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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第3章 お目見え
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奴隷の少女は公爵に拾われる 71

 食堂にいる三人はしばらくの間、プリンを突きながらいろいろな話をしていた。

『え?踊るの?私たぶん踊れないけど』

「それなら大丈夫ですよ。公爵さまも踊れないですし」

『お父さんも踊れないの?』

「えぇ。練習していた時期もあったんですけど、壊滅的に踊れないのと圧倒的にやる気が足りないってことでやめてしまいましたね。あれが何年前かしら」

「私は公爵閣下がダンスの練習をしていたことがあるということすら知りませんでした」

「あら、ということはだいぶ前ね」

 マーサが口の中にソースをからめたプリンを口に放り込む。

『ということは、踊らなくてもいいのね』

「えぇ。本当は踊れた方がいいんですけど」

「踊るのが好きな男性というのもあまりいませんからね。国守の公爵が踊らないでいてくれるおかげで今回のパーティーで楽できると考えている貴族の面々も多いと思いますよ。特に国守の貴族の間では」

「あら、男爵様は踊らないと。1の侯爵の娘も参加されるんでしょ?」

 男爵が口に含んだプリンを吹き出しそうになる。

「マーサさん、もうその話はやめましょうよ」

「あら、でも男爵様は国富の貴族に負けずしっかりと踊れるじゃないですか」

「そんなことありません。私は無骨な武人です」

「男爵様が無骨な武人なら他の国守の貴族たちは大根か南瓜ですよ」

 男爵が再度吹き出しそうになり、急いで紅茶を口に含んでそれをせき止めた。

「まぁ、男爵様をいじめるのはこれくらいにしておきましょうかね。そろそろモヌワが帰ってきてもおかしくないけど」

「そういえば、彼女はお嬢様の護衛官でしたね。公爵が推薦されたと聞きましたが」

「確かそうだったわね。何か気になるの?」

「いえ、やけにお嬢様に心酔しているようですので」

 男爵は少し首を傾げていた。

「お嬢に心酔したら悪いのか?」

 男爵の言葉に返答しながらモヌワが堂々とした物腰で食堂の中に入ってきた。

 この国の護衛官の制服は青を基調としたもので、軍服のようにも見えるがそれよりも飾りひもなどの装飾が多く外見がより華やかだ。モヌワはその濃青の制服の前ボタンをしっかり締め、隙のない着こなしをしている。が、特注したと思われるその巨大な制服ですら盛り上がる彼女の腕や胸の筋肉に内側から圧迫されているのがはたから見ても分かる。

「モヌワ、あなたまた大きくなったの?」

 マーサが呆れたように言った。

「鍛えたら腕が太くなったんだ。別にのろまになってはいないからいいんだが、いい加減に着られる服がなくなってしまう」

『いいじゃない、強そうで。似合ってるわ』

 モヌワはそういわれて嬉しそうに胸を膨らませる。

「お嬢にそういってもらえるなら裸でも問題ありません」

『裸だとたぶん大問題じゃない?』 

 ツツィーリエは食べ終えたプリンのカップをテーブルに置いて椅子を降りると、モヌワの方に歩いて行き腕を触る。

『こんなに強そうなら何があっても大丈夫ね』

「もちろんです。槍が降ろうが剣が降ろうがお嬢には傷一つ負わせません」

 ツツィーリエが触りやすいように身を屈めながらモヌワがしゃべる。

『槍とか剣とかって降るの?』

「矢なら降りますがね。槍はともかく剣は見たことないです」

『ふーん』

 ツツィーリエは残っていたプリンを一つ持ってくると、モヌワに渡す。

『はい。お腹すいたでしょ』

「いただきます」

モヌワがその器をもつと指2本で持てそうなほど小さく、スプーンもティースプーンのように持ちにくそうだった。モヌワは豪快に二口ほどでそのプリンを平らげてしまう。

「ごちそうさまでした」

「お粗末さま。美味しかった?」

「そりゃ、もう。甘いものは好物ですから」

「そうなんですか?少し意外だ」

 男爵がその言葉に少し驚く。

「何が意外なんだ」

「いや、モヌワさんは生肉を直火で焼いて食べるイメージがあるもんだから」

「あたしのことをなんだと思ってるんだ。それに大抵の女性は甘いものが好きと相場が決まってる」

「………あ、そうか。あなたも女性でしたね」

「ぶん殴るぞ」

 腰に手を当てて胸を強調するように突き出しながら金色の眼で男爵を見下ろす。

「これは失礼」

『そういえば、今回のパーティーの主催者って国富の公爵よね?』

「そうですよ」

 ツツィーリエが机に座るマーサと男爵に尋ねた。

『どんな人?』

 その質問にマーサと男爵は一瞬考えると、すぐに返答する。

「うちの公爵さまと逆の人ですね」「その表現は素晴らしいですね。間違いないです」

『逆?』

「えぇ。まず女好きです」

『なるほど。それは逆ね』

「あと、うちの公爵さまが厄介事を嫌うのに対して、彼は楽しむことが多いわね。その性でうちの公爵さまが大変な目にあってるのを何回も見たわ」

『面倒な人ね』

「どちらの公爵も優秀な方なのは間違いないですが、どちらも違う方向に破天荒なのでどの道下の者は苦労しますよ」

「そりゃどうも」

「あ、これは公爵閣下」

 食堂の扉をくぐって公爵とラトが姿を現した。公爵は先と変わらない格好をして、ラトは新たに数枚の書類を抱えていた。

「男爵君、うちの扉は薄いから廊下にまで声が響くんだ。悪口なら他で言っておくれ」

「悪口なんてとんでもない。私は閣下を尊敬しております。尊敬している事と振り回される事は決して矛盾する事ではありません」

 公爵が息を吐きながら苦笑する。

「そうかい」

「公爵さま、ラトさん。プリンいりますか?」

「私は良いよ。ツィルお食べ」

「あら、食べられないんですか?」

「どうせパーティーでの付き合いで多少食べる。今食べてしまうとお腹がいっぱいになって食べられなくなってしまうから」

「そうですか。じゃあ、お嬢様、これどうぞ。食べてください」

 マーサがツツィーリエにプリンを手渡す。受け取ったツツィーリエは公爵の方を見る。

「お食べ」

 ツツィーリエは嬉しそうにスプーンを手に取って大きく一口掬い取って口の中に入れる。

「あ、そういえばツィル」

 スプーンを口にくわえたままツィルが首をかしげる。

「喋る内容覚えた?」

 ツツィーリエがゆっくりとうなづいた。

「ちょっと紙に書いてみて」

 ツツィーリエはプリンを脇に置くと、渡された紙によどみなく文字を書いていく。

「これなんですか?」

「パーティーの最中に、ツィルに自己紹介してらおうと思ってね。それの内容」

「これ、他の人が喋るんですか?」

「喋らないよ。ちょっと考えてることがあるんだ」

 公爵はツィルの書いた内容を確認しながら、少し楽しそうに笑ってみせる。

 ツツィーリエは書き終えた内容を公爵に見せ、公爵は満足げに頷いた。

「完璧。これでいこうか」

 ツツィーリエは再度書いた内容に目を通して確認すると、自身でも頷く。それから残ったプリンを食べ始めた。

「閣下が来られたということは、そろそろ出発ということですか」

「うん。でも別に時間指定があるわけじゃないから急がない。ツィルが食べ終わって、しばらくしてから行くよ」

「では、私は馬車の用意をしてきます」

 男爵は一礼して食堂をあとにする。

 その後ろ姿を眺めながら公爵がつぶやいた。

「さぁて…行きましょうか」

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