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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第3章 お目見え
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奴隷の少女は公爵に拾われる 57

 それから数日が立ち、いよいよパーティーが開催される日まで片方の指で数えるには日数が多いが、両の手あれば十分に数えられる日数までに迫る。

 壁には巨大なタペストリーが掛けられ、性能のよい代わりに目玉が飛び出るほど高いランプが部屋全体を明るく照らしている。大きな黒檀の執務机には書類の束が乗り、脇には白い羽ペンとインク壺が小さく場所を占めていた。

 窓から見える空は既に闇に覆われ、月明かりも部屋の中に入っている。雲ひとつない夜空には星が瞬いている。時折夜泣き鳥が切ない鳴き声を上げる以外は特に音もなく、ランプの中で火がジリジリ吐息を吐く音がやけに大きく響いた。

 その執務机の前に座り、頭をかしかしと書きながら一枚の書類を眺めているのは国富の公爵だ。金の髪がランプに照らされ、部屋の光源に一役買っているような錯覚に陥らせる。夜とはいえその身だしなみに殆ど隙はないが、髪をかき上げる癖のおかげで男性にしては少し長い髪の毛が乱れている。

「公爵さま、どうなさいましたか」

 その執務机に水の入った透明なグラスを置きながら一人の女性が声をかける。その部屋にあるもう一つの机に座っていた女性で、茶色い髪をあげて動きやすい格好をしている。眼鏡をかけたその眼の奥は少し紫がかったような黒い目で、唇には少し厚めにグロスが塗られている。しかし、娼婦の様な軽い雰囲気はなくきびきびと仕事をこなすその雰囲気と机の上に乗った書類から彼女が公爵付きの秘書官であることが察せられた。

「ん?あぁ、今国守の公爵の周りの金の動きを見てるんだけど、全く動きがない。予想、外れたかな」

「何か動きのある様な事でもあるんですか?」

「娘を連れてパーティーに来るなら多分今回だろうと思ったんだ。娘の衣装が必要になる筈だし、それならかなりの金が動いてもおかしくないと思うんだけど…」

「今回は何かご用事でもあったんではないですか?」

「そんな話は聞いてない…もう少しでパーティーなんだが…」

 憮然とした表情でまた頭を掻く。

「公爵さま。御髪が乱れます」

 秘書官は胸元から櫛を取りだすと自然な動きで彼の後ろに回り、髪を整え始める。

「ありがとう。今回のパーティーに参加する予定の人のリスト、作ってくれた?」

「用意してございます」

「西のパルナスの大使は来るかな」

「その予定です」

「よし」

 国富の公爵は髪を秘書官に任せたまま、執務机の上にある鈴を鳴らした。夜であるにも拘らず間髪いれずに執務室の扉が開き、身なりの良い小姓が一人入室してきた。完璧な礼をしてからしっかりとした口調で声を発する。

「お呼びでしょうか」

「マヌーラを呼んで来ておくれ。今は確か客用の屋敷に詰めてる筈だ」

「かしこまりました」

 一礼と共に退室して、すぐにパタパタと走る音がした。

「公爵が来ないなら来ないで良い。おそらくそのうち来るのは間違いないんだから。面白くなってる事に変わりはない」

 すぐに上機嫌な表情に戻り、持っていた書類を脇に放る。

「ヴィーヌ。パーティーの準備の詰め、いつもどおり君に任せる。君の裁量で決めてくれ」

「かしこまりました」

 秘書官は微笑みながら、最後に丁寧に髪の形を整えて自身の机に戻る。その彼女の腕を公爵が後ろから掴んで、自身のもとに引き寄せる。

 秘書官も半ばそれを予想していたように抵抗せず、公爵の胸元に倒れ込む。公爵がその彼女の耳元で誘いの言葉をささやき、秘書官もそれに対して頬を染めて見せながら返しの言葉を公爵の耳元に反した。

 そのハートが飛んでいるような光景を見て、公爵の後ろ辺りで静かな溜息の音が聞こえたのは気のせいではないだろう。

  

 その頃、国守の公爵邸で執務をこなしていた公爵がハッと顔を上げて、胸元から少し皺になった招待状を取り出す。

「…………忘れてた……」

 少し困ったように顎に手を当て、しばらく招待状を見つめながら考え込んでいた。


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