188 アイデアプリーズ
「ユリエさん。収納袋ってどう思う?」
「どうとは?」
「何でもいいよ。冬に向けて新調しようってトコなんだよね。んで、どうせ作るならいい感じの作りたいし、ユリエさんの発想面白いから、何かご意見聞かせて欲しいな、と」
収納袋をどう思うか。
そうジギーさんが掲げた収納袋を見ているが、皆が使っている収納袋は普通に袋。
茶色い巾着袋の口を縛っただけの、物凄くシンプルな袋である。
大容量だけれど小さくて、入れた物の重さを感じさせない魔法の袋。時間停止がついた物とついてないのがあって、魔法を付与して作る物。
異世界の便利アイテムNO1と言えばこれではなかろうか、と思う便利アイテムが私の知る収納袋。
しかし、それをどう思うか、と訊かれても、そもそも私は自分の[貯金]収納を使ってるので、収納袋を使った事がない。なので、使い勝手が分からないので、どうと訊かれるとストレートに見た目が気になる。
「うーん…じゃあ収納袋って、何で袋なんですかね」
「ん?そこ?」
「袋じゃないと作れないとか?」
「いや、え?袋じゃなくても、作れる…よね?」
ジギーさんは不思議そうな顔をしているが、私としては収納なのに袋ってちょっと心もとない。
特に魔国では戦ったり動き回ったり、一番隊の皆も腰に収納袋は着けていたけれど、よく考えて、と言われるとそこには不安が湧いてくる。
大事な物を袋に詰めて、それを直に着けて動き回る。それも、そんな状態で戦うって考えると、その時点でソワソワする。
破れそうだし、落としそうだし、引っ掛けそうで地味に怖い。
「自分の収納が金属の箱だからか、袋って何か頼りないなって思います。もっと頑丈な方がいいんじゃないのかな、と」
「…確かに、何で袋なんだろう…。昔から袋だったし、伝わる製法がこの形状だったから、込められる魔法の精度とか容量は気にしてたけど、形状は特に考えなかったな…。袋じゃないとって思ってた訳じゃないけど、袋で作ってたねぇ…」
興味が湧いたのか、自分の収納袋を揉んでいたジギーさんがニヤリと笑ってこちらを見る。
「じゃあユリエさんはどんな収納がいいと思う?」
「んー…単純ですけど、袋よりは丈夫なカバンとか?」
「どんな?」
「しっかりしたやつが良いですよね。引っ掛けても破れないとか、そもそも引っ掛かり難いとか。ショルダーもいいですけど、動くならウエストポーチとかがいいのかな」
ほぅほぅ、と嬉しそうに頷いていたジギーさんが、ちょっと待ってて、と言って部屋を出て、隣から少し話し声がしてからリリーさんを連れて帰って来た。
そんな連れられて来たリリーさんは、私を見て優しい笑顔で首を傾げる。
「ユリエちゃんもう起きてて平気?」
「はい、熱はかなり引いたので、魔法はまだ使えませんけどね」
そう笑うと、無理しちゃダメよ、と笑顔になったリリーさんが、それにしても、と言って私の膝の上を見た。
「レアねぇ」
やはり覗き込むように寝ている魔王様を観察してから、とても嬉しそうに笑っているリリーさんに丸椅子を勧めたジギーさんが、それで、と話を戻す。
「収納袋さ、カバンがどうかって話なんだけどさ」
「盲点よね。私も収納袋の形に疑問なんて持った事なかったわ」
「袋の形に意味はないんですか?」
そう質問すると、2人が頷いて魔法が籠る前の袋のパーツを取り出した。
収納袋のパーツはパーツだけで見るととても単純。薄い皮で作られた巾着型の絞るタイプの袋と、その口を絞る銀色のミスリルパーツ。そしてそこに付いている黄色い石の3つだけ。
「袋の素材自体が魔力タンクで、このミスリルの金属部分が魔法を施行する回路になる。で、この部分に魔法を込められる錬成魔石を填めて、収納として使える時空魔法を込めると魔石と袋が回路で繋がって内部に魔法が展開される仕組みだね。使う度に魔力を通してメンテナンスされる状態になるから、基本作ったら作りっぱな感じ」
「生地の素材は土竜と緑竜で素材強化と重力軽減、そこに黒竜の素材で魔力保持の効果を少し足した物を、繊維にして織った布になるのだけど、布にしなくても縫製さえしっかりすれば単に組み合わせる形でも作れるわ」
私に説明を終えた2人の視線になるほど、と頷くと、声を揃えた2人がメモとペンを取り出して笑顔を作る。
「「で、どう作る?」」
「ん?そこを私に聞くんですか?」
「ユリエさん。1を0に戻したなら1にしないと」
「1人よりも2人、2人よりも3人よ?」
なるほど、アイデア寄越せ、と言う事か。
「えーっと、作る時に大きさって関係あるんでしょうか」
「あるね。魔法が行き渡る範囲があるから、大き過ぎるとか形状が複雑なのは無理かな」
「待ってジギー、全部のパーツを大きくするならそれも関係ないんじゃない?」
「いやいや行き届く範囲の問題があるでしょ。例えば長い筒状なら下の方には魔法は行き難くなってバランスが崩れる」
「けど魔法込めるの魔王様でしょう?魔法の精度は高いんだから、単純に同じ形状で大きく作れば耐用年数も容量も増えるんじゃない?」
「うーん…どうかな…変に負荷が増えれば耐用年数が減りそうだけど…」
膝でスヤスヤ寝ている魔王様の頭を撫でながら、出来るか出来ないかを話し合ってる2人の話を聞いていたけれど、耐用年数って事は、収納袋には使用期限があるって事?
「収納袋って使用期限あるんですね」
私がそうポロリと言葉を零すと、よくぞ聞いてくれました、とばかりにジギーさんが笑顔になった。
「あるね。素材の強度と付与した魔法の精度。後は定着率によっても大きく変わる。軍部で作る収納袋でも基本の耐用年数は50年くらい、時間停止を入れると一気に減って5年程。古くなればなるほど魔法が薄れて収納容量が減って来る。そのまま放置して魔法が消えると中身をぶちまける事になるから、容量減って来たら変え時。で、今が正にその時」
なるほど。そうだよね、どんどん増やせるだけなら新たに作り続ける必要はないもんね。
収納袋、万能かと思ってたけど、思ったより消費物。
「けど前に採掘行った時、最後に収納袋作ってくれたアレね。あの後しっかり視たらスバ抜け性能だったんだよね。流石魔王様の魔法と言うか使った素材が万能だったと言うか、いつもと同じ素材だったのに、時間停止ついてて収納力が倉庫でしょ?その上使用期限はおそらく50年は使えるってのが分かったんだよね」
「おお…使用期限十倍ですね」
「ユリエちゃんの作るファンタジー水って、作る物の質や性能を一気に上げてくれるのよねぇ。おかげで込められる魔法の容量が増えるのも凄いけれど、一番の効果は全ての効果が最大限に引き出される所よね」
「それね。地力を上げるって言うか、持ってる性能が正しく使われる状態になるんだよね」
クリエイターさんが道具の使い方を語るように、2人は楽しそうに話しているけれど、正しく使える状態か…。でも正しく使って50年…。短いと感じるのは、私が寿命の長さに適応して来たからだろうか。
「…50年って、意外と短いですよね」
「「え…」」
考えながら呟いた私の一言に、話してた2人から視線を貰うけれど、やっぱりどうしても使える期間が短く感じる。
せめて時間停止が籠っているとしても倍、100年くらいは使える状態であって欲しい。
きっと収納袋ってそれなりに貴重なアイテムの筈。
だって時空魔法を使える人がそんなに居ない。転移を使えるのは、今まで出合った中で魔王様とレイ君の2人だけ。
生産者が少ないなら、きっとそのアイテムだってお高くなる。
その中でも、特に魔王様が魔法を込める収納袋はレアアイテム確定だ。お値段で言うなら最高級のブランド品みたいな感じで、きっと一袋数百万円とかするんだろう。
なのに使える期間は魔力でメンテナンスしても最長50年。実用使いを目的とした高級品なのに、凄く短い。
私の寿命が2000年だとすると、何回買い替えないといけないんだって話だ。
それに容量だって現在最大倉庫1。
魔王様が今日採って来た竜のお肉は倉庫1000。それを収納袋で保管するとなれば、一袋数百万の高級品が1000袋も必要になる。じゃあ掛かる費用は億単位。
なのに50年。お肉の保管だけで数百億を消費…何か規模が大きすぎて想像だけで開いた口が塞がらない。
使える期間が短い…お高いのに…。と考えると、理想の収納とはどんな収納か。
高いのは仕方ない。だってしっかり作られた物は作る費用も技術料も必要だ。
でも、高いなら、高い分保ってくれないと個人的には解せぬ。
きっと私の感覚的に収納は『家』。
自分が収納魔法と同じ魔法を使うからか、自分が家で、収納魔法は家の中の収納。それは棚だったり押し入れだったり冷蔵庫だったりと様々だけど、色んな収納用途を集めた万能収納が収納魔法。
収納魔法が3000万くらいの家だとしても、家なら100年は保つ。メンテナンスしてたらもっと保つ。
なのに現在の収納袋は布一枚で出来た家。
その上50年経ったら住み続けたいのに崩れる家。
なのに費用は3000万の高額品。
叩けば破れる高価な家…。
うん。これは…
「まず袋はナシですよね。ガードがペライ」
目を閉じて収納とは、と考えているそこに、2人の「ペライ…」と言う声は聞こえるが、とりあえず理想の収納についてをしっかり考える。
やはり収納魔法はもっと安心感を与えてくれるものであるべきだ。
冷蔵庫なら冷蔵庫として、箪笥なら箪笥として、倉庫なら倉庫。使用する用途に分ければ、もっとその収納に必要な性質を伸ばせる状態に出来るんじゃないだろうか。
不必要な所を抜いて必要を伸ばす。
「うん。冷蔵庫に下着は入れないもんね…」
「冷蔵庫?」「下着??」と疑問の籠った声は聞こえるが、自分の考えにうんうん頷きながら続きを考える。
収納袋に基本何でも入ってしまうからと言って、家の収納と持ち運ぶ収納を同じにするから駄目な訳で、せめてそこは分けて考えるべきだよね。
何でも入るからって、何でも同じ場所に入れる必要はないんだし。逆に、何でも同じ所に入れてたら、中身が訳分からなくなりそう……いや、なってるんじゃない?と眉間にしわが寄る。
…さっきプリシラさんも収納袋からごそごそ探してたし、何をどこに入れたとか、収納袋の中身って、全部覚えている事は出来るんだろうか…。
50畳の部屋に、家中の物を一切合切詰め込んで、10年後一番奥にある物なに?と訊かれて答えられる人って少ないんじゃない?
そこにナマモノなんて入ってたら、本当に最悪な事になるんじゃない?
だって、皆が当たり前に使ったり常備しているポーションにだって使用期限がある。
薬と言ってもナマモノだから、使用期限を過ぎるとどんどん効力が落ちて行くし、もっと時間が過ぎれば痛んだりもしてしまう…。
これ、腐った味のポーションじゃなくて、本当に腐ってるのもあるんじゃなかろうか…。
と、眉を寄せて考え込んでいた顔を上げると、目の前にもちょっと眉の寄った2人が私を見ていた。
「……もっと整理できないですかね。収納」
そんな2人にそう頷くと、整理?と難しい顔の2人が首を傾げる。
「時間経過とか耐用年数とか、収納容量なんかも用途別に作って、不必要な性能をなくして必要な性能上げればいいと思うんです。けど、何より気になるのは、収納袋の中身。一番奥の物、覚えてます?」
「「………」」
「ご飯でも衣服でも、何でも一つの袋に入れてしまえるから、絶対中身が危険な事になってると思うんですよ。どの袋に何入れたとか、袋の中をいちいち探さないといけないのもどうかと思うし、時間停止がついてるならまだいいですけど、時間停止ついてない収納袋の中とか漁ったら、消費期限過ぎたの沢山出て来そう…ご飯とか入ってたら最悪。絶対使用期限の過ぎたポーションは入ってると思う」
そう言い切ると、自分の収納袋に視線を落したジギーさんと真顔のリリーさんが真顔のままで頷いた。
「さすがユリエちゃんだわ…気にする点が全然違う…」
そして自分の収納袋の中身を漁って、あ、と声を零したジギーさん。私が見るとあからさまに視線を逸らした。
危険袋所持者だ。
「時間経過があるなら小分けにして管理しやすいようにするとか、収納自体を種別で一括管理するとか、せめて口に入れる物と入れない物は分けたいですよね。例え1つの容量が25畳だとしても、2つ持てば今と同じ50畳だし、そうなれば容量を減らして使用年数伸ばすとかも出来そうじゃないですか」
「あ、待って待ってメモするから」
「……それに、お城の中の収納なら棚でいいと思うんですよ。別に袋じゃなくてもいいし、引き出し一杯作って種類別に管理するとか、使用期限だって持ち運ばないんだから、結界石みたいに魔力補充すればずっと使えそうな物なのに」
「うわぁ……それ便利ぃ…」
「棚…素材別の収納棚、欲しい…」
そう声を漏らしながら、必死にメモを取ってるジギーさんと棚が欲しいリリーさんがデザイン画を描いていて、2人は一通りメモを取り終わってから眠っている魔王様に視線を向けて軽く笑った。
「で、そんな感じの魔法、込められますかね」
「近くに設置して反発しないかしら」
そんな2人に膝の上を見ると、私が無意識に撫で続けていた魔王様の耳が真っ赤になっていた。
あ、起きてたんだ。




