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朱(あか)い荒野-街へ2

「分かってるとは思うが予定変更だ、とりあえず持って行けそうな物を探すぞ

この様子だと逃げてからそう時間が経ってるわけじゃない、避難と同時に持ち出せなかったのもあるかもしれないしな

・・・ああ、間違っても食料には手を出すなよ、多分もう腐ってる」


街の広場だったらしい場所まで来たところでそう釘を刺され、テリーとは街の中限定で別行動を取ることになった


互いに打ち合わせをした訳ではないが、入ってきた方向から見てテリーは右に、そして自分は左に向かって進み始めた


すると然程の時間も掛からず、広場からは木立に隠れて見えなかった建物がいくつか視界に入る場所まで来たようだ



人の気配は相変わらずないのだが、魔獣の襲撃を受けた割には建物がどれも綺麗なまま残っている


念のため一番近くの住居らしい建物に入ってみたが、中が荒らされた形跡はやはり無かった


この家屋の住人は一通り貴重品等の持ち出しに成功したようで、特に武器や重要な薬といったものは見当たらなかった


もしかしたら収納スペース自体が隠してあったのかもしれないが、流石にそれを探すのは火事場泥棒どころかただの空き巣をしているような気分になってしまいそうなので止めた



その隣の家屋も、そのまた隣の家屋も差はほとんど無く、一度広場に戻ろうとした拓真だったがふと視界の隅に何かが見えた気がして足を止めた


広場の方向とはほぼ逆方向、別の木立の中に小さな建物が見えたのだ


よく見てみないと気が付かないほど存在感のない建物であったのだが、今は何となくその建物に呼ばれたような気がした


小さな森の中に入り、その建物に近づいてみると目立たない理由がよく分かった


木を伐採するときに出た樹皮を綺麗に剥いで加工したのだろう、外壁の意匠は正に箱型の木の幹そのものである


少しその建物の周りを歩いてみても一目見ただけでは入り口の類はないように思えるが、よく見るとその内の一面の中央に扉を形作るかの如く、見落としてしまいそうなほどの小さな隙間があった


ドアノブのようなものが無いので押し込んでみると意外にもほんの僅かな力で音も無く扉が開き、その様子はまるで訪問者を奥へと誘っているようだ


外から見た印象通り、中にも明かり取りの窓のようなものは全く見当たらないが、壁や床、天井といった部屋の各所の石がぼんやりとではあるが光っており、内部を見渡すには困らない程度の明るさが確保されていた


入り口を境目にするように左側には本棚のある書庫、或いは小さな図書館のような構造であり、右側は工房か何かだったのだろう、それなりに広いスペースの隅に小さな炉が1つだけ置かれていた


一先ず本があるのならそっちを先に調べてみよう、と思ったところでふと足を止めた


この石造りの建物は現代の小さなプレハブ小屋ほどのサイズにしか見えなかったはずであるし、実際周りを少し遅めに歩いてみても体感上では1分掛かったかどうかというほどだったという記憶しかない・・・にも関わらず


内部は明らかに先程入った何軒かの家屋の平均よりも広いのだ


その疑問を独り言として口にするよりも早く、『何か』が返答のように語り掛けてきた



『お察しの通り、この建物は空間拡張により外観以上の内部空間を誇り、また外装は空間を圧縮した上で魔術的偽装や防護の処置が施されています

私はこの建物に施された術式の―――管理代行者とでも呼ばれる立場でしょうか、因みに訊かれるまでも無く与えられた名はありません』


「・・・何処の誰とも分からない人間にそんなことを教えていいのか?」


警戒心から口調がやや荒めになる・・・が


『問題ありません

この建物自体に魔術的偽装が施されていると申し上げた通り、この建物に入る必要のない人間や入れてはいけない者にはそもそも認識することさえ出来ないようになっています

逆に、必要であれば外部の者相手でも呼ぶ事によって情報を開示することが現在の所有者(マスター)の権限の下に許可されています』


「・・・分かった、いや

分かりました、と返答したほうがいいのかな?」


『どちらでもお好きなように

私は貴方の世界の言うところの人工知能(AI)のような存在です、あくまでも支持を命令として処理することに特化していますので

因みに貴方自身のその情報も相当高度な暗号化を施された上でタグ付けられているようなものなのでご安心ください、余程高い権限を持っているか解析能力が高くないと閲覧するどころか存在にも気が付きません』


さり気なく自身の処理能力が非常に高いことを自慢されたような気がしたがそれは気にしないことに(スルー)した


それよりも此処から持ち出す必要のあるものを訊かなければ、と思ったのだが


『質問を口に出す必要はありません

先程申し上げたとおり、この建物自体に非常に高度かつ強固なプロテクトが掛かっており、魔獣の群れどころか敵性であれば魔族でさえ侵入することも破壊することも出来ません

それよりも貴方は情報をご所望の様子、今必要としているのは主に空間魔法と強化魔法の2つでしょうか』



覚妖怪(サトリ)かな、でも構わない

情報(ソース)が欲しいから



思考の隅を通り過ぎていった妙な歌は投げ捨て(無視し)、『管理者』に思念での肯定の意を返した


『了解しました、術式を直接思考回路へと転送します

しかしどうやら魔法を術式として扱ったことが無い模様、最適化を行いイメージへの反映(フィードバック)を行います』


・・・どうやらこの世界の魔法は本来、術式に従って魔力を現象に変換するシステムだったらしい


まさかそれを思念体と言うべき存在に指摘されるまで気が付かなかったとは、井の中というのは恐ろしい・・・というところまで考えて、テリーの言っていた『まともな教え方をしていない』の意味を漸く理解した



そんなことを考えている内に、急に眠気のような浮遊感がなくなったことに気が付いて辺りを少し見回すように目を動かした


『術式の転送、完了しました

物は試し、工房の奥に不要な鉄塊がありますからそれを空間魔法にて格納してください』


やっぱりこの空間は工房で合っていたらしい、奥に進むと確かに何に使うのかよく分からない金属らしい塊が置かれていた


イメージしやすいように手をかざし、押入れのような空間に仕舞おうとすると目の前から塊が消失し、同時に魔力に混ざって何かが入ってくる感覚があった


修正(デバッグ)も必要かと思いましたが、そうでもないようですね

今度はその鉄塊を出して、手で持ち上げてください』


言われたとおりに異物を元の場所に置くようにイメージすると、塊が元あった場所に出現した


今度はその塊を持ち上げようとするが、相当重いらしくそのままでは持ち上がらない


流石に骨肉隆々の大男をイメージする気にはなれなかったので、重量物もスムーズに持ち上げるロボットアームのイメージを自分の腕に適用する・・・と


持ち上がったのはいいが、今度は肩に激痛が走ったのでそこにも強化を適用し、最終的には首から下のほぼ全身に強化が適用されたらしい


『術式の修正完了、そのまま握り潰してください』


よく映像で見る林檎を握りつぶすような感覚で塊を握るとあっさりとひしゃげ、握りこぶしの中の形に姿を変えた


『最終調整中・・・完了しました

今回使用した強化魔法は身体強化の内の構造強化と出力強化はイメージへの反映が出来ています

残りの外殻硬化は鎧を着込むイメージが適用できるかと』


「分かった、ありがとう・・・アイ」


『・・・アイ?』


「AIだからそのままアイって呼んでみたんだけど、そのまんま過ぎたかな」


『いえ、今までの所有者および来訪者に名づけられた事が無かったので少々困惑しただけです

そういえば、打ったまま放置されている剣があるのを思い出しました

不要物のような扱いをされていたので持ち出しても問題ないかと』


まるで照れ隠しのようなフリではあったが、気にしないほうがいいだろう


程なくして、少し離れたところにショートソードが置かれている事に気が付いた


「本当に放置されてる・・・それなりに質がいい気もするのに」



適当な鞘がなかったので早速空間魔法で剣を仕舞い、広場に戻るとほぼ同時にテリーも姿を現した


「見たところ特に持ち出すようなものは見つけられなかったってところか、まあそんなものだろう

食料に関しては持ってきた保存食があるからまあいい、ただ水が問題だし何より休憩を挟みながらとはいえ11日もぶっ通しで歩き続けてるから疲れただろう、一度ここで休むぞ」


幸いにも街に入る前に駆逐した魔獣がこの街を占拠していた者の全てだったのだろう、静かなまま夜は更けていった

ここをキャンプ地とする

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