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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第3章 お目見え
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奴隷の少女は公爵に拾われる 54

「どうしたんだい?」

 こちらの方に勢いよく顔を向けたモヌワに尋ねる。

「聞いてくれよ、公爵。お嬢がこんな太陽の照った暑い中でこの広い庭の草むしりするっていうんだ。止めてくれ」

 公爵は肩をすくめながら笑う。

「ツィル、その帽子、似合ってるね」

 少女が嬉しそうに僅かに笑みを浮かべる。

『モヌワが私にくれたの。大きくて日影がたくさんできるのは良いけど、帽子は暑いわ』

「帽子脱いだらだめですよ、お嬢。その白い肌が赤くなってひりひりしますから」

『まだそんな時期じゃないわよ』

「いえ、お嬢は貴族なんですから。そういう外見にも気を使わないと」

『私って、今貴族なの?』

 少女は公爵に尋ねる。

「そうだね、貴族のとても近い親戚は貴族と同様の扱いを受けるけど、厳密には違うかな。私の娘という事で貴族と同様の立場ではあるけど、貴族では無い」

『だって』

「お嬢が何と言ったって、今帽子を取ったら肌がひりひりして赤くなるのは明らかなんですから。草むしりはやっぱり雨でも降った後にしましょう。地面が固くて抜きづらいです」

 その言葉に何かを考えるように口をとがらせて遠くを見る。

『………それもそうね』

「でしょ、お嬢。ですから少し外に出て散歩でも」

『部屋に戻って本を読むわ』

「またですか!?カビ生えますよ?」

『生えたら取ればいいじゃない』

「ふつうは生えないんです!」

『部屋は清潔よ?』

「わかってますとも。でも折角綺麗な服に着替えたんですから、ちょっと外に出ましょうよ」

 少女は帽子をいじりながらモヌワから目を逸らす。

「お嬢、面倒がらないで」

 少女は目線をあげて公爵の方を見つめた。

「散歩、行ってくれば?ついでにマーサの所に行って何かお使いでもあるかどうか聞いて来れば用事もできるし」

 その言葉を聞いて少女の唇が少しひん曲がる。

「ほら、お嬢。公爵もああいってますし」

 少女はしばらく何か言おうと手を動かしていたが、諦めたように肩を竦めて頷いた。

「よっし!じゃあ、マーサさんにお使いがあるか聞いてから散歩しましょ」

 少女は力無く頷く。

「折角そんなきれいな服着てるんですから、周りに見せてあげないと」

「この服もモヌワがかったのかい?」

「いや、これはマーサさんの所のおさがりだと。シンプルなデザインだから流行遅れとかにもならんだろうし、何よりお嬢がこれを着ると涙が出るほど感動する」

『大げさね』

 少女はジトッとした赤い目でモヌワを見つめる。

「だって…」

『行くんでしょ?じゃあ、さっさとしましょ』

 モヌワは必要なものとってきますと、物凄い勢いで走り去っていった。その背中を見ながら、少女と公爵は木陰に座ってくつろぎ始めた。吹く風はまだ少しひやりとした冷気を含んでおり、中庭をその風は通り抜ける度に気持ちよさそうに目を細める。

『服なんてただひらひらしてるだけじゃない。白い布を付けて麦わらの集合体を頭に乗っけても私は私よ』

「ツィルが裸でいるより服を着ていた方が私としては安心する。それの延長だろ」

『そんなものかしら』

「そうなんだろ。私にも服の重要性というのはいまいちわからないけど、でもとりあえず正装して命令すると相手は威圧感を感じるのか諾々ということを聞いてくれるね」

 ツツィーリエはその回答を得て考えるように数回うなづく。

「あ、そうだ、ツィル」

 公爵はポケットから先程受け取った招待状を取りだす。

「これは、国富の公爵のパーティーへの招待状だ」

 ツツィーリエは少しきょとんとした表情で、それでも頷く。

「普段なら面倒だし行かないんだけど、今日は用事を思いついたからこれに参加するよ」

『行ってらっしゃい』

「ツィルも行くんだよ」

 少女が大きく首をかしげる。

「ツィルもだいぶ大きくなった。まだ教える事はたくさんあるけど、一通りの事は知ったしただ小さい少女って言う訳でもなくなった」

 招待状をひらひらさせる。

「だから、一回貴族たちに君たちの事を紹介しようと思うんだ」

 ツツィーリエは特に表情も浮かべず公爵の方を見つめる。

「このパーティーにはほぼ全ての貴族が集まる。絶好の機会だ」

ツツィーリエは数回頷くと、手話でたずねる。

『いつあるの?』

「来月の終わりくらいだ。多少面倒になるとは思うけど、公爵邸のパーティー出される料理は量も多くておいしいよ」

 その食事の話を聞いた途端に少女の眼が輝く。

「それを食べる為だけでも価値がある。どうだい、行くかい?」

 ツツィーリエが力強く頷いた。

「よし。じゃあ1月以上後にあるから楽しみにしておこう」

 公爵はゆっくり立ち上がって土を払うと、手をひらひらと振って木陰の外に出た。


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