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告白から始まる恋愛

 世の中には様々な人間がいる。足の速いスポーツマン、頭のいい秀才、歌のうまい歌手。そんな一芸に特化した人間であれば自分の身の振り方は決めやすいだろう。一方で別にこれと言って取り柄のない人間であったとしてもそれはそれでやりたいことのために努力する事は素晴らしい事であるし、尊敬されるべきだと優一は考えていた。

 そして自分はどういう人間かというと、努力せずともそこそこなんでも出来る人間だった。こういう人間が一番タチが悪い。必死になることを知らない人間というのはそこそこいいところまではいけるが、なにかの頂点に立つこともなく、そこそこに褒められて終わる。

 高校生のくせにわかった風なことをと思われるかもしれないがそれが実感なのだ。なににも必死になれない。スポーツも勉強も趣味も、そして恋愛にも。

 だから、そんな自分が誰かに本気で愛されて、告白をされるなど思ってもいなかった。


「宮野くん、私ね。宮野君が好きなの」

 いま目の前でかわいらしい顔を真っ赤にして、必死に、一生懸命に、一途に想いを伝えてくれているのは今年から同じクラスになり、隣の席になったばかりの鈴原琴音という女子生徒だった。

 彼女の声は名前が表すように、鈴のように、琴の音のように涼やかに心地よい響きで優しさと愛情を余すことなくこちらに表現してくる。

「・・・ああ、うん。俺も好きだよ」

 予想はしていたとはいえ、これほどに直接的に好意を告げられるという経験がなかった俺はすこしずれたような返答をしてしまう。

「そうじゃなくてさ、あの・・・・・・」

 肩の上で切りそろえた流れるように綺麗な黒髪を揺らしながら、戸惑いながらも言葉を紡ぐ鈴原は、いつも以上にかわいらしかった。クラスの目立つ女子生徒達のようにばっちりメイクをしているわけでもないのに、目をひく印象的な綺麗な瞳にうっすらと涙を浮かべ、桜色の優しげな唇を震わせながら言葉を紡ぎだす。

「友達としてとかじゃないの、付き合ったりしたいって意味で好きなのっ!!」

 言い切ったとばかりに肩を震わせながら鈴原はその小さな身体をこわばらせて返答を待つ。確信があるわけでもないのに想いを伝えるというのはどれだけの意志と覚悟がいるのだろう。俺にはわからない。そして、なぜ自分がそこまで好かれるのかという事もわからない。


 思い返せば小さい頃から誰かを好きになるということは無かった気がする。もちろん友人や家族は大事だし大好きだがそういう意味ではないし、女性をかわいいなとか綺麗だなと思うこともあったけれどそうではなく、恋をしたことがないのだ。決してもてなかったということもないし、誰かに好意を寄せられたこともあったが、ここまで必死に思いを伝えてくれた女性はいなかった。

 大抵の女性は近づいてきたと思えば相手にしないうちに離れていき、そうして俺のことは好きではなかったとでも言わんばかりに他の男性と恋仲になっていることも多かった。俺としてもそれが当然だと思っていたし、惜しいとも思わなかった。

 本気で人を好きになれない男が誰かと付き合うなんていうのはその相手に失礼だし、その人の時間を無駄にするような行いだと思っていた。だからたまに告白されても冗談として受け流してお互いに傷つかないようにしていた。


「俺はそんなでもないかなー、てかなに?罰ゲームでしょ? 」

 薄い笑いを口元に浮かべながら答える。鈴原はきっと傷つくだろうがそれでもいい、きっとすぐに立ち直るだろう。そうして、俺の悪口を友達に言って何事もなかったように言いながら、次の好きな人を見つけるだろう。それでいい、そうしなければいけない。俺は彼女を本気で愛してなどいないのだから。

 けれど、彼女の返答は意外なものだった。

「そんな冗談で好きだなんていいませんっ!!振られるならそれでもいいです!けど!」 潤んでいた瞳からは既に涙が流れ出していた。きっと、さっきの返答は彼女を非常に傷つけたのだろう事が実感としてわかり、胸が痛む。どうしてそんなに必死になるのだろう、こんななにもない男に対して・・・・・・

 頭二つ分も低い華奢な身体を震わせながら、それでもしっかりと背筋を伸ばして鈴原はこちらを見つめている。涙がぽろぽろと流れている瞳は赤くなり痛々しい。それでも言葉を続ける。

「けど、そんな風に誤魔化されるのは嫌です・・・・・・だから、ちゃんと答えてください・・・・・・」

 最後の方は力無く呟くように言った彼女はそこで言葉を切り、肩を震わせながら息を吸い込む。見れば脚まで震えている。こんな小さな女の子にここまで必死に思いを伝えられているという事実に気圧されて今度はこちらが返答に詰まる。

 そして、だめ押しとばかりに鈴原は泣いたまま、その優しげでかわいらしい顔に笑顔を浮かべて告げる。

「私と付き合ってくれますか?宮野君」


 これはもう断れないと観念した俺が首を縦に振るのはさらに数分が経ってからだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 鈴原琴音はかわいらしい女子生徒だ。平均よりも小さめな身長にぱっちりとした二重の目が印象的で、色素が薄いのか瞳は少し茶色がかっている。瞳よりも濃い色の髪は肩の上で切りそろえられており、日の光を受けると焦げ茶色に光る。控えめだが整った容姿をしている彼女は目立たずとも少なくない人数の男子生徒に好意を寄せられていたはずだ。

 そんな彼女と優一の接点は今年高校二年に進級した時、同じクラスになったことから始まる。二人の通う高校は一学年五学級でそれほど交友関係の広くない優一にとっては他の学級の生徒となると知らない事も珍しくはなかった。

「鈴原琴音です、これからよろしくお願いします」

 始業式の後、くじ引きで席を決めた後、綺麗な声で律儀に挨拶してきたのは琴音の方からだった。彼女は目立つ方では無かったので優一はそういえば見たことがある子だな位の認識だった。

「俺は宮野優一、よろしくね、鈴原さん」

 こちらも当たり障りのない挨拶を返したのを、朧気にだが覚えている。そして、それから半年二人は別にこれと言ったこともなく、淡々と日常をこなしていた。ただの同級生として、親しくなることもなく衝突することもなく。

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