食べている。


「あ、でもニットは欲しいかも。大きめのセーターとかカーディガンなら制服の上からでも着られるし」

「制服は脱がないのね」


 そうつっこみながら、私が欲しいと言った服をすぐさま作ろうとするリリーさんを「食事中ですよ」と止めて、色々着ればいいのに、と首を傾げているロズちゃんに頷く。


「だって制服着心地いいから、別に他のはいいかなって」

「ユリエなら色んなの似合いそうなのに」

「んー…でも自分が着るのはシンプルな服の方が好きなんだよね。こう、着回しがきいたり、飽きが来ないとか、熱いとか寒いが楽になったり動きやすかったりする感じの、機能性があるやつとか…」

「ユリエが求めるのは可愛さより実用性なのね…」


 大事だよ、実用性。


「たまには違う服も着てみたら?私も王族の決められた服しか着て来なかったけど、2人が作ってくれたこの服、着ているととても嬉しい気持ちになるもの」

「ロズちゃん…可愛いんですけど…」

「やだもう、妹に欲しい…っ」


 私とリリーさんの間で可愛いが爆発しているロズちゃんを愛でながらご飯を食べて、食後のお茶をしていると、リリーさんはさっき私が欲しいと言ったセーターやカーディガンを早速作ってくれている。


 そんな合間に、冬のお城の衣替えと言うか、皆が部屋で使っている寝具のカバーや何かの、冬支度に必要な物を書き出しておく。


 敷きカバーは確かにフワフワでもいいけれど、掛け布団のカバーをフワフワにするとちょっと寝苦しかったりしてしまう。なのでいつもの掛けカバーで、その掛け布団の上に毛布を一枚追加するだけでも夜は寝苦しくなく冬はかなり温かい。


 そんなリリーさんに渡すメモを書いている間に、リリーさんが作ってくれる冬用のアイテム。

 私が首元までたっぷり埋まる方がいいとか、カーディガンは少し長めの方がいいとか言う度に、そんな要望をしっかり叶えた物を更に可愛く、何種類も作ってくれるリリーさん、好き。


 そしてそのまま冬に考えていた防寒装備をあれこれ色々と作って貰い、お礼を言いながら収納にしまっている服の中に、一着凄いのが紛れ込んでいる。


 ドレスだ。


 真っ黒でベルベットに似た上品な光沢のある、袖のついたシンプルで綺麗なロングドレス。

 首元から肩を覆う白金のレースモチーフをあしらった、背中が腰までガッツリ開いたドレス。


「何か凄いの混ざってますけど…」

「んふふ…ちょっと着てみて欲しいのだけど…」

「ユリエなら絶対似合うわ!」

「えぇっと…今は必要な場面ではないので…」


 私がそう笑うと、ニッコリ笑顔を返したリリーさんの姿がぶれた。


 あ、しまった、と思った瞬間には早着替えか、と思う勢いで着せ替えられている。

 ブラまでしっかり取られて何も言えない。


 あ、でもこのドレス、スベスベして気持ちいいし、背中開いてるくせにしっかり胸支えてるんだな…凄い。


「やっぱり似合うわぁ!髪と同じ色ってどうかなって思ったのだけど、肌の白さが際立つわね!」

「ユリエ凄く綺麗!異国のお姫様みたい!!」

「あ、ありがとう?でも…ドレス…初めて着た…」


 なんだろう。ドレスなんて一生着る事ないと思ってたし、見るのは好きだけれど着たいとは思わなかったのに…着るとちょっと、やっぱりドキドキすると言うか嬉しくなる…。


 と、同時に、私にも女心がちゃんと残ってて安心した。


 しかし、ロズちゃんが喜んだ気持ちが分かる。

 普通にテンションは上がる。


 髪はアップにした方がいい!と言ったロズちゃんが私の髪をいじっている間に、ちょっとお手洗い、と言って部屋を出たリリーさんがしばらくして帰って来ると、扉が開いたそこには、「何事だ!」と言いながら眉を顰めてリリーさんに背中を押される魔王様がいる。


「あ…」 

「!!!!??」


 扉に背を向けて座っていたので、そんな魔王様と振り向く形で目が合うと、リリーさんは素早く私の近くへ避難して来た。


 魔王様の魔力が溢れる事は前提か。


 驚いた顔の、目を見開いた魔王様と目が合ったまま、どんどん顔が赤くなっていく魔王様の髪が揺れて、あ、これは魔力がヤバい事になる。と思って押さえに行こうとした一歩が、しっかりドレスの裾を踏んだ。


 着慣れてないからなぁ…これはコケる…と思ったけれど、咄嗟に腕を伸ばした魔王様に支えられた体は、支えられたまま逆に引き寄せられて廊下へ進む。


 そして廊下の壁に背中をぶつけた魔王様は、私をしっかり支えたままずり落ちた。


「す…すいません、大丈夫でした?」


 魔王様の魔力は幸い触れる事ができたのでそのまましっかり押さえているけれど、私の肩に顔を埋め、真っ赤な耳を覗かせる魔王様は、私がそう聞いてもモゾモゾ首を横に振るだけで答える事は出来ていない。


 そしてドレスの生地は薄くてモゾモゾが良く伝わる…とてもくすぐったい…。

 が仕方ない。


 夏服でも駄目だったからな…背中の開いたドレスを見るのは厳しかっただろう。


 これはしばらく復活しないかも、と魔王様をよしよし撫でているそんな私と魔王様を、後ろのドアから覗くように、ニヤニヤ見ている視線が2つある。

 でも見ている場合じゃないと思う。


「リリーさん、そろそろ限界ですよ」

「え?何が…」


 そう告げた瞬間、魔王様の魔力を押さえるのが限界に達した。


 そして吹き荒れた暴風でリリーさんの作業部屋の中が嵐になって、「いやー!素材がバラバラになるー!!!」と慌てふためいているリリーさんと、悲鳴を上げながらそんなリリーさんにつかまって暴風に耐えているロズちゃん。


 いや、魔王様に急にこんな姿見せたらそうもなるでしょうよ、と小さな溜息を吐いたら、肩口から呟くように魔王様の声がした。


「…ユリエ、とても…美しい…」

「……。」


 ……照れた。

 もの凄く照れた。顔あっつい…。


 でも、そう言って貰えるなら、動き難いけど、ドレスも悪くないかなって思った。


 魔王様の魔力暴風と照れている魔王様の腕の中で「ありがとうございます」と返すと、ちゃんと腰に魔王様の腕が回る。


 後ろは大惨事になっているけれど、とりあえず好きな人にドレス姿を褒めて貰えたのは嬉しかった冬の午後だ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。