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奴隷の少女は公爵に拾われる  作者: 笑い顔
奴隷の少女は公爵に拾われる 第2章 黒、銀、茶、赤
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奴隷の少女は公爵に拾われる 43

相変わらず精神攻撃描写が続きます。

「三日後か。ちょっと遅いな。もう少し待つべきだったかな」

 公爵が一人ごとを呟きながら振り返る。

「…………君たちの仕事とったからってそんな目で見ないでおくれよ」

 拷問のために用意されていた男たちは、全員公爵のことを牙を剥いている蛇を見るような恐怖の表情で公爵のことを見ていた。

「傷つくなぁ」

「も、申し訳ありません、閣下。実際こういったものを見るとどうしても…」

「こういったのって、魔法の事?」

「はい」

「確かに使ってるけど、君たちがこの部屋にある物騒なものを使うのと同じだよ。道具が違うだけだし」

「分かってはいるのですが」

 公爵は肩を竦めてからツツィーリエ達の方を見る。

 モヌワは鎖に繋がれたまま体中を震わせている捕虜の方を微妙な表情をしながら見ていた。

「知り合い?」

「いや。顔を見たような気もするがあまり覚えてない。というか、何したんだ?伯爵の密偵は確か拷問に対して抵抗する訓練を受けてる筈なんだが」

「何したんだろうね」

 公爵はとぼけるように瞬きをする。

「ツィル、何したか分かるかい?」

 この場にいる人間の中で一人だけ表情を全く変えていなかったツツィーリエに侯爵が話を振る。

 ツツィーリエはその言葉にしばらく反応を見せずに虚空を見つめていた。その様子を特に何も言わずに公爵が見守る。

「だから言ったじゃないか。お嬢には刺激が強すぎ――」

『無理やり怖がらせたの?』

 モヌワの言葉を遮るように公爵に対して手で話しかける。

「おしいね。無理やりというのとは違う」

 公爵が捕虜のように指を向ける。捕虜はまるで熱線でも当てられたかのようにその指の差す方向から体を逸らす様に無理やり身をよじる。

「今の彼にならツィルでも同じことができそうだね」

『何を怖がらせたの?』

 その質問に公爵の顔にスッと笑みが浮かぶ。

「鋭い質問だ」

 公爵は捕虜に向けた指をツツィーリエに向ける。ツツィーリエはその指先を全く動じる事なく見る。むしろ周りの方がギクッと体を震わせる。

「ツィルは怖いと感じるとき、どこで怖いと思うかな?体?心臓?」

 ツツィーリエはすぐに自分の額を指さす。

「その通り。人が怖がる時は、頭で怖いと感じるんだ」

 だから、と公爵の指先がツツィーリエの額に当たる。公爵が少しだけ目を開くと触れる指先から先程と同じ赤い燐光が浮かびその光が公爵とツツィーリエの眼を赤く染める。それを見たモヌワが公爵に飛びかかろうと体の筋肉を緊張させる。

 だがその光は額からツツィーリエの頭の中に吸い込まれることなく右往左往する羽虫のようにうろうろとして、やがて霧散していった。

「でも、頭の中に魔法を入れるのは難しい。骨が周りを囲んでるからね」

 今度は公爵の指がツツィーリエの手の平に当てられる。

「だから、穴を開けてやらないといけない」

 公爵の眼がツツィーリエの眼をしっかりと見つめる。

「もう穴は空いてる。やってみるかい?」

「ちょ…お嬢に何やらそうとしてるんだ!」

 モヌワが信じられないと言わんばかりにモヌワが間に割り込んできた。

「何って、さっきのあれだよ」

「自分の娘だろうが!あんな残酷な事やらせるつもりか!?」

「自分の娘だからだよ」

 モヌワの今にも殴りかかってきそうな迫力を全く意に介さない。

「他人にこんなことさせるつもりはない。魔法が使えて興味があれば自分でやり方を見つけるか誰かから教えを請うだろうさ」

「お嬢はまだ小さい。そんな時にこんなことさせたら後々に絶対影響が出るぞ!」

「君だって昔から人を殴ったり殴られたりしただろ?」

「それとこれとは話が違う」

「違わないよ。ぼくがこれを父から教わったのは父と出会ったその日だった」

「なんだそれ」

「何かを学ぶのに時期は関係ないってこと」

 モヌワを押しのけるようにツツィーリエと眼を合わせると、捕虜の方を指さす。

「やってみるかい?」

「何もあんなに怯えてる人間にやらなくても」

 思わず分隊長までもが口を出す。が

「じゃあ、君が受けてみるかい?」

 公爵の灰色の眼が睨むように見つめる。分隊長の顔が引きつった。

「だよね」

 ツツィーリエの視線が滑るように怯えた様子で震える捕虜の方に向く。ギクッと捕虜の体が震えた。

「い、いくらでも喋る!喋るからさっきのはやめてくれ!」

 よほどさっきの拷問が堪えたのだろう、涙声になりながら鎖を鳴らして訴えてきた。

 その嘆願に、ツツィーリエと公爵は全く心を動かされた様子はない。ジッとその様子を、あるかなき微笑みと、動かない無表情で見つめていた。

「そこの君、捕虜の頭を娘でも届くように下げてくれないか」

 指示を受けた兵士は抵抗しようともがく捕虜の哀れなものを見る眼で見つめながら鎖を下げる。捕虜はその間中ずっと拒絶の言葉を叫びながらなるべくツツィーリエから距離を取ろうと不自由な動きで後ろにずり下がる。

 だが、ツツィーリエは慈悲なくゆったりとした歩調で近づいていく。公爵がツツィーリエの斜め後ろをついて行く。

 ついに、ツツィーリエの手が捕虜の頭に届くくらいの所にまで辿りついた。捕虜の眼からは先程と同じように涙がこぼれて、口からは変わらずツツィーリエの慈悲の心に縋る嘆願の言葉が空しく紡がれている。

『この人の頭を怖がらせたらいいの?』

『この手の事はやる人によって感覚が違うんだ。とりあえずこの捕虜を死ぬほど怖がらせたらいいよ』

 二人はこのやり取りを捕虜の前で手話によって行う。捕虜は当然そのやり取りを理解することが出来なかった。ツツィーリエはその手話でのやり取りが終わると、踵を返して拷問部屋の出口の方を向いた。

「あ…」

 捕虜の口から安堵の声が漏れる。

 次の瞬間、再度捕虜の方を向いたツツィーリエの手が捕虜の目を覆うように当てられた。その手には、既に黄緑色の燐光が噴き上がるように現れていた。

 防音性の高い拷問部屋でなかったら兵士の詰め所全体に響いてなお前の通りの人間を驚かせるくらいの絶叫が聞こえていただろう。

 その様子を何の感情からか分からない汗を流し、唾を飲み込みながら周囲の戦士たちが無言で見つめていた。

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