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村の近くにある一軒の小屋
そこには、近辺の村の領主であるオルレアート伯爵の愛人の娘、リーシェが住んでいた。
もともと母は村娘であるが、美しい金髪の髪を持ち、グリーンの瞳を持った愛らしい娘だった。
父に見初められて愛人になってからは、内気な母には珍しく父の領地内の館に住むという案を押しきり、ここに一つの小屋を建てさせ私を産んでからは2人で生活して来たのだ。
父である伯爵からは生活物資を送ってもらい不自由なく生活しているが、それさえも最初は断っていたらしいが、そこは父が無理やりに押し切ったという。
まぁ、だからこうして生活出来ているわけだからとてもありがたい。
しかし、幼い頃母に何故父と一緒に生活しないのか、父のことが嫌いなのかと聞いた事がある。
すると母は
「嫌いだなんて、そんなことないわ。ママはとってもお父さんのことが好きよ。でもリーシェの事も大事なの。」
「?」
「ごめんなさい、リーシェにはまだ難しいかしら?正妻の方はとても優しい人よ、でもね、全ての人が愛人に対して良い目を向けるわけがないのよ」
あの時の私にはよく分からなかったけど、今なら分かる
母は私を守るためにこの小屋を必要としたのだ
しかし、母は三年前に流行病で亡くなってしまい、今ではリーシェ一人で生活している。
朝、何時ものように窓を開けて朝の日の光を室内に入れようとした時。
何処からか馬の鳴く声が聴こえた気がした。
「え…?」
まさかこんな村外れの森に人なんかおらず、いる動物も兎などの小動物ばかりで野生の馬なんかいるはずがない。
でも先程よりも確実に馬の駆ける音は近づいて来ていた。
(どうして馬が…?まさかもう物資が届いたの⁇)
確か前回送られて来た物資は四日前、まだまだ全然足りているし、何時もなら一週間以上間隔をあけて来るはずなのだ。
でも、もしそうなら寝巻きの衣から急いで着替えなければならない。
そう考えたリーシェは急いで簡素であるが可愛らしい村娘が着るような服を着て、母親譲りの美しい金髪を櫛ですいて纏め髮にした。
鏡を確認して変な所がないか確認する。
リーシェももう17歳、それなりに外見に気を使うようになったが、元からの内気な性格で村に行くようなこともせず、ずっとこの小屋か近くの外を散歩するだけなのだ。
鏡のなかの自分の瞳の色は父譲りのヴァイオレットをしている。
コンコンコンッ
と、何処か焦るようなドアをノックする音が聞こえた。
「あ………」
もう来てしまった、だが急いで仕度をしたおかげか、すでに外に出てもいい格好にはなっていたため、焦るようなノックにつられて急いでドアを開けた。
しかし、ドアの外にいたのは自分の父親であるオルレアート伯爵だった。
「お父様っ⁉」
つい驚いて声をあげてしまったリーシェを小屋の中に押し込むようにして入ってきたオルレアートは、自分も小屋の中へはいると、後ろ手にドアを閉めてしまった。
「すまないっリーシェ…」
小屋にはいるなりいきなり謝り出した自分の父親に、リーシェはどうしたらいいのか分からなかった。
「リーシェ、イスクード公爵は知っているか…?」
「は、はい…」
イスクード公爵家は代々王家に仕えている家であり、王家の信頼も厚い。いわば王の右腕だ。
こんな森の中にある小屋に住んでるリーシェだって知っているのだ、この国でかの公爵家を知らない者は居ないだろう。
そしてイスクード公爵と言えば、最近当主が変わったと聴いた。
だがしかし、煌びやかな王宮の話や、イスクード公爵を狙っている令嬢の話し、宝石や美しいドレスなどにも余り興味の無いリーシェにはどうでもいい話だ。