《現実世界》 1
《現実世界》
2020年 1月11日 日本
あの『各国首相世界滅亡予言事件』から1年、ついに『予言』で言われていた年、2020年となった、人々はその昔の『ノストラダムスの大予言』や『マヤ文明の予測』の時と同じように世界がどうなるかを脅えたりワクワクかドキドキしたりしていた。
人とはそういうものだ、何かが起きるのではないかというだけで緊張はするが何もしない、自分達では何もできないかもしれないと思いこんでしまうからだ。
日本 泥火市 とある喫茶店
5人組の高校生が冬休み明けの学校からの帰り道にこの喫茶店でお茶を飲みながらお喋りをしていた。
「総理大臣の大予言、あれハズレになるのかねぇ?」
「さぁ?…けど私はハズレになってくれた方が良いな、まだ生きていられるし。」
「昨日テレビで言ってたけどアンケートで『アタリだと思う人60%』と『ハズレだと思う人、40%』って言ってたよ。」
男2人と女の子3人の一組の会話、
声の主は男子高校生『川伊次郎』と女子高生『冬崎光』、そして『笑原美月』である。
「ねぇ、『愛桜』ちゃんはどう思う?」
美月は前に座るメガネをかけた少女に問いかける。
「『世界の滅亡』ですか?…」
彼女の名は『空峰愛桜』、クールな性格で美人、ファンも多い。
「……よくわかりません…」
愛桜はそう言って静かに紅茶を飲む。
「それじゃぁ、おまえは?どっちだと思う?」
次郎が前に座る『おまえ』と呼ばれた男性に問いかける。
「ん~、俺はそういうの興味ないからなぁ。自分もよくわかりません、だ。」
お手上げのポーズをとりながら答える男性『一ノ矢星人』。
「星ちゃん、興味ないんだ。」
星人の隣に座る美月はポテッと星人にもたれる。
「おい、コラ…」
もたれるのを止めさせる星人。
「お、お熱いですなぁ♪さすが『ラブラブカップル』♪」
と若者がよくやる冷やかしを言う次郎。
「ラブラブカップルだって、星ちゃん♪」
じゃれつく美月。
「おい…」
顔が赤くなっている星人。
「おい…っとか言いながらちゃっかり手ぇ回してんじゃん。」
次郎は美月の肩に置かれた星人の手に指差す。
「あ……」
星人は急いで手を離す。
「それにしてもびっくりね、仲良し幼なじみの二人が付き合っちゃうんだから♪」
光も冷やかす。
「人とはそういうモノですよ…」
愛桜。
「昔から近くにあった『何か』を愛おしく、大切にしたくなるモノなのです…ずっと、ずっと一緒にいたからこそ、それを大事に、手放したくないほど…それは『物』であろうと『人』であろうと…ずっと、自分の手が届く場所に置いとくものなのです…」
と愛桜の詩人のような言葉を語る。
「わぁ…また恥ずかしくなる言葉を言うなぁ、おまえは。」
次郎。
「愛桜です、『おまえ』ではありません…」
と鋭い目付きで言う愛桜。
「すみません…」
次郎、反省。
「それにしても、本当に星人さんと美月さんは仲が良く羨ましいですね…」
「って、やっぱり冷やかすんかい。」
ツッコむ星人。
「まぁ、確かに…大切と言えば大切だよ…美月の事は…ずっと守ってあげたいし、ずっとそばにいたい…」
星人は照れながら言う。
「うれしい♪」
美月はネコみたいにじゃれつく。
「……コラ…」
星人は小さく叱る、とか言いながら頭を撫でる。美月は小さな声でキャーっと言う。
〔ニュースをお伝えします、今日も国会議事堂で議員達による会議が開かれました、もちろん会議の話題は去年の前総理大臣『西後勇助』と各国の首相が預言した『2020年世界滅亡』についてです。この預言は真であるか嘘であるか、これを決めるための会議は今回で5回目です。〕
突如聞こえてきたテレビの音、その内容に興味を示す次郎達。
「お、また会議開いてるのか。」
次郎。
「まだ決まらないんだな。」
星人。
「あれ、さっき『世界滅亡とか興味ない』って言わなかった?」
光。
「ニュースは見る方なの。」
言い返す星人。
〔今回の会議でも全く結論が出なかったようです。以前は多数決で決めようとしたようですが五分五分なため決まらなりませんでした。ここで現場にいる菊見アナウンサーに議員の話を聞いてもらいましょう、菊見アナ!〕
〔はい、こちら国会議事堂にいる菊見です、これから会議の休憩をしている議員の皆様に質問をしていきたいと思います。すみません、ちょっとお話しよろしいでしょうか大臣、『世界滅亡』について、どう思われてますか?〕
菊見アナが話を聞く相手は日本外務大臣『鈴形幹太郎』氏。鈴形はハンカチでタラタラと流れ出てくる汗をふきながら話す。
〔私は『世界滅亡』については信じております、前総理の西後だけでなく各国の首相が何故かはわかりませんが一斉に預言をされたのです、これは科学では解明できない怪現象です、私はもしかしたら『世界滅亡』が来るんじゃないかと恐れております。だからこそ人類は手を取り合い助け合う必要があるのです。〕
〔すばらしい言葉ありがとうございます。続いてはあちらにおられる防衛大臣の『洞城秀紀』にお話しを伺いましょうか。洞城大臣!お話しいいですか?〕
菊見アナはいかにも強気で怒りっぽい50代の男性の洞城大臣に話を聞く。
〔『世界の滅亡』?…そんなもの世間の連中は連中は信じきっとるのか!?くだらん!そんな事など起こるわけがないだろ!!西後前総理や鈴形が何と言おうと私は決して信じない、何度もそんな話があったがすべてハズレだったではないか!今回もハズレに決まっとる!そんな預言を信じるヤツはバカなんだ、バカ!その『神』とかいうヤツがいるのなら出てこいってもんだ!出てこないのはな、臆病だ、臆病なんだ!出てきたら私が相手になってやる!そして!!……〕
〔はい、ありがとうございました。〕
洞城の話を途中で切り上げてしまった菊見アナ。菊見アナはその後別の大臣達の話を聞いて回っている。
「洞城って大臣、かなり傲慢な態度ね。」
光。
「あのおっさんはああいう性格なんだ、それで敵を作りやすい、まぁ本人は強気こそ防衛って言い切っているらしいけど。」
星人が説明する。
「詳しいね。」
美月。
「ニュースは見る方、って言ったろ。あのおじさんは結構ニュースに出てるんだ、それで。」
と星人は言う。
「もし…」
愛桜は言う。
「もし、『世界の滅亡』が来たら、みなさんはどうしますか?…」
と問いかける愛桜、縁起でもない質問だがみんなは考える。
「ん~、そうだな……生き残れる方法を探す、かな。」
と次郎は答える。
「私は『世界の滅亡』が来たら生き残れる可能性は低いと思うから、大切な人達、家族といっしょに最後の時間を私はそう過ごすかな…」
光。
「私は星ちゃんといっしょにいたい…」
星人にもたれながら答える美月。
「俺は美月を守る。」
と強い意気込みを言う星人。
「美月さんと星人さんの答えは光さんの答えと被っているような気がしますが…」
愛桜はクスッと笑う。
「まぁ、私も似たようなものですね…大好きなみなさんといっしょに…最後の時を過ごしたいですね、思い残す事なく…みなさんといっしょにいる事でみなさんといっしょに『あの世』に行けると…私は考えています…」
とまた詩人のような言葉を言う愛桜。
「おぉ、うれしいこと言ってくれるね、感動しちゃったよ♪」
「愛桜らしい答えね。」
5人はそう言いながら笑い楽しむ。
ドオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
喫茶店の外、街中から突如大きな衝撃音が聞こえてきた。まるで空からミサイルか隕石が落ちてきたような大きな爆発音。喫茶店内はその音と地響きで揺れた。
「何だ!?」
「何の音!?」
星人達はもちろん、その他大勢の人々が音がした方を見る。そこには土埃が大きく舞い上がっていた、炎とか煙は出てないようだ。
一部始終を見ていた人に聞くと、どうやら空から『赤く目映い光』が落ちてきたようだ、隕石とかミサイルとか飛行機ではなく『光』が落ちてきたのだ。
『光』は都会の中心地、大きな道路の交差点に落ちた。落下点には半径5mのクレーターができて車が進む、人が歩くなど交通ができる状態ではない。警察が人々を通さないように通行止めにした。
人々はギリギリ、近くで『光』を確かめようとしていた、携帯電話のカメラで撮ったりもしていた。
しかし土埃が中々晴れない、と思ったら晴れた、しかしただ晴れただけではなかった。
キシャァァァァ…
土埃の中から『人』が現れた、しかし『人』にしては身長は2mはあるし頭から長い『角』のような突起物が出ている。
キシャァァァァ…
そして不気味な鳴き声、土埃が完全に晴れて『それ』は姿を現した。
姿形は人間だが見た目は異形で眼が大きく黄色い、額には長い『角』と短い『角』の二つがある、その『角』は『カブトムシの角』に見える。
その『怪物』は特撮ドラマでよく見られる『怪人』に似ている。『怪物』は自身を見る群衆をその黄色い眼で睨む。
「何だ、あれ?…」
「何かの映画の撮影?…」
「みなさん、下がって!!」
警官が下がるよう指示を出しても下がろうと全くしない群衆。
「下がってください!」
「下がってください!」
警官の様子を見ている『怪人』。
「下がってください!下がって!下がって!」
一人の警官は声を大きく出して、声がかれるほど声を出しているにもかかわらず下がる、という行動を全然しない群衆。
ついに警官はガマンの限界がきたのか。
「下がれって言ってるだろ!!バッカヤロォォォ共ォォォォォォ!!」
とキレてしまった、その怒声にびっくりしたのか群衆は静まった。
「わぉ…」
次郎。
「おまわりさんがキレた…」
光。
「警察が言っちゃいけない言葉まで出したぞ…」
星人らも驚いている。
ズシャッ ズシャッ ズシャッ
『怪人』が歩き出した。1歩、2歩、3歩と歩き出した、そして怒声をあげた警官の前に立つ。
「え!?…え!?…」
警官はおびえる。そして。
ズザッ!!
『怪人』の腕が、鋭い爪がついている手が、警官の身体、腹部を貫いた。だが不思議な事に貫かれた警官の身体から1滴も血が流れ出ていない、まるで鉛筆で紙を刺したような。
「…うぉ………お………」
警官は声が出ない、何で自分がこうなったのか理解できない、そのまま。
サアァァァァァァァァァァ……
警官の身体が『粒子化』した、言い換えるならば『警官が砂のような粉となって消えた』、簡単に言い換えるならば『警官が砂になった』だ。
ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
群衆はその光景を見て一斉に悲鳴をあげながら逃げ出した。警官の指示を素直に聞いていればよかったと思ってもいいだろう。
「おいおい、ヤバいんじゃないか…」
「逃げなきゃ…」
星人らも逃げ出す、星人は美月を最優先なのか手に握って引っ張っている。
「止まれ!」
「止まりなさい!」
警官が進行する『怪人』に銃を向けながら停止するよう指示をする、しかし『怪人』は止まらない。相手は人じゃないのだから指示も警官の権力も通用しないと思うが。
バキュン!! バキュン!! バキュン!!
中には警官が『怪人』に発砲するが『怪人』は全くと言ってもいいほど効いていない。
「うわっ!!」
警官が『怪人』の爪でひっかかれた。
シュワン……
そして警官は『砂』となった。『怪人』の攻撃をくらった者は一瞬にして『砂』になって死んでしまうのだ。
「あいつの攻撃をくらったら一巻の終わりだぞ!!」
「早く逃げるんだ!!」
星人らを含め多くの人々が逃げ出す。星人達はお互いを助け合おうとしているが、逃げ惑う人々の中には。
「どけっ!!」
「俺が先だ!!」
「アタシが助かるよ!!」
と自分勝手な人物が多かった。
「絶対に手を離すなよ!美月!」
「うん、わかった!」
星人の言葉にうなずく美月。『怪人』は次々と警官達を『砂』に変えていき、ついには警官隊を全滅させてしまった。
『怪人』は逃げ惑う群衆を見て。
ビュゥン!!
『怪人』の背中の甲羅が二つに割れて羽が出現した、虫の羽だ。その羽を使って『怪人』は空を飛び、逃げる群衆の前に回り込む。
「わあわわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃあああきゃあああぁぁぁぁぁぁ!!」
いきなり前に現れた『怪人』を見て群衆は驚き逆方向に逃げ変えそうとしたら。
ズシャッ!
『怪人』は人々を次々にひっかいていき『砂』に変えていく。
群衆はたちまちパニックになった。
「ヤバい!?」
「逃げなきゃ!!」
星人達もパニックになっている。
『怪人』はいったん人々をひっかくのをやめる、そして『怪人』の角が赤く光る。まるで蛍光灯のように。
ビカアアアァァァァァァ!!
ドカアアァァァァァァァァァァァァン!!
角から赤い光線、SFモノで言うビームが放たれた、そのビームは近くにあったビルを倒してしまった。ビルの近くにいた人々はビルの破片、ガレキに埋もれてしまった。『砂』にはならなかったが多くの人が重傷を負ってしまった。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その中には星人達もいた。『怪人』はまた別のビルに向かってビームを放つ、ビルを崩す、『怪人』は我が物顔でビルを破壊し人々を『砂』に変えて行く。この惨劇に出くわした人々は皆『絶望』に落ちているだろう。
「痛たたたたた……」
星人、美月、愛桜は無事だった。しかし。
「次郎!」
次郎は光を庇い重傷を負ってしまった。
「次郎!次郎!次郎!次郎!次郎!」
みんなが大声で呼ぶが次郎は反応しない、死んではいないようだが。
「救急車!」
「ダメだ!119番が繋がらない!」
携帯電話を見ると圏外になっていた。
「まさか…あの『怪人』、電波を遮断する能力を持っているのかも…」
と愛桜は冷静に判断する。『怪人』は今もビームを発射したり人を攻撃し『砂』に変えていく、ビームに当たった人間も『砂』に変わる。
ビカァァァァァァァァァァ!!
『怪人』のビームが星人達のいる場所に向かって放たれた。
ドカァァァァァァァァァァァァン!!
ビームが当たり付近一帯が大爆発する。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
星人は吹き飛んだ。星人、だけが。星人は吹き飛び目を開けるとそこにはガレキの山だけがあった、美月達の姿は無かった。
「……美月?……愛桜?………次郎?………光?……」
星人は辺りを見渡す、探す、最愛の人を、友達を、大切な人達を。
見つからない… 死んだ…
『怪人』は今もなお暴れている。
そんな… 俺の… 大事な…
美月… 愛桜… 次郎… 光…
そんな… 俺は… どうすれば…
『怪人』は絶望に陥って泣き崩れている星人を見つけ『砂』に変えようと大きな手の爪で星人をひっかこうと走り出す。
美月…
星人の頭には大切な幼なじみで恋人の美月の笑顔が浮かぶ。星人は生きる気力を無くした。
立ち上がれ…
星人の脳裏に『声』が聞こえてきた。
立ち上がれ… 立ち上がるんだ… さぁ…
星人を励ます謎の『声』。
立ち上がり… 勇気を呼び起こし…
立ち向かい… 倒すんだ… その怪物を…
立ち上がれ… 立ち上がるんだ… 星人…
ピカアァァァァァァァァァァァァァ!!
急に星人が光りだした。その名の通り光りだした星人。何故光りだしたのか、それは星人本人でさえもわからない。しかしその光で怯み動きが止まる『怪人』。
「な……何だ………どうなってるんだ……」
立ち上がり… 『戦う』んだ… 星人…
「戦う?……俺が?……」
星人はこの『声』が誰の者なのか、よりも何故自分がまぶしく光っているのか、何故『戦わなければならない』のか、その事に頭がついてこれなくなっていた。
シャキン! シャキン! シャキン!
身近で音がする、何か金属と金属がぶつかり合い重なり固まっていくような音、星人はその音がする場所がどこかすぐにわかった。と言うよりわからない人がいるならばそれはとんでもないバカだ。
音がする場所は星人の右腕だった、右腕が『青く輝く金属でできた鎧のような腕』に変化していくのだ。さすがにこれは星人だろうと他の人であろうと自身の腕がこうなれば驚く。
「な!?……何だ!?……」
続いて左腕、右足と次々と身体が金属になっていく。
それが… 星人… 君の… 『力』だ…
その『力』を… 使って…
さぁ… 『戦う』んだ… 倒すんだ… 怪物を…
さぁ… 叫ぶんだ… こう… 叫ぶのだ…
その声と共に星人は叫ぶ、何が何だかわからないままだが星人は力強く叫ぶ。
「『光身』!!」
シャキイイイィィィィィィィィィィィィィン!!
叫ぶ星人、その身体が次々と『青い金属』へと変わっていく。
『変身』していくのだ。
まるで特撮のように。
星人が『変身』したその姿は青い金属のように輝いたスレンダーな身体に幅のある縞のような線の模様があり眼は『黄色で角のある眼』、頭はスキンヘッドのようにスッキリしている。
その姿はまさしく漫画や映画に出てくるような『ヒーロー』である。
何だ……これは……
星人は今のこの状況がわからなかった、何故自分はこんな姿になってしまったのだろうか、そもそもこれが何なのか。星人は頭が混乱していた。
何なんだ!?…これは!?………
それが… 『力』…
君の『力』…
『力』!?…何なんだよ、『力』って!?…
困惑しないで… 今の自分に…
今の自分を受け入れ…
真に自分の『力』とするんだ…
それが… 君の『運命』…
『運命』…だと?…
その『力』の名は…
君のその『運命』…
その『姿』の…
君のもう1つの名は…
『ツイナー』…