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採集と優しさと話し合い



~採集クエスト~


・キュアオリーブの葉を五十個採集


・報酬5000ゴルド


~以上~


「……毎回思うけどよ、ランクが低い依頼書って説明が雑過ぎだよな?」

「今に始まった事じゃないし、気にする必要はないと思うよ。まあ、僕も時々感じるけど」

「いやいや、でもよ?もうちょっとくらい、その、なんだ。雑談というか、理由的な物を載っけたっていいんじゃねぇの?手抜き感が手に取る様に分かるっつうか」

「ごちゃごちゃ言ってねぇで早くやれよ」

「へいへ~い」


ザクロに睨まれ、愚痴を言いながらクエストに書かれているアイテムの採集を行うバーツ。

ライト達全員で行っている採集クエスト。場所は町から離れた平原とは違い、少し茂った森の中。重なる木々の葉から太陽光が燦々と差す。


キュアオリーブは、身近な家庭でも使われており、その香りの良さや味から、調味料としても活躍している。因みに、昨日宿屋で味わった料理にも、隠し味として使われていた。

普通なら、この森一帯に生えており、すぐに回収してクエスト終了。Eランクという、比較的簡単な依頼で、こなせない難易度ではない。


そう、“普通なら”。


「にしても、全然ないわね……」

「そこら辺の雑草と同じくらい生えている様なもんなのにな」

「やっぱり、魔物のせいなのかな」

「……だろうな」


この町に来てからというもの、次々と広まっている噂。

“魔物の増加”だ。

魔獣種の数が拡大し、この森一帯に住み着いているという。数年前までは、比較的脅威もない普通の町だったのだが、二ヶ月前を機に、その数が増え出した。


その原因は、未だに不明のまま。


「最低ランクの依頼でこんなに手間取るとは思わなかったぜ」

「もうちょっと奥まで行かないと、集まりそうにないな……」


二時間もかけてアイテムを収穫しているのだが、それでも合計二十にも満たない。本来なら何時間もかけず、たったの数十分程度で終わる。だが、魔物が荒らしていくせいで、キュアオリーブや、薬草等が激減していた。結果、作業が順調に進まない。


「ちょっくら、手分けして探すか」

「それもそうだね」


バーツの提案により、二手に分かれて採集する事となった。

ライトとユイナ、ザクロとミルフィとバーツと言った二組となり、森の奥へと進んでいく。



バーツは付近を散策し、ミルフィとザクロも捜索の手に当たっているが、


「あぁ~もう!これだけ探してるのになんで見つかんないのよ~~!」

「騒いでる暇があったら手を動かせ。ぎゃーぎゃー騒がれたら耳障りだ」

「あんた毒吐くのに一切の躊躇ないのね」

「ふん」


黙々と捜索を続けるザクロ。ミルフィもため息をつきながらも、草を掻き分けながら進んでいく。

しかし、目当ての物は一向に見つからない。


「…………」

「気になるか?」

「へっ?な、何が?」

「ライトとあの女の事」

「べ、別に?ユイナはしっかりしてるし、何の心配もないわ。ライトも、まあ、大丈夫なんじゃない?」


はあ、と呆れた様なため息をつく。ミルフィも手を止めて、ザクロと向き合う。


「何よ、いきなりそんな事言い出して」

「お前さ、いい加減物事を考えるという事を知ったらどうだ?あの時から全然進歩してねぇじゃねぇか」

「はっ?何が……」

「まず、見ず知らずの奴に対して心を許しすぎだ。もうちょっと疑えよ。そんなんだからいつまで経っても」

「うっさいわね!あんたに説教食らう謂れはないんだけど!?それに、ユイナはそんな事しない!」

「何を根拠に?もしかしたら表面だけを見繕った腹黒女かもしれないんだぞ?」

「あんたねぇ……!」


ザクロの言葉に、怒りを覚えるミルフィ。皺が寄り、体が震えている。そのまま詰め寄ろうとすると、


「あったど~~~~!!」


声のする方向に顔を向ける。

白い塊が、その小さな両手に沢山の薬草を持ちながらやって来た。


「って、多くない!?どっから採ってきたのよ!?」

「あそこの木、見えるだろ?そこの根元にたくさん生えてやがった。いや~ラッキーラッキー」


指差した場所には、確かに目的のアイテムであるキュアオリーブの葉が生えていた。運良く、魔物の手から免れたのであろう。

何はともあれ、ノルマは達成出来そうだ。


「んじゃ、これで依頼完了ってな」

「あ~あ、なんか先越された感じがして複雑」

「ふっ、これを機に、俺の事を少しは敬うんだな!」

「ああ、無理無理。絶対無理」

「右に同じく」

「可愛いげのねぇ奴だなぁ、おい!」


ないわ~と言わんばかりに嫌な顔をするミルフィ。ザクロも同感な様だ。バーツは文句を述べると、すぐに落ち着きを取り戻す。


「……無理はするなよ。それぞれ、そいつなりのペースがあるからな」

「バーツ……」

「…………」

「まっ、人の自由だ。決めるのは自分。ユイナの事だってそうだ。じっくりと考えてから、答えを出すだろうさ」


腕を組みながら、染々と言葉を重ねていく。ミルフィとザクロも黙って聞いていた。

だが、次の瞬間にはいつもの調子に戻っていた。


「さて、とっととずらかるとするか。ライトと合流するぞ」

「そうね」

「…………」


森の中に進もうと、足を踏み出す。すると、何かが軋む音がした。

下を見ると、何やら立札らしき物が倒れていた。最近、立てられたものなのか、まだ新しい。起こしてみると、こう書かれていた。


“ここから先、魔獣種多発地域!厳重注意!”


「……おい、これって」

「……そういえば、酒場で聞いた事あるわ」

「……確か、この辺りはゴブリンの集団が牛耳っているらしいな」


その数は、五十に及ぶ。ランクはCとまあまあだが、数の暴力という言葉もある。


「……急ぐぞ!」

「ええ!」

「言われなくてもな」


三人は、二人の元へと向かった。





◇◆◇◆





一方、そんな事は露知らずの二人はというと、


「ユイナ、疲れてない?」

「あっ、はい。大丈夫です」

「無理しなくてもいいよ?」

「平気です。私も皆さんのお役に立てる様になりたいですから」


のんびりとしていた。


嫌な顔一つせずに取り組む彼女を見て、どこか複雑な表情を見せるライト。

ザクロと話した件について、悩んでいた。

本当に、彼女をこの旅に同行させていいのだろうか?

彼女は知らない。“本当の自分達”の事を。

知ればきっと、幻滅――――拒絶される可能性だってある。


ライトは改めて、懸命に目的のアイテムを探す彼女を見る。


そして、重い口を開く。


「ねぇ、ユイナ」

「はい?」

「前に、僕達の旅についてくるって、言ってたよね?」

「……はい」

「それは……よく考えた上での判断って事?」


何かを試されている。

彼の視線からそう感じ取るユイナ。いつもの優しい瞳の中に、若干威圧的な意志が見えた。

気をとられるも、すぐ我に帰り、決心した面持ちで答えた。


「はい。私自身、この世界の事を何も分からないし、魔法だって使った事もないし、皆さんの足を引っ張るかもしれません。でも、それでも皆さんと一緒に行きたいんです」


訴えかける様に言葉を紡いでいくユイナ。今も止まる事はない。


「皆さんの事、何も分かっていません。ですが、これからもっと知っていけたらいいなって、思っています。ライト君達は、とても優しい人達だから――――」

「それは違うよ」


ついに遮られた。冷たく、重い声音によって。

いつの間にか、ライトの表情は無機質な物となっていた。


「ミルフィやバーツ、ザクロはともかく……僕は違う。君が思っている様な、いい人じゃないんだよ」

「で、でも……」

「それに、厳密に言えば、君を助けた訳じゃない。“偶々”通り掛かっただけであって、善意はないんだ。優しさなんて必要ない。優しいなんてものはね?聞こえはいいかも知れないけど、現実から言わせてもらえば、何の役にも立たないんだ」


溢れ落ちる様に発せられる言葉の数々。今までの彼からは感じたことのない、得体の知れない感情。ユイナはただ、耳を傾けるしかなかった。


「優しさは、謂わば“甘い”、“臆病”、“保身”、“偽善”を上手く綺麗にした言葉さ。実際、この世界じゃ優しさだけでは何も出来ない。何も、ね……」

「…………」

「ユイナ、この世界はね?君が思っている様な、お伽噺や夢の国なんて甘い考えが通じる世界じゃないんだ。これから、目も伏せたくなる様な出来事が待ち受けている。その上で、もう一度だけ聞くよ?」


“僕達の旅についてくる勇気はあるかい”?


心を射抜くかの如く、冷たい視線。ユイナは完全に臆していた。


「わ、私は……私…は………」

(……ちょっと、脅しすぎたかな)


やり過ぎたかもしれない。だが、彼女の事を考えると、こうでもしなければ、これからの事に耐えられる保障はない。

心を鬼にし、ライトはユイナに問い掛ける。


「それ、でも……私は――――」

「ユイナ!」

「えっ?」


突如、肩を掴まれて体ごと下に下げられる。すると、先程まで自分が立ち上がっていた場所。自分の胸元付近に一本の矢が空を切った。鈍い音を出しながら、地面に突き刺さる。

茫然となるユイナだったが、すぐに現状を察した。


自分達は、囲まれているのだ。


「こ、これは……?」

「恐らく、ゴブリンの群れだろうね。きっと、ここはゴブリン達の縄張りだったんだ」


全身が深い緑色の肌。身長は人間の子供位しかない。醜悪な風貌、下卑た笑い声を唸らせるゴブリン達。数は三十、いや四十はいるだろう。泥で汚れた剣や棍棒を手に、ライトとユイナを囲い込む。


「…………」

「ライト、君……」

「ユイナ、ちょっと良い?」


ライトはそう言うと、フード付きの灰色の上着を脱ぎ、ユイナに被せる。出来るだけ、顔を隠せる程、目深に覆う。


「ごめんね、ちょっとだけ我慢してね」

「は、はい」

「目と耳を閉じて。大丈夫、すぐに終わるから」


安心させる為、優しく微笑むライト。一瞬、心が安らぐも、すぐに彼の指示に従うユイナ。

五十体ものモンスターに囲まれたこの状況の中、たった二人で生き残るのは厳しい。

だが、今はライトの言葉を信じるしかなかった。ユイナはすがる様に、耳を手で塞ぎ、目を閉じた。


「……さて、早い所終わらせるか」


周りのゴブリン達は勝ち誇った様にニヤニヤと口角を歪めながらこちらに歩み寄ってくる。この状況では、どう足掻いても意味はない。そう結論付けているのだ。




だが、それは間違いだった。





「まだ、ユイナに“コレ”を見せる訳にはいかないからね」


そう言うと、右手に填められた腕輪に手を添えるライト。


そして、その場は光に包み込まれていった。





◇◆◇◆





音も、視界も遮られた状況。ただただ黙っていると、肩に温もりを感じた。

見上げると、白髪の少年が微笑んでいた。


「はい、もう終わったよ」

「えっ?あっ――――」


周りを見渡すと、そこには“何もなかった”。もちろん、茂った木や草などはある。

だが、先程まで自分達を取り囲んでいたモンスターの姿がなくなっていたのだ。

これには、ユイナも疑問を隠さずにはいられなかった。


「ら、ライト君、もしかしてライト君が……?」

「ちょっと威嚇用の魔法を使って、追い払っただけだよ。ユイナには、予め予防策を言っておいたから、問題はなかったろうけど」


そう述べるライト。目を丸くしながら、ユイナは聞くしかなかった。

とはいえ、五十もの大群がいた上に、中には狂暴そうな大柄の個体がいたのだ。

威嚇用の魔法がどういうものなのかは知らないが、本当にそれだけなのだろうか?


未だ疑問に思っていると、向こうから声がした。


「うお~い!お前ら無事か~!」

「ライト~!ユイナ~!」


他の三人が、駆けつけてくれた。


「やあ、その様子だと、どうやら集められた様だね」

「ああ、御覧の通りだ。つうか、そっちこそ大丈夫か?ここ一帯はゴブリン共のテリトリーらしい」

「Bランクの冒険者も多大な被害に遭ってるらしいし、本当に心配したわ……」


無事な事を確認すると、ミルフィはほっと胸を撫で下ろす。


「ああ、うん。まあ、何とかなったよ」

「……お前、まさか」

「……ちょっとだけ、ね?」

「はあ……」


ザクロは顔に手をやり、怒りを通り越して呆れた様に肩を落とす。

その様子を見て、バーツとミルフィも察した。ライトがどうやって撃退したのかを。


「まあ、とりあえずは戻ろうよ。集会所の依頼をこなせたんだからさ」

「何はともあれ、無事で良かったわ、二人とも」

「ったく、受付の奴にとっちめてやらないとな。もうちっと警戒レベルあげやがれ~!ってな」

「無駄だと思うがな」

「物は言い様って言うだろう?あっ、モノリットだけに、物。なんっつって♪」


そんな彼を差し置いて、とっとと前を進む四人――ユイナはミルフィに背中を押されて――。


「ちょっ、お前ら~!少しは耳を傾けたりとかは思わんのか~!スルーはめっちゃ傷つくんだぞ~~~!」

「えと、あの……」

「ユイナ、目を合わせちゃ駄目。口も聞いちゃ駄目。良い?」

「何事もなく、帰れたらいいのにね」

「全くだな。どこぞのつまらん話に付き合わされる事なくな」

「聞けよぉぉぉぉ!!!」


一つの物を差し置いて、四人の少年少女は、町へと帰還していった。








いつの日からか、冒険者達の間で、新たな噂が流れた。




ゴブリンのテリトリーとされていた森の中、そのゴブリン達の姿が、一切見当たらなくなった……と。





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