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朱(あか)い荒野-街へ1

翌朝、まだ東の地平線付近に明るくなる兆候さえ見えないような時間に拓真は目を覚ましていた


この世界で『一昼夜掛かる距離』がどれほど遠いのか分かったものではないからである


居間のような部屋に向かうと幾つかある燭台のようなものには既に火が灯っており、テリーが起きて活動していることを何となく察することができた


外に出ていたのであろう、暫くすると戸の閉まる音と共にテリーが現れた


「思ってたより早く目が覚めたようだな、いい心掛けだ」


まだ拓真が寝ていると思ったのだろう、顔を出すと同時に少し驚いたような顔をしたが、すぐにいつも通りの表情になった


「街まで向かうのに連れが居るってなるとある程度荷物が要るな、もう少しだけ待ってろ」



言われた通りに少しだけ待っていると、簡素な背嚢を提げて戻ってきた


「本来なら自分の荷物は自分で持て、と言いたいんだが荷物と言ってもお前さんは殆ど何も持たずに此処へ来てるし、何より荷物なんて水と食料と武器くらいなもんだ

金なんぞは荷物の内に入らん、そろそろ出るぞ」


テリーに連れられ外に出てみると、ほんの少し東の空が明るくなり始めていた


「さて、いつもならここで自慢の脚力を更に身体強化で増やして馬より尚速く駆けるんだがそうもいかんな

無理はしない程度に少しだけ早歩きする感覚であっちに向かって歩いてみろ、そのペースに合わせる」


指差した方向に向かって歩き始めると、少しして轟音と共にテリーが追いついてきた


「そこまで鍛えてない若者なら流石にこんなものか

それよりも最低限これだけは持っておけ、これだけでもあるのとないのじゃ随分違う」


そう言って渡されたのは革で作られたらしい鞘に収められたダガーだった


鞘はベルトのようなものと一体になっていてそれなりにしっかりとしたもののように見え、そこに収められたダガーも装飾がなく、あくまでも実用的な道具といった外観である


「そうそう、言われなくても分かると思うがそれはすぐ抜刀できるように利き手側に着けておけ」



ベルトくらいの高さに鞘を巻いてから暫くの後、陽も随分高くなった頃に一度食事のための休憩を取って再び歩き出そうとしたところでテリーの『感覚』に何かが引っかかったらしく、背中に鞘ごと括りつけていた大剣を引き抜いて構えはじめた


「注意しろ、昨日のよりも速いのが来るぞ

・・・数は少ない、狼形か」


渡されていたダガーを右手で抜刀し、空いた左手には様子見も兼ねて火炎球(フレイムボール)を出現させると、それを合図にしたかのように狼形の魔獣が姿を現した


「数は7ってところか、ほぼ感覚通りだな

それよりもあいつは猪のと違って真っ直ぐ突っ込んでくるわけじゃない上、集団相手だと弱いのを中心に狙ってくるぞ

これくらい言えば察せると思うが、ピンポイントで狙うよりも範囲攻撃のほうが当てやすい上に当たらなくても怯ませて攻撃を躊躇させることは出来る、ダガーは緊急用くらいに考えておけ」


その言葉に首肯で返しながら左手の火炎球を変質させる


綺麗な球形をしていた火の球が揺らめくように形を変えたことを視認してから合図も兼ねて叫んだ


「・・・撃ちます!」


ボールを押し出すような動きで掌を前に向けるのと共に放たれた炎の奔流が自分に向かって突っ込んできていた狼形2頭を呑み込んだが他の個体は回避を優先したのだろう、後ろに向かって跳んだ所をテリーの剣で真っ二つにされていた


「殆どまともな教え方してないのにそこまで出来るようになるか・・・思った以上の逸材を拾ったのかもしれん

なら、ちょっと特殊なのを見せてやるか」


魔法による攻撃をしていなかった為に狙いを変えたのだろう、綺麗に2枚おろしにされた魔獣の死骸を放置するように少し前にいたテリーが戻ってきてそう言った


「属性魔法は同時に使うことで強力な別の魔法に変えることも出来る・・・火炎旋風(フレイムスパイラル)!」


2人が位置取りを変えて接近したことで警戒したのだろう、少し離れたところで残った3頭の足元に向かってテリーが小さな火の玉を放った


その魔法を払おうとしたのだろう、魔獣のうちの1頭が風の魔法を火の玉に向かって放ち、風とぶつかった火の玉が地面に落ちた・・・その瞬間


魔獣たちを囲むように地面から円を描く炎が噴き上がり、瞬時に炎の柱と変じた渦は残りの魔獣を全て呑み込んだ


「これが火と風の複合魔法の代表例だ、例によってまともな教え方は出来ないがそのうちできるようになるだろう」



その後も何度か魔獣の襲撃を受けながら予定の上では一番近い街に着く11日目の朝、これまでで最も多い魔獣の群れに襲われた・・・が


「随分前にお前が咄嗟に放った魔法の完成形を見せてやろう、焔の息吹(フレイムブレス)!」


口から炎の奔流を放つという主に見た目が凄まじい魔法により、魔獣の群れはその殆どが何も出来ぬまま焼き払われた


その後残った僅かな魔獣を駆逐した後に街(とは言うが、どう見ても辺境の村)に入った二人だった・・・が


「まああそこであれだけの魔獣に襲われたんだ、その時点でこうなってるんじゃないかとは思っていたが」



少なくない建物があるにしては不自然なまでに静かな街


商店だと思われる建物には鍵が掛かっていないにも関わらず中に人がいるようには見えず、誰かがいる気配もない


テリーは近くの民家に(無断で)入っていったようだが、すぐに出てきて首を横に振った


街の外れ近くにあった厩舎らしい建物には魔獣に食い荒らされたような死骸がいくつか転がっていた


最早殆ど原型を留めていないが、その全てが出口近くである上明らかに人間より大きく複数あることから辛うじて馬と判別できる


区画の数に対して圧倒的に少ないということは魔獣から逃げ切れるだけの力を持ち合わせていなかったのか、それとも・・・



番外地域(ロストナンバー)から程近い街もまた、大量発生した魔獣の群れに襲われ廃墟(番外地域)となっていた

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