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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第3章 お目見え
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奴隷の少女は公爵に拾われる 87

『なんで私に誘いがかかるのかしら。踊らないって言ってるのに』

「ツィルは私の娘だし、将来のことを考えてつながりを持っておきたいという意図があるんだろうね。ツィルがきれいだっていうのももちろんあるんだろうけど」

 ツツィーリエはうんざりした様子で目を細める。

『いっそのこと踊ってしまったほうがいいのかしら。踊れないけど』

「一回踊ったらもう断りきれないよ」

 公爵が心の籠ったセリフを言うと、何かを思い出したように身震いをした。

「でも、国守の公爵とつながりが持ちたいっていうんならあんたを誘えばいいのに」

「なんでも私と踊った女性は数日後に川に浮かんで死んでいたり、行方不明になったり、記憶喪失になって狂人のようになったりするらしいから。相手のためにも私は踊らないほうが良い」

「お前、呪われてるのか?」

「違うよ」

 公爵は少し苦味が混じった笑い声をあげて続けた。

「今のは私が流した噂。最初は、無理強いすると機嫌が悪くなるっていう程度の情報を流しただけなんだけど、いつの間にか尾ひれがついていつの間にか私は踊った女性を権力で殺して回る悪役になってしまったよ」

 好都合だけど、とツツィーリエの方に向けて呟いた。

「あら、でも私はこの通りぴんぴんしてるわよ」

 一人の女性が公爵の方に近寄ってきながら上機嫌に喋りかけてきた。

「エレアーナ嬢じゃないか。社交界の花がどうしたんだい?」

 彼女はわずかに波打つ艶やかな赤い髪を後ろに流し、その髪を真紅のドレスがさらに引き立たせていた。つんとした鼻梁に大きな茶色の瞳、僅かに化粧を施された顔はその豊かな炎のような髪に負けないほど魅力的で、その肢体もドレスの上からでもわかるほどに磨き抜かれたものだった。

 彼女は笑顔のまま公爵の方につかつかと歩み寄り彼を見上げた。

「ん?」

 エレアーナは首をかしげる公爵の前に無言で立つと、しばらく睨むように公爵の灰色の目を見つめる。

「どうしたんだい、エレアーナ嬢」

 語りかけてきたときの上機嫌が一変して拗ねたような口調で喋った。

「どうせ私が誘っても踊らないんでしょ」

「まぁね」

 公爵は当然のように返答する。それを聞いたエレアーナは彼の持っていたグラスを取り上げて一息に中身を飲み干した。

「あ、こら」

 グラスに口を付けながら少し慌てるような公爵を見て少し満足したように鼻を鳴らす。

「これで少し断りづらくなったえしょ」

 エレアーナの語尾が少し怪しくなっている。顔はまったくの正気の顔だ。酒に酔って上気している様子もない。だが、明らかに目が据わっている。指をびしっと公爵の方に向けてエレアーナが言った。

「私が誘って踊らない男は乳飲み子とあなたくらいのものよ。あなたがいくつか踊れる曲があるの知ってるんらから」

 公爵はその様子を見て、エレアーナの口元に少しだけ顔を近づけて匂いを嗅いだ。

「エレアーナ。君どれくらいお酒飲んだの」

 空のグラスをエレアーナから取り返すと、少し険しい顔で尋ねた。

「たしなむ程度よ」

「嗜む程度でこんなに酒の匂いがするわけがないね。君は顔に出ないしそこそこ酒に強いけど、たまに飲みすぎるんだから気をつけなさいって昔言ったはずだよ」

「一緒に踊ってくれたら考えるわ」

「意味わからないこと言わない」

「何が意味わからないのよ」

 エレアーナが唇を尖らせる。が、横にいるツツィーリエの姿を認めるとすぐに笑顔になった。

「ツツィーリエちゃん、さっきのスピーチよかったわ。とっても綺麗だった」

『ありがとう。あの光の文字、結構苦労―――』

「あら違うわよ。ツツィーリエちゃんがきれいだったって言ってるの」

 身を屈めてツツィーリエの鼻先を指でつんと突く。

「月の光がパーッて当たってその綺麗な瞳がキラキラしてるのが遠目に見ても分かるわ。世の男性たちはなんであなたをダンスに誘わないの?」

『誘われるけど私が断ってるの』

「それは父親の責任ね」

 目を尖らせたエレアーナがバッと体を立ち上げて公爵に詰め寄る。

「もう、ツツィーリエちゃんがずっと独り身だったらどうするのよ」

「今ダンスしないこととそれとは無関係でしょ」

「無関係なわけないでしょうが。私なんか初めて踊った相手があなただったから、私まで踊るのが下手っていう噂が立ったんだから。それを払拭するのに何年かかったと思ってるのよ」

「話の流れがむちゃくちゃだ」

 エレアーナはその言葉に反論しようと口を開いたところで、大きくバランスを崩す。咄嗟に公爵が手を貸して転倒せずに済んだが、エレアーナはその公爵の腕に体重をかけたまま自分で起き上がろうとしない。

「エレアーナ嬢。起きれるかい?」

「むりー」

 エレアーナは子供みたいに公爵の腕に寄りかかってより深く体重をかけた。公爵がそんなエレアーナの様子を見て溜息をつく。

「……酒飲んでこんなになるやつがよく一国の大使とかやってるな」

 モヌワが呆れたように言った。

「別にいつもこんな風になる人ではないよ。私相手で緊張が緩んだんだろ。彼女とも長い付き合いだから」

「長い付き合いって、こいつ何歳なんだ?」

「さぁ?」

 公爵はエレアーナの背中をやさしくポンポンと叩く。

「エレアーナ嬢、歩ける?」

 エレアーナはむにゃむにゃと言いながら自分の足で立とうとする。公爵がその動きに合わせて肩を貸すと、話しかけてエレアーナの意識を保ちながら会場の中心から離れたところに移動していった。

「とりあえずこの人をどこかに休ませてくるよ。このままで放っておけないし」

 後ろを振り返ってツツィーリエにそういいながら公爵が人混みをかき分けてどこかに行ってしまう。

「お嬢は酒に飲まれたらだめですよ?」

『モヌワはお酒飲めるの?』

 ツツィーリエがモヌワに問いかける。

「飲めますけどほとんど飲まないですね」

『弱いの?』

「いいえ。体格相応に呑めますけど、飲んだら体の感覚が少しずれるので。傭兵の時から飲まないと死ぬ時以外は飲まないです」

『昔から飲まないんだ』

「えぇ。傭兵は酔いつぶれてるとき襲われたら洒落にならないですし、お嬢を守ってるときに呑んでお嬢の身に何かあるなんて考えたくないです」

 ツツィーリエは無音で頷きながら口いっぱいに食べ物を咀嚼していた。

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