十字路には魔が潜む-2
『ふむ、反応なし・・・だが』
そう言った少年(?)が椅子の肘置きに置いていた左手をゆっくりと持ち上げた、その直後
『わざわざ異なる世界に干渉してまで喚んだのだ・・・我を失望させるなよ?』
指先の空間が歪み、朱の光を放つ球体―――つまり火の玉―――が複数個出現した
その現象を目の当たりにした拓真が更に混乱していると、その暇も与えないと言わんばかりに少年が軽く腕を振り下ろし、その動作に合わせるかのように火の玉が勢いを持って拓真の立つ方向に飛来する
「ちょっ・・・冗談じゃない!」
考えるよりも早く、その玉が危険であると認識した本能に引っ張られるようにして躱す
その動作を2・3回ほど繰り返したところで火の玉が来なくなり、その玉を放ったであろう本人を見てみると、その本人も訝しげな表情で拓真を見ている事に気が付いた
『お主・・・もしや魔法を使えんのか?』
「当たり前だ・・・現代日本人で魔法なんてファンタジーなもの使えるやつなんて見たことも聞いたこともねぇよ!」
『ふむ、魔王である我にそのような発言が出来るだけの度胸はあるようだが・・・お主、我がどう見えておる?』
どう見ても幼い少年が自ら『魔王』を名乗ったことに驚いたものの、素直に見えている容姿を説明すると、その魔王(?)は少し考えた後
『成る程、我の術の構築が少し間違っていた為に召喚する対象を間違えたということか。
しかし、お主を元の世界に戻すのもそう楽で無いし、何より魔王である我にとっても異なる世界に何度も干渉するのは難儀な事よ
・・・という訳でしばし此方の世界で過ごせ、心配は要らん、この世界の法則を少し弄ってお主が元の世界に戻った時に時間が修正されるようにした』
他人事どころではないような自称魔王の発言に混乱する間も無く目の前が歪み始め、変な夢を見ていたと安心しかけた拓真であったが
『そうそう、我が幼く見えていたのは我自身の術によるものよ
力のない者には幼い姿に、それなりに力があるものにはそれなりの姿が見えるようになっておる』
これまた爆弾どころではないような発言が聞こえ、夢ではなかったことに気付くと同時に大変なことに巻き込まれた、という事態に今更気付いた拓真が頭を抱えたのを魔王自身が見ていなかったというのは幸いか否か、まだ誰も知らない