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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第2章 黒、銀、茶、赤
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奴隷の少女は公爵に拾われる 46

「でも、3の侯爵自身が薬への中毒になっていなかったら意味がないじゃないか」

「3の侯爵に薬を盛るのを抑えられたら伯爵自身に確実に足がつく。彼の密偵が捕えられた時点でそっちの方の計画を放棄して、侯爵の周囲を崩そうと考えたんだろ」

 公爵はうんざりしたような表情で手元の書類を見る。

「というかこれもう3の侯爵の周り、麻薬中毒になってるんじゃないかな、これ」

「なんの書類なんだ?」

「金の流れに関する書類。不明な支出が少しずつ出てる。あとは健康診断を受けた歴とか。こういうこまごました情報だけど、こうして拾われてそこだけを見せられるとよくわかる」

「お嬢、凄いですね」

 モヌワが羨望のまなざしで自分の主を見つめる。

「そうだね。でもそれだけに痛いなぁ」

 公爵が頭をかしかしと掻く。

「何が?腹でも下したか?」

「いやね。しばらくツィルが動けないからさ」

 公爵が何とも言えない表情でツツィーリエのほうを見る。ツツィーリエはそれに反応して公爵のほうを見るが、明らかに反応が遅い。目の焦点もずれてきている。

「魔法使う子はたまにこういうことするんだよね。モヌワ」

「なんだ」

「縄持ってきて」

「縄なんかどうするつもりだ」

 モヌワの声に警戒心がうかがえた。

「ツィルを縛るんだよ。動かれると困るから」

 じっと立っているだけの娘にゆっくりと近づいて、その目の前にしゃがんで目線を合わせる。

「手だして」

 ツツィーリエがのったりとした動きで指示に従う。公爵の少し節だっている指がツツィーリエの掌に当てられる。

「私がいいというまで、魔法使うの禁止。わかった?」

 彼女は駄々をこねるように少し唇をとがらせてうつむきながら力なく頭を横に振る。そのたびに体がゆらゆらと揺れていた。

「お嬢?」

 モヌワがツツィーリエの異常に気が付いた。

「小さな子供って、体の限界まで遊んで紐が切れたみたいに突然寝るでしょ。魔法を使いまくるとあれと同じ事が起こるんだ」

 公爵の指先から白い光が出て、ツツィーリエの掌に入っていく。少女はそれを拒否しようととっさに体を離すが、何かで接着されたかのように公爵の指と娘の掌が離れない。

「タチが悪いのは魔法を使い過ぎても体にあんまり影響がなくて、頭がボーっとするだけなんだよね。体自体はたいていそこまで疲れてない」

「体が疲れてないならいいじゃないか」

「やりすぎると頭が壊れます」

 ラトが体を離そうとするツツィーリエの背中を抑えながら話す。

「昔公爵様がこうなった時には一切文字が書けなくなりました」

「文字が書けない?馬鹿になったってことか?」

「頭の中に言葉は出てくるんだけど文字が出てこないんだ。あれには参った。おかげで最初から覚えなおす羽目になったよ」

 指の光がツツィーリエの中に入り続けている。ツツィーリエは相変わらず拒否し続けているが、体のほうがそれについていかないのだろう。やがて公爵のほうに倒れこむ。それを胸で受け止めながら、指をずっと娘の掌に当て続ける。

「魔法では自分の頭を良くするなんて便利なことはできない。情報を高速処理してるってことは、頭の中に自分を複数作って複合的に処理させてるんだろうね」

「なんだそれ」

「君が二人いたら違うものを読んでも、同時に二つのものが頭の中に入ってくるだろ?」

「そんな経験はない。私は一人しかいないぞ?」

 モヌワは公爵の説明に困惑気味に答える。

「わからないならいいや。ツィルは頭の中に十人以上自分を作ってるね。面倒だけど彼女の中の魔法を全部眠らせよう」

「全部ってお嬢はどうなるんだ」

「しばらく寝る。魔力の供給元が眠ればそれをもとに動いてる作られた人格は消えると思うんだけどね。人の頭の構造は複雑だからわからないけど」

「そんなふわふわした感じでお嬢の頭弄ってんのか?」

「ツィルに壊れられてしまうのが一番困る。一週間くらいツィルの魔法に眠ってもらってしっかり栄養取れば、ツィルの若さなら回復すると思うけど」

 娘の掌から光が入りきらなくなったかのように溢れ出す。そのあふれ出した光はツツィーリエの小さな手をゆっくりと覆い、やがて繊細な絹の手袋を模して形を安定させた。絹らしい光沢をもちながらもどこか公爵の目の色を思わせる灰色の光がある細身の手袋だ。

「ほら、これなら見た目にもきれいだ」

ツツィーリエはその白い手袋を赤い瞳に映したか映していないかのタイミングでふっと自身の意識を手放した。

「お嬢!?」

 全体重を公爵に預けて眠るツィルをしっかり抱きかかえながら、きびきびと指示を出す。

「モヌワ。ツィルをベッドに寝かしてから縄を持ってきてベッドの布団ごと縛ってしばらくツィルが動けないようにして。それからマーサを呼んでツィルのためのご飯を作ってもらって」

「マーサを呼ぶのは私が」

「ラトは寝なさい」

「ですが」

「しばらく寝てから、私の仕事を手伝って。また忙しくなりそうだから」

「あんたはどうすんだよ」

 モヌワは公爵からツツィーリエを受け取りながら尋ねる。

「ここまで伯爵が動いてるならもう伯爵のしっぽをつかむのはお預けだ。それすると後手後手に回ってしまう」

 公爵が普段ではありえないほど顔をしかめ、灰色の目が隠れるくらい目を細める。そんなに表情を変えられるのかと、モヌワが存外に驚いた顔でその顔を見つめた。

「あんまりやりたくないなぁ」

「だからなにすんだってば」

 モヌワの質問に、顰めた表情のまま溜息をついて答えを出す。

「全部の貴族巻き込んでこの問題を押し流す」

「議会を招集するんですか!?」

 ラトが目を見開いて口髭をざわつかせる。

「議題はもちろん、伯爵と3の侯爵の爵位の入れ替えに関してだ。今招集をかければ次に同じ議題を会議に挙げることができるのは1~2年後になる。その間に私は伯爵のしっぽをつかめるかどうかやってみよう」

「ですが…それだと公爵様が議長になりますが」

「だから忙しくなるって言っただろ」

 公爵はうんざりしたような表情でもう一度書類を見直す。

「まだあちらには手駒がそろってない。まだ3の侯爵自身に薬が盛られていないから薬に関する嫌疑は不十分だし、国富1,2の侯爵と3の侯爵の不仲にさせるといったたぐいの話も聞かない。今この議題が登れば却下されるはずだ」

 公爵は立ち上がって、そこにいる全員に告げた。

「じゃあ、さっさと終わらせてしまうよ」

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