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広い世界の真ん中で  作者: 叶絵
第1章 学園編
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act.4 茜色

 ひどく懐かしい夢を見た。


 夕日が何もかも血の色に染めている中、少年と少女はそこにいた。少年は地に倒れ、少女は凛と立っている。少年は畜生、畜生と呟き続けている。それは少年を打ち負かし続ける少女への恨み言や、少年自身の弱さへの怨嗟かもしれないし、不条理な世界への憎しみかもしれない。




「いい、少年?覚えておきなさい、世の中には2通りの人間がいるわ。

 世界に影響を与える人間と与えられない人間よ。

 与える人間は、強い力を持っているわ。

 でも、与えられない人間は弱いわーそう、今の貴方のように。

 強くなりなさい、少年。生きる為に、そして復讐する為に」


 少女は少年に独り言のように語り掛けた。少女にとって、少年が聞いていようといまいときっと、些細なことなのだろう。事実、少女は語り終えると同時に歩き出した。少年も急いで起き上がり、少女の後をついて行く。


「師匠、どうやったら俺は強くなれるんですか?

「それは.....」








 目が覚めたら、美少女の顔がすぐ近くにあった。

 人間、驚き過ぎると動くことすらできなくなるって本当の事だったみたいだ。いや、俺は人並みぐらいには美少女は好きなんだがな。しかし、流石に寝起きでいきなりだったのと-


「何よ?」

「イヤー、ナンデモナイデスヨ」

 

 自分をとても嫌ってる筈の人物だったからだ。思わず片言になってしまう程、動揺してるみたいだ。流石、美少女。その威力はなかなか侮れない。そんな俺を、訝しげに見ながら大林は恐る恐る口を開いた。


「......にま...で.....て」


発せられた声は、蚊の鳴くような弱々しいもので上手く聞き取れなかった。


「えっと、悪い。もう一度、言ってくれないか?」

「一緒に街まで付き合って!!」


 大林が大声で叫び、慌てて左右を見渡した。俺もつられて周囲を見渡すが、誰もいない。太陽の位置から察するに、すでに放課後になったらしい。寝過ぎたか.....いや、今はそんな事はどうでもいい。なんか、今目の前の美少女からデートのお誘いを受けたのだが。何、罰ゲーム中なのか?


「で、なぜに?」

「さっき、あなた私に負けたじゃない。その罰よ」


 ツンと顔を逸らしながら大林は告げた。

 ああ、さっきの決闘のことか。ぐっすり寝たら、すっかり忘れていた。というか、夢で何か見たような...何だったんだろうか?思わず、現実逃避してしまった。


「そんな約束してないだろ…」

「う、うるさい!!勝者命令よ、勝者命令!!」


 あまり必死な様子なので、ここは折れることにする。了承の意を告げると、ほっとした顔をされた。なんだ、罰ゲームではないのか。からかわれなくて良かった、もしそうだったら心が折れてたよ俺。まあ、どうせ荷物持ちというオチなのだろう.....


「で、いつなんだ?」

「明日。ちょうど休日だし、それにそろそろ校外学習も近いから、必要なもの買い揃えようかなぁって... 」

「そんなん友達と行けよ」


 思わず、つっこんでしまった。校外学習は、毎年魔物を狩りに、近くの山に行く。その時に必要な物は、自分達で負担しなくてはならない。しかし、日帰りなので買う物もそんなに必要ないから荷物持ちもいらないと思うのだが。


「だって....私友達いないもの。だから、何買えばいいのかすら分からなくて....」

「へ....」


 思わず、絶句してしまった。ヤバい、地雷踏んだ。さっきまであんなに強気だった癖に、今じゃなんかお葬式みたいな雰囲気漂わせていやがる。正直、気まずすぎる。

 いや考えろ俺、コイツに限ってボッチ何てことあり得.....る。うん、美少女で、超真面目、しかもモテるとか女子に嫌われる要素たっぷりだしな。そういえば昔、誰かに女子程排他的な生き物はいないと教えて貰ったっけ。遠い目をする俺を尻目に、大林は更なる爆弾を打ち込んでいく。


「私、中等部まで別の土地にいて、高等部入学のときにここに来たから知り合いもいないし....しかもグループにも混ざることもできなくて、気付けば今日まで....」

「もういい、それ以上言わなくていいから。俺に出来ることなら、手伝ってやるから!」


 堪らなくなって、遂に俺は叫んだ。哀れすぎてもう何も言えない。重い、重すぎる 。もう、こいつの前では友達とかそういう言葉を話さないようにしよう ....


「い、いいの?」

「いや、俺はここで見捨てる位最悪な奴だと思われているのか?」


 嫌われているとは思っていたが、そんな風に思われているとまでは予想もしていなかった。目つきか?目つきの悪さが原因なのか?


「そうじゃなくて。だってほら、今まで自分に散々暴言吐いてきた人間なのよ。虫がいいって思わないの?」


 大林が必死に言い募る。普通、頼む方が言うことではないだろう、それ。


「あー、俺別にそんなに気にしてないぞ。だって全部ホントのことだから、暴言とまでは思っていないし気にしなくていいから」


 まあ、事実だ。大林のように懸命に努力している人間からしたら、俺のような人間は不愉快なのも分かっている。それに、言っている事も、言い方はともかく正当な事だしな。だから、俺自身は大林を嫌ってはいない。


「ということで、待ち合わせる場所とか時間決めておかないか?」





 その後、場所と時間だけ簡単に決めておいた。大林はまだ用事があるらしく、家が遠い俺は先に教室から出た。大林は学園の寮に住んでいるらしく、送っていくなんて気遣いはいらないと言われた。言い方を直せば、アイツのボッチも多少は改善されるんだろう、多分。






 茜色に染まった教室に一人佇む少女は、ポツリと呟いた。

ーやっと、ちゃんと話せた、と。 

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