《幻想世界》 1
《幻想世界》
ここは『幻想世界』、『ファンタジオン』、人間の思い描くファンタジーという名の架空の世界がリアルになったかのような世界。空飛ぶ山にクリスタルの森、エメラルド色に輝く湖などこの世界にはファンタジーと呼べるものがたくさんギュッとつまっているようなキラキラした世界なのだ。
この世界には『人間』がいない、代わりに『猫人』という亜人が住んでいる。
わからない人のために説明しよう、『亜人』とは人の姿に似ているが人ではない伝説上の生物を指す言葉である。例えば耳がとんがっている妖精の『エルフ』や半人半馬の『ケンタウロス』、『半魚人』などが亜人と呼ばれている。
猫人は人間の姿形に猫耳と猫のしっぽが付いた姿をしている、そしてみんな身体能力が高く体型はスレンダー、太ることはない。
この猫人がここファンタジオンで暮らし文化を築き上げている。
ここファンタジオンには4つの大陸がありそれぞれの大陸にそれぞれの国がある、世界地図から見て中央にある大陸『ザスク』には草原の国『エポナルド』、そのエポナルドの南西には山の国『インダ』、南に森の国『テラス』、南東に水の国『バルナ』の4つの国がある。
そして『ザスク』の南にある大陸『リュセイ』は月のように曲がったような形の大陸で西に砂の国『アトゥムス』、真ん中に太陽の国『ラゥラー』、東に海の国『ネプードン』の3つの国がある。
『ザスク』から北東にある大陸『ビャコー』はグニャっとした形の大陸で中央にはエポナルドと並ぶ大国で商売の国『ユースティア』、ユースティアの東には火の国『ゼウソン』、ユースティアから南東でゼウソンから南には沼の国『ケチャル』、ユースティアから西北西には氷の国『ウォーツ』の4つの国がある。
『ザスク』から北西にある大陸『ブンゲ』は大地の国『アポローナ』の1つしかない、つまり大陸1つが国、『アポローナ』=『ブンゲ』とも言える。
ファンタジオンに住む者達は犯罪も無ければ戦は絶対にしないほど平和な世界だ、何故そこまで平和なのかと言うと、それはこの世界の主神である『女神様』が平和になるようにがんばっているかららしい。
エポナルド ハッパ村
この村はエポナルドの片隅、森の国『テラス』との境目の一歩前にある森の中の村、簡単に言えば田舎である、そしてこの田舎の森に二人の若者がいた。
「オーイ!…どこ行ったんだろ?」
一人の若い猫人の女の子が森の中で誰かを探している。
「まったく、おじさんに遅いって怒られるよ!」
女の子は17才、探しているのは友達だろう。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
女の子は聞いた、誰かの悲鳴、それはどこか、西か北か南か東か。それはどの方角でもない、上だ。
ドシィィィィィィィィン!!
女の子の前にそれは落ちてきた、落ちてきたのは17才の男の子、木の上から落っこちてきたのだ。これが本当の『猫も木から落ちる』(正確には『猿も木から落ちる』)。
「痛たたたたた……」
男の子は背中をさすりながら立ち上がる、高い所から落ちたから痛いハズだがケガは無い。
「大丈夫?」
女の子は問う。
「たたたたた…え?…あ、『キュティ』。」
男の子は女の子の『キュティ』に平然としている、さっきの落下は無かったかのように。
「あ、キュティ…じゃないわよ!どこに行ってたのよ!」
「木の上。」
と普通に答える男の子。
「『あれ』、見つかったの!?」
キュティは怒鳴る。
「はいはい、待って待って。」
キュティの怒鳴りを押さえながら男の子は背中に背負っていたカゴから『あれ』を取り出す。
「見つけたよ、『リンゴ』。」
男の子が取り出したのは我々人間でも知っている果物『リンゴ』だ、男の子は木の上に登って探していたのだ。
「これでおいしい『アップルパイ』が作れるよ♪」
と男の子はカゴにリンゴを戻す。
ガサガサガサ……
森の奥から何か音がする。
「何!?……」
「『魔物』?…」
男の子とキュティは音に警戒する。
ガサガサガサガサガサ……
音が段々と二人のいる場所に近づいていく。二人は『魔物』かと思い逃げる準備をする、もしかしたら友人かその他の猫人かもしれない、それでも警戒する。
ガサ!!…
森の奥から姿を現す、それは木のような、いや木そのものと言える人型の生物。巨体で身長は500㎝はある。小さな眼と大きな口、大きな脚を下ろしては上げ、下ろして上げの繰り返しで歩いてきた。
その木の人間、つまり『木人』はキュティ達二人の猫人の前に立つ。
「ほ~…」
二人はホッとする。
「何だ~、『クス』か、おどろかさないでよ。」
と男の子は言う。
「ゴメン、ゴメン…二人、探してた…」
その『木人』、『クス』はカタコトだがそう言い、大きな手で二人を持ち上げる。
「さて帰ろっか、村に。」
『クス』は村に向かって歩きだす。
「明日は首都に行かなきゃいけないしね。『セイト』。」
とキュティは男の子の名前『セイト』を呼ぶ。
このファンタジオンには猫人以外に3つの種族が住んでいる。
1つは上記に出てきた『木人』、名称は『ウドー』。身体が木になっていて巨体の種族、性別は無い。かなりの力持ち。食べる物は木と草と水。脚を土に突っ込んで土から養分を吸うこともある。
1つは『小人』の『ララーフ』。身長は50㎝、すばやく動け手先も器用で細かい作業が得意、見た目は猫人と似ているが猫耳ではなくリスの耳としっぽがある。山の中に生息しており鉄や宝石を掘っている。
1つは海や湖など水中に生息している『人魚』の『マーフィック』、下半身が魚になっている水中に住む種族、魚としての種類は無い。身長は猫人と同じ。耳元にエラがある。
この3つの種族は猫人とも仲良く平和に暮らしている。
見た目に惑わされず心を開くからこそ仲良くなれるという事だ、これこそ平和の理想。
セイト達が住む村にはウドーも住んでいる。ララーフとマーフィックはこの土地では住みにくいらしく住んではいない。
セイトの家 ハッパッパン
ここがセイトの家でこの村の唯一のパン屋。というか、この村はその店その店1店舗ずつしかない。
「ただいま!」
セイトは家に帰ってきた。
「あぁおかえりセイト。」
優しい笑顔で出迎えるセイトの父親。
「見つけてきたよ、リンゴ。」
「ご苦労さま、さっそくアップルパイ作るから手伝って。」
「はーい!」
セイトは父親とアップルパイ作りを手伝う。
セイトの家族は父親と母親の3人暮らしである。
キュティはこのパン屋の近所に住む農家の娘でセイトとは幼なじみという間柄である。
「明日は忙しいわよ!」
セイトの母親が言う。明日はセイトが都会に行くからだ。都会と言うが実際は『王都』、このエポナルドの王が住む首都である。何故王都に行くのかというとセイトが王都で行われる『騎士試験』を受けに行くからだ。
先ほどにも書いたが、このファンタジオンには『魔物』と呼ばれる異形の怪物がいる、アクションやファンタジーのゲームに出てくるモンスターのようなものだ。
その姿はライオンやトラ、ジャガーといったネコ科の肉食動物に似ている。
『魔物』は猫人や他種族を襲い食べてしまう危険な生命体だ。
しかし『魔物』はけっして不死身ではない。2、3回ほど剣で攻撃すれば倒せるほどのものだ。
そんな『魔物』と戦い倒す、国王直属の守備隊の隊員、それが『騎士』だ。セイトはその『騎士』になるための試験を明日王都へ受けに行くのだ。
セイトが騎士試験を受けるのはセイトは剣は握ったことは無いが運動神経がいい、そして騎士にあこがれていた。それで父親が騎士試験を進めたのだ。それでセイトは試験を受ける気になった。
で、翌日!
時刻で言えば朝の7時。セイトは馬で王都まで向かう。
「忘れ物は無いかい?」
セイトの父親がセイトに問いかける。
セイトは忘れ物がないかチェックする。
「え~と、剣に騎士になるためのマニュアルに、それから……」
「私かしら?」
とセイトの後ろで声をかけたのはキュティだ。
「あれ?キュティ?何でここに?」
セイトが聞くと。
「あなたドジなところがあるからいっしょに着いて行こうと思ってね、お母さんとお父さんには許可をもらっといたから大丈夫よ。」
とキュティは答える。
「僕のために?」
「そうよ。」
「ありがとう。」
セイトはニコッと笑う、それを見たキュティの顔が赤くなる。
「し、仕方なくよ、仕方なく!」
照れてるキュティ。
こうして、一同は王都に向かって出発する。
途中騎士達が魔物退治をしている現場を見つけ少し見学していった。4人の騎士団がジャガーにサソリのしっぽと毒針をつけた姿の魔物と戦っている。
しっぽを伸縮自在に動かし鋭い針で騎士を攻撃する魔物だが騎士達は連携プレイで戦い、盾で防御もとっている。、騎士団の隊長がすばやく魔物のしっぽを切り落とし他の3人が次々と魔物の手足、顔を攻撃し。
グギャオォォォォォォォォ!!
魔物を倒した。
「すごい!」
セイトは歓声をあげる。
そして馬を走らせて3時間ほど。
セイト達は王都に到着した。
何か展開が早いな。
「わぁ、着いた!」
「王都だ~!」
エポナルドの王都『グリーナー』、とんがり屋根の建物が建ち並ぶ城下町、多くの人々で大にぎわいだ。ここでの『人』とは猫人を指す。
セイトとキュティは王都に来た事ではしゃいでいる。
「さすが王都、人がいっぱいだ!」
「村に行商人が来た時みたいににぎやかね!」
ハッパ村のような村などには定期的に行商人の集団がやって来て売買を行っている。
「え~っと、騎士試験の会場は?…」
セイトとキュティはキョロキョロと見渡し試験場を探す。
「オーイ、キミ達。」
と声をかけたのは花屋のおじさん。
「騎士試験の会場は『城』だよ。」
その『城』を指差す花屋のおじさん。
「『エポナルド』の城、『ミドリ城』、あそこで試験を行うんだ。うちの息子も参加してるから聞いてたんだ。」
うちの息子が参加、でなくともこの王都に暮らしている人だったら誰でも知ってる。
「はーい、ありがとうございます!」
セイトとキュティは頭を下げて騎士試験の会場である『ミドリ城』に向かう。
「すみませーん、騎士試験を受けに来ました。」
とセイトはミドリ城の城門の脇に設置された受付に声をかけた。このミドリ城、西洋風の造りになっていて周りには堀があり城門は橋のようになる仕掛け。
「はい、いらっしゃい♪」
と笑顔で出迎える受付をやってる騎士。騎士は甲冑を身につけているのが普通だと思うがそれは『アチラ』での話、『コチラ』では普段は制服でよい、甲冑とか鎧とかの着用はお呼びが掛かり『魔物』を退治しに行く時にのみ着用する。普段とかこういったイベントでの場合は手首に騎士の称号である『首輪』と制服の着用が義務づけられている。
「それじゃぁここに名前書いて。」
と記録用紙に名前を書くセイト。
「イヤ~、それにしても運の悪い時に来ちゃったね…」
と受付は言う。
「え?それってどういう意味ですか?」
とセイトではなくキュティが問いかける。
「実はな…」
受付の騎士が説明する。
それは昨夜、しかも真夜中の事だった。このミドリ城に住んでいるこの国エポナルドの王『リヴァン』が突如寝室から飛び出して王都の真ん中まで走って行った。そこで立ち止まるリヴァン王。そして王は。
「民よ!我が愛する国民達よ!『女神』様から神託があった!!『災い』が来る!とおっしゃった!大いなる『災い』が来るとおっしゃった!国民達よ!警戒せよ!避難せよ!生き残るのだぁぁぁぁぁぁ!!」
と大声で町中に叫んだ。
何だ何だと窓から顔を出す人々、リヴァン王はこの言葉を繰り返し叫んだがすぐに兵士に捕まり城に連れ戻された。
その後リヴァン王は頭がおかしくなったと思われ医者に診察されて今は寝室で眠っている。兵士に見張られながら。
「……と言うわけだ。今の王様の状況を考えたら騎士試験はするが騎士の『採用式』はできないかもなぁ。」
と受付の騎士は説明を終える。
『採用式』とは騎士試験を合格し騎士となれる人物に王様自ら騎士の剣と騎士の証である『首輪』を授けるという1種の儀式だ。
「あぁ、それで『運の悪い時に来ちゃった』なんて言ったんですね。」
キュティ。
「そういうこと、けど騎士試験は『騎士隊長』や『大臣』達が審査をするから試験自体は行うからまぁ来て損はないと思うよ。」
と受付の騎士はセイトとキュティを中に案内する。
「わぁ!たくさんいる!」
セイトとキュティはその試験の受験者の数におどろく、その数ざっと100人、国中のあちこちからやってきたのだ。その中にはセイトと同い年くらいの子もいれば女の子もいる。みんな剣の腕に自信があるようだ。
試験会場は『アッチの世界』で言うコロシアムのような円形の建物の中、外側に観客が座る多くの席がある。
「え~っと観客席はあっちね。」
と受付の騎士はキュティを観客席に案内する。
「はい。」
キュティはセイトに『がんばって』と言ってから行く。
セイトはその後剣を磨いたりしていた。
数分後
「ただいまより、騎士試験を開始します!」
と口ひげを生やしたエポナルドの大臣が司会を務める。大臣はメガホンのような道具で大きな声で話す。
「受験者の皆々方はこの日の剣の腕、武術の腕、馬術の腕などいろいろ鍛えてきたと思います!今日はその訓練の成果を見せてください!」
パチパチと拍手が観客席から上がる。
「ではまず……」
大臣が試験のスケジュール表を見る。
「身体測定、つまり身体の動きがどれほどすばやく俊敏な動きをするか、また力はどれほどあるのかを確かめる試験を……」
ゴオオオォォォォォォォォォォォ!!
「……ん?何の音ですか?……」
大臣は音のする場所、それは上、上を見上げる。
なんと空から『赤く目映い光』が隕石のようにふってくるのが見えた。
「何だ、あれ?…」
「何?…」
「『空岩』?…」
地方によって言葉、呼び方が違うことがある。
この『ファンタジオン』でもそういったことはある、この人が言った『空岩』とは『隕石』のこと。
「何でしょう、あれ?」
大臣も首をかしげる、その『光』はしばらくしてから。
「あれ?…こっちに来てる?…もしかして……」
ズドオオオォォォォォォォォォン!!
試験会場の真ん中に落ちた。被害者はいないのが幸いだ。落ちた場所は大きなクレーターができた。
「何?…何が落ちたの!?…」
観客も受験者達もザワザワと不安になる。
受験者から数名、城の騎士達から数名ほど落ちてきた『光』に近づこうとする者がいる。
「な…何だろ?…」
もしかして、魔物?と思う者もいれば新種の隕石?と思う者もいる。そーっと、そーっとと近づく者達。
ボコンッ!!
するとクレーターの真ん中から『何か』が飛び出した。
「何だ!?」
みんな、飛び出した『何か』を見る。
キシャァァァァァァァ……
それは形は人に近いが頭に長い角、カブトムシの角があり背中に甲羅、所々もカブトムシに近い異形の『怪人』が現れた。
「何だ!?…」
「魔物!?…」
騎士達は剣を抜き戦う体勢に入る。
『カブトムシの怪人』、略して『カブト怪人』は。
《おびえろ……猫人よ……》
と、しゃべったのだ。
しゃべった後『カブト怪人』の角が赤く光る。
ビカアァァァァァァァ!
力を溜めているような感じがする。
《おびえろ…》
バアァァァァァァァァァァァ!!
角から赤いビームが放たれコロシアム内の壁、試験用の道具などが粉々に破壊される。
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
避ける猫人達。『カブト怪人』に斬りかかる者もいるが。
ガキンッ!
身体が硬いため斬ろうにも斬れない、だから。
バシッ! バシッ!
と反撃で叩かれる。
《おびえろ…猫人…おびえろ…ファンタジオンの生き物共よ……》
『カブト怪人』はさらに暴れる。
「セイト!」
上から自分を呼ぶ声、幼なじみのキュティの声に気づくセイト。
「捕まって!」
手を差し伸べるキュティ、セイトはその手を掴み上へよじ登る。
《……逃げるか……》
『カブト怪人』がセイト達2人を見つける。
ビカアァァァァ!
ドカアァァァァァァァン!!
セイトとキュティ目掛けてビームを撃つ『カブト怪人』。そのビームに気づいたキュティは。
「きゃあぁ!!…」
絶体絶命だと思った。セイトといっしょに、このビームで死んでしまうと一瞬思ったキュティ、それはセイトも同じこと、ここでキュティと死んでしまうのかと思った。2人は絶命寸前となる。
ピカアァァァァァァァァァァァァ!!
突然の出来事だった、セイトが光りだした。本当の意味で光りだしたのだ。
「へ!?…何これ!?……」
セイトも何故こうなったのかわからないが。
ジュオォォォォォォォォォォ!!
セイトから発した光が『カブト怪人』のビームを消し去った。よって2人は助かった。
「何だろう、これ……」
セイトはキュティから離れて着地する、手など見て何故自身が光り輝くのか調べる、だが、やはりわからない。
シャキン! シャキン! シャキン!
何の音か、金属と金属がぶつかり合い奏でる、そんな音がする方を見る、セイトは仰天する。
「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
セイトの右腕が『青く輝く金属でできた鎧のような腕』に変化していくのだった。これがどこからする音なのか、自身の腕からだというのに気づかないのは相当のアホだろう。
「本当に何これ!?…」
左腕、右足、左足、次々と身体が青い金属に変わっていく。
セイトはもう理解ができない、頭が追いつかない。
シャキイイイィィィィィィィィィィィィィン!!
等々、セイトの全身が青い金属のボディとなった。
『変身』したのだ。
それはまるで魔法のように。
「え!?何これ!?僕!?」
あわてふためくセイトが『変身』したその姿はブルーメタリックのように輝いたスレンダーな身体に幅のある縞のような線の模様があり眼は『黄色で角のある眼』、頭はスキンヘッドのようにスッキリしている。
「セイト?…」
キュティもおどろく。セイトは『コレ』が何なのか自分が知りたいくらいわからない。
『カブト怪人』はセイトの今の姿を見てこうつぶやく。
《ツイナー……》