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自己紹介と交流

外から見ればどこにでもある簡易式テント。一見脆そうだが、入って見てみると、金属や木で出来た骨組みはしっかりとしており、意外と広い空間である事にギャップを抱く。

そのテントの中心。用意された椅子に座り、一人の少女を前に、三人――もしくは二人と一匹――は向き合っていた。少女こと結愛は、ライトがテーブル上に出してくれた紅茶を飲み、気分を落ち着かせる。


「えっと、落ち着いた?」

「は、はい……」


香りもよく、仄かな甘味を持つ紅茶に舌鼓を打っていると、ライトから声をかけられた。慌てて返事をする。


「すみません、ご迷惑をおかけしたみたいで」

「と、とんでもない!こちらこそ驚かせちゃって、ごめんね?えっと……」


ぺこりと頭を下げる結愛を見て、ライトは慌て出す。彼の様子を見て、察した結愛。


「あっ、自己紹介がまだでしたね。私は【天之守 結愛】と申します。助けて頂きありがとうございます」

「え、えと……ご丁寧にどうも」


懇切丁寧に御辞儀をする結愛。細かな部分まできちんとした振る舞いに、ライトも思わず畏まる。


「僕は、【ライト】。怪我がないみたいでよかったよ」


少年、ライトは結愛にそう答えた。

濁りのない長めの白髪で、後頭部で一つに結んでいる。線が細く、やや幼い顔立ち。同時に人当たりの良い、相手を安心させる穏やかな雰囲気を持っている。


次に、ライトの隣にいる少女が話しかける。


「あたしは、【ミルフィ・クレイル】。で、こっちのチビなおっさんが―――」

「黙れぇい!チビとおっさんは余計じゃ!自己紹介くらいさせろ!!」


白い物体がミルフィに怒声を浴びせる。頭に湯気が出る程の怒りを表しているが、ミルフィには対して効果はない。

むしろ慣れた様に、すました表情で流す。


「俺はバーツってんだ。よろしくな、嬢ちゃん」

「は、はい。こちらこそ」


フワフワと浮かびながら挨拶を交わす。バーツの存在に未だ驚きながらも、結愛は平常心を保つ。

タイミングを見計らって、口を開く。


「その、所で、ここは何処なんでしょうか?」


現状を把握するため、結愛は今いる場所の事を質問する。


「う~ん、そうだなぁ。森を出てすぐ移動したから……ここは【ロヴァーヌス】の領地って事になるかな」

「…………え?」


聞き慣れない単語が耳に入った。小さい頃から英才教育を受け、地学の部門も関わってきた。しかし、その様な地名は今まで聞いた事もない。


「あ、あの、そのロヴァーヌスという所って、あまり知られてないという事は…………」

「いや?地図にも乗ってるし、知らないっていう人はいないんじゃない?」


さも当然の如く、ミルフィは答えた。真顔で言われ、妙に納得してしまう。


「にしてもよ、嬢ちゃんの名前……アマ、ノモリだっけか?随分と変わったネーミングだな」

「ここら辺じゃ聞いた事もないわね」

「そ、そうですか?」


「名字はともかく、名前は普通だと思うけど……」と首を傾げる結愛。

先程からどうにも話が噛み合わない。そんな中、一人黙っていたライトが、何やら深刻な面持ちで会話に入る。


「アマノモリさん。ちょっと質問してもいいかな?」

「は、はい?」

「君が住んでいた街、或いは国の名前は分かる?」

「は、はい。日本の東京という所です」


結愛は正直に答えた。

それに対し、三人は一斉に顔を訝しげに変え、頭上に?マークを浮かび上がらせていた。


「ニッ……ホン?」

「ト、トーキョー?」


二人にとっては耳にした事もない土地名らしく、発音に戸惑っていた。普通に言った結愛自身も、どうしたのかと困惑する。


「なんだなんだ?またしても訳分からなくなってきたぞ?」

「ねぇ、あんた本当にどこから来たの?もしかして、かなり田舎の方から?」

「どちらかと言うと都会で、知らない人はいないと思うんですけど……」

「う~ん、そんな名前の場所聞いた事もないな……」


腕を組んで記憶を探ってみるが、その様な地名はやはり覚えがない。地名をブツブツと呟きながら探るも、効果は得られない。

二人に加え、ライトも思い詰めた表情で思考に走っている。


(ど、どうしたらいいんだろう……)


目が覚めて早々、理解不能な状況に追いやられてしまった。自分はただ家に帰ろうとしていただけなのに、なぜかこの様な見知らぬ地にいた。しかも見た事もない生き物――バーツ――の存在で、更に困惑してしまう。


不安になりつつある、そんな時。


「あっ……」

「「「ん?」」」


グゥ~……と、盛大な腹の虫が鳴った。

沈黙に包まれていたテント内でよく響き渡り、全員の耳に行き渡った。

呆気にとられるも、すぐに我に帰る。ライトは自分じゃない事を確認し、バーツに視線をやる。

バーツは肩を竦め、首を振る。次にミルフィ。こちらも顔の前で手を振り、違うと主張。

よって、残された人物に視線が集まる。


「…………………………スミマセン」


熟したトマトの様に真っ赤に染まった顔を俯き、遠慮がちに手を上げる結愛。もじもじと羞恥するその様は、普通の男性が見れば心を撃ち抜かれるのは確実だろう。

その様子を見て、他の三人は思い出したかの様に苦笑する。


「そういや、飯まだだったな」

「すっかり忘れてたわ」

「急いで、作ろうか」


ライトは椅子から腰を上げ、調理の準備をする。


「あ、よかったら、アマノモリさんも食べてよ」

「えっ!でも……」

「遠慮しなくてもいいよ。すぐに取りかかるから、待ってて」

「あ、あの、それなら私もお手伝いします」

「えっ?でも……」

「やらせて下さい。料理は、母からも教わった事があるので、大丈夫です」

「…………そっか。じゃあ、お願いするよ」


ライトの許可をもらい、結愛も手伝いに入る。


「それじゃあ、私も―――」

「ミルフィは駄目!絶対に駄目!」


結愛の時とは違い、断固とした口調でミルフィの手伝いを一蹴した。


「ちょっ、何でよ!?」

「ったりめーだ!忘れたとは言わせねぇぞ!ライトに食わせたあの悲劇の“生成物”を……!」

「あ、あれは!その、ちょ……ちょっっっっとだけ間違えて……そう、ちょこっとだけ調理方法を間違えちゃったのよ!」

「ちょこっと所の間違いじゃねぇだろあれは!マジで天に召される寸前だったんだぞ!」

「そこまで言わなくてもいいでしょ!」

「いいや、言わせてもらう!お前は台所に立つな!」

「何よ!あんたに言われる筋合いないんだけど!」

「まだ言うか!往生際が悪いぞ、この暗黒(ダーク)物質(マター)生成師め!」

「な~~に~~よ~~!!」


騒がしい。実に騒がしい喧嘩が勃発していた。テント内で仕切られた別の部屋にて、ライトと結愛は調理を行っていた。


「あ、あの……クレイルさんって、料理は……」

「……ご想像に任せるよ」


遠い目をしながら答えたライトを見て、何となく察した結愛。苦笑いの後、すぐに調理の方へと意識を移す。

見事な包丁さばきに加え、しっかりとした手際の良さ。ライトの邪魔を一切しない、無駄のない完璧なアシスタントをこなしていた。

これにはライトも目を丸くして驚いていた。寧ろ、自分は必要ないんじゃないか?と思う位に。

頼りになると思いながら、ライトも手を進めていく。


調理をしている最中、“あるもの”が結愛の目に写った。それはライトの右手首にあった。服の裾で隠れていたのだが、調理の際に腕捲りをして、姿が(あらわ)になったのだ。

純白といってもいい、澄んだ色をした金属の腕輪。派手な装飾はなく、代わりに、“何か”をはめる様な小さい窪みが計六つあった。

何故か神秘的に感じ、思わず手を止めて魅入ってしまう。


「綺麗……」

「ん?」

「あっ、すみません!……あの、その腕輪って」

「ああ、コレ?」


ライトは腕輪を結愛に見せる。天井に吊るされた、テント内を照らすランプに反射し、その純白感が更に増す。


「まあ、昔からのお守り……みたいな感じかな。これがどうかした?」

「その……綺麗だな、って思って」

「まあ、他の人から見ればそう見えるかもね」


腕輪を見ながら答えるライト。そして、すぐに目を微かに細める。


「でも、こんな言葉は知ってる?」

「っ?」

「人は見かけによらない。それは“モノ”も同じ―――って」


無表情な顔。それが、どこか達観した様な雰囲気を出していた。一変した彼の姿を見て、結愛は思わず体が強ばる。

数秒後、彼は普段の温厚な表情に変わった。


「何てね。ごめんね、変な事言って」

「あっ、いえ……」

「じゃあ、早い所済ませようか」

「は、はい」


戸惑いながらも、結愛は作業を再開する。

それからは、なんの滞りなく、調理を終え、料理が完成した。料理をミルフィとバーツの元へと持っていく。


「お待たせ」

「ぐぬぬ、どうだ!参ったか!」

「は~にゃ~しぇ~~!」


部屋にはバーツの白い両頬を左右に力いっぱい引っ張りあげているミルフィがいた。バーツはジタバタともがいているが、それほど意味はない。

二人はそれに苦笑すると、料理をテーブルに置く。食器類はミルフィ達が用意してくれた様だ。

食器に料理であるシチューをかけ、パンも用意する。


「さて、それじゃあ」


全員が両手を合わせて「いただきます」と唱え、夕食を堪能していく。

ライトの腕の良さに加え、結愛の充分過ぎる程の手助けも合わさり、いつもより美味しく感じた。ミルフィ曰く、「すごく美味しかった」との事。

食事の最中もミルフィはバーツと喧嘩。それをやれやれと言った感じでライトが止めに入る。

ちょっと騒がしい食事風景。

しかし、結愛の目には大変穏やかな風景に見え、思わず微笑を浮かべる。家族とはとれなかったが、今宵は彼等と楽しい夕食を味わった。




◇◆◇◆




ライト達との夕食を楽しんだ後、結愛はミルフィと同じ部屋で寝る事となった。

半分申し訳ない気持ちと、有難い気持ちを抱きながら、泊めてもらう事になった。


「それじゃあ、ここに寝袋置いておくから」

「あっ、はい」


結愛は今、ミルフィと一緒の部屋にいた。

テントの中は実に広く、大きめの布を仕切り、それぞれの部屋に仕分ける事も可能な程。

ミルフィの寝袋の横に、結愛の寝袋を置く。


「いや~、予備の寝袋あって助かったわ。“備えあれば憂いなし”とはよく言ったものね」

「あの、重ね重ねありがとうございます。本当に助かりました」

「ああ、気にしないで。旅は道連れって言うし、それに礼を言うならライトに言ってやって」


深々と御辞儀をする結愛に、困った風に頭をかくミルフィ。若干はにかんでる様にも見え、満更ではなそうだ。


「ライトさんには、本当に御世話になってばかりで、どう恩を返したらいいか」

「そんな恩だの何だの別にいいと思うわよ?あいつ全然気にしてなさそうだったし」


でも、と結愛は名残惜しそうに呟く。

見ず知らずの自分を無償で助けてくれた彼に対し、心から感謝している。気にするなと言われても、結愛は引き下がれなかった。自分に何か出来る事はないかと模索する。


「にしてもさ、さっきから思ってたんだけど、アマノモリ――――ねぇ、ちょっといい?」

「はい?」

「あのさ、“ユイナ”って呼んでもいい?どうもアマノ、モリ?って呼びにくくて……。それに、私以外で女の子、しかも同年代と会うのなんて久しぶりだからさ。堅苦しいのもなんだし、仲良くしたいなぁ、なんて……」


頬をかきながら、不安気味になるミルフィ。だが、それは杞憂に終わる。

キョトンとした表情の後、花が咲いた様に笑顔で答える結愛。


「はい。是非、お願いします」

「ホ、ホント?ありがとうユイナ。なら、私もミルフィって呼んでよ」

「分かりました。ミルフィさん」


ミルフィからの頼みを快く引き受けた結愛――改めユイナ――。友達が出来るのは彼女にとっても歓喜の限りであり、ミルフィ自身も同様だ。

ずっと前からライト達と始めた、終わりの見えない旅。街から街へと、長期滞在する間もなく移り行く為、それほど親しい友達が出来る事はなかった。

いつもは明るい気性でライト達とも別け隔てなく対話できる。だが、それでも女一人の身である事に変わりなく、出来る事なら同性の親友、とまではいかなくても、友達くらいは欲しかった。

半分諦めかけていたが、それがこの様な形で叶うとは思わなかった。今は名前を呼び合うだけだが、これからゆっくりと親しくなっていけばいいだろう。


「それで、さっき何か言おうとしたんじゃあ……」

「ああ、そうだった」


思い出したらしく、ポンと手を叩く。


「もしかしてだけど、ぶっちゃけユイナってさ……どこかの御嬢様だったりする?」

「えっ?」

「いや、なんかさ。身に纏っているオーラがこう、“清楚なお嬢様”みたいな感じだし?自己紹介する時の立ち振舞いも何処と無くそれっぽかったから」


隅々まで精練された、完璧という二文字が似合う振舞い。時折見せる笑顔は、その完成された美貌も合わさり、相手の心を癒す様な効果ももたらしていた。

これらの事から、ミルフィは推測した事を本人に述べた。


「た、確かに、周りの人からそう言われる事はあります。でも、私自身が偉い訳ではないので、頷く事は出来ませんが」

「やっぱり合ってたのね~。じゃあ、家ってどんな仕事してるの?」

「えっと、確か…………」


ユイナは自分の知りうる限りの事を話した。

父が“ありとあらゆる企業のトップ”である事。母も同様で、父の手伝いをしている事。


「――――以上です」

「………………………………」

「あの、どうかしましたか?」

「……いや、何でもないわ」


咄嗟に目を反らすミルフィ。訳が分からず、首を傾げるユイナ。

説明の所々、分からない単語等はあったが、大体把握した。一部自己解釈も入っているかもしれないが、間違いない。


(この子――――本物の大富豪令嬢だ……)


そう結論付けた。

本当の所はまだ分からないが、企業の他に、貿易や外交やら庶民には到底理解出来ない領域に達している事に、話の途中から気づいた。

改めてユイナの方を見る。彼女は変わらず首を傾げたままだ。自分で凄い事を言っている事に気づいていないのだろうか?


(若干、天然かな?)


だとすれば、彼女はかなりの箱入り娘、深窓のお嬢様という事になる。それ故の純粋さなのだろうか。

何にしても、ユイナに対して嫌な感情は抱かなかった。

自分が会ってきた“貴族”の中では、一番友好的だ。いや、あんな奴等と比べるのもユイナに悪いし、失礼だ。

ミルフィは思考を区切ると、再度ユイナに話しかける。


「そうなんだ。お父さんお母さんも凄いね」

「はい、大切な両親で、心から尊敬しています」


夫婦仲も良好、なのだが、人目を気にせずイチャつくのは流石に恥ずかしいからやめてほしい。そう思い、ため息をつくユイナだった。


「ミルフィさんはどうですか?ご両親の方は」

「………………ごめん」

「えっ?」

「ちょっと、色々あってさ……話せないんだ……」


誤魔化す様に、大きく笑いだすミルフィ。しかし、どこか痛々しいその姿に、ユイナの表情は暗くなる。


「すみません……私、変な事を……」

「あっ、気にしないで気にしないで!ねっ?ほら、他の事なら聞くからさ」


暗くなった空気を変える為、慌てて明るく取り繕うミルフィ。


「……それじゃあ、ライトさんの事を」

「ライトの事?」

「見ず知らずの私を助けて下さり、他にも色々と気遣ってくれて……」

「さっきも言ったけど、気にしなくていいよ。あいつ昔っからああだから。泣き虫で喧嘩も弱いくせに、困ってる人見つけたらすぐに助けようとする。後先考えずに動くお人好しなのよね。ホント、困ったもんだわ」


やれやれと肩を竦め、首を左右に振る。呆れている事が表情から見える。


「へぇ~、よく知ってるんですね」

「そりゃあ、まあ……幼馴染みだし?ていうか、腐れ縁とも言うかな?」


顔を反らして答えるミルフィ。表情は見えないが、チラッと見えた頬は微かに朱に染まっていた。


「でも、本当に優しい方なんですね」

「……そうね。ホント、危なっかしいんだから」

「えっ?」

「ううん、何でもない」


声を聞き取れず、もう一度聞き直すも、ミルフィは答えなかった。

ユイナと向き合い、話題を変える事にした。


「そういえば、気絶した時あったけど……なんで?」

「ああ、それは……」


ユイナはミルフィに話す。

起きた瞬間、地面から生首が生えていた所を見て、気を失ってしまった―――と。


「な、成る程……驚かせちゃってごめんね?」

「い、いえ、気にしないで下さい……。所で、あれは一体」

「あれはただ単に、私が魔法を使っただけよ。こんな風に」


ミルフィは懐からあるものを取り出す。

長さは50センチ前後、持ち手は明るい黄土色。刀身らしき部分は澄んだ黄色となっている。指揮者等が手に持つ、指揮棒の様な物を取り出した。

何もない地面に向けて、それをかざす。


「【錬成・(ホール)】」


唱えた直後、指揮棒――クリエイタクト――が向けられたその地面に、濃い橙色の魔法陣が出現した。

円を描く様にタクトを振るい、魔法陣は地面と同化していく。直後、地面には出現した魔法陣程の大きさを持つ穴が出来上がった。


「で、ライトをこの中に落として、穴を塞いだ―――という訳」

「………………………………」

「お~い、ダイジョブ?」

「へっ!?あ、えっ、ええええっ!?」


ユイナは驚愕のあまり、目を開いたまま硬直していた。呼び掛けられ、今度は大声を出す。

それもそうだろう。目の前であり得ない現象が起こったのだから。

絵本や童話の世界でしか存在しない筈の魔法?らしきものを見せられたのだから。

現実世界では一生目の当たりにしないであろう現象を目にしてしまい、混乱が極まる。


(こ、これって、何?えっ?どういうこと?テレビ等でやっているCG……というものでしょうか?いえ、それにしては綺麗過ぎるというか……ええっ?)


疑惑が頭の中を渦巻いていく。聞いた事のない地名やバーツという白い生き物。更には魔法ときた。

自分は、本当にどうなってしまったんだろう?


「そんなに驚く?魔法の一つや二つなんて、見たこと位あるでしょ?」

「い、いえいえ、魔法なんて初めて見ました!そもそも、存在しない筈では……」

「いや、初めて見たってあり得ないでしょ!?世界中にあるんだから」

「え、ええ……!?」


何言ってるの?と言いたげにミルフィは答えた。対してユイナは混乱したまま。


「多分……疲れてるのかしらね。うん、そろそろ寝た方がいいわ」

「は、はい……そうします」


ランプを消し、二人は同時に寝袋で身を包む。


「あっ、それともう一つあるのですが」

「ん、何?」

「ライトさんが何故埋まっていたのは分かったのですが、その埋められた理由って……」

「おやすみ~」

「えっ、ミルフィさん?」


狸寝入りするかの如く、ミルフィは横になる。また声をかけるも、返事がする事はなかった。

結局、理由が分からずじまいで終わってしまった。



◇◆◇◆



ユイナとミルフィの二人が寝静まった後、テントの外に出ている一人の少年。近くの岩に腰掛け、夜空に輝く青白い月を眺めていた。


「…………」


ただ無言で眺めるのみ。次に、自分の腕につけられた腕輪に目をやる。同時に、今日会ったばかりの少女に言われた言葉を思い出す。


「綺麗……か」


彼女は本心からそう思ったのだろう。

しかし、素直にうんとは頷けなかった。何故なら、自分には薄汚れて見えるからだ。白という色は、純粋かつ何色にも染まりやすい。綺麗な色は勿論、どす黒い色も例外ではない。

この腕輪の場合、そのどす黒いのが妥当だろう。あの時、彼女にはお守り、等と口走ったが、ある意味間違ってはいない。


だが、ライトは思う。


これはお守りなんかじゃない――――――――“呪い”だ


今度は忌々しげに睨むライト。右手で腕輪を掴み、微かに震えている。


「用足しにしちゃ、随分と長いな」


後方から突如かけられた声。振り返ると、バーツが腕を組んでこちらを見ていた。


「バーツか……」


ライトは一瞥すると、すぐに前を見据える。バーツは黙ってライトの横に座った。


「どした?こんな時間まで起きてるなんてよ」

「うん、ちょっとね……」


乾いた笑いを出しながら、自らの右腕にはめられた腕輪を眺める。


「ねえ、バーツ。アマノモリさんの事……どう思う?」

「どうって?まさかお前、一目―――」

「どう思う?」

「わ、分かったよ……分かったから睨むのやめろって」


半目で少しの殺気を飛ばしてきた為、バーツはふざけるのをやめる。わざとらしく咳をした。


「そう言われてもな~。見た目からしてどこかの御嬢様っぽいし……大方、初めて外に出たけど道に迷って、路頭に倒れてしまった―――ってとこか?」


腕を組みながら、自分なりに考えた推測を述べる。

しかし、ライトは首を左右に振った。


「バーツ…………あの“魔法陣”を見たんだ」


その言葉を聞いた途端、バーツのおどけた表情が、一瞬にして引き締まった。思わず声を漏らしてしまう。


「本当、なのか……?」

「間違いない。あれは確かに“あの時”と同じものだった。あの魔法陣から発せられた光から、彼女が現れたんだ」

「てことは……」

「恐らく……ね」


ある仮説を立て、ライトはバーツに告げる。バーツはすぐに平静を取り戻す。


「どうすんだ?もし、あの嬢ちゃんがそうだとしたら……」

「分かってる。明日、話してみるよ。信じてもらえるか、分からないけどね」


真剣な面持ちで語りかけるライト。そんな彼を、蒼白の月は薄らと照らしていた。


とりあえず、連続でなんとか投稿してみました。


次からは時間をかけて投稿すると思います。

これからよろしくお願い致します。

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