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10 魔王城

 転移した先はお城に続く門の前。

 私はその大きな建物を見上げていた。


 お姫様の住んでいそうな、尖った塔があるシュッとしたタイプのお城ではなく。どちらかと言うと堅実堅牢なガッシリとした石造りのお城がどうやら魔王様の住むお城で私の職場。

 その佇まいはお城と言うよりは要塞と言った方が合っているけれど、華美な装飾がない所に少しの安堵を覚える。


 もし物凄く豪華そうなお城だったら、足を踏み入れるだけで何か壊しそうでドキドキしてしまう。


 そんなお城は基本、縦に窓が3つあるので天井の高い3階建ての構造だろうか。たまに4階に達する大きくて丸い塔のような部分が存在するので4階建て?

 灰色と黒に別れた外壁には、構造を支える柱の所々に蔦が茂っており、年代を感じさせると同時に年代を感じてしまう感じでもある。


 とりあえず窓が沢山あるので部屋がいっぱいあって広そう、と単純な感想を抱いてしまうのは庶民なのだから仕方ない。

 お城の事はよく分からないけど、とりあえずガッツリ年代物のお城なのは確かだろう。


「どうですユリエ様!これが魔王城ですよ!結構ボロいんです!」


 なかなか失礼な感想を抱いていた私の隣で、なかなか失礼な感想をしっかり言葉にしたレイ君が、私と繋いだままの手を揺らしている。


「…いや、立派だと思うよ? 大きいし」

「部屋は一杯余ってますよ!選び放題ですが、レイは3階奥をオススメします!」


 ボロいですが!と再びボロさをアピールするレイ君が私の手を引いて、アーチになった門の部分を潜り、黒に近い灰色の石畳をコツコツ鳴らしながら門を潜ったその先は、四方をお城に囲まれた吹き抜けの、広場のようにも見える広い空間。

 そこで一旦足を止めたレイ君に合わせ、私も足を止める。


 止まったその場で物珍しさに辺りを見回すと、その吹き抜けの城内広場には、壁になる部分にはずらりと窓が並んでおり、一階部分に並ぶ屋根を支える柱の奥にも、沢山の窓と門に近い部分には小さめの扉が混ざって並んでいる。

 いやしかし、これは窓掃除大変そう…。


 そんな事を思わせる城内広場の正面、潜った門からそのまま真っ直ぐ先には、お城の入口だろう黒い金属で作られた頑丈そうな大きい両開きの扉が存在する。

 が、天井まで続くだろう物凄く大きい扉は、どうやって開けるんだろうと眺めてしまうその扉も、見れば見る程お城同様、何だか少しくたびれて見える。


 お城自体もレイ君が言う程ボロいとは思わないけれど、窓が曇っていたり、人の通らないような場所には埃っぽい何かが溜まっていたりして、ボロくはないが確かに手入れは行き届いてなさそうな感じ。


 掃除、してないのかな…。


 そう思わせるこのお城の状態。何せこんなに大きくて広いお城だろうに、人の気配が全然しないのだ。

 廃墟とまではいかないけれど、人の暮らす活気が全く感じられない。

 一瞬ゲームや何かの魔王城が頭を過ぎり、ラスボスのお城だから?なんて思ったけれど、ここはそんな世界ではないのだから、人が居ない事は不自然にすら見える。


 魔法で全自動的な事になっているんだろうか…。その割には掃除が行き届いていない。

 謎。


 そんな勝手な考察に首を傾げて広空間を見渡していると、横で繋いだ手を揺らしていたレイ君が、すぅっと胸いっぱいに大きく息を吸い込んて、その全てを言葉に乗せた。


「魔王様ーー!!魔王様の大好きなユリエ様連れて来ましたよーーーー!!!」


 その大きな声は吹き抜けの空間を通り越し、きっとお城の中にも響いたと思う。

 それ程に大きな声ではあるけれど、煩く聞こえないのはとても不思議。

 これも魔法だったりするんだろうか。


 そんな魔法を使ったレイ君が、笑顔で一仕事終えました。と言った感じでふぅ、と額を拭う仕草を見せているけれど、レイ君、ここまで来ると魔王様を赤面させる事を楽しんでいる説がある。


 そしてレイ君の声が響いただろうな、と思って間もなく。お城の中から微かに何かが割れる音や何かが倒れたような音が聞こえて来て、現場は見ていないけれど、ああ、魔王様が居るんだな。って思ってしまったので、私もレイ君の事は言えないかも知れない。


「魔王様、急いで来ると思いますけど、お城で転移は禁止なのでもう少し掛かると思います! 魔王様はすぐにズルして自分の部屋に転移するから、こんなふうに呼ばれる事になるんですよ。ちゃんと正面に出れば良かったのに」


 ねー、と私に同意を求め、軽く笑いながらニッコリこちらに微笑むレイ君は、やはり魔王様の赤面を楽しむ確信犯じゃなかろうか。


「あ、そうだ!ユリエ様お疲れでしょうけど、お腹すいてないですか?休む前にご飯食べませんか?あんな場所で一晩明かすなんて、魔王様、壊滅的に気が利かないんで本当にすいません!」

「ご飯すごく嬉しい、お腹減ってたんだ」


 そう私が苦笑すると、レイ君が「本当に魔王様はダメな男です!」と憤慨し、一緒に食べましょうね、と笑ってくれる。

 ここにもイケメンが居る。なんて異世界の凄さを実感していると、あの重そうな正面扉がゴッと音を放って勢いよく開いた。


「ユリエ!!」


 そこにはやはり真っ赤な顔の魔王様が、わなわなと震える表情を浮かべながら、両手を前に扉を突き飛ばした姿勢でそこに立っている。

 魔王様、スラっとして見えるのに、あんな重そうな扉を簡単に開けるなんて、魔王様って思ったより力持ちなんだな。

 いや、魔王様なんだからそんなものなんだろうか。


「レイの!言った事は!その…!悪ふざけと言うか!そのっ!」

「大丈夫です、冗談だって分かってますから」


 そう頑張って弁解する魔王様に軽く笑うと、眉をハの字にした魔王様は、いや、うむ、と声が尻つぼみになり、赤かった顔も少し照れた程度になる。

 何かテンションの下がるような返答をしてしまったんだろうかと首を傾げる私の横で、テンションの下がってしまった魔王様にも容赦がないのは、繋いだ手の先のかわいい男の子。


「魔王様!あんな陰気臭い場所に女の人を長く留めて置くなんて、レイは信じられません!レイはちゃんとユリエ様を連れて来たので、魔王様はもうお仕事に戻って頂いて結構です!」

「ぇ……いや、しかし……」


 呼ばれたのにお払い箱扱いされた魔王様は、困ったような、違う選択肢を探すような、持て余した手をにぎにぎしている。

 しかし違う選択肢は用意されない。


「ユリエ様はレイと一緒にご飯を食べるんです!その後は湯浴みをご案内してお休みして頂きます!」

「う、うむ…それでその…」

「なんですか!まさか、ユリエ様と共に湯浴みと添い寝がご希望ですか!」

「ちちちちち違う!!!そそそんな事は言っておらん!!!!!」


 魔王様が爆発した。と思うくらいには一気に真っ赤になって、魔王様の方から強い風が私とレイ君の髪や服を盛大に揺らす。


 凄い、これも魔法だろうか。


 この世界の魔法って呪文とかそう言うのではないんだろうか。

 いきなり魔法っぽい現象が起こってちょっとびっくりするが、何かもう一々気にしてたら逆に分からなくなるので、ここは全部そうなんだ、でいこうと思う。


 そして何よりレイ君のテクが凄い。魔王様を赤面させるプロなんじゃなかろうか。でももし肯定されたたら私まで被弾するから止めて欲しい。


「明日もあるんですから、明日ゆっくりお会いになればいいんです!これ以上ユリエ様に無理をさせてはいけません!」

「す…すまない」


 レイ君の言葉で、あからさまに肩を落としてしょんぼりしてしまった魔王様は、あの…、とこちらにしょんぼり顔を向けて来る。

 そんな捨てられた犬のような眼差しはやめて欲しい。助けたくなってしまうが私には無理だ、許してほしい。

 レイ君に勝てる想像は全くできない。


 しかしせめて何か声を掛けないと、しょんぼりした魔王様はキノコでも生やしてしまいそうだ。


「魔王様、ありがとうございます。また明日もお話できると嬉しいです」


 私がそう笑うと、小さな花くらいは咲きそうな感じに復活した魔王様は小さくうむ、と頷いた。

 こんな表現も何なんだけど、普通にかわいい。


「また明日」


 そう少しの笑みを浮かべ、完全復活はできなかったらしい魔王様はとぼとぼと寂しそうな背中を背負ってお城へ戻って行ったが、王様ってこんな感じでこんな扱いなんだろうか…。

 思っていたのと何だか違う。


「さ!陰気臭いのはなくなりましたし、ご飯にしましょうね!」


 そう言って満面の笑顔になったレイ君は、実は本物の魔王だと言われても、私はきっと驚かないだろう。






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